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4:夜明けと共に

 世界樹を覆い尽くした混沌は更に空を包み込み、夜空の星の輝きをも消し去った。

 エクレールは黒霧の中で多数にうごめく多数の影を見て、辛そうに目を背けた。


『あれは……ボクと同じなんだ』


「同じ……?」


『あの闇の中で手を伸ばし藻掻いているひとりひとり全て、この世界に召喚されて、志半ばに倒れた渡り人と妖精達の怨念……。多分それが、君達の言っていた"悪意"の正体なんだ』


 ロザリィは不機嫌そうに、頭上にうごめく混沌に目を向けた。


『アレに飲み込まれなかっただけ、アンタはまだマシなのかもね』


『ボクがマシ……? あっ!!』


 ロザリィの言葉にエクレールはハッと何かに気づき、黒い影を凝視し始めた。


『お願いだから……出てこないで……!!』


 何かを捜しているのに、それが見つからない事を祈る姿は矛盾しているように見える。

 だが、その意味を察した皆は黙ってそれを眺めていた。


『あっ……ああああぁ……』


 その瞳に捜し人を捉えたエクレールは、泣きながらその場に突っ伏して嗚咽を漏らした。


『あそこに、カトリが居るよぅ……!』


 黒霧の中心で藻掻もがく軍服姿の影。

 これこそが、かつて魔王を倒したと語り継がれる勇者カトリの成れの果てだった。


「まったく、てめえの相棒がここに居るってのにな。いつまでも引きこもってる野郎を叩き出すしかねえか」


『元ヒキコモリのタケルも言うようになったねぇ』


「俺は引きこもってねーし、ちゃんと在宅で稼いでたし!」


 魔王タケル天使アンジュのやり取りを見て、エクレールに少しだけ笑顔が戻った。


「さて、現代に甦った魔王様的には、あのヤバそうな勇者様をどうやって倒すつもり?」


「一発ぶん殴ってから考える!」


 何ともシンプルな答えに、クリスも思わず苦笑する。


「私もその案に乗った! 昔馴染みの体たらくったら見てらんないよっ。アンナも手伝いな!」


「了解っ!!」


 ティーダとアンナがタケルの横に着いて構えた。


「何アンタらだけ主役ヅラしてんだよ。俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」


 そう言いながら三人について行こうとするセフィルを見て、エマは慌ててその背中に飛びついた。


「わわっ、どうしたっ!?」


「絶対、無事に帰ってきて……」


「……ああ、約束する!」


 凛々しい表情でエマの手をギュッと握るセフィルを見て、ロザリィが近くにフヨフヨと飛んできた。


『そういうのって"死亡フラグ"っていって、アンタみたいな奴から先に死ぬんだけどね?』


「ロザリィてめえ! 何でこのタイミングでそんな事言うんだよっ!!?」


「うわーん! セフィル君死んじゃやだぁーー!!」


 てんやわんやの大騒ぎに、先陣切った三人も思わず苦笑い。

 それを見てロザリィはくすりと笑った。


『さて、これでみそぎは出来たわね。私の経験上、この展開から死亡フラグで逝った例は無いわ』


「何だよその経験上って!」


 クリスのツッコミにロザリィは満足げにニヤリと笑うと、その背中をバシッと叩いた。


『私達もやれる事をやるわよ!』


「当然だ!」


 クリスはそう言って、エクレールの手を握った。


『えっ! ボクは……いいよ』


「よくないっ!!」


 いきなり怒鳴られ、エクレールは驚いた顔で彼の顔を見つめた。


「あそこで苦しんでる人達が、あのままで良いと思うか?」


『い、イヤだ……』


「あそこに大切な人が居るんだろ! だったら手伝えっ!!」


 クリスの言葉に、エクレールは目を見開いた。

 そして……


『………うんっ!』


 昔のように満面の笑みで応えた。


「いくぜ! 最後の戦いだっ!!」





 ――タケルの掛け声と同時に、皆が黒霧に立ち向かった。



 ――だが、世界中の人々のリソースを取り込んだ"悪意"の力は凄まじく。



 ――ひとり、またひとりと闇の力の前に倒れていった。



 ――皆、地に膝を落とし、世界の終わりを嘆いている。



 ――神を失った世界に、救いは無いのか……と。




[The end?]







[Re-booted]




 ――皆が絶望にさいなまれる中、一人の少女が目を覚ました。



 ――彼女が立ち上がった理由は"悪意"を倒すため?



 ――それとも世界平和のため?



