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番外編・ナトセ奮闘記

 今回は番外編・ナトセ奮闘記と言うことで、本編の続きから無理矢理挟んでみました。


 金指と並び、GコースきってのKYなナトセの最近のお気に入りとは?

 ナトセが己のプライドを賭け、アツいバトルに挑む!

 「ヒロシ君、遅いね」

 「さっき始まりの町で話したから、そろそろ出てくるんじゃないか?」


 時刻は16時。

 俺達は今、友達を待っている。新しいクラスメイト達と放課後にカラオケに行く為に。

 

 「なんで一緒に帰ってこなかったの?」

 「いや、何か用事がありそうだったからさ」


 俺と話をしているのは、ユーミンと呼ばれているクラスメイトの女子だ。

 昨年度の体育科の無双ランカーで、殴り合いが死ぬほど強いチート野郎で、既にVR世界で一人、現実で一人の犠牲者を出している。

 まず、怒らせてはいけない人間だ。


 俺達が待っているヒロシは、まだログイン中でなかなか帰ってこない。15時半に授業は終わりなので、何かクエストの最中なんだろうか。さっき始まりの町で話したときも用事があったっぽいしな。


 「あっ、ヒロシ君帰ってきた!」

 

 ユーミンがそう言うと、ヒロシはリクライニングから身を起こしてヘッドパーツを取る。

 まったく、ゲームが好きなのはいいけど、女の子を待たせるとかどうかと思うぜ。


 「お待たせ、ごめんユーミン、遅くなった」

 「うん、大丈夫だよ、ナトセ君の相手をさせられた以外は」


 おいおい何だよその扱いは。それにヒロシもヒロシだ。何でそんなに申し訳無さそうな表情で苦笑いをしている?

 全く、人をイジるならもっと上手くイジってほしいものだ。


 「ところでさ、今日のメンツって誰なんだ? まさかナトセもそうなのか?」

 「まさかとは何だ、失礼だな。そもそも企画したのは俺なんだぞ?」

 「悪い悪い、そうだったのか」


 そんな事を言いながら、ヒロシは俺に向かってサムアップをしている。一体何の労いだと言うのか?


 「女子はヒメカとゆいポンがいるぜ。で、金指が先に二人を町に連れて行ってる」

 「そっか。馴染みのあるメンツで良かったよ」


 そう言いながら、ヒロシはまたサムアップをしてくる。本当に何なんだコイツは?

 

 「ほら、ヒロシ君を待ってたんだから早く帰る支度しないと!」

 「ああ、ごめんごめん、今するよ」


 という感じでユーミンに急かされたヒロシは急いで支度をする。こんな奴がこのユーミンを倒して最強班長だと言うのだから、世の中何が起こるのか分からないもんだ。


 ヒロシが支度を終えると、俺達は学校を出てから金指達と落ち合う為に最寄駅の方角に進む。

 学校から駅までは10分といった所だ。そう言えば、ヒロシはVR世界で最後に会ってから何をしていたのだろう。歩いていてもヒマだし、聞いてみる事にした。


 「ヒロシさ、帰ってくるの遅かったけど、あの石で何かしてたのか?」

 「まあそんな所だよ」


 そっけない返事だ。さては何か隠し事をしているな? と思ったその時、ユーミンも間に入ってくる。


 「なになに? ヒロシ君もう新しいクエストクリアしたの?」

 「ああ、一応ね。実は……」


 なんて言いながら二人で話し込んでしまった。俺への返事とは180度違うヒロシに若干の怒りを覚えたが、まあ男なんてそんなもんだろうと呆れながら一人で歩く。


 そうこうしている内に目的地の駅に到着。金指達を探すが、さすがに夕刻という事もあって駅は人ごみでいっぱいだ。その内見つかるだろう。そう言えば、そろそろアレのスタミナが回復する頃か。


