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ヒロシ、武器を作る!~その①~

 トシマキとマドカ(そしてユーミン)の協力により、初級クエストのボスであるビッグゴリラの討伐に成功したヒロシ。

 しかしせっかくの勝利も束の間、ヒロシの闘いは未だに終わっていなかった!


 「帰れない、あの動画をマドカからスマホに移すまでは死んでも帰れない!」


 「おはよう、ヒロシ」

 「ああ、おはようトシマキ」


 今日はGコース授業の2日目。昨日の時点で早くも初級クエストをクリアした俺とトシマキは、今日から早速中級クエストに挑む予定だ。中級クエストからは、1~3年生も混じってのRPGとして活動するため、本格的にMMORPGっぽくなってくるとの事だ。上級生と上手くやれるかは正直不安な所もあるが、ここで必要なのはゲーム力である。それに関しては自信があるので、まあ大丈夫だろう。


 「ところでヒロシ、知ってるか? 昨日の初級クエストは1年生が2人、3年生は5人もクリアしたそうだぜ。2年生は俺達だけだそうだ」

 「マジか。なかなかクリアできるもんじゃないと思ってたのに。でも3年生はともかく、1年生の2人は凄いな」

 「いやいや、逆だろう。1年生こそ、転科した在校生と違ってそれなりの準備ができている訳だからな。そのクリアした2人も推薦入学だっていう話だぜ」


 なるほど。確かにトシマキの言うことは筋が通っている。しかし相手がゲームエリートだろうと負けている場合ではない。そうと分かれば早速ログインだ。


 「行くぞトシマキ、ログインだ」

 「待て待て、朝飯くらい食わせろよな」


 トシマキはコンビニで買ってきたパンをほおばり始める。しかし体が疼いて仕方が無い俺は、早速ヘッドパーツを被りログインする。


 「じゃやトシマキ、先に行ってるからな。開け、ゴマ!」


 昨日よりも違和感無く言えてしまう恥ずかしい掛け声に、いつか慣れてしまうのではないかと思うととても恐ろしい。

 トシマキを残し、俺は一人でログインした。

 

 降り立ったのは、始まりの町である。どうやら1日の始まりは必ずここから始まるらしい。

 すると見慣れたウィンドウが開き、元気に挨拶をしてくる。マドカである。


 「おはようございます、パパ」

 「おはよう。つーか、やっぱり俺はお前のパパなのね。何とかならないのかその設定は」


 正確には只の名付け親というだけなのだが、このメイド型AIは本当の父親の様に俺のことをパパと呼ぶ。正直これも恥ずかしいのである。


 「安心してパパ、昨日のボスとの戦闘記録で、パパに異常なまでのステータス異常を引き起こす原因となったユーミンさんは私のママに設定されたから! 嬉しいでしょ?」

 「嬉しいわけあるか! そんな設定のどこに安心がある。ったく少しは本人達の意思を尊重できんのか……」

 「まったく人間っていうのはどうしてこう素直になれないのかなぁ。訳がわからないよ」

 「人間を知った風な口を聞くな! 訳が分からないのはこっちだ」


 朝からこのやり取りでは今日も1日先が思いやられる。いや、これから半年間ずっとか……

 このまま付き合っていたら日が暮れてしまうので、早速中級クエストの詳細を聞く事にした。


 「おいマドカ、中級クエストなんだが、まずはどうすればいいんだ?」

 「はぁいパパ、まずはステータスウィンドウのクエスト一覧を開いてみて」


 マドカに言われるままに、ウィンドウを開く。すると昨日までは初級クエストのページだった部分が、中級クエスト一覧に書き換えられている。項目はなんと30にも及び、ここから自由に選択していけるそうだ。

 クエストの種類にはボス討伐の戦闘系のものから、ミッション達成系のものまで多岐に渡る。

 そしてマドカが続ける。

 

 「行きたいクエストが決まったら、あとは項目をタッチすれば転送されるよ。ところで今日はパパ1人でプレイするの?」

 「いや、そろそろトシマキがやってくるよ」

 「チッ」

 「え?」


 何だか舌打ちが聞こえたような気もしたが、まあいい。クエスト一覧を見て、今日行くクエストを決めるとしよう。

 俺は数あるクエストの中から、出来るだけ戦闘系のものは省くようにした。理由は、武装も整わないうちからまたあのゴリラ的なボスが出てきたら今度こそ太刀打ち出来ないと思うからだ。

