(結)
初めて、一つの作品を完成させました。
4部と限定しているので、まとめる作業が凄く大変なんだと痛感しました。
文字数との戦いでしたね(笑)
文章力があればもっと上手く纏めれたはずなのが残念です。
結構、無理に押し込んだ感があるのは否めないですが、良かったら見てやってください♪
人気のないトンネルを一台のバイクが猛スピードで入って来た。
バイクに跨っている二人の少年は高校生くらいだろうか、どちらも恐怖に駆られた表情をしている。
「あいつだ。なんで前にいるんだよ」
後部座席にいた高校生は言った。
彼らの目の前には、赤いワンピースを着た女が耳元まで裂けた口を露わにし、二人をじっと見つめている。
「クソっ!」
バイクを旋回させ一気にハンドルを捻り込んだ。
トンネル内にフル稼働するエンジンの音が鳴り響く。
「マジかよ!」
なんと、バックミラーに写る口裂け女が走りながら近づいてくる。
スピードメーターの針が六十キロを示した時には、バイクと平行に走っていた。
次の瞬間、トンネルから猛スピードで飛び出したバイクは、走行中の三トントラックと衝突し、凄まじい破壊音と共に乗っていた二人は弾き飛ばされた。
ピクリとも動かない運転をしていた高校生を見ながら、後部座席にいた高校生は、骨が折れた体を動かせずにいた。
乗っていたバイクは、原形が解らないくらい形が変わり、曲がったタイヤが情けなく回転していた。
トラックの運転手もフロントガラスに頭をぶつけたのか俯いたまま動かない。
すると、口裂け女は運転していた高校生の前に立つと、急にしゃがみ込んだ。
そして、耳元まで大きく開いた口が、運転していた高校生の頭を丸ごと口に入れると、一気に体から引きちぎった。
まるで、固いせんべえを噛んでいるかの様な音が、口裂け女が咀嚼している口から発せられる。だがその顔は、甘いスイーツを食べる女の子の顔と似ていた。
口裂け女は、口に入っていたモノを飲み込み、しばらく余韻に浸ると、次は後部座席に乗っていた高校生に狙いを付け歩み寄って来た。
「やめろ……やめてくれ……た、助けてっ」
「うるさい餌は嫌いだね……」
そう言うと、口裂け女の手の中に、死に神が持っている様な鎌が現れた。
「ひっ、ひっ……」
高校生の顔からは、今にも絶叫しそうなくらいの恐怖と絶望が垣間見える。
だが次の瞬間!
鎌が餌の首を、容赦なく切り落とす綺麗な音が鳴った。
僕達は島崎と別れると、一旦、将太の家に行き、何か他に退治方法が無いかを調べていた。
小学五年生のわりには、シックかつモダンなインテリアでコーディネートされている部屋が大人っぽくて少し羨ましい。
「将太ぁ、ココに二泊くらい泊めてくれよぉ」
優也は、ふかふかのフランスベッドで大の字になりながら言った。
「あんまし周りのモノに触らないでくれ、気が散って集中できない」
そう言っている将太は、デスクに向かい、ノート型パソコンのキーボードを忙しなく叩いている。
そして、将太はパソコンの画面に向きながら僕に話しかけてきた。
「なぁ、アキラ。アイツの言っていた事……気にしちゃダメだぞ」
「あぁ」
僕は、平静を装いながら答えたが、正直、少しだけ島崎の言葉で落ち込んでいた……
それは、お化け公園で口裂け女が逃げてしまった少し後の事だ。
「アキラ君の強さの秘密ってその水晶玉だったの?」
「あぁ、まぁね」
そう言った瞬間、島崎の口から大きな溜め息が吐かれた。
「なんかガッカリ。それって、アキラ君が凄いんじゃ無くて、その水晶玉が凄いって事じゃない」
「えっ……?」
「そんなんじゃ、ヒーローって言わないよ。ただその不思議な力に酔いしれてるだけだよ」
その時、優也が怒りながら島崎に言った。
「お前、そんな言い方ないだろ! 現にみんなを助けてるし、今だってお前も助けて貰ったじゃねーか」
「そうね。でも、水晶玉を持っていないアキラ君……一週間前の虐められっ子のアキラ君だったら助けてくれたかしら?」
そう言い残すと、島崎は何故か悲しそうに帰っていった……
正直驚いた……こんな事言われたの初めてだったから。
確かに僕は、水晶玉の力に酔いしれていたのかもしれない。本当のヒーローって何なのだろう……
島崎が言っている事が正しいと思っただけに、返す言葉が無かった。
「ダメだ! 何にもみつからねぇ」
雲を掴むようなモノを探している内にストレスがピークに達した将太は、両手で頭を掻きむしった。
「なぁ、アキラ。その水晶玉ってどこで手に入れたんだ?」
優也は僕の方に首を傾けながら聞いてきた。
「どこでって言うか、塾へ行く途中に空から堕ちてきたんだ」
「へぇ、そんな事ってあるんだな。神様からのプレゼントみたいだな」
優也はニコッと笑った。
確かに、この水晶玉は何処から来たのだろう……?