 俺はカバンからスマートフォンを取り出し、一つのアプリを開く。オープニング画面ではピンク色の髪の毛をした可愛らしいメイドが大剣を構えて「おかえりなさいませ、マスター」と音声を発する。


 これは俺が最近最もハマッているゲーム「メイドイン・デスバトル・オンライン」、通称MDOと呼ばれるMMOゲームだ。最近は便利なもので、PCでなくともスマホからも同一アカウントでログインできる為にもっぱらやりこんでいる。


 可愛いメイド達が戦うと言ったコンセプトも気に入ったが、最大の特徴は対戦バトルで同一プレイヤーに3回勝利すれば相手の専属メイドをゲットできる「略奪愛システム」だろう。


 手塩に掛けて育てたプレイヤー専属メイドが、レベルも装備もそのままそっくり相手に渡ってしまうこのシステムは実に奥が深い。

 勝てば自分の専属メイドが増えて支配欲が満たされ、負ければ愛娘を嫁に持っていかれるお父さんの寂しい気持ちを味わう事になる。


 という訳で早速対戦者の募集リストをチェックするも、まだ目ぼしいメイドを従えている主人(マスター)はいなさそうなので、ストーリーを進めてレベル上げでもしていよう。


 仕組みとしては3分に1ポイント回復するスタミナを使って、スタミナが続く限り雑魚を始末できる仕様なので、常にレベル上げできる訳では無い。ここはそこらへんのアプリゲームと同じ仕様だろう。


 そうしてスタミナの続く限りレベル上げに徹した俺は、スタミナも尽きたところでメニュー画面に戻る。すると対戦者募集リストに一際目立つ対戦者を発見。こ、これは……!


 「超レアの女王(プリンセス)・メイドじゃないか!」


 思わず叫んでしまったが、メイドにもランクが有り、下から順に


 ・見習い

 ・パート

 ・常勤

 ・専属(レア)

 ・特殊(超レア)

 ・嫁


 となっている。

 超レア以上は基本的に何かしらのSっ気を含む性質を持っており、女王・メイドはその内の一つだ。

 っていうか女王の時点で使役される存在では無いから、Sも何も無いとは思うが…


 という訳で早速対戦を申し込む。が、その前に他に誰かと対戦していては当然、入り込む余地は無いので、この相手の「本日の戦績」なる項目を見てみる。便利機能の一つだが、実は課金して追加した隠し機能の一つである。


 どれどれと見てみても、今日はまだ誰とも対戦している履歴が無い。可能性としては、何せ強力な超レアなので対戦を申し込む人数が少ないか、または対戦を断っているかだろう。


 もし後者ならば、相手もレアメイド狙いをしている可能性が濃厚なので、こちらにも相応のレアメイドがいなければ取り合ってすらもらえないだろうが、俺は迷わずに対戦を申し込む。

 すると画面には「OK」の二文字。案外あっさりと対戦が成立した。


 対戦するには対戦ポイントというものを消費する。最大3ポイントまで溜まり、1時間に1ポイント回復する仕組みだ。今回は俺から申し込んだので、俺が1ポイント消費する。


 さてさて、今回の対戦であるが俺とて無策で挑んでいる訳ではない。何と俺も超レアメイドの一種である「ツンデレ・メイド」を持っているのだ。しかも2つ。


 今回万が一負けてしまっても、ダブって持っている内の1つを持っていかれるだけなのでリスクフリーなのである。

 だからと言って負けてやる気は無いので、対戦時はいつも本気だ。


 しばらく待つと早速画面が対戦フィールドに移行し、お互いのメイドが対峙する。MMOではお馴染の3D空間での格ゲーチックな感じでバトルするのだが、本来は複数人入り乱れての大規模バトルが想定されているため、2体のメイドだけだと広すぎるフィールドだ。


 そうこうしていると、早速バトル開始である。


 バトルの勝敗は相手メイドのHPを0にすれば勝利だ。今回はメイドのレベルが同じプレイヤーとの対戦だったので、お互いのHPが2000となっていた。

 

