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選ぶこと、選ばれること

「奥様、旦那様が執務室でお呼びです。」


何もなく平穏に公爵邸で過ごすようになって1週間がたった。思わず、嬉しくなってマナーもへったくれもなく立ち上がった。

だって、やっと、決めてくれたんだもん。

言い訳してから、落ち着きを取り戻すために深呼吸した。

お妾さん候補が決まって、教えてくれるんだ。よかった。

レミエは、他の使用人の手前、ノックの段階で雪加の前の席から立ち上がっていた。あまりに勢いよく立ったことに、赤毛の使用人は少し驚いた顔をしたけれど、それくらいのマナー違反にレミエは眉を顰めたりしない。


「ありがとう。すぐ行くね。レミエ、私、へんじゃないかな。」

「はい。奥様はお綺麗です。」


そういうこと聞いているんじゃなくて、鼻毛が出てないとか、口紅はみだしてないとか、お菓子唇にくっついてないとか、そういうことなんだけど。

雪加が唇を突き出すと、問題ございませんと丁寧に返されて、窮屈に思った。


「あ、そうだ。忘れてた。あなたの名前ってなーに?」

「……私でございますか。」


少し戸惑ったような表情を隠しきれていない女性は、同じか少し上くらいの年齢に見えた。もしかしたら、雪加がレミエ以外を許容していたら、彼女が雪加付きになっていたのかもしれない。でも、今もこれからもレミエ以外に付いてほしいとはあまり思っていない。


「カリーナと申します。」

「あ、そうなんだ。よろしく、カリーナさん。」

「カリーナとお呼びくださいませ、奥様。」

「うん、わかった。じゃあ、カリーナも、奥様じゃなくて雪加って呼んでね。」


じゃあ、行こうか。特に返事を待たずに、雪加はすたすたと歩きだした。


「失礼いたします。雪加様をお連れしました。」


あれだけ戸惑って見せたのに、カリーナは雪加の要望をかなえてくれた。思わず、笑いかけると、カリーナは戸惑いがちに微笑んでくれた。可愛い人だと思う。出るところは出ているし、きれいな顔立ちだし、肌の白さなんてそこらの貴族よりも透き通って見える。


「ああ、こちらにおいで、雪加。」


執務室にあるソファに座り、なにかたくさん資料のようなものを広げているジョゼに手招きされる。

戦場にいるときもよくこっちにおいでって、言われていたから何となく懐かしい気がした。

ジョゼの目の前にある机の上に白いハードカバーの厚いものが置かれていて、雪加はとても胸がドキドキした。

お見合いの時の写真のカバーみたいに見えたからだ。きっと、たくさん写真が入っていて、雪加に好きな人を選ばせてくれるんだ。

雪加は嬉しくなって、思わずジョゼの隣、肌が触れ合うほど近くに座った。


「雪加、選んでほしいものがあってね。」

「ええ、もちろん、選びますよ。」


すごく嬉しくて思わず笑ってしまって、そのままジョゼを見つめると、ジョゼも笑い返してくれた。なんて、最高の保護者だろうか。


「開いてみて。」


期待に胸がドキドキして、痛いくらいに感じている。少し緊張しながら、カバーを開いた。


「え、っと。」


開いてみると、布の試料のようなものがたくさん挟まっている紙の束が出てきた。

ちょっと、予想と違う感じがする。戸惑いがあふれて、思わずこれなんですか。と呟いてしまう。


「雪加にカーテンの色を考えてほしいんだ。部屋の雰囲気を雪加の好きにしてもらいたくて、後ろの方には壁紙の試料もあるし、もちろん、家具も好きなように変えてほしい。」

「え?や、今ので満足ですよ。」

「でも、選ぶって言っただろう?」


それに女主人の仕事だし、好きなようにするのが雪加の仕事だよと言われて、今度こそ期待を裏切られたと思った。


「……何を、選ぶ気だったの?」

「それは、お妾さんですよ!」


当たり前でしょ?と雪加が笑いながら言うと、部屋の空気が凍った感じがした。執務室に控えていた家令のおじさん、いや、お兄さんと言った方がいいくらいの人も、カリーナも固まっている。いつか迎えるのだし、お妾さんという言葉を包み隠さない方がいいと思ったけれど、なんだかオブラートに包んだ方が良かった雰囲気だ。


「悪いけど、それは選ばなくていいから。」

「あ、ごめんなさい。そうですよね、私の趣味を押し付けたりしたら、悪いですよね。もちろん、ジョゼ様の判断を信頼してますよ。一応、私の希望は仲良くなれそうな人なので、そこを配慮してくださったら、嬉しいですけど。」

「……しばらく、選ぶ気はない。」

「あー、うーん、お忙しいですか?」


それなら、レミエに頼んで適当な人を見繕って、選んでもらうのが良いのかもしれない。レミエの方を向くと、とても嫌そうに顔を反らされた。

確かに、面倒な仕事だし、そもそもこのことをレミエはよく思っていないのだった。


「忙しいことは確かに忙しいけど。そういうことじゃなくて、しばらく、そういう気持ちにはなれない。」

「えー。」


しばらくお妾さんなしだと、男性として困った事態にならないだろうか。心配になって、ジョゼをのぞき込む。肉体的にも恵まれているジョゼは引く手あまただし、実際に、浮名を流してきたらしい彼は、そういった欲望もそれなりにあるだろう。

娼館、なんかに行って発散すればいいだろうけど、そういう選択肢はお貴族様的にありかどうかわからない。

それを雪加が口にしていいかが分からなくて、悩む。あとで、レミエに聞いてみよう。


「とりあえず、カーテンと壁紙と家具を選んで、この屋敷の雰囲気を変えていいからね。この屋敷は譲られたときと内装を変えていないから、母上の趣味のものになっているからね。」


へー、結構なご趣味ですね。特に、変える必要なんてないのに。

雪加は、仕事だと言われると、やらなければならない気がして、しばらく布の試料に目を通すことにした。


「頼んだよ。」


そうすごく素敵に微笑まれた。被保護者の雪加じゃなかったら、顔を赤くしていたことだろう。そんな笑顔は雪加に見せずに、自分の子どもの母親になってくれる人に見せればいいのに。ちょっと良い所のお嬢さんでもその笑顔で骨抜きになりそう。

雪加は思わず眉間にしわを寄せた。




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