もっと稼いで、もっとお金を使おう!
3月末から畑を耕し始め、4月の上旬には新しい種をまき始めることができた。去年よりも1ヶ月は早い。
わずか1ヶ月ではあるけれども、これだけでかなり有利に進められそうだ。
「来年は、もう1ヶ月早く行動しよう」
僕は、心の中でそう決める。
来年は2月の終わりか、せめて3月の頭くらいには行動を開始しよう。それで、今年よりももっと有利に作物を育てられるだろう。
さすがに、4ヶ月は休み過ぎだ。11月の末から3月末までの4ヶ月間、ほとんど家の中でゴロゴロしながら、映画やアニメを見ていただけだったから。いくら寒くて体が動かなかったからといっても、それは言い訳に過ぎない。もうちょっと働かなければ。
その間、収入も全くなかった。完全にゼロだ。逆に、お金を使うようなこともほとんどなかったので、毎月もらえる8万円だけでどうにか食いつなぐことくらいはできていたけれど。新しく本を買うことはできなかった。欲しいゲーム機もあったのだけど、それも我慢した。
「もっと稼いで、もっとお金を使わなければ!」
僕はクワを使って、耕した土をウネの形に盛り上げながら、そう叫んだ。
そう!世の中、お金で回っているのだ。グルグルグルグルと循環している。欲しい物を手に入れるにはお金が必要だ。そのためには、どうしたって働かなければならない。
*
しかし、そんなコトを何日か続けている内に、ふと我に返る。
「いやいや、待てよ?なんか、おかしくないか?これ?」
そもそも、こんな小さな畑をいくら耕したところで、大した野菜がとれるわけでもないのだ。金額にすれば、微々たるもの。むしろ、人件費を考えると完全に赤字だろう。
僕が無給で働いているから、肥料代や種代をさっ引いても、いくらか利益になってはいるが、もしもお金を出して人を雇っていたとしたら、赤字も赤字、大赤字!全然割に合やしない!!
「時給換算で、これ一体いくらになるんだろう?」
僕は作業の手を止めて、畑の真ん中に突っ立って考え始める。
「え~っと、肥料代に種代を加えてキュウリが800円で…それが上手い具合に近所の食堂に全部売れたとして1200円くらいで。トマトは苗から買ってくるので、もっと高くて。苗を8つ植えたとして…」
などと計算していくと、どう考えても、まともな商売になりはしない。時給換算で100円とか200円にしかならない。ブラック企業も真っ青の過酷な労働だ。
それでも利益が出ればいい方で、ヘタをすると赤字になってしまう。
それに比べれば、近所の農家のお手伝いをするのは、まだ割がよかった。
相変わらず、日本の最低賃金は下回っていたが、それでも自分で畑を耕すのに比べれば、まともな賃金をもらえる。
「やっぱり、自分で会社をおこすっていうのは大変なものなんだな…」と、僕は妙に意気消沈してしまった。
畑仕事は、会社の経営とは違う。でも、自営業という意味では同じようなものだろう。人に雇われて働くというのは大変に思えて、やはり楽な部分も大きいのだ。なにしろ、赤字の心配がない。赤字になれば会社が倒産するだけ。社員が、その責任を負う必要はない。また、別の仕事を探せばいいだけ。
それに比べて、経営者というのは大変だ。社員を養っていく責任というものがある。
世の中では、やれ「起業しろ!」だとか「これからは、自分でビジネスをおこす時代だ!」「ベンチャーだ!」なんて声が聞かれるけれども。これが、どうにも簡単ではない。こんな小さな畑1つ維持するのにだってヒ~コラいってるのに、もっとまともな商売を始めようと思ったら、並大抵の苦労では済まないだろう。
僕は世界の広さと大変さを思い、絶望的な気持ちになりつつあった。




