後
ルーシャ様に夜会に誘われた。
断っても不敬、断らなくても不敬断罪フラグ。しかし選択肢はない。
「いいですか?なんとか乗り切って下さい。……でないと」
その先は首のところを右手で横切らすというとっても不穏なジェスチャーで示された。……くびちょんぱ。楽しい響きなのに全く楽しくない。
夜会に行ったルーシャ様は考えてもなかった事を言い出した。
「……この間チェリーに告白……というかプロポーズをしたんだ」
『チェリー』は『ちえり』の愛称。つまりヒロインちゃんである。
とうとうルーシャ様に結婚を迫られたヒロインちゃんは……なんと『ヘンリエッタちゃんも一緒なら』と返事を返したらしい。呼称でもわかる通り、私達はすっかり仲良くなった。
「私は君以外の妻を持つ気はない!」と全力で拒否した一途なルーシャ様だが、ヒロインちゃんは聞かず、「ならヘンリエッタちゃんのいる公爵家に嫁ぐ」というので、気は乗らないがとりあえず夜会に誘ってみたらしい。
これはチャンスだ。
「私はお飾りの妻……勿論第2夫人で全然かまいませんわ。後宮に入れるだけ入れて、捨て置いてくだされば」
むしろカムカムウェルカムだ!
『お飾りの妻』……なんたる甘美な響き!限りなく責任ゼロに近い存在!!
憧れのダラダラ人生だ!!
エセルにきつく言われているので一応公爵令嬢っぽく喋るに留めてはいるが、本音はそれ。
ふたりでのダンスなんぞせんでいいから、今すぐ「ひゃっほう!」と発して小躍りしたい。
「……いいのか?私の心も貞操も、全てはチェリーに捧げると決めている。しかし君は若く美しい。その美貌……他にいい縁談が幾らでもあるだろう」
いえ、ありません。
あったとしても後宮でひたすらゴロゴロには敵いません。
つーか私の馬鹿を知らんとは……どんだけヒロインちゃんしか目に入っていないんだ。
確かに兄様も攻略対象だが、ヒロインちゃんと会ってるのは見たことがないので単なる脅しじゃないかな~と思う。馬鹿な私でも。
大体『私の全てはチェリーに捧ぐ』とか!重いな!!
これはなかなかのヤンデレとみた。
ヒロインちゃんはきっと、好きだけど束縛が怖いのだろう。
宮廷や自室から出られなくなった時の保険として、誰か友人でも巻き添えにしとけばまだ楽しく過ごせると思ったんじゃないの?
だが問題はない!完全に利害は一致している!!
こうして私はルーシャ様のお飾りの妻となった。順風満帆のダラダラ人生だ。
しかしやっぱり人生そう甘くなかった。
「お嬢様、大変残念なお知らせを申し上げに参りました」
半年程して、後宮に何故かエセルが現れた。
そしてルーシャ様よりも更に予想だにしなかったことを言い出した。
「どうやら私は勇者だったようです」
「え、なに、どういうこと」
なんとエセルバートは勇者だったそうな。そんな勇者様がなんの御用だ。
……嫌な予感しかしない。
「私は聖剣を使って封印されし竜を目覚めさせ、眷属にしなければならない。お嬢様には申し訳ないのですがお付き合い願います。……聖女として」
「えええぇぇええぇぇぇぇ嫌だ!嫌だよ!折角勝ち取ったゴロゴロ人生だよ?!」
「勝ち取ったとか止めてください、あんた元々なんにもしてませんし。有無を云わさず連れてきますので」
さあ、とりあえずぶったるんだ身体を鍛え直しましょう……そう言ってエセルは懐から鞭を取り出した。
「ぎゃふん」
久々に言ったこの台詞。
言わせたのはやっぱりエセルだった。
そして今私はダンジョンにいる。
女の子なのに腹筋が割れてしまった。
一応はまだ2つだけど、6つに割れる日も近い。全然嬉しくないけど命がかかっているので仕方無い。
私は何気に武術の才能があったらしく、聖女として旅立つ迄のたった半年の間でめっちゃ強くなった。成長が半端ないのは聖女だからなのか?
……聖女って、ヒーラーとか後衛じゃないの?
今ではエセルも私に背中を預けてくれる。
つーかエセル鬼強ぇ。まさにチート(反則)だ。
鬼強いエセルの闘いっプリは鬼神の如し……というかもう鬼。
自分の3倍や5倍はあるモンスターをばっさばっさと斬って、斬って、斬りまくる。目が紅く光るあたりとか、嬉しそうに薄笑いを浮かべながら闘うとことか、もう超鬼。鬼以上に鬼だ。
私が聖剣を抜き、ダンジョンの最奥の扉の前で彼は言った。
「これが終わったら婿になってあげましょう」
にっこりと微笑みながら。相変わらずエセルは有能だ。
「さいですか」
突っ込むことはしなかった。
(……まあ、それもアリなのかもしれない)
そう思いつつ、エセルと私は最後の扉を開けた。
本編終了です。
一旦完結しますが、エセル視点を入れるかもしれません。入れないかもしれませんが。