本当に神様から与えられた力なんだろうか……?
部屋に忙しなくキーボードをタイピングする音が響く。
「やっぱし、俺達じゃダメなのかなぁ。明日が過ぎれば三年間は現れないんだし、その間に退治法を見つけて次に現れた時に倒せば良いんじゃないかぁ?」
優也は、ベッドで横になり、肩肘を付きながら言った。
「いや、三年なんて待ってられない」
僕は言った。
なんとしても退治したい、三年も待つなんてそれこそストレスが溜まる。それにもちろんこれ以上被害者を増やすわけにはいかない。
「じゃあ、とりあえず今日は遅いし、俺ん家に泊まっていけよ。明日があるんだ、必ず退治しようぜ」
そう言いながら将太は、椅子を回転させた。
「よっしゃー!」
優也が喜んだのは言うまでもない。
その時、僕の携帯電話が鳴った。
こんな時間に一体誰なんだ? と思いながら液晶ディスプレイに表示された名前を確認した。
しかし、見覚えの無い番号が表示されているだけだった。
僕は、不信に思いながらも受話ボタンを押し、スピーカーを耳に押し当てた。
「もしもし、アキラ君? 島崎よ」
こんな時間に一体何の様なんだろ? またさっきの話の続きをするのか?
「あぁ、そうだけど何?」
僕はあえて、冷たく返した。
「やっぱり怒ってる?」
「いや、別に」
「実は……謝ろうと思って……さっきは助けて貰ったのに酷い事言ってゴメンなさい」
予想外だった。島崎が謝罪するなんて、あの気高い島崎が。
「別に良いよ、そんなに気にしてなかったし」
実は、気にしてたけど……そんな事を女に言うなんてカッコ悪いし……
「そっか、良かった」
スピーカーから島崎のホッとした溜息が聞こえた。
「話はそれだけか?」
「あっ、実はもう一つ言いたい事があるんだけど……」
そう島崎が話した時、スピーカー越しにもう一つの声が聞こえた。
「私……キレイ……?」
次の瞬間、島崎の悲鳴が聞こえた。
最悪の想定が頭を過ぎる間もなく、ノイズ混じりに口裂け女の声が聞こえてきた。
「コノ……女ヲ……返シテホシケレ……バ……水晶玉ヲ……ワタセ」
そう言い残し、電話はプツリと切れた。
僕は放心状態で携帯電話を折りたたみながら口を開いた。
「島崎が……口裂け女に捕まった」
「マジかよ!!」
優也がベットから跳び起きた。
「どうすんだよ、アキラ!?」
将太も驚いた表情で言った。
「助けるしかないだろ」
「どこに居るか言ってたか?」
将太が聞いてきた。
「いや、言わなかった」
「じゃあどうやって捜すんだ? 公園に居ないとなると、街中を捜すのは大変だぜ」
優也が言った。
緊迫した空気が、僕達を包み込んでゆく。
「クソっ!」
僕は、行き場の無い憤りを拳に込め、床にぶつけた。
その時、僕の意志とは関係なく、ポケットの中の水晶玉が強烈な閃光を放った。
光が序々に収まり、ゆっくりと目蓋を開くと、ソコは僕達の通っている学校の廊下だった。
「俺達の学校じゃないか……」
辺りに視線を巡らしながら優也が言った。
どうやら、優也と将太にも同じモノが見えているみたいだ。
すると、僕達が歩かずとも周りの光景が進んでいく。
まるで水平のエスカレータに乗っている様だ。
闇夜の中、蛍光灯がチラチラと点滅した不気味な廊下を、僕達はただ運ばれていく。
階段を下り細い廊下を真っ直ぐ進む、突き当たりの角を曲がりトイレの前を通り過ぎ、保健室の扉をすり抜けた。
すると薄暗い保健室の中、部屋の隅にある丸い柱に、島崎が黒いロープの様なモノで縛られ気を失っている姿が目に入った。
「島崎っ!」
僕は、島崎に聞こえる様に叫んだが、全く気が付かない。と言うよりも聞こえていないようだ。
「とにかくロープを引きちぎろう」
将太がそう言い、一歩踏み込んだ瞬間、再び強烈な光が僕達を包み込んだ。
光が収まり目を開けると、さっきまで居た将太の部屋で、さっきまでと同じ姿勢で立っていた。
ただ、部屋の中心で水晶玉が中に浮き、ゆっくりと地面に降りた。
