(承)
起・承・転・結の「承」です。
山場である「転」へうまく繋げたかな? ってところですが、まだまだ文章能力が無いのを痛感します。
いずれ力が付いたら手入れしようと思いますが、とりあえず完成したんでアップします。
優也からの携帯が鳴り響いた。
土曜の休日だと言うのに、朝の六時からのモーニングコールはあまり良いものじゃない。
僕は、ベッドの布団に潜り込み、再び襲いかかる眠気を押さえながら携帯のスピーカーを耳に押し当てた。
「もしもし……」
「アキラ、大変だ! テレビを点けてみろ」と慌てた様子の優也の声が、まだ準備が出来ていない僕の鼓膜を容赦なくノックする。
無駄にボタンの並んでいるテレビのリモコンを、枕元のテーブルから手探りで掴んだ僕は、ゆっくりと上半身を起こした。
そして、大きなあくびをしながら電源ボタンをプッシュした。
「ついたか?」
「いま、つけた……」
テレビの画面に映し出された映像には、マイクを持った女性リポーターが、何かを喋っている。
どうやら、殺人事件らしい……
しかし、女性リポーターが立っている後ろの、事故現場とされている公園には見覚えがある。
昨日、中学生にカツアゲをされていた優也を助けた公園……「お化け公園」だ。
「マジかよ、昨日行った公園じゃん」
「殺されたのが、アキラがぶっ飛ばした奴なんだよ!」
優也の言葉と同時に、テレビの画面に殺された中学生の顔が映し出された。
どこからどう見ても、昨日の中学生だ。
「首から上を切り落とされたんだって。顔はまだ見つからないって……」
「い、いや。俺はアイツの腹を殴っただけだぜ」
−−どう考えても、僕じゃない。しかも殺人なんて……
「そうさ、アキラはアイツを殴り飛ばしただけさ。って事は、俺達の後に来た誰かがアイツを殺したって事だよ」
「だったら誰が……?」
僕と優也を繋ぐ電波の間に異様な緊張感が漂うのが伝わってくる。
「このままだと、もしかするとアキラが警察に怪しまれるかもしれないよ」
心配そうに優也は言った。
「冗談だろ? だったら探すしかないだろ。犯人を」
自分の為でもあるが、きっと、まだ被害者は増えるだろう。だから、この力を使って犯人を捕まえてやる。
優也が受話器を握りしめる音がスピーカーから聞こえた。
「ちょっと怖いけど、俺だって、アキラに助けられてバカリじゃ忍びないよ。一緒に手伝うよ」
「じゃあ、九時にいつもの場所で集合だ」
「わかった。じゃあいつもの場所で…」
学校から歩いて五分ほどの距離にある、ファーストフード店「モクドネルデ」が、僕と優也が「いつもの場所」で通用する場所だ。
休日と言う事もあり、開店前から僕を含め、数人が並んでいる。
僕はここに来ると、必ずフライドポテトを注文する。
外はサクッとしていて、中がホクホク、そして丁度良い塩加減が堪らない。
いつものように、フライドポテトを囓りながら待っていると、入口の自動ドアが開き優也と将太が入って来た。
「お待たせ」
優也は僕に手を振り近づいてくる。
どうしてココに将太が? と言う僕の疑問を察したのか、優也は口を開いた。
「一人でも仲間が居た方が良いだろ。それに将太はパソコンが得意だから、情報収集とか捗るかと思って」
「マジで? 良いのか将太?」
将太は、インテリ眼鏡を中指で押し上げた。
「聞いたよアキラ。僕だって、今までに何度か助けられて来たんだ。どうやったら借りが返せるかと思ってたけど、良い機会だよ」
「ホントありがとな」
