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好き、嫌い

雪加は快適な公爵家の中で、唯一、困ったことを見つけた。離れが、少し埃っぽかったのだ。雪加は入ったとたん、くしゃみが止まらなくなってしまった。

掃除をお願いしようかと思ったけど、長く使っていないのにも理由があるかもしれない。ジョゼが帰ってきたら、お願いしてみようかと思った。

屋敷の皆は、聖女に対して、なんだか勝手なイメージがあって、それと雪加の解離に困っているようだった。雪加は特に困ってないけど、ちょっと持て余されている感じがする。

雪加はレミエと一緒に、お茶を飲みながら、離れの掃除のお願いの仕方を考えていた。


「どうして、離れを使いたいわけ?」


嫌な予感しかしないんだけど、一応聞くね。と前置きされて、嫌な予感というほどのことはないのに、と唇を突き出した。


「だって、困るじゃない。」

「何が?」

「だから、その、夫婦の部屋と私の部屋って近いでしょ?」

「まあ、そうでしょうね。近くないと不便じゃない。」

「そしたら、夜の方も、聞こえちゃったりしたら、さすがに気まずい。」


沈黙が待っていて、雪加は困った。何かしら、反応は欲しい。


「だから!」

「いや、ちょっと待った。それは、つまるところ、もし雪加以外の女性を夜の相手としたら、の話よね。」

「もし、じゃなくてね。そうなる予定だからさ。そしたら、離れに居た方が安全じゃん。私なんか、経験ないけどさ、さすがに意味するところとかも分かるしさ。」

「……言いたいことは分かるんだけど、納得できない。」


離れの掃除を、頼みたいんだよねと呟くと、私は嫌だと言われた。そりゃ、さすがにレミエに埃を掃くようなことはお願いしないのに。頼むのはジョゼに、だ。


「プロポーズは嬉しかった。あの時の感情はよくわからないけど、今、好きってわけじゃない。でも信頼しているから、愛人を囲って欲しい。子どもは育てるよ。って意味が全然分からない。」

「別に、難しくないと思うんだけどな。それに、好きってわけじゃないってのは正確じゃないよ。好きって言葉自体よく分からないだけだよ。」

「は?」

「レミエに対する好きってのはよくわかるんだけど。別の種類の好きがよくわからないんだよね。こう、なんか言葉の概念は多分理解できるんだけど、自分の中にそれがないんだよ、多分。」

「えっと、こう胸が温かくなって、きゅんってなって、それでいて、切なくて、ああこの人なしじゃ生きられないなって感じ。」

「何それ、レミエちょーかわいい!でも、ちょっとわかる。私、ジョゼ様がいないと一文無しだし、おうちもないし、生きていけないよね。」

「や、そういう物理攻撃じゃなくてね、感情的な話なんだけど。」


雪加は首を傾げた。例えば、ジョゼが居なくなるとする。もちろん、この世からではなく、雪加の前から。雪加のことは養ってくれたまま、他の女性のもとに通っていたりする。そうすると、雪加はジョゼと会えないけど、特に困ったことはない。

特に、生きていけないわけじゃない。

信頼しているから、大丈夫だと思える。信頼しているから、ちゃんと養ってくれると信じてまったりしてられる。

ますます、よく分からなくなってきた。考えるのはとりあえずやめよう。紅茶をもう一口飲んだ。結局、公爵夫人の役割もマナーも教えられなかったので、雪加は特になにもせず、何も気にせず、誰にもとらわれず過ごすことができる。

このために、ジョゼは何も教えないことを選択したのかもしれない。さすがは、ジョゼだ。雪加は満足して頷いた。


「あんた、考えるの、やめたでしょ。」

「あ、ばれた。まあ、難しいから、考えるのは止めて、ちょっとジョゼ様にお願いしてみることにするね。」

「ちょっと、お願いって。」

「大丈夫、大丈夫。ジョゼ様、怒ったりしないよ。」

「それ、信頼って言うのかな。」


ぽつりと落とされた言葉に、雪加は少しだけ驚いた。信頼、という言葉自体が揺らいでしまいそう。どうして、そんなこと言うわけと、ちょっとした怒りを覚えながら、少し考える。信頼、信頼、信頼?違う、のかな。

なら、何だろう。傲り?自分は怒られないという、勘違い?

違う、信頼だ。これは、信頼だ。ほかの感情の入り込む隙間がないだけで、二人の間にあるのは代えがたい信頼に違いない。

信頼という言葉だけが、今、自分をつないでいると、反射的に思った雪加はそれ以上、考えるのをやめた。




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