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早く大きくな~れ

 それからの僕は、朝起きると録画したテレビ番組をチェックし、畑の管理に出かけ、お昼寝をし、駄菓子屋にビデオゲームをプレイしに行き、夕方からはテレビやラジオで野球の放送を楽しむという暮らしを続けた。


 畑の方は、土地を耕し、種さえまいてしまえば、後の管理はさほど難しくはなかった。

 芽が出て、ある程度の大きさに育つまでは毎日水をやる。その後は、野菜の種類によって、水のやり方をかえてやる。あとは雑草を抜くのさえおこたらなければ、大抵の野菜はスクスクと育つ。

 ただし、実はこれがかなり難しい。字際にやってみて、水やりの難しさを僕は初めて理解した。


 最初は、よくわからずに適当に毎日やっていたのだけれども、それで随分と駄目にしてしまった。

 植物というのは水分が欠かせない生き物なのだけれども、逆にやり過ぎても死んでしまう。根が腐ってしまうのだ。しかも、水をやるタイミングが野菜ごとに違っているので、なおさら難しい。


「こりゃ、1ヶ月や2ヶ月ではマスターできそうにはないな。ヘタをしたら、1年も2年もかかるかもしれない…」

 僕は、畑の真ん中に立ち尽くし、そんな風につぶやく。


 特に難しかったのはニンジンだった。

 どういうわけだかわからないが、ほとんど芽が出ることもなく全滅してしまった。

「一体、何が悪かったのだろうか?全くわからない…」

 しかし、しょげていても仕方がない。1つ1つ確実に覚えていくしかない。

 逆をいえば、覚えれば覚えるほど、それが力になる。こういう所もゲームと同じだ。弱い敵から順番に倒していって経験値をかせぐ。そうすれば、自然とレベルは上がっていくのだ。


 そんなコトを考えていると、突然、声をかけてきた人がいた。

「若者よ、がんばりおるな~」

 隣の畑のおじいさんだった。

「あ…はい。どうも、ありがとうございます」と、僕は返事をする。

 しばらくすると、おじいさんがまた話しかけてきた。

「どうじゃね?うちの畑も耕してみんか?」

「え?」

「若いのに、その程度の畑じゃ、物足りんじゃろ。体力もありあまっとるじゃろうし」

「は…はぁ、そうですね。それじゃあ…」と、僕は答える。

 こうして、おばあちゃんの残してくれた畑の他に、隣の畑まで耕すことになった僕であった。


         *


 再び、自転車をエッチラオッチラこいで、ホームセンターまで出かける。

 最初は道もよくわからず、のんびりと進んでいたので、時間がかかっていたけれども、慣れてしまえばホームセンターまでの道のりも大したことがないとわかってきた。自転車を飛ばせば、20分で到着してしまう。往復しても40分程度だ。かなり距離があるように感じていたが、実際はそうでもなかったらしい。


 今回のお目当ては、サツマイモだった。サツマイモのツル。

 5月も中旬に差しかかっており、サツマイモの植え付けにはちょっと遅いような気もしたが、まだギリギリで間に合うだろう。サツマイモは世話自体は非常に簡単だと聞いていたので、どうにかなるはず。

 それに、今年は試験的に植えてみるだけでもいい。本格的に栽培するのは、来年からでも構わないのだ。1度でも試しておけば、来年からグッと楽になるだろう。


 僕は手狭てぜまになってきた畑に加えて、となりのおじいさんに貸してくれた畑まで耕すことになった。

 そこで、前からやりたかったサツマイモを植えてみることにしたのだ。


 植えつけ自体は、簡単だった。

 耕した畑に水をまき、そこに買ってきたサツマイモのツルを差していくだけ。軽く土を掘り起こして、そこに適度な長さに切ったツルを置き、土をかける。

 なんだか拍子抜ひょうしぬけだったが、どうやら、これだけでいいらしい。水もそんなにやらなくていいみたいだし、肥料も必要ない。ただ、えてくる雑草さえこまめに抜いてやれば、それだけで充分。たったこれだけで、秋にはホクホクのサツマイモが収穫できるのだった。


「ほんとに、こんなコトで大丈夫なのかな?」

 僕は心配になって、そうつぶやく。

 でも、心配していても仕方がない。

「早く大きくな~れ!」

 植えたばかりのサツマイモ畑にそう声をかけると、僕はお昼寝をするために家に向って歩き始めた。

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