僕は笑顔で答えた。
将太は席に着くと、いつも肩に掛けているカバンからノート型パソコンを取り出し、テーブルの上に置いた。
「おぉ、良いなぁ、ノート型パソコン」
優也は羨ましそうに言った。
将太は手慣れた手付きで、ノート型パソコンを起動させている。
そして、流れる様な指捌きで、キーボードをタイピングしてゆく。
学校のパソコンを使う受業で、一本の指でタイピングして行くのが精一杯の僕から見ると、まるで神業だ。
本当に間違いなくボタンを押しているのか疑いたくなる程だ。
「これだよ」
将太の掛け声で、僕と優也はパソコンのモニターを覗き込んだ。
そこには、昨日の事件についての最新の記事が載っていた。
「殺された中学生の首の切断面に不可解な謎…? だって」
「どう言う事だよ……」
僕は、眉の間にシワを寄せながら言った。
「ちょっと待って」
と言いながら、将太は、キーボードにあるエンターキーをプッシュした。
将太は、モニターに映し出された内容を二人に聞こえる様に読み始めた。
「お化け公園で殺された中学生の検死解剖で不可解な事が判明した。中学生の首の切断面は、両サイドからほぼ均等な力で切断されているようだ。今までの事件では必ずと言って良いほど一方方向から、何回にもかけて体の部位を切断しているのに対し、今回の中学生は、恐らく一回で切断されている事になる。その証拠に、何回にもかけて斬られている今までの死体と比べて、切断面が余りにも綺麗との事」
僕は無意識に手に掴んだフライドポテトを囓り、馬鹿にした感じで言った。
「じゃあ、犯人は二刀流の侍って事かぁ?」
「そんな訳ないだろ」
優也は笑いながら否定した。
「まぁ、待てよ」
二人の会話を遮り、再び将太がモニターに映し出された内容を読み上げる。
「一発で切断している事から、おおよその刃渡りは三十センチ以上の大きな刃物。それが両サイドからだと、犯人は二本の大きな刃物を所持していた事になる。その上、並の人間では、この様な綺麗な切断面にはならないとの事。犯人は、やはりその道のプロなのだろうか……?」
「て事は、やっぱし二刀流の侍だろ」
違うと解っていても、それ以外の検討がつかない。
再び、勢いよくキーボードを弾く将太の手が止まった。
「おっと、これもなかなか不可解だぞ」
「なになに?」
と僕と優也も再びモニターを覗き込む。
「血痕が無いんだってさ。お化け公園の外には……一箇所も」
将太は、僕と優也の顔を交互に見ながら言った。
「じゃあ犯人は、お化け公園から忽然と姿を消したって事か?」
優也は目を上にし、考え込む様に言った。
確かに、今までの事を踏まえて考えると、人間の為し得る技なんだろうか?
「口裂け女……かもな」
その時、僕たちのテーブルの後ろに居た、スーツ姿の若い男が振り向きながら声を掛けてきた。
−−そんな訳無いだろ。
恐らく僕を含め、優也と将太もそう思ったに違いない。
「アンタ誰? てか、何で俺達の話を盗み聞きしてんだよ」
そう言ったのは優也だ。
若い男は、自分の席から立ち上がり、僕たちのテーブルの前に立った。
見た感じ、僕でもわかるけど、かなり若い……
「俺は寺村。寺村 蓮だ。今回の『大馬袈公園』での殺人事件について調べている特殊捜査官だ」
そう言いながら、若い男はスーツの胸ポケットから、お馴染みの警察手帳を僕達に見せつけた。
「昨日あの公園で、殺された中学生と君達がもめていたと近所の人からの証言があってね」
やべぇ……もう嗅ぎつけたのか!
