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古びたビデオゲーム

 朝起きて、ご飯を食べて、録画したテレビ番組をチェックしていって、またご飯を食べて、インターネットを徘徊し、洗濯して、布団を干して、ゲームをして、テレビを見て、お風呂に入って、夕方から野球の放送を見て…

 そんなコトをやっていたら、アッという間に1日が過ぎていく。

 何も変わりはしなかった。毎日毎日、同じ日々の繰り返し。相変わらず、坂道進さんは河原に座ってボ~ッと川の流れを眺め続けていたし、僕の方も同じように時間の流れに身をまかせているだけだった。


 将来に不安はない。「なんとかなるだろう」という漠然ばくぜんとした自信が支えとなって、どうにか生きていけている。少なくとも、もう5年近くは生活が保障されている。


 そんな僕だったけれども、さすがにこのサイクルにも飽きつつあった。なにしろ、この街には娯楽施設が何もないのだ。ボーリング場も、ビリヤード屋も、ゲームセンターも、カラオケボックスも、CDやビデオのレンタルショップも、本屋の1軒すらない。本といえば、ヒツジマーケットで売っている週刊誌くらいのものだ。

 あ、いや、1軒だけあった。この街に1軒だけ存在する駄菓子屋。そこに古びたビデオゲームが置いてあるのだ。10円玉を2枚入れるだけでプレイできる古代のゲームだ。


 僕は、毎日のようにその駄菓子屋に通い、古びたゲームをプレイする。

 かわいいキャラクターがブロックを押していき、敵を押しつぶす。画面上の敵を全て倒すと、ステージクリアー。次のステージへと進むことができる。それが基本的なルール。

 1度に何体もの敵をまとめて倒すと高得点が出せるようになっている。他にも、いろいろと細かいコツがあって、それらのコツを駆使すれば信じられないくらいの高得点を叩き出すことができるのだった。


 最初の日、500円近くを投じて、必死になってブロックを押しまくったが、全然クリアーできなかった。何面か進むと、敵の数が増えていき、スピードもとんでもなく速くなってくる。いやらしい動きをする敵も登場し始める。1回のプレイで、得点は10万点かそこら。

 それが、10日もすると、段々とコツがつかめてきて、スイスイとクリアーできるようになってきた。

 ついに、1ヶ月もった頃には、16面あるステージを全てクリアーしてしまった。しかし、そこでゲームは終わらない。なんと、2週目があったのだ。しかも、敵の配置などが変わっており、格段に難易度が上がっている。


 僕は、必死になって10円玉を投入し、どうにかして完全クリアーしようと奮闘した。

 10円玉が切れると、駄菓子屋のおばあちゃんに両替してもらう。

 毎日毎日、駄菓子屋に通いつめ、ついに2ヶ月を過ぎた頃、2週目もクリアーできるようになっていた。


 けれども、そこでも僕の挑戦は終わらない。今度はノーコンテニュークリアーを目指すのだ。

 そうして、プレイスピードはどんどん上がっていき、わずかのミスも許さない細かい動きができるようになっていく。ついに3ヶ月近く経ったある日、1度も追加のコインを投入することなく全32面を完全クリアーすることができた。


 さらに、僕の挑戦は続く。

 完全クリアーは、最低限の目標となり、そこから最高得点の記録をきざみ始める。

 どんなに高得点をマークしようとも、その日の夜には電源が切られ、翌日にはリセットされてしまっている。それでも構わなかった。僕の頭の中に、得点の記録は残っているのだから。

 そうして、雨の日も風の日も駄菓子屋に通い続け、記録はガンガン更新されていった。初めてプレイした時には10万点かそこらしかいかなかった得点は、様々なテクニックを駆使することにより、1000万点を越えるようになっていた。

 中にはちょっとしたバグまがいのテクニックもあったが、そんなコトは関係ない。手段を選ばず、僕は次々と自己最高記録を更新していく。


 半年を過ぎた頃。季節はもう秋。1回のプレイでの最高得点は2000万点を大きく越え、3000万点近くに達していた。

 そこで僕は限界を感じた。

「終わりだな、ここで。これ以上は物理的に不可能だ。ここから先、大きく記録を更新することはできないだろう」

 そうさとった僕は、ピタリとそのゲームをやめてしまった。

 それ以来、その駄菓子屋に通う回数もめっきり減ってしまったのだった。


 一見すると、これ、なんの意味もない行為に思われるかもしれない。

「なんというムダな時間!ムダなお金の使い方だろうか!」

 世の中の多くの人にとっては、そう思えることだろう。

 けど、それは違っていた。少なくとも、この僕にとっては!

 この時の経験は、僕を大きく成長させてくれた。いい自信にもなった。どんなにくだらないコトでも、毎日コツコツ続けていれば、信じられないほどの成果を上げられるようになるのだ。そういう証明になった。

 そして、この時の経験は僕の人生そのものを大きく変えていくことになる。

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