『そんなチンケな理由と一緒にしてもらっちゃ困るねっ!!!』



 眠そうな目で"世界"の問いかけを蹴っ飛ばし、少女は愛用のホウキで黒霧を殴り飛ばすと、そらを飛び両手を広げて叫んだ。


『アークヒール!!!』


 強大な治癒の魔法は、倒れた仲間達に力を……そして勇気を与えた。

 背中に大きな翼を広げて光り輝くその姿は、まるで女神のよう。


 しかし、少女には女神のように世界を救う使命も、巨悪を倒す義務も無い。

 彼女がここに居る理由はただ一つ。



 ――もう一度、親友アンジュに逢うため。



 少女が翼をはためかせて、ひとりの天使の目の前へ降り立つと彼女の手を握り、嬉しそうに笑った。


『まったく、ここで逆転する方がカッコイイのに、みんな諦めるのが早いんじゃない?』


 三度目となるお決まりのセリフに、アンジュは思わず吹き出しつつも何かイタズラを思いついたのか、ニヤリと笑った。


『アウリア様、なんでロロのモノマネしてるんですか?』


『えええーっ! どうしてそうなるのさっ!?』


『背中に羽あるし』


『判断基準そこなのっ!!?』


 そんなたわいもない会話に騒ぐふたりをよそに、先ほどロロウナに殴打された黒霧の群れは怒り狂いながら、周囲を飲み込んでゆく。

 だが、辺りが暗闇に包まれていても、その中で燦然と輝く光は決して黒に染まることはない。


『さあアンジュ、これで"悪意"を倒すんだ』


 その手に握られていたのは、アンジュがラフィートに敗れた時に投げ捨てられたはずの、銀色に輝く大弓だった。


『へ? でも、私の弓って縁結びしか出来ないよ???』


 困惑する様子のアンジュを見てロロウナは笑うと、ティーダに歩み寄った。


『確か、天使の涙……もとい、タケルから預かった"月の石"はキミが持ってるんだっけ?』


「え、どうしてそれを……」


 困惑しながらもティーダが差し出したそれは、かつてタケルがロロウナと出会った炭鉱で見つけた黒い宝玉だった。

 ロロウナはそれを受け取ると、もう一人の少女……エクレールの元へ飛んだ。


『はい、次は君の番』


『???』


 さすがに説明が足りなすぎるためか、エクレールはイマイチ状況を理解出来ていない様子だ。


『アンジュの放つ矢は、想いと想いを結ぶ力を持っているんだ。キミが今一番逢いたいのは誰だい?』


 そう言ってエクレールの手のひらに月の石を乗せたロロウナは、天使のような優しい笑顔で彼女の頭を優しく撫でた。


『ボクが逢いたいのは……逢いたい人は……』


 エクレールの目から一筋の涙が月の石に零れると、柔らかな光が辺りを包み込み、アンジュの目の前に一本の矢が現れた。


『チャンスは1回、やれるかい?』


『……当然!』


 アンジュは矢をつがえると、闇に包まれた世界の中にある唯一点を狙い、弓を構えた。

 しかし、さっきは強がったものの、その手はまるで極寒の地にいるかのように酷く震えている。


 もしもここで外したら、全てが終わる……?

 私のせいで……?


 その重圧に押し潰されそうになっているアンジュは……いきなりデコピンをくらった。


『いだっ!? なっ! ななななっ、タケルぅ!?』


「お前なぁ、何を柄にも無く緊張してんの?」


『矢ぁ引いてるのにデコピンとか、何を考えてるんだよぅ! 今がどういう状況か分かってるのっ!!?』


「気にせず行け! もし外したら、俺たちが絶対どうにかしてやる!!」


 タケルの強気な言葉に、アンジュは目が点になりつつもすぐに気を取り直し、再び弓を構えると、フッと鼻で笑った。


『外したら? 私を誰だと思ってるのさ。ここでヘマするような奴が……』


 銀の弓に強く張られた弦が音を立て、アンジュの耳の後ろまで引き絞られた。


『恋愛成就の天使を名乗れるかってんだーーっ!!!』


 アンジュの放った矢は闇夜を切り裂き、真っ直ぐに突き進む!


 黒霧が巨人のように集まってそれを抑え込もうとするが、アンジュとエクレールの想いを込めた聖なる矢の前には全くの無力。


 全てを貫き、闇の中心を目掛けてゆく!


 流れ星のように真っ直ぐ、光の矢は混沌の中心に吸い込まれ……!