絶対に自分じゃなくても、こう言う時は、ドキッとするもんだと初めて感じた。
でも、ここは否定しておかないと……
「あの……俺、疑われてるかも知れないですけど、絶対にやってません」
寺村と言う捜査官の目を見ながら、力強く言った。
「アキラは絶対にやってない、俺が保証するよ」
と優也が弁護してくれた。
「アキラは、絶対にこんな事しません。逆にみんなを助けてくれる僕達のヒーローなんです」
将太も僕の為に必死に弁護してくれる。
「誰が、君が怪しいって言った?」
寺村は、僕達の目を見ながらそう言った。途端にその場が一瞬だけ静まり返った。
「へっ?」
予想外の返答に、安堵よりも先に驚きが来た。
「俺だって、君みたいな子供が殺したなんて思っていないさ」
そう言いながら、寺村は、僕のフライドポテトを囓った。
「じゃあ、なんで……?」
「だから、君が殺された中学生ともめている時に、何か変なモノを見たりとか、感じたりとかしなかったか?」
寺村は、僕の目をじっと覗き込みながら質問をしてきた。
「いや、特に何も感じなかったけど」
「そうか……寒気とか、金縛りとかも?」
寺村の質問の内容がストレートに切り替わった様に感じた。
途端に、僕は隣にいた優也の表情が変わったのを見逃さなかった。
「どうしたんだよ、優也」
「気のせいだと思ってたんだけど、アキラがアノ中学生をぶっ飛ばしてくれている間、体が動かなくなって凄く寒かったんだ」
「なるほど……やっぱりな」
寺村はアゴを触りながら言った。
「やっぱりって何なんですか?」
将太が言った。
「それは恐らく霊障害だ。近くに霊か妖怪が居たって事だよ」
そんな馬鹿げた事を、この男はあっさりと口にした。
正直、僕は俗に言う「オカルト系」は信じないたちだ。見た事がないモノは信じない主義だから。
「あんた捜査官だろ? そんな事を認めて良いのかよ?」
「そっちが専門なんでね」
「専門って、まさか信じろって言うのかよ」
僕は、鼻で笑いながら言った。
「別に信じなくても良いけど。君だって普通では考えられない様な経験はしてるんじゃないのか?」
何の事を言ってるんだ?
心当たりがあるとすると僕の持っている水晶玉だけど……
でもそんな事を知ってる訳はないだろ。
「殺された中学生の体には、もうひとつ不可解なモノがあったんだ」
寺村は話を切り替えた。
「首の切断面以外に?」
将太が言った。
「そうだ。バッサリと一撃で首を切るなら、必要の無いモノがあった……アザだよ」
「アザ?」
優也の声が裏返った。
「腹に大きなアザがあった。恐らく殺される前に出来たモノだろう」
そう言いながら、また僕のフライドポテトを囓った。
「くっきりと拳の形が浮き上がっていた。アバラ骨にヒビが入るほどの衝撃が加えられたみたいでな。俺が思うに、君ともめていた時に出来たアザだと思うんだが……」
寺村の視線が僕の腕に向けられる。
「そんな細い腕じゃ出せるパワーじゃない。何か非現実的な不可抗力が無い限りな」
あまりに核心をつかれた内容に、返す言葉が出てこない……
「まぁ、その事に関して俺はあえて触れないが、要は信じられない事でもこの世の中には有り得ると言うことだ。君なら解ると思ったけどね、アキラ君」
寺村はニコッと笑った。
凄い意味深だ……
でも、この事に関しては触れないと言っているんだから、僕も黙っておこう。
「話を元へ戻そうか」
そう言うと、寺村はまた僕のフライドポテトを齧った。
明らかに食いすぎだ! コイツも好きなのか?
そんな事はどうでも良いけど、話をややこしくしたのはアンタだろ……と俺は心の中でつぶやいた。
「犯人が『口裂け女』って事?」
優也はまだ馬鹿にしている様な顔で聞き返した。
「そうだ。俺は、今回の事件の犯人は恐らく『口裂け女』で間違いないと思っている」
寺村の表情は自信に満ち溢れているように見える。
確かに、寺村の言うとおり、僕の水晶玉の力だって普通の人達からしてみれば信じられない事なんだろうし……やはり「口裂け女」は実在するのかも知れない。
「わかった。じゃあその『口裂け女』がいたとして、どうやって捕まえて退治するんだ?」
「おいっ、アキラ!」
僕の気持ちが少し変わった事に、優也は驚いたようだ。
「それは、今調べている。都市伝説でもあるように『口裂け女』は妖怪だ。幽霊と違って実体があるが、この世の物ではないから不死身だ」
「おい、アキラ。マジでやるのか?」
将太が眉を潜めながら聞いてきた。
「あぁ。この目で確かめて本当に『口裂け女』が居たなら、いくら不死身だろうと俺がぶっ飛ばしてやる」
最近観た映画の中の台詞でこんな言葉があった。
「大いなる力には大いなる責任が伴う」
僕が、この力で困っている人達を救っていこうと思うキッカケになった言葉だ。
どうして僕が水晶玉に選ばれたかは分からないけど、僕には責任がある。
必ず「口裂け女」を倒してやる!
つづく
次はいよいよ山場の「転」です。
アキラ VS 口裂け女 の闘いはどうなるのか?
を期待して頂ければ嬉しいです。