初めての体験で僕達は驚き、何が起こったのか理解が出来なかった、だけど……解った事が一つだけある。
僕達は、お互いの目を見ながら同じ事を考えていると感じ取り、急いで部屋を出た。
ゆっくりと島崎の目が開いた。
何が起こったのか解らないと言った感じで、忙しなく辺りを見回し、状況を把握しようとしている。
チラチラと蛍光灯が点滅し、薄暗い部屋、体重計に身長測定器、救護用具が所狭しと並んでいる棚……それらを目にし、島崎は今、学校の保健室にいるんだと解った。
「保健室……」
そう言って動こうとした時、島崎は体が何かに締め付けられ柱に固定されて、動きを封じられている事に気付いた。
「何これっ!?」
首や、胸、腹……足にまで絡みつく黒いロープの様な物。
薄明かりの中、身動きが取れない状況だが無理に首を動かし、胸に巻きついているロープに目をやった。
黒い一本一本の糸の様な物……その時、島崎はソレが何なのかが解った。
――髪の毛!!
しかもカナリ長い。
「ヨウヤク気付イタネ」
低く陰気でおぞましい声が、島崎の頭上から聞こえた。
凍りつく島崎がゆっくりと顔を上に向けると、アノ女……いや、妖怪の不気味極まりない顔が目と鼻の先に見えた。
なんと口裂け女は、丸い柱に逆さのまましがみ付き、長く伸ばした髪の毛で島崎の体を柱に括り付けていたのだ。
恐怖の余り声が出ない島崎。
「まぁ、そんなに怖がらなくても今は殺しはしない……あのガキ共が持っている水晶玉を手に入れるまでは」
耳元まで裂けた大きな口が巨大な三日月型の様に見える。
「アンタみたいな妖怪、アキラ君が必ず退治するんだから」
島崎に残された最後の抵抗だった。
すると、口裂け女の表情が険しくなり、懐から取り出した出刃包丁を島崎の唇に引っ掛けた。
「お喋りはその辺にしておかないと、お前の口も私と同じようにしてやろうか?」
序々に島崎の口角が押し上げられていく。
できる限り顔を背け、目を瞑る島崎。
その時、目の前の保健室の入り口にある、扉のガラスが金色の輝きを放った。
途端に、光の放射線がガラスを突き破り、口裂け女の顔面に直撃した。
ガラスが粉砕する音と、口裂け女の悲鳴が同時に聞こえ、口裂け女は保健室の壁に激突した。
その衝撃で、柱に巻きつけていた口裂け女の髪の毛が引きちぎれた。だが、不思議な力で未だに島崎を柱に締め付けたままだ。
「島崎っ!」
木っ端微塵に吹き飛んだ扉の前に現れたのは、言うまでも無くアキラ達だった。
「アキラくんっ!」
「今助けてやるからな」
そう言って、アキラが保健室に足を踏み入れたと同時に、不気味に輝く出刃包丁がアキラの頬を掠めた。
驚くアキラの頬に一筋の赤いラインが出来た。
「助ける?……助けるだとぉ? 私との約束はどうした?」
「知らねぇなぁ」
アキラは鼻で笑いながら言った。
その隙に、優也と将太は、島崎の元へと向かった。
「いくらやっても私を倒す事ができないのがまだ解らないのか」
「お生憎様、俺バカだから……力が続く限り闘ってやるさ!」
拳を握り締め、腰を低くしたアキラ。
口裂け女の手に握られている出刃包丁が、みるみる姿形を変形させ再び巨大なハサミへと変わった。
まず仕掛けたのは口裂け女だ。
アキラに突進しながらハサミを開閉させずに突き刺そうとして来たのだ。
その時、アキラは大声で叫んだ。
「ポマードっ」
途端に口裂け女の動きが止まり頭を抱えながら苦しみ出した。
続けて、アキラの容赦のないタブーアタック(禁句単語の攻撃)が始まった。
「ポマード ポマード ポマードっ」
「やめろ……うるさいっ」
耳を塞ぐ口裂け女。
「よし、効いてるぞ」
将太がガッツポーズをとった。
「ポマーード!」
と言う言葉と同時にアキラの突き蹴りの猛連打が、口裂け女の全身を打ちのめす。
アキラの攻撃が終わったときには、口裂け女の体はボコボコに凹み、体の形が変わっていた。
