~プロローグ~
21世紀のはじめ。
日本国の借金は1000兆円を越えてしまった。しかも、年々、この借金の額はふくらむばかり。
1000兆円の借金が1100兆円になり、1200兆円に近づいていく。このままでは2000兆円にも3000兆円にもなってしまうだろう。そこまでいくのに、わずか数十年。もしかしたら、20年や30年で到達してしまうかもしれない。
そこで、さすがの日本国民もあわてた。総理大臣もあわてた。他の政治家たちもあわてた。
いくら普段はノンビリ暮らし、政治になんて無関心の人々でも、「これは、ちょっと異常な事態なんじゃないか?」と思い始めた。
いつもは、今月のお給料や、スマートフォンでプレイしているゲームや、かわいい女の子や、かっこいい男の子のコトで頭がいっぱいの若者たちも、ちょっとばかし政治に関心を持つようになってきた。
そうして、こんな風に叫ぶようになる。
「オイオイ!どうなってんだよ、この国は!借金まみれじゃないか!これが“世界で一番理想に近い国”といわれた国のなれのはてか?世界でも、上から数えた方が早いくらいの借金大国じゃないか!」
そこで、偉い人たちは、こう弁解する。
「大丈夫です!この国の借金は、きれいな借金です。他の国々のように汚い借金ではない。他国からお金を借りているわけではなくて、自分のところで作った借金なのです。だから、大変な事態になったりはしません」
それを聞いて、一時は安心した日本国民ですが、またすぐに不安になる。
「そうはいうけど、さすがにこれは額が大きくなりすぎちゃいないか?いくら、自分で自分に借金をしているといっても、このままだとお金が返せなくなって破綻しちゃうんじゃないか?」
頭では理解できても、心では共感できない。なにしろ、目の前に数字が並んでいる。個人では到底あつかいきれないようなケタの額が表示されている。
「なんだか、これはおかしいぞ?これ、一体ゼロが何個並んでるんだ?ほんとに、これは安全な借金なのか?毎年支払っている利子だけでも相当な額になってるじゃないか」
そんな風に思い、不安になるのだった。
*
国民の不安は最高潮に達し、ついに政府も重い腰を上げる。
当時の総理大臣が大きな決断をくだし、他の政治家たちもそれに賛同した。
「お金がないなら、お金を刷ればいいじゃないか!銀行にお金を作らせて、それで借金を全部返してしまおう!」
最初、このアイデアは大論争を巻き起こした。
「そんなコトをしたら、インフレになって大変な事態におちいってしまう!インフレだ!ハイパーインフレだ!」
そんな風に大きな声で反論する人々が後を絶たなかった。
けれども、その反論は、すぐに経済の専門家たちによって封殺された。
「大丈夫ですって。ハイパーインフレなんって起こりっこありませんって。これは、経済の基本を学んでいればすぐにわかります。1000兆円やそこら、たいした額じゃありません。大海にバケツいっぱいの水をそそぐようなものです。日本に大きなインフレを起こそうと思ったら、1000兆円の100倍の10京円あっても、全然足りません」
偉い人たちは、そう説明するのだ。
そこで、政府は実際にお金を刷って借金を返してみることにした。まずは、手始めに100兆円ほど。それで、日本の国債を買い取ってみた。けれども、何も起こらなかった。
さらに、200兆円。これも、全額国債を買い取るのに使った。
調子に乗って、もう300兆円。やっぱり、何も起こらない。
とどめの一発!600兆円!!これで、全額一気に借金返済だ!
“お金を刷る”と表現したけれども、実際に1万円札を1000億枚印刷するわけではない。
帳簿上で「はい、お金を刷りましたよ」と記載するだけだ。銀行の貯金通帳や、インターネットの仮想通貨みたいなもの。いざとなれば、本物のお札に換えることもできるが、普段は数字の上で存在しているだけ。
こうして、日本政府は、日本銀行に1200兆円ほどのお金を刷らせて、国の借金を全部消してしまったのだった。
オ~!マジック!イッツ、ミラクル!!