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急激な進展

 隣の畑を借りてサツマイモを育て始めた僕。

 これは、ほんとに管理が簡単だった。なにしろ、ほとんど何もせずにサツマイモは成長していくのだ。

 最初の10日こそ、しなびて元気のなさそうだったり、全然成長のきざしも見せなかったサツマイモだったが、適当に水をやって放っておくと、いつの間にかグングン育ち始めてきた。

 ツルは伸び、葉はしげっていく。ついには、僕の手に負えないほどに繁殖していくようになってしまった。


「これ、ほんとに大丈夫か?こんな植物の切れ端みたいなものが、地面に埋めたくらいで育ったりするのだろうか?」

 そんな風に心配したのは最初だけで、今度は逆の心配をしなければならなくなったほどだった。

「これ、放っておいても大丈夫なのかな?ウネからはみ出て、畑の外まで伸びてきてるんだけど。このまま無限に成長し続けて、畑全体を支配してしまうんじゃないだろうか…」

 と、こんな具合だった。


「大丈夫、大丈夫。なんだったら、伸びたツルを切って、別の畑に植えるがいい。そしたら、そこからまた新しいツルが伸びてきて、いくらでもイモが増えるわい」などと、隣の畑のおじいさんは教えてくれた。

 そこで、僕は伸びたツルを切っては、余っている畑に植えてやる。すると、確かにおじいさんにいわれた通り、そのサツマイモもまたグングンと成長し、葉を生い茂らせ始めるのだった。


         *


 そうこうしている内に、他の畑を持っている人たちからも声がかかるようになる。

 直接、土地を貸してくれる人もいたし、そうでなくちょっとしたお手伝いを頼まれることもあった。

 たとえば、野菜の収穫だとか、土地の耕しだとか、草刈りや水やりなど。忙しい時期に数時間とか数日だけの畑作業を手伝うのだ。


「アラ、いいわね。うちも手伝ってもらえないかしら」

「こりゃあ、生きのいいのが入ってきたな。この街は、年寄りばかりだったからな。お前さんみたいな若いもんがやって来てくれて助かるわい」

「ベーシックインカムもええもんじゃな。実験期間の5年が過ぎても、ここに残ってくれんかな?」

 などと、近所の人々からの評判も上々だった。


 しかも、それにより思わぬ報酬がもたらされた。

 畑作業が終わると、れた野菜をわけてくれたり、現金で支払ってくれたりするのだ。わずか数時間の作業で3000円くらいもらえることもあった。時給計算でいくと、そんなに大した額ではないが、それでも今の僕からすると大金だった。

「いや~、こんなにもらっちゃ悪いですよ…」と僕が断ろうとしても、「いいから!いいから!もらっときなさい!」と、無理矢理にお金を渡される。

「ええ~、そうですか?じゃあ、遠慮なく…」などと申し訳なさそうに報酬を受け取る僕。

 他にも、手作りの漬け物だとかジャムだとか、肉じゃがやカレーなどといった料理を鍋ごと渡されることもあった。


 こうして、僕は食べる物には困らなくなり、みるみる内にお金の方もまっていくようになっていく。

 なにしろ、それまでは毎月もらえる8万円という収入の内の大半…4万円以上を食費に使っていたのだ。その出費がほとんどなくなってしまった。おかげで、自由に使える額は格段に増え、貯金までできるようになってきた。


 僕は、その行為に気持ちよさを感じつつあった。ある種の感動すら覚えていた。

 そうして、こんな風につぶやくのだった。

「働くっていうのは、結構気持ちがいいものかもしれないな…」


 この街に来るまで、「ムダな作業は大嫌いだ!決して働くものか!絶対に働いてなんてやるものか!」などと思っていた僕だったが、ちょっとばかしその心境にも変化が訪れつつあった。

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