「どうだ、少しは効いたか?」
アキラは構えながら言った。
すると、みるみる内に口裂け女のダメージが回復してゆく。
「いや……もう戻った。それに、もう慣れたよ」
「慣れた?」
アキラが聞き返す。
試しに、アキラはもう一度叫んだ。
「ポマードっ」……
だが、口裂け女は一向に怯む様子がない。
次の瞬間、ハサミから更に変身したハンマーがアキラの腹部を直撃した。
予想外のダメージに、一瞬何が起こったか解らなかったアキラは、廊下の壁を突き破り校庭へと吹っ飛ばされた。
「今のは効いたぜ……」
まるで、腹の急所を思いっきり殴られたような感覚だ……って、それで済んだからマシか。
僕は、目の前のグラウンドの土を握り締めた。
――負けてたまるか。
アキラが、気合を取り戻し顔を上げたと同時に、目の前に鉄の塊が見えた。
再び容赦の無い振りかぶった鉄のハンマーがアキラの顔面を捉える。
鈍い音が響き渡った。
流石に意識が飛びそうになった。
地面を転がり、何とか立ち上がったが、目の前がクラクラして立っているのがやっとだ。
「もう終わりか?」
口裂け女は不適な笑みを見せた。
その時、アキラは一気に突き出した拳から光の柱を放った。
だが、口裂け女はハンマーを鏡の様な物へと変化させると、飛んでくる光の柱に向かわせた。
すると、光の柱は鏡に反射し、アキラの元へと返っていった。
アキラの断末魔が鳴り響いた。
それに気付いた優也は、廊下の壁に開いた穴から校庭を覗き込むと、アキラが倒れているのを発見した。
その先にはアノ妖怪。
「将太! アキラがヤバイっ」
「何だって!? こっちも全然取れやしない!」
額に汗を滲ませながら将太が言った。
「俺たちも一緒に闘おう」
優也が真剣な表情で言った。
「行って。私は良いから」
島崎は、それが最善の策だと思ったのだろう。
「駄目だ……あのアキラでも倒せないのに俺たちが行ったら……それよりも島崎を助け出す」
将太は再び島崎を縛っているロープを掴んだ。
朦朧とする意識の中、アキラはポケットから転げ落ちた水晶玉を眺めていた。
「初めから素直に渡していれば」
そう言いながら口裂け女は手にした鎌でアキラの首を切り落とそうと、大きく掲げた。
――ここまでか……
鎌を振りかぶると同時に、口裂け女の額に矢が刺さった。
間一髪、斬首を免れたアキラは地面にへばり付きながら矢が放たれた方を振り返った。
「銀の矢でも効果なしか……」
そう言い現れたのは、モクドネルデで話しかけてきた特殊捜査官「寺村 蓮」だ。
「何者だ、貴様は?」
口裂け女は、額から矢を抜き取り両手で折り曲げて割った。
「一々名乗るか、この阿婆擦れ女が」
寺村は、アキラの元まで近づくと地面に転がっていた水晶玉を拾い上げた。
次の瞬間、アキラの目の前で水晶玉が寺村の体に溶け込んでいった途端、体から光と暴風が発せられ砂埃が渦を巻いた。
「戻ったぜぇ、俺の力が!」
勇ましい笑顔を見せた寺村は、口裂け女の腹部に強烈な蹴りを放った。
数十メートル吹っ飛び、植物園へと姿を消した口裂け女。
「アキラ、この袋の中にある物を図の通りに並べて、紙に書いてある呪文を唱えろ」
そう言いながら、大きな布袋を渡されたアキラ。
その時、植物園の方から光る無数の何かが、アキラ達に向かって飛んでくる。
月の光に照らされ、姿を現したのはナイフだ。
『無駄な弾も数打ちゃ当たる』と言う言葉があるが、そのほとんどが『無駄』に見えない。
「うわっ!」
アキラは、怖じ気づき両腕で顔を隠した。
だが、寺村は微動だにせず両手を前に突きだし気合いを入れた。
「はぁぁぁぁっ!」
一瞬、地面が揺れた様な気がした。
すると、僕の目の前……いや、寺村さんの目の前で無数のナイフが勢いを失い、逆に植物園のほうへ返っていった。
こんな技は初めて見た。
この人は、明らかに水晶玉の力の使い方を知っている、と言うか知り尽くしている様だ……
――本当の持ち主!?
