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ヒツジマーケット

 ヒツジマーケット。それは、僕の住んでいる家の近所にあるコンビニともスーパーともいえる個人商店の名前だ。

 僕の収入の半分以上は、このヒツジマーケットに吸い取られていく。なにしろ、食料品のほとんどは、ここで購入しているのだから。


 僕は料理を作らない。作れないわけではないのだけれども、面倒なので作らない。野菜やお肉を切って、煮たり炒めたりして散々苦労しても、食べるのは一瞬だ。その上、お皿だって洗わなければならない。ゴミだってたくさん出る。

 手間や時間がかかる割に、得るモノは少ない。それだったら、その時間やエネルギーを他のコトに使った方が有意義だ。


 というわけで、僕は料理をしない。料理ができないわけではなくて、しない。

 こうして、僕は今日もヒツジマーケットで手作りのお弁当を買って帰るのだった。1日に1食か2食は、このお弁当を食べる。残りはカップラーメンとかお菓子でしのぐ。

 これが、僕の食生活だ。


 この街には、定食屋なんてものは存在しない。牛丼屋もファミレスも何もない。外で食事できるようなお店は1軒もない。

 食事がしたければ、街に3軒しかない食料品を売っているお店で買ってくるか、自分で野菜でも育てるか、さもなければこの街の外に出るしか方法はなかった。

 僕は自動車もバイクも運転できないので、街の外に出るには、歩くか自転車に乗るかバスに乗るしかない。そのバスだって日に数本しか走っていない。歩くのは、あまりにも時間がかかりすぎる。

「どうにかして自転車を手に入れないといけないな…」と、僕は1人つぶやいた。


 生きていくというのは大変なものだ。

 何もしなくてもおなかは減るし、眠くもなる。どうしたって、何か食べなければならないし、睡眠もとらなければならない。それに加えて、お風呂に入ったり、ハミガキしたり、洗濯もしなければ。

 毎日ではないけれども、僕も洗濯はしている。大体、4~5日に1度くらいのペースだろうか?家には乾燥機もあったけれども、ほとんど使ってはいなかった。電気代がかかるというのもあったが、外に干した方が気持ちがいい。


 いつものように今日も、洗濯が終わり止まった洗濯機から、服や下着を取り出すと、軒下のきした物干ものほし竿ざおに干し始めた。

 すると、遠くに人の姿が目にまった。

「あの人、またいるな…」

 そう、僕はつぶやく。


 ここの所、毎日だ。

 僕の住んでいる家の隣は、川になっている。川幅は10メートルほどと、ちょっと広めなのだが、深さ自体は大したことがない。裸足はだしで川に入ったとして、足首くらいまでしか水につからない。

 その川は少し先で、もっと大きな川と合流している。そっちは、かなりの深さがある。大人が余裕で泳げる深さだ。一番深い部分だと、頭が水面に出ないくらいだろう。

 その大きな川の河原かわらに、ここの所ずっと、男の人が座っているのだ。何をするわけでもない。体育座りで座ったまま、ボ~ッと遠くを眺めているのだ。何時間も何時間もそのままで、ふと気づくといなくなっている。それが毎日。

 さすがに雨の日はいないが、それ以外はいつも見かける。

「なんなんだろう?あの人は?あんなコトをして楽しいのだろうか?それとも、何か目的があるのかも?」

 僕は、ちょっと、その男の人に興味を持ち始めていた。

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