2:The Untouchables
『ふぅ、焦った。まさかいきなり殺そうとしてくるとか、想定外すぎるよ』
エクレールは手で額の汗を拭うと、再び空中で黒い靄を身に纏った。
『さて、そこの魔王さんは気づいたみたいだけど、物理攻撃や即死魔法、呪いの類を使ったりすると、ボクを倒す前に私が死んじゃうのだけど、どうするつもりかな?』
まるで子供のように無邪気に笑いながら言い放つエクレールに、フィーネは笑顔のまま首を傾げると、右手を前に突き出して魔法を放った。
『ホーリーライト』
フィーネの手から放たれた光弾は一瞬でエクレールの真横を抜けてガラス質の床を貫通すると、世界樹の枝をえぐりながら地上に消えた。
床に空いた穴は熱線で焼き切られたかのように熔解して鈍い飴色に変色しており、その一撃だけで死に至る事は明らかだった。
『えっ……!?』
『あのですね』
目を白黒させて困惑するエクレールを見て溜め息を吐きながら、フィーネは再び光弾を目の前に多数出現させた。
『私は先程、殲滅と言ったんですよ? せ、ん、め、つ。言葉の意味、分かってます?』
その言葉を聞くや否や、クリスとタケルが飛び出した!
「そんなことさせるものかっ!」
「何なんだよこのクソ展開はっ!!」
怒りの表情で苦言を投げかける二人を見て、フィーネは相変わらず表情ひとつ変えないまま。
一方のエクレールは今も状況が理解できずにオロオロするばかり。
『え、え、え???』
そんなエクレールを見て、しびれを切らしたロザリィが慌てて飛んでゆくと、思い切り頭を叩いた。
『あいたっ!?』
『このバカっ、さっさと降りなさい! そんなトコに浮いてたら恰好の的よ!』
『いたたたたっ』
ロザリィに耳を引っ張られながら地上に降りてきたエクレールは、困惑の表情のまま床にへたり込んだ。
「ロザリィ、クレアを任せた!」
『OKっ! そっちこそちゃんとやんなさいよねっ!』
「リーリア、ルルーさん、エクストラシールドを頼む!」
『『はいっ!』』
さっきまで自分達を殺そうとしたはずのエクレールを庇う皆の様子に、当人が一番混乱していた。
『え、なんでボクを……?』
『アンタじゃなくてクレアを護ってんのっ! 私としても不本意なんだから、もしおかしな事したらブッ殺すからね!!』
ロザリィに怒鳴られたエクレールは、不満そうにしながらも黙って座り込んだ。
そんな具合に、文字通り目下で体勢を整える下界の民達の姿を見て、フィーネ……いや、創造神ラフィートは宙に浮いたまま笑顔でウンウンと頷いた。
『さすがです。特に、咄嗟に飛び出したクリスくんとタケルさんは男気ありますね~。惚れ直しましたよ』
そう言いながらラフィートが躊躇い無く光弾を放ったが、それらは二人に届くこと無く空中で四散した。
『私を忘れてもらっては困るよ!』
光弾を撃ち落としたのは、天使のアンジュだった。
『おや、貴女は天界側でしょう?』
『私は恋愛成就の天使だ! 縁結びが成功する前にターゲットに死なれるなんて、天界のお偉いさん共が赦しても、私は絶対に認めないからっ!』
アンジュは銀色の弓に矢を番えると、それをラフィートに向かって構えた。
『ほほう、同族殺しですか。そこまでの大罪は私の力をもってしても、どうにも出来ませんけど理解してます?』
『分かってる! でも、ここで皆を見殺しに自分だけ助かるくらいなら、例え堕天したとしても貴女を止めてみせるさっ!!』
アンジュの宣言と同時に銀色の弓が少し黒みがかったのを見て、ラフィートは一瞬笑顔に焦りの色を浮かべた直後、猛スピードでアンジュの前に飛んだ。
『えっ』
『ごめんなさいね』
・
・
……気づいたらアンジュは倒れていた。
何をされたのか分からないまま、さっきまで自分が居た場所に目をやると、銀色の弓をその手に握るラフィートの姿があった。
『天使が神に逆らうというのは、つまりそういう事なのですよ』
そのままポイと銀色の弓を投げ捨てるラフィートを見て、アンジュはその力の差に呆然とするしかなかった。
そんな戦いを見ていた獣神ティーダはアンジュとエクレールを抱き上げると、ルルーとリーリアが展開していたエクストラシールドの中に逃げ込んだ。
『あらあらカレンちゃん。もうすぐ神様に内定なのに取り消されちゃいますよ?』
「お願いです! お願いですから、この子達を助けてください!!」
神名ではなく俗名で呼ばれながらも、それに異を唱える事無くティーダは懇願した。
「かつては憎み合い、命を奪い合った愚か者達だったかもしれません。ですが、この子達は再び出会えたのですから! 今度こそ幸せになっても良いじゃないですかっ!!」
