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3話で終わらす予定ですが、見切り発車です。
どうなることやら作者もわかりませんが、お付き合い戴けると嬉しいです。
気が付いたら悪役令嬢に転生していた。
テンプレである。非っ常ぉぉ~にテンプレである。
前世の記憶が突如戻り、ここが乙女ゲームの世界であり自分が悪役令嬢であると知った若干12歳の私は、まずこう言った。
「ぎゃふん」
私はヘンリエッタ・ウェブスター公爵令嬢。
ここは乙女ゲーム『麗しのなんちゃら』の世界である。これは聡明な皆様ならおわかりのとおり、正式な題名ではない。ただ単に思い出せないだけである。
前世の記憶が曖昧だから……当然そうではあるが、それはこの先の伏線みたいな事では一切ない。
もともとの私の記憶力の問題に他ならない。
「ぎゃふん」でお気付き頂けたかもしれないが、私はバカなのである。
「ぎゃふん」の後私は思った……というか口に出していた。
「悪役令嬢っつったら酷い目にあっちゃうんじゃないの?!」
どうして私だ!?
はっきりいって、小説の主人公のようにフラグを回避して幸せを勝ち取る術など全く以て思い浮かばない。
スキルもない。……いやあった。
「……美少女だ!ひゃっほう!!」
鏡の中の美少女……それは私。
最早美女無双を行うしかない。つーかそれ最高。美女万歳。
しかし現実はそう甘くなかった。
時は経ち、学校生活が始まる半年程前のことである。
「お嬢様……それでは悪役令嬢まっしぐらではないのですか?」
「へ?」
私はバカなので、外堀を固めるべく真っ先にこの先ヒロインの攻略対象予定である執事のエセルバートに全て打ち明けた。彼は賢いのでなんとかしてくれる。多分。きっと。そう信じてる。
父様や兄様(←攻略対象)にも打ち明けたがまるで取り合ってくれなかった。
「家つぶされちゃうからぁ!」という私の叫びに二人は「怖い夢でも見たんだね……寝なさい寝なさい」と寝室へ運ぶ始末。昼間なのにと不貞腐れたが、ベッド最高。あっさり寝た。
なんで信じてくれるのか、という私の問いに彼はこう答えた。
「お嬢様にそんな難しいこと、考え付く訳がありませんから」
流石有能。よくわかってらっしゃる。
私はエセルバートに『聖なるなんちゃら』の大まかなあらすじを説明した。
「え~とね、『聖なる力を持った乙女』の主人公は異世界からきた女の子なんだけどぉ……なんだかんだで学校に通うようになって、イケメン達に囲まれてうっはうはっていう」
「……もう少し細かく説明していただけますか?大体その説明にお嬢様は影も形も見当たりません」
エセルバートからの質問形式であらすじや人間関係はなんとかご理解いただけた。
それはそもそもキャラ名を覚えてなかったので大変な作業だった。
主にエセルが。
私「脳筋」エセル「……ラウル様?」私「いや~そんな名前じゃなかったような……え~と赤髪」エセル「じゃあレックス様かな……」私「あ、そうそうそんな感じ」
とまるで連想ゲームみたいになっていた。しかしまぁ、よく私も知らん私の同年男子の名前と特徴なんぞ覚えているもんだ。
よっ!有能執事!!