「アキラっ、ココは危険だ。出来るだけ離れてから呪文を唱えろ」
「わ、わかりました」
そう言って、僕は立とうとしたが足が動かない……震えている。
その時、僕の心の中にあった小さな恐怖が大きく膨れ上がり、僕自身を支配している事に気付いた。
下手に動けば巻き添えを喰らってしまうかも知れない。
後ろの校舎を振り向いた。
島崎が未だに柱に括り付けられ、僕を見つめていた。
――「なんかガッカリ。それって、アキラ君が凄いんじゃ無くて、その水晶玉が凄いって事じゃない」――
島崎の言葉が僕の脳裏に蘇ってくる。
今になって、やっと気付いた……水晶玉の力がなければ僕はタダの……
その時、アキラの目の前で、島崎を縛っていた口裂け女の髪の毛が生き物の様に動き出し、島崎を助けようとしていた優也と将太までもを縛り上げた。
「ぐわぁっ、助けてっ」
優也が叫ぶ。
島崎の首に巻き付いていた髪の毛も、序々にプレッシャーを高めてゆく。
髪の毛に縛り上げられ宙を浮く優也と将太。藻掻けば藻掻くほど、三人の体に容赦なく髪の毛が食い込んでいく。
「アキラ君、助けてぇっ!」
島崎の悲鳴にも似た言葉を聞いた瞬間、僕は無我夢中で島崎達の元へと走っていた。
僕しか居ない、僕がやらなきゃ、僕がみんなを助けるんだ!
ただその思いだけで僕は走った。
植物園から現れた口裂け女の体には無数のナイフが刺さっていたが、寺村の前で傷が塞がっていき、無駄だと言わんばかりに地面に落ちていった。
「刃物を大量に所持しているんじゃ無くて、自由自在に刃物を練金できるとは恐れいったよ」
そう言うと寺村は、胸の前で両手を向かわせ集中し始めた。
「いくらやっても無駄だ」
「解ってる……だからお前の体を粉々にしてやるよ」
寺村の手の中に光の塊が閃光を発しながら現れた。
「くらえっ!」
野球の球を投げるかの様に振りかぶった寺村の手から、バスケットボールほどの大きさの光の弾が口裂け女目掛け突進した。
口裂け女は、ニヤリと不気味な笑顔を見せながら手の中に再び鏡の様なモノを出現させた。
光の弾は、鏡に当たるや砕け散りグラウンドに雨の様に降り注いだ。
「チッ」
寺村は眉間にシワを寄せながら舌打ちをした。
走る僕の目の前に光りの粒が落下してきた。
ふと上を見上げると、今、落下してきたモノが大量に降り注いで来ている。
「マジかよ!」
一見、流星群の様に美しい気がするが、さっき堕ちた地面をみれば解る。
――死ぬ
降り注ぐ光の雨を僕は必死に避けながら島崎達の元へと走った。
踏み込む足のすぐ側に穴が開き、僕の耳を光りが掠れ、脇の間を通ってゆく。
一発でも当たれば一溜まりもない。
何とか僕は保健室の中に到着し、苦しんでいる三人の前で急いで寺村から渡された布袋を開いた。
中には、呪文が片仮名で書かれた紙と、マッチ、地面に絵を描く為のチョーク、蝋燭と何故か眼鏡、あとそれら図面が入っていた。
急いで僕はそれらを取り出し、図に描かれている通りに並べていく。
一メートル程の円の四隅に蝋燭を立て、袋に入っていたマッチで火を着ける。
コレは魔法陣だ。
中心に眼鏡を置き、僕は呪文が描かれた紙を読み始めた。
「ナーズグル アパプリカ ディモル、 べーベル ランティカ ダンザテ」
こんな馬鹿げた事をして一体何が起きるんだ?