『であるからこそ、そこに居る"悪意"を滅せなければ、この世界に幸せが訪れないのです。悪を滅ぼすのは神々の使命であり義務でもある。それは獣神である貴女が一番理解しているのではないですか?』
表情ひとつ変えずに言い放つラフィートの姿に、ティーダは力なく肩を落とした。
「ごめんね、みんな……」
「しゃーねえ、やるしかないか」
タケルはシステムコンソールのウインドウサイズを最大まで上げると、同時実行可能な全プログラムを一斉に開いた。
「神様と戦うならチェーンソーが欲しかったかな」
クリスは背負っていた刀を抜くと、更に魔力を込めて刀身を輝かせた。
一瞬ブルッと刀が振るえた気がしたが、気のせいなのだろうか。
戦闘態勢を整えたのを見届けたラフィートは、タケルと同じよう半透明のシステムコンソールを展開すると、スキルウインドウの最下部を見ながらニコリと笑った。
『それでは手始めに~、神の炎っ♪』
・
・
・
「あの神様、頭イカれてる……」
地上に降りたタケル達が見上げた遙か上空では周りの雲が全て吹き飛ばされ、世界樹の半分から上が丸ごと消し飛んでいた。
「なるほど、それがアンジュの言っていた移動能力か……。助けてくれてありがとう」
クリスが震えた声で礼を言うと、タケルは笑って手を振った。
「さっきの"神の炎"って、ロロが命と引き替えに使うくらいの大技だったんだけどな。それを笑いながらヒョイと使われると、すげーイヤな感じだ」
『ホント同感』
まだ眠ったままのロロウナをお姫様抱っこしながらアンジュがぼやいた。
「お前が王子様役なのな」
『ホントはおんぶの方が楽そうだけど、翼が邪魔で背負えないからね』
「いや、天使がそれ邪魔とか言っちゃ駄目だろ……」
タケルとアンジュがそんなたわいもない話をしていると、天からキラキラと輝きながらたくさんの羽が舞い降りてきた。
「以前拝見した時は感動的でしたのに、今回ばかりは酷く嫌な気分ですわ……」
『同感にゃりねぇ』
――漆黒の空に燃え上がる炎。
――その炎すらも色褪せる強い輝きが周囲を包む。
――光の中心に、純白の翼を広げた女神の姿。
――そして、その背には異世界の言葉で描かれた魔法陣を構えていた。
「いやはや、これぞラスボスって貫禄だな……」
タケルが光の中心にシステムコンソールを向けて、まるで太陽眼鏡で観察するかのようにステータスをのぞき込んだ。
- Rapheat -
HP 9999/9999 9999/9999 9999/9999 9999/9999
SP 9999/9999 9999/9999 9999/9999 9999/9999
『ゲージ4本……第四形態まであるのかな』
「嫌なコト想像させるなよ……」
タケルとアンジュの会話を聞いて『戦闘力53万の御方』を想像していたクリスは、ふと女神の方に目をやると、その視線が明らかに自分に向いている事に気づいた。
「どうして俺を……?」
クリスの疑問に誰も答える事無く、ラフィートは次の詠唱を開始した。
『……っ!?』
「いけませんわっ!!」
メリーザとクローが慌てた様子で飛び出すと、ラフィートに向かって攻撃を仕掛けた!
だが、到達の目前で二人は力無くバタリと地面に倒れ、その頭上には機械的に二つの数列が浮いていた。
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「メリーザ! クロー!!」
タケルが急いで駆け寄よると、二人を抱き上げ……すぐにそっと二人を地面に降ろした。
「タケルさん、女神様は何を……」
リーリアは泣きそうになりながらタケルに質問を投げかけた。
……彼女自身もその答えが何であるかを知りながら。
「死の宣告……」
力無くうなだれるタケルを見て、ラフィートは軽く溜め息をひとつ。
『ホントは少しくらい余裕を与えるつもりだったんですけどね。つい猶予ゼロで撃ってしまいました』
二人の命を奪っておいて軽々言い放つ姿に激高したエアリオは顔を上げて叫んだ。
『てめえ、よくも二人をっ! 絶対許さねえっ!!!』
エアリオは地上から高く飛び上がると、十八番の一撃を放った。
『ダークストライク!!!』
ラフィートの脳天を目掛けて大剣を全力で振り下ろすっ!
……だが、ラフィートはそれを軽々と片手で受け止めた。
『何っ!?』
『エアリオさんも寝ててくださいな』
ラフィートはそう言うとエアリオの額を軽くコツンと叩いた。
『ちくしょ、ぅ……』
エアリオの右手から大剣が離れ、ドサリと音を立てて地面に倒れた。
- Aerio -
HP 0/2120
SP 0/159
- Crow -
HP 0/1280
SP 0/9999
- Yurianna/Marisa -
HP 0/920
SP 0/1560