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友情と、信頼と

「雪加様、ジョゼ様とのお褥を拒まれたのですか?」


起きて、貴族にしては質素な朝食を食べて、紅茶を飲んでいた雪加に、召喚された当初からついてくれているレミエが声をかけてきた。レミエ以外の人間をそばに置きたがらないので、公爵邸では、雪加つきは、レミエだけである。

いつものように遠慮なく席に座ったレミエは、呆れたような表情だ。

二人の間にあるのは『友情』。それもとても深いもの。

雪加は、呆れた表情すら嬉しくて笑った。


「お褥って、何?」

「初夜、夫婦の営み、大人の時間、またの名を性交。」

「もうちょっと、言葉選びなよ。」


レミエは伯爵令嬢なのに、とってもあけっぴろげだ。花嫁修業に出されたのに、すっかり婚期を逃して、働くことが楽しくてたまらない不思議な娘だ。


「選んだら、理解されなかったのだけど。」


それで、拒んだの?そう質問されて、雪加は困った。拒んだわけじゃない。最初から、その予定は組み込まれてなかったし、ジョゼもその気があったわけではないことを雪加は知っている。


「違うよ。だって、レミエは伯爵とそういうことしないでしょ?」

「は!?気持ち悪いこと言わないでよ!」

「だから、私だってそうなの!昨日から、変だよ、みんな。私とジョゼ様が?気持ち悪いよ!」

「は!?」

「だから、ジョゼ様は、お父さんなんだよ。なのに、そんな。みんな、変だよ!」


お父さん?なんで?そう何度も、レミエがつぶやいているのを見て、雪加は不思議に思った。どうして、みんな、雪加がジョゼと夫婦の営みをすると思っているんだろうか。


「え?ちょっと待って、どういうこと?」

「ジョゼ様のこと、すごく信頼しているのに、なんでみんなそういうこと言うかな。」

「や、待って、待って。だって、雪加、あんなに喜んでたじゃない。プロポーズしてくれたって。信頼?え?好きだったんじゃないの?」

「好き?あ、プロポーズは嬉しかったよ、純粋に。」

「や、そのあとも、すごく幸せそうだったじゃない。まあ、結婚式前は少しマリッジブルーなってたけど、でも、好きで愛してて、ジョゼ様だってあんたのこと大切にしてて、すごくいい夫婦になれそうで、だから、私、安心したのに。」

「好き、だったのかな。ごめん、好き、ってよくわからなくて。」

「え?だって、好きな人いるって、あんな頬染めて、可愛く言ってたじゃない。」

「あの時は、分かったんだけど。なんか、今、わかんなくなってて。」


すごく素敵な気持ちだった気がしたけど、それが今はよく分からない。名前も、その感情も。


「でも、ジョゼ様のこと、すごく信頼してるの。それは、今も。」

「分からないって、どうして?」

「ごめん、わかんない。」


紅茶が冷たくなって、一口飲むとちょっと味気なかった。思い出そうとすると、とても素敵だったことと、なんだかキラキラしていたことは分かるけど、今は、それが何だったのか具体的なものが思い出せないし、分からない。

一生懸命に思い出そうとすると、信頼という言葉に置き換わっていく。そうか、あれも、信頼だったのだと、思うと気持ちが楽になった。

やっぱり、信頼だ。

ジョゼ様に感じるのは信頼だ。あの時は、もっとそれが素敵に思えただけだ。

混乱したような表情をする友人には悪かったけど、雪加は安心した。なんにも分からなくなってない。なにも失ってなんかない。雪加は、悪くない。へんなのは、やっぱり皆だ。


「あんたたち夫婦になったんだよ。せめて、こう一緒に過ごすとかしないと、雪加の立場、悪くなっちゃうよ。」

「そんなことないよ!ジョゼ様は、絶対そんなことしない。私が過ごしやすいように、絶対してくれるもん!」


なんで、ジョゼ様を悪く言うの?思わず、責めるように口にすると、レミエはより混乱したような顔をして、頭を抱えた。


「だって、子どもだってどうするのよ!どんなに腐ったってここは公爵家よ。後継がいるに決まってんじゃない!」

「腐ってないよ!」

「そうじゃない!」


レミエと言い争っているうちに、ジョゼ様の顔を思い出した。昨夜、ジョゼは必死に夫婦の寝室に雪加をとどめようとしたけど、初夜を共に過ごすことでこのお屋敷での雪加の立場をよくしてくれようとしたのだろうか。それならちょっと、悪いことをしてしまった。疲れたから、一人で寝たかったのは言い訳にならないかもしれない。


「大丈夫、昨日のうちに、そのことは話し合ったもん。」

「え?」

「素敵な人を迎えて、子どもを産んでもらって、必要なら私の子として発表するって。優しくて、可愛い人が良いってちゃんと伝えたよ。」

「いや、それ、愛人ってこと、よね?それ、雪加の世界の普通とか言わないよね。」

「そんな、普通の人に愛人とかいないから。お金持ちとかなら別だけど。あとは宗教によるよね。あー、素敵な人だといいな。仲良くなりたいな。」

「何言ってんの!?もう、全然、雪加が分からない!」

「えー?友達、少ないからさ。あ、もちろんレミエのことは友達だと思ってるし、大好きだよ!」


よどみなく言えた大好きは、とても暖かい。プロポーズの時のキラキラしたものとちょっと違うけど、似ていて、すごく素敵な気持ちになった。


「私もだけど、違う!これ、なんか違う!」


レミエがなんだか、頭を抱えていたけど、雪加はどうしてだろうとしか思えなかった。信頼で結ばれている雪加とジョゼなら、お妾さんはなんの障壁にもならない。

ジョゼは雪加を甘やかして、屋敷の中で大切にしてくれる。嫌なことは特にない。

雪加はジョゼの望み通り、子どもを自分の子どもと言って、育てられる。お妾さんと仲良くできるし、子どもを苛めたりしない。

信頼って、素晴らしい。雪加は一人、頷きを繰り返した。




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