そして、それぞれには従事スキルと呼ばれる技があって、一定時間経つと使用できる。使える従事スキルは4つまでセットできて、強力なスキル程チャージに時間がかかる。


 バトル開始から30秒程経ち、牽制も程々にまずは俺から仕掛ける。


 「いくぜ、『血塗られし御手(ブラッドフィスト)』だ!」


 俺の発動した『血塗られし御手』はモロに喰らうと700ものダメージを追わせる事ができる高レベルスキルだ。発動まで20秒を要するが、攻撃範囲も広く相手もかわしにくいので重宝している。所謂(いわゆる)、必殺技の1つだ。


 俺のツンデレ・メイドが赤い炎に包まれ、


 「アンタの身包み引っぺがしてやるわ!」


 となかなか女子が言わないであろうセリフを発して女王・メイドに突っ込んでゆく。

 一瞬で距離を縮め、女王・メイドの目前で大爆発を起こす。


 どう見てもまともに入ったので安堵していると、直後に同じ大爆発が起き、俺のツンデレ・メイドが吹っ飛んでいるではないか。


 「しまった、カウンタースキルを持っていたのか」


 相手の強力なカウンターが事前に発動されていたらしく、俺のメイドのHPが一気に700減らされる。

 そのまま勢いに乗った女王・メイドの攻撃にさらされて、何一つ反撃できないままHPが500まで減らされてしまった。

 

 カウンタースキルを恐れてスキルを発動できない俺だったが、ここで攻略法を試みる。


 まずは接近して弱攻撃で迫ると、案の定カウンターを喰らう。俺のHPが100減らされたものの、まだ400残っている。ここが勝負どころだ!


 「喰らえ、『血塗られし御手』!!」


 俺の攻略とは、1度カウンターを発動させた直後ならスキルがチャージされていないので、弱攻撃を囮にしてから強攻撃を出そうという作戦である。我ながら見事な作戦だと思う。


 先程と同じく大きな爆発が起こり、一矢報いたと思われたその時、『血塗られし御手』はまたもやそっくりそのままはじき返された。そして俺のメイドが地に横たわっている。

 こちらのHPが0になり、終戦である。


 「まさか、4つあるスキルに2つもカウンターを入れてくるとは……」


 あまりの完敗にそれ以上の声も出なかったが、まだ1回負けただけだ。次は対策を練ってから再度挑戦をするべく、装備や揃えるスキルを見直した。

 そうしてすぐにまた対戦を申し込み、2回目のバトルが始まった。



 1回目は相手の策にハマってしまったが、今回の俺は一味違う。まずはスキルのチャージを行い、またこちらから先手を打つ。


 まずは前回同様に弱攻撃を挟みつつ、間合いを詰める。そして攻撃をする前に、2つのスキルを発動させておく。相手と同じスキル「カウンター」と、その効果を2倍にして返す「倍返し」だ。


 これで2度目のカウンターを倍にして返せば一気に1400ダメージを与えられるのでかなり有利に立てる。

 さて、料理の時間だ。


 「行け、『血塗られし御手』!!」


 まずは発動後、相手のカウンターを喰らう。そしてここで俺のダブルスキルが発動!