だけど僕の後ろで今にも死んでしまうかも知れない三人を前にして疑う余地は無い。
「シュテーム オグリスカ ファヌン、アスミタス イヌンスカ クロアスタ ファルコ!!」
コレで全部読んだぞ……何が起きるんだ?
すると、空から淡い光の塊がゆっくりと降りてくるのが見えた。その光は、寺村と口裂け女が闘っているグラウンドに降り立った。
動きが止まる寺村と口裂け女。
光が収まっていくと、中から一人の男が現れた。
医者に見える白衣を来た三十代の男。七三分けが徹底されている頭髪はカナリの整髪料が使われていそうで、見るからに一昔前の男だ。
「お前は……馬鹿な!?」
男は、口裂け女を見るなり急に怯えだした。
その姿に、口裂け女の表情が今までに見た事がない程の怒り、憎しみの相が滲み出ている。
「やっと会えましたね……先生……長い間ずっと待ってました……よくも私の顔を、こんな醜い姿にっ!」
「すまない、本当に申し訳無かったと思ってる」
「黙れぇぇぇっ!!」
口裂け女は叫びながら、巨大なハサミを男の胸に突き刺した、と同時に強烈な閃光を放ち二人は白い光に包まれ空に昇って行った。
途端に、島崎と優也と将太を縛り上げていた髪の毛が解け、消えていった。
咽せる三人を見て、アキラは力尽きるかの様に地面に座り込んだ。
日曜の朝もモクドネルデは中々の繁盛ぶりだ。
僕と、優也に将太、それに島崎の四人は、店内の一番奥の席にいた。
昨日の一件の後、寺村さんが協力してくれたお礼がしたいと僕たちを呼び出したんだ。
五本目のフライドポテトに僕が手を付けた時に、寺村さんが入ってきた。
「おっ、みんなもう揃ってるな」
「あれ? 今日は私服なんですね」
と聞いたのは将太だ。
「いやー、実はアレ嘘なんだ」
少し申し訳なさそうに寺村さんは謝罪した。
だけど、僕たちの「エェェッ!?」て声が店内に響き渡ったのは言うまでもない。
「君達を信用させるには仕方が無かったんだ。許してくれ」
寺村さんは顔の前で両手を合わせた。
「僕の目の前にワザと水晶玉を落としたのも寺村さんなんでしょ?」
「それは違うよ。別件で他の敵と闘ってるときに、爆風に巻き込まれて水晶玉を無くしてしまったんだ。諦めかけてた時に、今回の事件が起きて君達に辿り着いたって訳」
そう言いながら寺村さんは僕のフライドポテトを齧った。
まぁ、今日だけは大目に見よう。
「でも、本当にあの口裂け女を退治したなんて、まだ信じられないよ」
優也は頭の後ろで手を組みながら言った。
「俺自身も、成功するとは正直思ってなかった。悪霊を退治する時に使う手段なんだ。その霊が持つ恨みを解消させてあの世に返すんだ」
「だから、降霊術で口裂け女の手術を失敗した医者の人を呼び出して恨みを晴らさせたって訳なんですね」
将太がメガネのフレームを押し上げた。
「そゆ事ぉ。てか早くカラオケ行くぞ」
「ヨッシャー歌いまくるぞ」
優也が拳を突き上げ喜び、一目散に店を出て行った。
「はしゃぎ過ぎだ」
将太は笑った。
その時、島崎が笑顔で僕に話しかけてきた。
「ねぇ、アキラ君。アキラ君が呪文を唱えて私達を助けてくれた時……凄くカッコよかったよ。あれが本当の強さだと思う。やっぱりアキラ君は私達のヒーローだよ」
「当ったり前だろ。またいつでも困った事があれば呼んでくれよな」
僕は笑顔で答えた。
数日後……
学校新聞の幻の号外『口裂け女を我等のヒーローが退治』が、僕たちだけに配られた。
おわり
僕の、文章力が低い作品を最後まで見て頂きありがとうございます。
最後のオチ(決着)は如何でしたでしょうか?
一番気になってたりします(笑)
HIKARI本編の連載も再開しますので良かったら見てやって下さい♪
ありがとうございました。