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物情騒然!ボンジャノ一家  作者: 冬ノゆうき
序幕 -会者定離(出会ったものはいつかは必ず別れる)-
1/76

序幕 1

 月の光しか明かりとなるものがない――――暗い部屋。

 部屋には月明かりと一緒に外から()み込んでくる波のぶつかる音以外には、物音は存在しない。

 波の音だけが流れているその部屋の内装はとても豪華な飾り付けがしてあった。そして壁や机の上には所狭しと古今東西の様々な名品珍品が飾られている。

 しかしこの闇の中では、価値あるコレクションと思われるそれらをじっくりと眺めることはできないだろう。


―――静けさと暗闇が部屋を支配してから幾ばくか()った。


 部屋でただ一つの扉が軽いきしみを言わせながらゆっくりと開けられていく。

 扉の向こう側には1人の子供が立っていた。

 それは(とし)の頃10代前半、ネグリジェ姿の少女だった。

 細身の身体に整った顔立ち。暗闇でも淡く神秘的に光る(ぎん)()に、腰辺りまで伸ばされた()(れい)な髪も混じりけの無い銀色をしていた。

 しかしその少女は愛らしい――とは言いがたい。少し常軌を逸した姿をしていた。

 少女のネグリジェは何故(なぜ)か左肩から右のお(なか)辺りまで盛大に斬り裂かれており、衣服の(てい)をほとんどなしていなかった。そして斬り裂かれた辺りは―――おそらく血だと思われるものによってドス黒く染まっており、まるで剣か何かで()()斬りにされかのような凄惨な()()ちだった。ただ苦痛に顔を(ひそ)めたり、自分の身なりを気にしている様子はない。少女はそこにスッと立っていた。

 身体にこびり付く黒いモノとは対照的に、薄い月明かりに照らし出された銀髪が印象的なその少女は、暗闇が広がる部屋にゆっくり一歩足を踏み入り、床に転がる物体を見る。

 床には月明かりが届かず、(はた)()には完全な闇だが、少女には見えているようだ。

 少女が見下ろした部屋の入り口辺りには、人骨らしきものが粉々に砕かれた状態で転がっていた。かろうじて形をとどめている頭蓋骨の数からして2人分だと思われる。

 少女は(おそ)れるわけでもなく、その場にしゃがみ込むと、転がっている頭蓋骨の1つを()で始めた。見ようによってはその惨状を哀れんでいるようにも見えるが、少女の表情は部屋に入ってきた時から変わってはいない。無表情のままだった。

 そんな少女の後ろから人影らしきモノが2体現れる。

 人骨だけで構成された(がい)(こつ)だった。2体の(がい)(こつ)は骨だけの身体でカタカタ軽い音を立てながら器用に歩いて近寄ってきた。その手には剣、身体には革の(よろい)、頭には(てつ)(かぶと)、さながら兵士のような姿をしている。

 少女にはその(がい)(こつ)兵士を(おそ)れるそぶりもない。

 それどころか少女は後ろに立った(がい)(こつ)兵士たちに軽く()で合図を送った。すると後ろの(がい)(こつ)兵士たちは部屋に散らばっている骨を拾い始める。

 その間に、少女の(ぎん)()が部屋の奥に陣取る長机の横――――砕かれた人骨とは別のモノが倒れているのを見つける。

「………父様」

 少女はもう一つ床に倒れている物体にそう声をかけた。

「………」

 その物体は少女の呼びかけには答えない。

 死を操る術を心得てる少女には、目の前の父だったモノには既に生命の(ともし)()が失われていることが一目でわかっていた。

「父……さ……ま……」

 初めて少女の顔に無表情以外の感情が現れる。

 少女はこの時ほど自分の生き死に感知する能力が疎ましく思ったことはなかった。

 ぽとりぽとり涙を(こぼ)しながら父だったモノに寄り添う。

 確認しなくてもわかっていた事だが、その身体は恐ろしいほど冷たく、そして硬かった。

 そのまま少女は父の遺体に顔を埋めるとすすり泣き始める。そんな少女を人骨の残骸を拾い終えた2体の(がい)(こつ)兵士がただ(たたず)み見下ろしていた。


 ここに一代で世界の海賊たちの頂点に立った男『海賊王ボン=ボルジャノ』が50余年の生涯を終えたのだった。

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