 一気に2つ分の大爆発が起こり、画面の半分が爆風で埋まる。見た目はかなり派手だ。


 「よし、もらったな。 ……なっ!?」


 次の瞬間、驚くべき光景が目に飛び込んでくる。何と爆発が4つになって、画面を全て多い尽くす。

 爆風が退けると、俺のツンデレ・メイドはまたしても地に伏している。

 ダメージ量は2800を記録し、HPは2000しか無い為、一撃KOである。


 つまりだ、この相手はカウンターを3つセットしていたイカレ野郎という事になる。


 「有り得ない。こんな戦い方見たことも無い…」


 俺はしばらく愕然としていたがそうは言っても対戦ポイントもあと1つ残っているし、このまま引き下がれもしないので、スキルをセットし直して再々戦を申し込む。


 戦略的には俺もカウンターをもう1つ追加して「カウンター返し返し返し」を仕掛ける予定だ。ただ、それだけでは俺の気が収まらないので今回はもう一つスキルを入れ替えた。



 そうして3回目のバトルを挑み、お馴染の弱攻撃からカウンターを誘い、ここからコンボに入る。

 カウンターと倍返しを発動させ、必殺技に入る。しかし今回のスキルは『血塗られし御手』では無い。


 「喰らえ、『偉大なる家政婦の導きメイド・イン・ワンダーランド!!』」


 この技は無数の隕石(メテオ)を放つこのゲーム屈指の超絶必殺技で、ダメージは何と1500を与える。

 その代償にチャージに1分掛かる事と、発動前の隙が大きいので相手に狙われやすいのがタマにキズであるが、今回の相手はカウンター待ちで立っているだけなので当てる事は容易い。


 女王・メイドに幾重にも降り注ぐ隕石がカウンターされて俺のツンデレ・メイドにも降り注ぐが、こちらもカウンターで返す。更にそれを3回目のカウンターで返されるが、こちらも用意していたカウンターが更に返す。


 最早メイド同士の戦いには程遠く、壮大過ぎる技の応酬に自分が今プレイしているゲームが本当にいつも気軽に遊んでいるモノと同じなのか分からなくなる。こんなにアツいバトルは初めてだ。


 こうして俺の「カウンター返し返し返し」は完成した。


 ……かに思われたが、2度ある事は3度あるとはよく言ったもので、まさかまさかの「カウンター返し返し返し返し」を喰らうとは思っても見なかった。


 俺のツンデレ・メイドは地に伏すどころか、木っ端微塵になっていて最早、姿すら映っていなかった。


 4つあるスキルに全てカウンターを入れるなど、もはや常軌を逸している。チートなんてもんじゃない。そんな事できるのは、最早ただのバカだ。

 そもそも被ダメージ量も24000とか、このゲームの最大HPは5000なのにそんな設定自体がおかしい。何回分殺せば気が済むんだ。

 

 とは言っても負けは負けなので、3タテを喰らった俺はみすみすツンデレ・メイドを手放す事になった。

 最後に言い放ったツンデレ・メイドの


 「弱っちいアンタなんかには、誰も着いてきやしないんだからね!」


 と言うセリフが胸に突き刺さる。デレの要素なんかありゃしない。最後まで妥協の無い手厳しい奴だった。



 そんな訳でトラウマになってしまいそうな敗戦を喫した訳だが、ゲームを終了してスマホの時計を見ると19時に迫ろうかという所だ。かれこれ2時間も駅に立ちっ放しでゲームをしてしまっていた。


 なんか忘れているような、とか思っていたら、丁度1通のメールが届く。

 送信者は…… ヒロシからだ。どれどれ。


 「もうみんな充分歌ったから帰るわ。じゃあな」



 春が来たとは言え、4月の夜の風はまだ冷たくて、温もりが恋しくなる。

 きっと手放してしまったのは愛しのツンデレちゃんだけではないんだろうなあ、とか思いながら一人寂しく家路に着く。

 その最中、嫁いでいった愛娘からの最後の一言がずっと頭の中でリフレインしていた。


 「弱っちいアンタなんかには、誰も着いてきやしないんだからね!」 と。





 番外編・ナトセ奮闘記  完

 「番外編・ナトセ奮闘記」は如何だったでしょうか?

 個人的にはもう少しボリュームを持って仕上げたかったのですが、本編から無理矢理挟んでしまったので端切れが悪いかな、と反省です。


 次回の番外編は女子生徒編を書きたいなと思いますが、なかなか語り口が難しいので良い文章が描けたら随時載っけて行きます。


 これからもお付き合いを宜しくお願い致しますm(__)m



 ほそたに。

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