『……え?』


 軍服姿の影の前でピタリと静止した。

 まるで時間が止まってしまったかのように、誰もが無言のまま立ち尽くしていた。


『なんで……』


 アンジュの悲しそうな呟きに、皆は無言でそれを見つめるしかなかった。

 だが、そんな状況の中でひとりだけ、闇の渦中に歩み寄る少女……クレアの姿があった。

 その身体から小さな光が飛び出し、空をフワフワと飛んで行く。


 そして小さな光は妖精の姿になると、影の周りをクルクルと回った。



 ――まったく、ボクが来てあげたのに、いつまで無愛想でいるつもり?



 ――……すまん。



 ――それに、ボクのとびきりの想いを込めた矢文を受け取り拒否とか酷くない?



 ――……む、むむ。



 ――さあ行こう。きっと今度こそ大丈夫だから、ね?



 ――……あ、ああ。



 妖精は自分の背丈よりも大きな矢を手に取ると、目の前の影にそっと手渡す。


 小さな光が大空へ舞い上がると、闇を引き連れて高く、高く……。


 かつて志半ばに果てた多くの黒い魂は導かれて宙へ融けてゆく……。


 二度とこの世界に自分達のような悲劇が訪れないことを願いながら……。


 そして、辺りを包んでいた巨大な闇が崩れ落ち、辺りは朝日の柔らかい光に包まれた。



◇◇



『終わった……?』


 呟くアンジュの目線の先には、タケルのシステムコンソールがあった。

 そこに書かれたフラグリストは……



【Flag No.62 "悪意"を倒し、世界を救う CLEAR】



 ついに、この世界の人々を苦しめ続けた"悪意"は滅び、世界に平和が訪れた!

 ……だが、タケルの表情には全くの喜びの色は無かった。


「これで勝ったって……嬉しくねえ」


 確かに"悪意"は消え、人々の命を奪う脅威は去った。

 しかし、朝日に照らされた平野に残ったのは、今なお燃え続ける世界樹と、刀に貫かれて地に倒れた創造神ラフィート、そして……エアリオ、クロー、メリーザ、レンの4人の亡骸だった。


「これでめでたしめでたしって、そんなのねえよ……。もう1回やり直させてくれよ!! どっかで神様が俺たちを見てんだろっ!? なあっ!!!」


 タケルはポロポロと涙を流して泣き崩れた。

 すると……



【フラグNo.62回収によりボーナスが発生しました】



 やたら明るいメロディと共に、まったくもって空気を読まないアナウンスが聞こえてきた。


「ボーナスって……ふざけんなっ!!」


 タケルがシステムコンソールを殴りつけようかと手を振り上げたその時、画面に表示されていたメッセージに、思わず息を飲む。



【ボーナススキルを取得しました】

 テストプログラム「アーク・リザレクション」


【使用条件】

 消費SP9999

 システムコンソール消去

 管理者権限の失効

 レベルリセット


【スキル効果】

 見てのお楽しみです。


【Flag No.63 回収条件】

 テスト中の「アーク・リザレクション」を使用する。



「……俺、フラグ回収クエストを改変した犯人が誰なのか、分かったわ」


『奇遇だね、私もだよ』


 タケルとアンジュがジト目でラフィートを睨むと、何だかその顔が笑っているように見えた。


『んで、どうするつもり?』


「どうするつもりって何が?」


 アンジュの質問にタケルは首を傾げる。


『それ使っちゃったら、タケルのチート無双はおしまいっぽいよ?』


「確かに少し残念かも」


 そう言いながらも、タケルはシステムコンソールのスキルウインドウを開いてポイントを目一杯振ると、さっさとメニューを閉じてしまった。


「……さて、そろそろやっちまうかな」


『だね。最後のお務めよろしく~』


「何だかその言い方は嫌だなぁ」


 そんな当たり障り無い会話を楽しんでから。


 今ここに。




 終わりの言葉を唱えた。




「アーク・リザレクション!!!」






【Flag No.63 テスト中の「アーク・リザレクション」を使用する】

CLEAR


【Flag No.64 全イベントをクリアすることで世界樹のターミナル起動】

CLEAR


 全クエストフラグの回収が終了しました(達成率100%)。

ラストシーンは下記作品をご覧ください。

※2018年11月25日午後5時頃公開予定です。


・少女を救うためブラック企業の営業マンは異世界転生で利益5000万を目指す!

https://ncode.syosetu.com/n1106dw/

(第146話:最終回)


・もっと脳を鍛えるよい子の異世界ハッキング

https://ncode.syosetu.com/n9887dy/

(第163話:最終回)

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