そんな訳でめっちゃ時間はかかったが、大まかなあらすじと注釈の事細かに書かれた人物相関図が、エセルバートの美しい字で纏められた。
馬鹿な私でもこれを見ながらなら説明できる。まさに素晴らしいカンペ。
あらすじのみを説明すると
『聖なる力』を持ち、異世界から召喚されし乙女ことヒロインちゃんは召喚されたせいで記憶喪失に。
ちなみに召喚されたことでなんかが封印される。本編とはさして関係ないんで、忘れちゃったけど。きっと竜とか魔王とかそんな感じ。
『聖女様』として彼女を奉りたい国は、記憶喪失をいいことにイケメン貴族に囲ませてヒロインを落とそうとするも、記憶喪失のヒロインちゃんに庇護欲をそそられまくったイケメン達は力を合わせて彼女の望みである『記憶を取り戻し、元の世界に戻る』ために協力をする。
最終的にヒロインちゃんは記憶を取り戻し、戻るか誰かを選んでここに残るかを選択するのだ。
悪役令嬢である私の立ち位置は……
「あ、馬鹿ビッチだわ」
「ですよね」
はぁ、とエセルバートは溜め息を吐いた。う~ん、セクスィ~。流石学生でもないくせに攻略対象になるだけのことはある。
私はビッチではないが、なにぶん馬鹿である。しかも怠惰。馬鹿を直すべく努力する気などない。
そんな時間があるなら菓子とジュースの乗ったお盆と、この世界で唯一の娯楽の薔薇本でも用意し、それを堪能しつつベッドでゴロゴロしたい。馬鹿最高。
「貴女には美しさ位しかいいところがないんですから」とエセルに言われ、辛うじて太らない様にはしているが、本当は別にデブでも構わない。ゴロゴロしてぇ。ニートになりたい。
私の唯一のスキル、「美しい外見」は私には過ぎた代物だった。
父も兄も私を溺愛してくれているが、ふたりにのみ愛される外見ならば、あとはどうでも良いのだ。
できるならこのままズルズル公爵家にいたい。優しくて優秀な婿募集。
ゲームで断罪される馬鹿ビッチ(私)は馬鹿なのにチヤホヤされていた今までが、ヒロインちゃんの登場によりままならなくなり、嫉妬のあまり唯一の長所である美しい外見を駆使して攻略対象に迫りまくる。正に馬鹿ビッチ。
エセルはそうならないよう、私に激しく調教を行った。それは紛れもなく調教。奴は鞭を片手に私に淑女教育や勉強やらを強制したのだ。
結果……逃げ足が速くなった。あと隠れるのが上手くなった。
そしてエセルは私への調教を諦め、最低限の淑女的な振舞いだけを教えることにした。これはフラグ回避に協力する条件として提示されてしまったので抗えない。
しかし私は気付いたのだ。
自身の短所は長所であることに。
「ね~え、エセル?」
「なんですかクソお嬢様。アンタがそういう声を出す時は大概録でもないことしか言いませんが、聞いてさしあげます」
「私が攻略対象に手を出さなければ問題ないんじゃないの?」
「……ようやくそこに気付かれましたか。流石、馬や鹿もビックリ、つける薬の存在皆無のまごうことなき馬鹿でございますね」
散々な言われようだが馬鹿で結構。
私は自分が美少女であることに気付いた時の様に「ひゃっほう!」と雄叫びをあげて小躍りした。
しかしエセルはそんな私に冷たくいい放つ。
「ですが、馬鹿がうっかりビッチに転ずるなどよくある話です。お嬢様は残念ですが、残念なことに外見だけは残念ではない……まごうことなき美少女です」
まごうことなき馬鹿と言われた後、まごうことなき美少女と言われる私。
なにそれ、褒めてるの?
おもわず私は赤くなったが、エセルは何故かげんなりした表情を浮かべる。
「ちょっと褒めるとすぐこれだ。いや、褒めてもいないのだが……」
そう彼は呟くと真面目な顔で私に正座を強いた。
「とにかくお嬢様の外見は残念ながら美しい。しかも褒めるとちょっと可愛い。要らぬ虫が寄ってきます。そんなのに褒めて褒めて褒められまくったら、アンタ馬鹿だからすぐ『運命の人かも』なんてクソみたいな台詞を吐きつつヒロイン気取りで股を開くに決まっています。そこで身体の快楽を覚えた貴女はビッチ街道まっしぐら……そして断罪され、家はとり潰し……とまではいかなくてもご自身が酷い目を見ることはまず間違いありません」
「なんか凄いこと言われた」
なにもしてない清らかな乙女なのにビッチ扱いとは……美しさは罪か。
「なので私も一緒に学校に行きます」
「ぎゃふん」
私は人生何度目かの「ぎゃふん」を口にした。こんなに「ぎゃふん」と言う人、きっと他にいないと思う。
何故か行く筈のなかった人間を学校に連れて行くことになった私。
っつーか折る筈のフラグを作っているような気がするんだが?




