第3話 〜器の大きさ〜
すいません!遅れてしまいました!
「それではいきますよ〜」
呑気な口調でガブリエルさんが言う。
あぁ、僕は今からこの手で、いや、この身体でNWOの世界を体感出来るんだなぁ。
そう考えると、自然と気持ちが昂り、手に力が入る。
少し気持ちを落ち着かせるために目を閉じ、深呼吸していると、空気がガラリと変わった。
慌てて目を開け、周りの状況を確認するために辺りを見回すが、気になる点が二つ。
まず一つ、Xが居ない。
居るはずのXが居ない事により緊張感と不安感が高まる。
そして二つ、ここが最難関ダンジョン 『ラーの神殿』だと言う事だ。
確か、ラーの神殿はダンジョンクリア後もダンジョンが続いているんだっかったか。
え?これって詰みじゃない?初期ステ武器なし縛りとか勝てる気しないんだけど...
僕は諦めかけながらも気を引き締め、ダンジョンの奥へ歩みを進めると突然何処からか声がした。
(おーい優希ー聞こえてるかー?)
!?!!?!?ッッッッこいつッッ直接脳内に!?
その声は脳内に響き、そして突然の事だったのでビクンと僕の身体が跳ね上がる。
(あーちょっと落ち着け?な?いや、マジで)
だがその声の主はXであった事に気付き、安堵する。
「はぁ、なんだXか...ビックリしたなぁ...いきなり脳内に話しかけられても困るよ」
(いや、これしか手段が無かったんだよ。現段階ではお前と離れて実体で動く事はちと難しくてな)
難しい?さっきまでちゃんと実体で居たじゃないか。
しかも現段階ではということは、これから何かを達成していくことによって離れて実体になれるというのだろうか。
「え?でもそれじゃあなんでさっきまで大丈夫だったの?」
(ありゃあ俺が創り出した空間だしな。それと俺が実体化するにはお前の器がデカくなるにつれて段々と出来るようになる)
なんか遠回しに僕の器が小さいって言われたような気がする。
でも、器を大きくするには一体どうすればいいんだろうか。
(あーそれはだな。まぁ経験を積んで強くなることだな。それと器ってのは所謂レベルみたいなもんだ。レベルは高ければ高いほどいいだろ?器でもそうだ。大きければ大きいほどいい)
えっと、器っていうのは性格の話ではなくて強さや経験値のような感じか。
でも、それだと僕はなんで器が小さいんだろうか。
強さもそれなりにあるし、経験もかなり積んでいる筈だ。それなのに何故?
(器が小さい理由はだな、正直お前は戦闘とかほぼ経験はしてないからな)
???経験をしてない?確かに飲み込みが早いとかは沢山言われてきたどそれと何か関係が?
(そのとおりだ。そんで、飲み込みが早いのは俺が加護を付けたからだな。俺は本当に心配性でな。もしお前に何かあったら嫌だから、技術吸収の加護s+を付けておいた)
Xは笑いながらそう言った。
なるほど。っていうか心配だから見守るんじゃなくて加護を付けるってあたりがやっぱり心配性なんだなぁと思う。
(んで器の大きさは強さでも大きくなるが、正直そこまでいうほど大きくなるわけじゃない。だから、武術の素人と達人を比べても強さによる大きさだけで見ると殆ど変わらない)
なるほど。っとだいぶ話し込んでしまった。そろそろ先に進まないと。
えーっとメニュー画面どうやって開くんだこれ?
(右手を左へスライドだ)
ほうほうなるほど...
あ、ホントに開いた。えっと装備選択っと。
lv1で装備出来るものといえば...
───あった『呪いシリーズ』
lv1で装備出来て防御力もトップクラスに高いけど、移動速度50%減に魔法耐性激減、そして着脱不可。
あるアイテムを使えば外す事は出来るらしいけど、そのアイテムがドロップする確率がとんでもなく低いので、装備したら最後とアカウントを消す人が続出した。
「まさかコレで戦うようになる日が来るとはね...」
当時の事を思い出しながら装備すると、ズッシリと防具の重さが体にのしかかる。
「っく...!流石に重いね!でも思ったよりかは軽い...?」
(そりゃあそうだろお前の現実のステータスとゲーム内のステータスって殆ど変わらないからな)
は?何それ。
また加護とか付けてるの?
(いや、付けてるっていえば付けてるが、さっき言った技術吸収の加護だぞ?)
「なんで技術吸収で筋力とかが付くのさ!おかしくない?」
(なんでって...お前自分がやってた事忘れたのか?)
やってた事?僕は筋力が付くような事した覚えはないんだけど...
(まぁそれもそうか、『アレ』はお前にとって頭の中から抹消したいような思い出だろうからな)
アレ?何それ?
僕が筋力を鍛える事って何かあったっけ?筋力を鍛える...筋力...ってまさか...!!
(話をしよう。アレは今から5年?いや、3年前だったか。まぁいい、俺にとってはつい昨日の事のように感じる出来事だが、お前がなんか「女の子に見られたくないから筋肉付けよう」とか言い出して...「まってまって!思い出したから!ワーワー!!!何にも聞こえナーイ!!」
大声をあげ、必死に聞こえないようにする。
それが功を奏したのかXが言うのをやめる。
「ハァッハァ...」
(そこまで嫌なのか、あの記憶は)
嫌ってレベルじゃない。アレだけは思い出したくもない。
まぁ取り敢えずその事がきっかけで筋力が付いた訳か。
でもまだ疑問が残る。
現実で僕はそれ程の力を使ったことが無い。一体コレは何故?
(それは普通にお前が無意識のうちに力を制御してたからな。だが今はそんな事してる場合じゃないだろうから、ちょっとその制御を外させてもらった)
ふーん。
僕は半信半疑で思いっきりダッシュしてみる。
するとどうだろうか。コレがとても現実だとは思えないスピードで疾走する。
僕はこんな力を秘めていたのか。そう思うと自然と興奮する。
「コレが...僕の力...!!」
確かボスまでは敵が居ない筈なので、気兼ねなくキャッキャと喜んで走り回っているとXから声が掛かる。
(もうそろそろボスだな。少し気を引き締めて行けよ。それと、絶対に油断はするな。それとさっきから手ぶらだが、強くなったからって素手で行こうとするなよ?)
走ることが楽しすぎてすっかり忘れてた...
えっと呪いシリーズの武器は...あった
『死神の大鎌〜デスサイズ〜』×3
うっわぁ3本も持ってたっけ。
アイテム整理忘れてたなぁ。まぁいいや、取り敢えず装備しよ。
───ん?ちょっと待って。コレってゲームであってゲームじゃない様なものだから2本装備出来るんじゃね!?思い立ったが即実行。
なんと...装備出来ちゃった!二鎌流とか言うのかな?まぁそんな事は置いといて。
警戒しながらも歩みを進めること数分。
目の前には綺麗に磨かれた大きな石の扉がそこにはあった。
あまりにも扉の石が綺麗に磨かれているので自分の姿が石に映る。そこで、呪いシリーズの装備の露出度の多さと自分が本当に女の子になっていることに驚愕の表情を浮かべる。
「なっ、なぁにこれぇ」
目を擦り、もう1度自分の姿を確認する。だが、目の前の事実は変わらず数10秒程唖然とする。
(だから言ったろ?女になるって、ほれ行くぞ)
「う、うん」
人生初のモンスターとの闘いが、今、幕をあける...