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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

家族の食卓

作者: shu

はじめましてshuと申します、初めての投稿作品になります。

読んでいただけると幸いです。


私達の住む世界とはちょっとだけ違うありふれた家族のありふれたお話・・・

 

「ナオミーご飯よ~」


 階下から母の声が聞こえた。ああ、もうそんな時間なんだ・・・と思い窓の外へ眼をやると、あたりが暗くなっている事に気付いた。

 私は好きな教科である世界史の予習をしていたところで、ちょうど興に乗ってきたという事もあり聞こえていないフリをして教科書を読み進めノートをとり続けた。

 

 3分ほどすると再び母から「ご飯だって言ってるでしょ、食べないなら片付けちゃうわよ~」と、再度の呼び出しがかかった。さすがに夕食抜きはゴメンだ「今、行くよ~」と少し大きな声で言い、机の上を簡単にかたづけ階下に降りて行った。


 食卓には私以外の家族全員が席に着いており、いささか申し訳ないと思い「ゴメン、ゴメン、ちょっと勉強に熱が入っちゃって・・・」と軽く言い訳をした。そんな私の言葉を遮るように妹が素っ頓狂な声をあげる「あ、おばぁちゃん ずる~い! おばぁちゃんだけお肉食べてる!」

 

 祖母の皿に目をやってみると、なるほど合成ではあるが私達の皿には無いハンバーグらしきものが乗っていた。

「さっちゃん、ばあばはいいから食べるかい?シズカさん、私はいいからさっちゃんにやっとくれ」祖母が滑舌悪くボソボソと言うと


 「シズエです!」母はピシャリと言い


 「さっちゃんてだ~れ~?わたしミナコだよ~」と、妹が未就学児の割にははっきりとした言葉で返した。


 毎晩のように繰り返される光景である。


 母は続けた「ミナコ、おばあちゃんは今週末に大事な品評会があるんだから特別なの、精の付くものを食べて頑張ってもらわなくちゃ」


「そうだぞミナコ、おばあちゃんには頑張って金賞をとってもらわないとな。」と手に持ったタブレットを観ながら父が言った。


「おばあちゃんひんぴょーかいにでるんだ~ じゃあ、しょうがないね~ ミナコがまんするよ!」と、こう言えば褒められると思っているのであろう口振りで妹は言い「ん、でも・・・ひんぴょーかいってなに?」と続けた。

 

 私は合成食糧のリゾットを口に運びながら「おばあちゃんはバラバラになって再生素材になるの、そのお肉や骨をいい順に競うのよ、それが品評会」となるべく未就学児でも解るように気を付けて言った。


 「さいせいそざい・・・?」妹がつぶやく。


 ああそうか、と思い「再生素材ってゆうのは、私達ひとは死んだら解体・・・バラバラにすることね、で、この私達が食べているものや、いろいろなものに使われるのよ」


「え、じゃあおばあちゃん死んじゃうの?」妹が少し悲しそうな顔をする・・・


「ちがうのよミナコ、おばあちゃんはもう死んでるの。ちょっと難しい話をするけど聞いてね、人間は元人格(もとじんかく)・・・最初にあった性格や記憶の事ね、が、80%消失するとその人はもうその人じゃないって事で死んでいる事になるのよ。人間再生(ヒューマンリサイクル)法ってゆう法律で決まってるの。おばあちゃんはね、ほら、あのとおりボケちゃってるでしょ、もう元人格(もとじんかく)は10%も残ってないのね、だからあのおばあちゃんはもう私達のおばあちゃんじゃないのよ・・・わかるかな?」


 なるべく解りやすく説明したつもりであったが、妹のポカンとした表情を見る限り、やはり未就学児には少し難しかったかな・・・と思い、少々間を置いて「まぁ・・・ミナコももう少し大きくなったらわかるよ、ほら、ご飯食べよ」とお茶を濁した。


 実はさっきまで予習していたところが人間再生(ヒューマンリサイクル)法の歴史についてだったので、もうちょっと上手く説明できると思っていたのだけど・・・




 ”人間再生(ヒューマンリサイクル)法”


