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保育園の給食を食べさせてもらう

 毎日毎日、畑に出かけ、布団を干し、洗濯をして、お風呂に入り、ご飯を食べる。

 他にやるコトといえば、家でゲームをしたり、アニメを見たり。あとは、たまに近所のシェアハウス同士の集まりに出かけたり、家の周りを散歩するくらい。

 ひたすらにひたすらに同じ行動を繰り返している内に、僕は段々と嫌気いやけが差してきて、頭がおかしくなりそうになってきた。


「僕は、ほんとうにこんなコトがやりたかったのだろうか?こんな人生に意味はあるのだろうか?」

 頭の中は、そんな考えでいっぱいになってくる。


「世の中の人たちは、一体、どんな人生を歩んでいるのだろうか?」

 そんな風に疑問に思うようになってくる。


 でも、きっと、世の中のほとんどの人たちは、この僕とたいして違いのない人生を歩んでいるはずなのだ。いや、もっと酷いかもしれない。やりたいコトもできず、ただ日々の労働や家事に追われる人生。親の介護や子供の世話で手いっぱい。アニメを見たり、ゲームをプレイしたりする暇さえありはしない。

 それに比べれば、この人生はよっぽどマシなのだ…


「きっと、僕はワガママ過ぎるのだろうな…」

 そうつぶやきながら、家の近くの川のそばを歩き回る。

 僕の家から川に沿って上流に歩いていくと、1本の橋にたどりつく。上流は、僕の家から見て西側の方角だ。

 その橋を渡ると、1軒の保育園に到着する。1軒の…というか、この街には保育園は1軒しかないのだけど。保育園も小学校も1つずつ。中学校は、この街にはない。なので、隣街までバスに乗って通わなければならない。

 その保育園も、もうほとんど人がいなかった。4~5人しか幼児が通っていないと聞く。そもそも、小学校だってほとんど人がいないのだ。1学年に数人しかいないので、(ひと)クラスが作れないほど。仕方がないので、(ふた)学年とか()学年が1つの教室で学んでいるらしい。

 今からすると、とても信じられないのだが、昔は小学校も活気にあふれていたらしい。全盛期には300人近くが通っていたという。僕のお母さんが子供の頃とか、もっと昔の話だ。


「300人もいれば、1学年が1クラスじゃあ、済まないだろうなあ。2クラスか、もしかしたら3クラスあったかもしれない」

 そんな風に考えながら保育園の側を歩いていると、中から女の人が声をかけてきた。

 若い女の人だ。まだ20代前半かそこらだろう。ベーシックインカム大実験でやって来た人ではなく、元々この街に住んでいる女性だという話を聞いていた。この街では珍しく、若い女性が地元で働いているのだ。こういう人は、農家の他には郵便局くらいしかいないのではないだろうか?


「あの~、すみません」と、若い女性保育士さんはいった。

 突然、声をかけられてビックリした僕は、まともに返事が返せなかった。

「は、は、はい…なななんでしょうか?」

 などと、挙動不審きょどうふしんな声をあげてしまった。

「突然で申し訳ないんですけど、ご飯を食べていってもらえませんか?」と、彼女はいった。

「ご、ご、ご飯ですか!?」と、僕は再びすっとんきょうな声をあげてしまう。

「はい。あ…ちょっと説明不足だったかもしれません。ここの保育園、子供が少なくて。職員も、私と園長さんしかいなくて。それで子供たちも寂しがっているんです。で、よかったら、一緒に給食を食べてもらえればな~と思って」

 あ、なるほど。そういうコトか。

 田舎いなかの保育園だものな。そういうコトもあるんだろう。セキュリティー的に不安があるとか、そういうコトは考えないんだろうな。狭い街だもの、きっと僕の顔や名前も近所の人たちに知れ渡っているのだろう。

 どうやら、怪しい人物だと思われているわけではないと知って、僕は2つ返事で了解した。

「いいですよ。給食くらい。一緒に食べましょう」

 僕がそう答えると、女性保育士さんは笑顔になった。

「どうもありがとうございます♪じゃあ、入ってください♪」

 そういって、保育園の門から引き入れてくれた。


         *


 保育園の教室の中に入ると、確かに閑散かんさんとしていて、とても寂しい感じがした。

 女性保育士さんのいっていたように、ここには彼女と園長先生と園児5人がいるだけだった。園長先生はおばあちゃんで、ちょっとふっくらした感じの人だった。見るからにやさしそうな感じを受ける。


「どうぞどうぞ、たいしたものはありませんけど」と、おばあちゃん園長先生が、席をすすめてくれる。

 席とはいっても、園児が座るイスは小さすぎて大人は座れないので、テーブルの前の床にじかに座るのだった。そうして、その前には園児たちと同じサイズの1人分の給食が用意されている。


「なになに?なにこのひと?」

「おにいちゃんだれ~?」

「どこでなにやってるひとなの?」

 と、人なつっこい子たちは、すぐに声をかけてくる。逆に、人見知ひとみしりの子は、テーブルの向こう側からこちらをジ~ッと眺めたまま、何もしゃべろうとしない。

「いや~、僕はこの近くに住んでいて。畑なんかを耕しながら暮らしていて。近所を散歩してたら『給食を食べませんか?』っていわれたから、一緒に給食を食べることになったんだよ」と、僕は正直に子供たちに話した。

 すると…

「ああ~、そうなんだ」

「へ~」

「じゃあ、いっしょにたべよう!」

 などと、すぐに声が返ってくる。


 ウ~ム…

 保育園なんて、小さい頃に通ってた時以来だけど、なかなかどうして。子供って、かわいいものなんだな~

 なんて、すごくあたりまえのコトを、あらためて感じるのだった。


         *


 給食を食べ終わり、子供たちと軽く一緒に遊んだりして、お昼寝の時間になった。

「いつまでもおいとましていては悪いから」と、僕は家に帰ることにした。

 すると、さっきの女性保育士さんが門の所まで送ってくれて、こういってくれた。

「たまにでもいいので、これからも遊びに来てくださいね♪」

「あ、はい…」と、僕は中途半端な返事をする。


 こうして、これを機に、その後も僕は頻繁ひんぱんにこの保育園に給食を食べに来ることになるのだった。

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