近所の川でプカプカ浮かぶ
8月。それも、8月の中旬。夏も真っ盛り。
相変わらず、僕は畑仕事中心の生活を送っていた。カボチャのツルは畑中に広がり、サツマイモの葉は森のように生い茂っている。
「梅雨の時期も成長が速かったけれど、それにも増して夏は雑草の伸びが速いな。代わりに、野菜の方もスクスクと育っていく。やっぱり、植物の成長に必要なのはお日様の光なんだな~」
僕は頭に麦わら帽子をかぶり、汗だくになりながら、畑にはびこった雑草を抜いていく。
草は抜いても抜いてもキリがない。後から後から生えてくる。けれども、この作業を怠ってしまうと、余計に大変になってしまう。ゆとりのある時に、できる限り抜いておかなければならない。
近所の農家の人たちの中には、除草剤を使用している人もいたけれども、できるだけ僕はそういうものに頼りたくはなかった。
雑草が生えると除草剤を使い、害虫が発生すると殺虫剤をまく。おまけに、肥料は化学肥料。そういうのは、さすがにどうかと思う。
「肥料くらいは少しは使ってもいいかな?」と考えていたが、他はできる限り使わないようにしたかった。特に除草剤だけは絶対に使うまいと決めていた。こまめに雑草を抜き続ければ使う必要がないからだ。どう考えても、野菜のためにもよくないだろう。草の育成を止める薬品が、野菜にとっていいわけがない。
完全無農薬主義者というわけではなかったが、結果的にはそうなってしまっている。
農薬や化学肥料を使わないのには、もう1つ理由があった。それも、とても大きな理由が。
それは、単純に“お金がない”というだけだった。しょせん僕がやっているのは、趣味に過ぎない。他の人たちのように、それで生計を立てようとか、プロの農家になろうとかそういうつもりはない。なので、そんなものにお金をかけても仕方がない。
この先どのような人生を歩むかまだ決めていないが、「農家にはならないだろうな」という漠然とした思いだけはあった。
畑から帰ってくると、軽くシャワーを浴び、お昼寝をする。それから、近所の駄菓子屋へ例のビデオゲームをやりに行く。この辺の日課は変わっていない。
それに加えて、最近は川で泳ぐようにもなっていた。ホームセンターで水着を購入し、近くの川へと泳ぎに行く。家の隣が川になっていて、そこから歩いて、もっと深い場所へといけるのだった。
「昔は、ここでも泳げたんだけどな…」
そう。僕が小学生の頃までは、隣の川も結構な深さがあって、普通に泳ぐことができていた。それが、護岸工事を行って、今の広さになってしまったのだ。おかげで、大雨の日に川が氾濫するようなことはなくなったが、人が泳げる深さでもなくなってしまった。
それでも、20~30メートルも歩いていけば、ちょっと先で合流しているもっと大きな川へとたどりつける。そこならば、最深2メートル以上あるので、大人でも充分に水泳を楽しめる。
「畑仕事の後に、こうやって川で泳げるのは田舎のいいとこだな~」
僕は背泳ぎでプカプカと浮きながら、そうつぶやく。
「そういえば、子供の頃、おじいちゃんと一緒にこの川に来たな~」
小学生に上がるか上がらないかの頃だっただろうか?まだおじいちゃんが生きている頃に、一緒にこの川に来たことがある。
おじいちゃんは寡黙な人で、僕1人で泳がせておいて自分は黙々とアユ釣りに興じていた。
この辺りの川ではアユが釣れるのだが、アユ釣りには許可が必要で、釣りの季節になるとお金を出して許可証を購入しなければならないのだった。
アレがいくらくらいするものだったのか知らないけれど、おじいちゃんとおばあちゃんはお店をやっていて、アユ釣りの許可証なんかも販売していたので、少しは安く手に入れることができたのだろう。
「それにしても、おじいちゃんが働いているところって、あんまり見たことがないな~」
おばあちゃんの方は、いつもせせこましく走り回り、お店の方でもお客さんの相手をしている姿をよく見かけたが、おじいちゃんの方はそうではなかった。近所を散歩したり釣りをしていたりばかりで、一生懸命に働いているという感じではなかった。
たまに、おばあちゃんが留守の時に店番をしてタバコを売ったりしていたが、それも渋々といった感じだった。家の中でテレビを見ていてお客さんがやってきた時に、他に誰もいないから仕方がなしにレジに立つといった風で。
「僕も、あまり一生懸命に働くというのは好きではないし、どちらかといえばおじいちゃんの血を引いているのかな~?」
プカプカと川に浮き、サンサンと照りつける太陽の光を浴びながら、僕は1人でそんな風につぶやくのだった。