 その歴史は約100年前にさかのぼる。当時、世界は極度な人口増加により未曽有の食糧危機、水不足に陥り、食料、水、領土、資源の奪い合い等による紛争が絶えず世界中で起きていた。そんな中、人口爆発に苦しむ世界最貧国が苦肉の策として死体の食用化、資材化を研究、技術的問題点をクリアし死体の埋葬、焼却を禁止、人間再生(ヒューマンリサイクル)法を制定した、食糧事情は劇的に改善し僅か20年の間に世界有数のGDPを誇る大国へと成長したのである。


 制定当初は他国、人権運動家などの批判は凄まじかったものの、この奇跡的発展をみて我も続けと一国、また一国と採用されていった。気付けば50年後には、ほぼ全ての国で施行されるに至っていた。過去には人間食は人体に悪影響を及ぼすとの考え方もあったようだが、現在では完全に否定されている、少数ながら不採用国、人間食悪影響説を信じる反対派団体も無いわけではないが世界的に見ればかなりの少数派と言わざるを得ない。


 もはや人類に莫大な恩恵をもたらし数々の社会問題を解決したメソッドを手放すことはできないであろうと漠然と世界中の人が感じていた。


 しかも、その後の研究で人間食には人間の攻撃性、支配欲などを抑える効果がある事が解った。その証拠に世界中の殺人事件、凶悪犯罪は激減、ここ30年の間に国家間の紛争は一つも起こっていない。人類誕生以来、最も平和な時代になったと言われている。


 近年ではもはや人間再生(ヒューマンリサイクル)は人間社会に欠かせないものとなっており、その再生素材の良し悪しを競う大会、品評会などが各地で行われており、より優秀な再生素材を育てる事はちょっとしたブームになっている。




「そっかーおばあちゃん大会でるんだね、あたしも応援する~だからおばあちゃんこれもあげる、食べていいよ~」と言い妹は自分の皿の合成野菜を祖母の皿にいれた。私は妹が解らないなりにも納得してくれたらしい事に少し嬉しくなった。

「あ~なっちゃんは優しい子だね~おばあちゃん頑張るよ~」祖母が言うと

「なっちゃんて誰~あたしミナコだよ~」妹はお約束を楽しんでいるようだったが、すかさず母が「ミナコは野菜食べたくないだけでしょ」と


「まぁまぁミサエさん・・・」


「シズエです!」




 食事も終わり、私は後片付けをして母が妹を寝かせに寝室へ行った。父はタブレット片手にテレビを見ていて、祖母は部屋の中を何をするでもなくウロウロしている。

 私は洗い物をしながら父に向って「おばあちゃん金賞とれるといいね」と語りかけた。父は「そうだな・・・じいさんが銅賞だったから今回は金賞ねらいたいよな・・・」とタブレットからは目を離さずに呟いた。


「昔は人が死んだら焼いたり埋めたりしてたんでしょ・・・残酷だよね・・・」

「そうだな・・・勿体無い話だよな・・・もう100年早く人間再生(ヒューマンリサイクル)法が施行されていたら人類は恒星間航行を実現できてたんじゃないかって話らしいぞ」父はタブレットを操作しながら答えた。


 父の話はよく解らなかったが、私は将来は人間再生(ヒューマンリサイクル)の仕事に就きたいな・・・と思いながら最後のお皿をふき、棚へしまった。


 それから数日たって品評会当日となった。私は部活があったので品評会に行くことは出来なかったが、玄関前で祖母を見送ることにした。

 外に出るとお隣の山田さんのおじいさんも出場するようで、父と「今年も負けませんよ!」「なんの、なんの、今回は勝たせてもらいますよ」なんてやり取りを繰り広げている。


 私はその傍らでボーっと立っていた祖母に近づき「おばあちゃん頑張ってね」と声をかけた。祖母は焦点の定まらない目をしながら「がんばる?・・・あたしが?がんばる?・・・何をだい?」