 何のゲームでもそうだが、最初は地道なレベル上げが必要なのだ。この位の立ち回りはゲーム無双を語るならば当たり前だ。

 そうこう考える事3分、俺は1つのクエストに決めた。


 「『オリジナル武器を精製せよ』か。まあ最初にある程度強力な武器が手に入るならクエスト攻略も効率上がるしな。これにしよう」

 「パパ、そのクエストはソロプレイしか出来ないけどいいの?」

 「そうなのか? でもトシマキもきっとこのクエストから始めるだろ。 じゃあ早速スタートだ」

 

 俺は迷わずに項目のボタンを押した。すると体中が眩い光に包まれ、俺の体はみるみる透明になってゆく。直後にふわっと消えた俺の体は、一瞬でクエストの開始地点であろう町の中に転送されていた。


 「ここが次の町か、なんか始まりの町に似ていて実感ないな」


 転送された町は、驚くほどに始まりの町にそっくりで、広場の作りから建物の景観まで瓜二つである。

 しばらくすると、遠くから俺を呼ぶマドカの声が聞こえる。10メートル程先にウィンドウがある。

 なぜあんな所にいるのか分からないが、とりあえず行ってみよう。


 「おい、ここはなんて町なんだ? 始まりの町にとても似ている気がすんだけど」

 

 するとマドカは不思議そうな表情で返事をする。


 「何言ってるのパパ? そのクエストはここから始まるんだよ?」

 「じゃあさっきの派手なエフェクトと移動はいらんだろ! 俺の感動を返せ……」


 そんな無駄な時間を過ごしつつも、マドカ曰くどうやら町の武器屋に話し掛けたらクエストが開始されるという事で、早速その武器屋に向かう。道中でマドカが言う。


 「パパ、中級クエストが始まったら私は攻略情報とか分からないから気をつけてね」

 「なるほど。そうだろうな、もしそんなの許されたらまさしくチートだからな。くれぐれも邪魔だけはするなよ?」

 「Yes,Boss!」


 俺は本当にコイツがどこに向かっているのか分からない。

 

 そうこうしている内に目的の武器屋に到着した。ここの武器屋と言えば、ここで買った剣はビッグゴリラ戦で何の役にも立たずに折れた事もあって正直お世話にはなりたくないのだが、今は致し方あるまい。

 俺は勢い良くドアを開けて、店主に話しかける。


 「すみません。武器を作ってほしいんですけど」

 「へい、らっしゃい! あいにく今は材料を切らしててね。またきてくらっしぇーよ!」

 バタンっ!


 えぇー!?


 っと俺とマドカは同じ顔でドン引きだ。閉め出されるとか有り得ないだろうよ。


 「いや、もう一度話しかけてみよう。さすがにこのまま何も無いって事はないだろ」

 「そうだね、頑張ってパパ!」

 「おうよ」


 どうやらマドカも本当に攻略の仕方は知らないらしい。これはこれでありがたい声援である。

 そして俺はもう一度、ドアを開けて店主に話しかける。


 「すみません。武器を作ってほしいんですけど」

 「へい、らっしゃい! あいにく今は材料を切らしててね。またきてくらっしぇーよ!」

 バタンっ!


 ……ええぇーー!?


 唖然呆然である。交渉の余地も無いほどのスピードで追い出され、早速手詰まりである。


 「これってさ、素材が無いからとって来い的なミッションじゃないのか?」

 「多分ね。パパ何か失礼な事でもしたの?」

 「バカを言え。それどころかご丁寧にトシマキと武器を購入している。なんかフラグ立てる必要でもあんのか?」

「うーん、どうなんだろうね?あ、パパ、そこに何か張り紙があるよ?」

 「何だって、どれどれ」


 〜高級素材買い取ります!〜

 オリハルゴンの鉱石×1

 ドリルホーンバッファローの角×2

 シッタカブリの殻×2

 オオサンショウウオモドキの皮×1



 ほうほう、恐らくこれらを持ってくればきっとフラグが立つパターンだな。となればまずはモンスター探しが先か。

 それにしても、ドリルホーンバッファローとか言う奴メチャクチャ強そうな名前だ。ぶっちゃけ闘いたく無いな。


 「マドカ、これらの素材の入手場所とか、モンスターの生息地は分かるか?」

 「ううんパパ、残念だけどそれは分からないよ。でも、フィールドに出現するモンスターは初級の時よりも増えてるし、新しく川エリアと荒野エリアが追加されているからそれがヒントなのかな?」

 「なるほどな。それだけ分かれば大体目処は立ったな。よし、じゃあ早速フィールドに出てみるか!」

 「でもパパ、今は武器持ってないんでしょ?じゃあ仕入れないと」


 確かにマドカのいう通りである。ここの武器屋は正直あまり当てにならないが、最低限は整えておかねばなるまい。

 武器を買いたいと言って入り直すと、その時は普通に受け入れてくれたので一番高い剣と鎧を購入。ついでに作って欲しいと切り出すと


 「あいにく今は材料を切らしててね。またきてくらっしぇーよ!」

 バタンっ!