「やだなぁ、おばあちゃん。おばあちゃんは今日人間再生素材の品評会に出るんだよ、お父さんもお母さんも期待しているから頑張って・・・ってまぁ・・・おばちゃんは何もしなくていいんだけど・・・ま、とにかく頑張ってよ、私は行けないけど応援しているから」


「はぁ・・・あたしが・・・素材・・・そうなのかい・・・・・・」


 沈黙が続く・・・そうか、祖母も不安なんだ・・・なんといっても一生に一度の事だ、失敗は許されない。私はなんとか祖母を励まそうと思い


「だ、大丈夫だよおばあちゃんなら、ほら、髪もあるし、歳の割に肌もきれいだし・・・ひょっとしたら生食用になるかもしれないよ!」と言った。


 祖母はポカンと口を開けながら私の顔をひとしきり眺めてから言った


「そっか・・・そうだよな・・・頑張る・・・おばあちゃん頑張るよ・・・ありがとうな、ナオコ」


 私はナオミだよ・・・と心の中で思ったが言葉にはせず、祖母にそっとハグをした、祖母もあわせて私の背中に手をまわしてくれて・・・よかった・・・祖母も安心してくれたらしい・・・祖母の首元からは小さい頃から大好きだったおばあちゃんのにおいがした。



 部活が長引いてしまい帰宅する頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。私は家路を歩きながら祖母の事を考えていた・・・祖母は金賞取れただろうか・・・もし取れていたらお祝いしなくちゃな・・・あ、でも帰ったら祖母はいないのか・・・・・・ 


 悲しい・・・のかな?・・・いや、祖母はもう祖母ではなかったのだ・・・あれは祖母の形をした・・・物?・・・素材?・・・・・・・・・・何だったのかな・・・・・・・・・?


 いつか私も私じゃなくなる日が来るのかな・・・・・・?



 まぁいいか・・・今の平均寿命を考えたらまだまだ先の話だし・・・ 


 

 家に着くと明かりがついていた、みんな帰宅しているようだ。「ただいまー」と言いリビングに入るといつもの光景・・・いや、祖母を除いたいつもの光景がそこにあった。


「おばあちゃんどうだった?」と、誰にとゆうわけでもなく聞くと、父が「また銅だったよ・・・なかなか金賞は難しいな・・・ま、山田さんとこには勝っただけで良しとするか・・・」と自分に言い聞かせるように言った。


 「そっか・・・残念だったね・・・でも、銅賞でもすごいよね、さすがおばあちゃん・・・」私が言いいかけると妹が


「さすがじゃないよ!おばあちゃんいなくなっちゃったんだよ!」と言葉を遮った。

 

 私が面食らって何も言えないでいると母が「だーかーら、ミナコ、これがおばあちゃんなんだってば!」と言い、これから夕食の食卓に乗るであろうハムの塊らしきものを妹の目の前に突き出した。

 

 私がキョトンとしていると「ああこれね、今年から入賞した素材は一部加工して上位入賞者に景品として配られる事になったらしいのよ、まぁ何人か分をミックスしちゃうからおばあちゃんだけって訳じゃないだろうけど」と母が説明してくれた。


 へぇ~最近は品評会も各地で乱立ぎみだから出場者獲得の為にいろんなサービスするんだなぁ~なんて思っていると


「もういい!私ご飯いらない!寝る!」と言って、妹は2階へと駆け上がっていってしまった。

 

 そうか、祖父が亡くなった時は私はもう中学生だったので人間再生(ヒューマンリサイクル)の事もなんとなくわかっていたけど・・・ミナコはまだ未就学だし身内が再生素材化されるのも初めての事だ・・・私は母と顔を見合わせてしまった。



 母と夕食の支度を済ませて頂こうとしたが、やはり私は妹のことが気になり「やっぱりミナコ見てくるよ・・・」と言い席を立つと「大丈夫よ、明日になればケロッとしてるから」と、母は言うが「うん・・・でも・・・一応・・・あ、先に食べてて」と言い階段を上がった。


 妹の部屋は階段をあがって左側だ、私はそっとドアを開け少し小さめな声で「ミナコ寝ちゃった?・・・ご飯できたけど本当にいらないの・・・?」


 少々間をおいたが返事はない・・・が、か細くすすり泣く妹の声が聞こえた。


 私は静かに部屋に入り、ベッドに横たわって頭から布団を被る妹の傍らにしゃがんだ。

 

 少し間を置き、布団の上から軽く手をあて、ゆっくりと話した


 「ごめんねミナコ、おばあちゃんいなくなっちゃったからびっくりしたよね・・・ミナコはおばあちゃん子だったもんね・・・でもね、悲しいけど私達人間はいつかは死んじゃうのね・・・だから・・・おいしく食べてあげるのがおばあちゃん一番よろこぶと思うな・・・そうすれば、おばあちゃん・・・ミナコとずっと一緒だよ・・・」


 返事は無かったが、布団の中でしきりに頷いているのが伝わってきた。私は少し嬉しくなって目頭が熱くなってしまった。

 

「今日はこのまま寝ちゃっていいから、明日はまた元気な顔見せてよね」と言い、部屋から出ようとドアノブに手をかけると、背後から


「ありがとう・・・お姉ちゃん・・・」


と、声が聞こえた。私は一瞬戸惑ってしまったが、気を取り直し


「どういたしまして・・・」


と言い階下へ降りた。




 食卓に戻ると「ミナコどうだった?」と母が訪ねてきたので

「う~ん・・・納得してくれたと思う・・・よ」と返すと

「ませてると思っても、こんなところだけ子供なんだから・・・」

とは言うものの母は少し嬉しそうだ。


 「またこんなこと言ってるのか、この手のニュースは定期的に出てくるよな・・・」と、テレビを見ていた父がこちらの話には関心が無さそうに言った。

 テレビに目をやると、とある団体の最新の調査で食人食による有害性を指摘、主な症状は非常に進行の遅い認知能力の低下・・・等といった事をアナウンサーが喋っている。


 「選挙が近くなると決まってこの手のニュースが出てくるな、結局何も変わらないのに・・・」と父は独り言のように呟く。

 私は「なるほど・・・こういうのが政争の具というやつなんだな・・・もう人間再生(ヒューマンリサイクル)のない世界なんて考えられないって私でも解るのに・・・人類は進歩しないな・・・」と呟きながら席につき中央の皿に箸をつけた。


 ほんのりと優しかったおばあちゃんの香りがした気がした・・・


初めての作品で拙い文章だったとは思いますが、ここまで読んで頂きありがとうございます。

何度も何度も書き直しているうちに、もう自分では面白いのか面白くないのかわからなくなってきて、やはり発表しなければ何もわからないし上達することもないだろうと思い何とか書き上げました。


作品についてですが本当はラストシーンで、家族は人類が自ら招いた地球の環境変化に対応するべく人体改造を繰り返した結果もう私達とは似ても似つかない外観だった(この世界ではそれが当たり前なので、そこまでは語られていない)…とゆうオチをつけたかったのですが、私の拙い文章力ではどうしても上手く表現することができず、泣く泣くオミットしました。


決して100%満足のできる作品ではないですが、次のステップにしたいと思います。 


物語を紡ぐのは難しい、でもこんなにも楽しいものだったのか・・・とゆうのが今の率直な気持ちです。

最後に、この世界にいざなってくれたKOMO先生に感謝します。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか鋭い切り口で、面白く読ませていただきました。 設定も1980年代の近未来小説みたいで好きです。 [気になる点] 自分的には特にありません。 [一言] ファンタジー系じゃない小説って…
[良い点] 感想が遅くなってしまい、すみません。短編ですが、文章がとてもわかりやすく、いい意味で無機質な素っ気なさがスラスラと読みやすかったです。 かつての「姥捨山」というように、捨てるか棄てないか、…
[良い点] 死を扱う作品なのに、ほのぼのした感じで最後までしっかり書かれていて、のんびりとした早さで読ませていただきました。とても良かったです。
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