 と言った徹底ぶりである。これが買い物をした客への態度かとイラッとするが、NPCに怒っても仕方無いので切り替えて先を急ぐ。


 「マドカ、お前はバトル中はどうしてるんだ? ゴリラの時はいきなり出てきたけど何かフォローとかできんのか?」

 「ステータスウィンドウから魔法石を取り出したり、装備チェンジの手伝いはできるよ、参加はできないけど」


 なるほど。上手くできている訳だな。本当はアイテムを使ってくれると嬉しいのだけれど、まぁそうするといよいよチートになってしまうから良しとしよう。


 そんな訳で、準備も整った所でマドカと声を合わせる。


 「一狩り行こうぜ!」




ーーーーーーーーーー




 さてさて、こういう類いのクエストは大抵が一番下から難易度低い順だから、まずはオオサンショウウオモドキの皮から剥ぎ取りに行くことにした。


 どう考えても新設の川ステージにいるはずなので、まずはフィールドを横断、歩いて20分程すると、かつてスライム無双をした場所は川辺が綺麗な砂地の美しい川になっていた。


 「おおっ、水の魔法もそうだけど、VR世界で水を再現するのって難しいんだよな、確か。このゲームの開発者は相当な技術の持ち主だな」


 将来的に開発者を目指している俺にとっては、こういった何気無い風景の中にも行き渡る技術についつい目が行ってしまうのだ。

 あまりにも川が美しいので、俺は川辺に降りて水に触れようとした。川辺にしゃがみこみ、両手でさらさらと流れる川の水を掬ってみると現実世界と何一つ変わらないひんやりとした感触だ。


 唯一現実と違うのは、なかなか手で掬った水がこぼれないのだ。

 さすがに触感から質量までも完全に再現は難しかったのだろうと思ったが、何やら手の中の水はビチャビチャと波打ち始める。


 次の瞬間、俺の顔は子供時代に良く遊んだ水鉄砲のような噴射を食らう。


 「うわっ、なんだこの水!?」


 良く見ると、手の中には小さな蛇のような形のニョロッとした生き物がジタバタ、もといニョロニョロしているではないか。


 一瞬でこの生き物がオオサンショウウオモドキだと悟るが、俺の手の中の生き物は一気に川に向かって跳び跳ね、逃げられてしまった。


 意外と簡単に見つかったと思ったが、改めて川を覗くと生物の姿など何一つ見当たらない。完全に水の色と同色な上に、透明に見えるエフェクトが掛かっていて目視からは確認できないのだ。


 「マドカ、お前には何か見えるか?」

 「うん、綺麗な川が見えるよ!」

 「もういい。聞いた俺がバカだった」

 「え!?」


 役に立たないバカ娘は放っておいて、改めて逃した獲物の大きさを悔やむ。


 さて、ゲームと言う事を考えると攻略不可能な訳が無いので、考えられる策を考えてみよう。


 ①釣る

 ②潜って手掴み

 ③仕掛け網で無双


 まず①の釣ると言うのは不可能だろう。まず釣り竿が無い上に、餌も分からないのでは話にならない。


 すると②はどうか。ある意味ではこれしか無いのだが、効率は悪いだろう。


 ③に関しては、これができれば一番理想的なのだが、これも道具が無い上に川の流れもかなり緩やかなので決め手には掛ける。


 詰まる所、②以外の選択肢が無いのだ。

 と言うことで、早速身軽な格好にチェンジした俺は川の浅瀬に腰を落としてじっとオオサンショウウオモドキを待つ。


 川に入って10分

 なかなか体に生物が触れる感触が無い。よし、もっと腰を落としてみよう。


 川に入って30分

 全くもって生物の気配すらない。よし、こうなったら肩まで浸かってみよう。


 川に入って1時間

 うん。多分何も居ない。きっとジッとしているから返って何も寄ってこないんだな。ならば泳ぎながら奴らと同化してみよう。


 川に入って2時間

 ハックション!体が寒い。風邪引いたかも知れない。正確にはこのVR世界に風邪なんか無いとは思うが。


 とにかく寒いので、一度断念して陸に上がる。マドカと作戦会議をするも、これと言った方法は出てこない。もう時間もお昼だし、腹も減って来た。この空腹感は現実世界の体とリンクされているので、もう潮時だろう。


 俺は泣く泣く狩りを中断し、腹ごしらえの為に現実世界に戻るのであった。

 のっけからこれでは、非常に先が思いやられる。



 つづく。



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