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オペレーション・ビッグゴリラ

 Gコース第1班の班長である主人公・ヒロシとその班員・トシマキは、知り合ってまだ数時間とは思えない程の息の合ったプレイでクエストを順調に攻略して行く。

 ヒロシ自身ですらゴールデンコンビ誕生かと思う程にお似合いの2人だったが、トシマキにはヒロシに言えない、秘めたる悩みがあった。


「マドカと漫才ばっかやってないで、俺のセリフも増やしてくれないかな……」

 オッス、オラひろし!

 実は今、巨大なゴリラに会っちまって逃げてるところだ! メチャクチャ強そうで思わず逃げちまったけど、まだ魔法も使ってねぇし、これから強えー奴と戦えると思うと、オラわくわくすっぞ!



 なんて事は良く言ったもので、準備も無しにあんなバケモノと戦うなんて不可能である。

 おまけにボスフラグがバッキバキに立ってると来たもんだ。


 巨大ゴリラは、追い掛けて来る様子が無い。

 やはりボスは特定エリアしか出現しない事の現れだろう。


 最初に言っておくが、別に恐くて逃げてきた訳ではない。あくまでも作戦を立てるための戦略的逃避である。


 そういえばマドカは大丈夫だろうか。

 「マドカ、無事か?」

 「私はいつもウィンドウの中だから大丈夫だよ、パパ。でっかいゴリラ、恐かったね」

 「そうだな。危なかったぜ」

 「やっぱり恐かったんじゃん、嘘つきオヤジ」

 「その冷たい目で平然と揚げ足を取ってくるお前の方が恐いよ……」



 さてさて、5分も走り無事に逃げ切れたところで、トシマキと作戦を練る。

 本作戦の至上命題は、魔法を用いて倒す事である。ここでボスを倒せれば、一気に初級クエストを全クリできるので他の同志(プレイヤー)よりもかなり有利に立てる。

 さすがにまり子先生も、たった半日でボスを倒せるとは思ってもいないだろう。勝負所である。


 肝心のボスデータであるが、先程逃げる前にはゴリラの頭の上に「1000/1000」と数字が出ていた。あれがHPと見て間違いない。

 問題はこちらの攻撃力だ。この水系魔法がゴリラの弱点とは思えない上に、そんなに攻撃力が有るとも考えにくい。

 しかも先程のスライム無双で俺とトシマキのレベルは8まで上がっているが、俺達のHPや攻撃力と言った要素がステータスウィンドウの中に見当たらないのだ。もしこのレベルが俺達のHPなどと関係が無いものなら、何の為のレベルなのだろう?


 とりあえずは何かしらゴリラにダメージを与えないと計算出来ないので、まずは攻撃を当てる所からだ。


 「トシマキは何か良い案とかあるか?」

 「こういうのはどうだろう。1人が囮になって、もう1人が背後から攻撃ってのは?」

 「それ採用」


 という訳で、トシマキ考案のゴリラ討伐作戦が完成した。


 ~オペレーション・ビッグゴリラ~

 ①まず、トシマキが魔法による牽制でゴリラの目を引き、わざと追い掛けられる。

 ②木と木の間にロープを張った罠を用意し、そこにゴリラを誘導し、コケさせる。

 ③罠の付近に隠れていた俺が、背中から剣による攻撃をする。トシマキは魔法による攻撃を行う。

 ④上手く行けば剣を背中にブッ刺してワンパン。


 

 完璧である。

 しかしロープは持っていないので、そこら辺に生えている木のつるを何本か編み込んで用意しよう。


 準備も整った所で、いよいよ作戦開始である。

 人間とゴリラ、果たしてどちらが霊長類最強の生物なのか、ハッキリさせてやろうじゃないか。




ーーーーーーーーーー




 先程逃げて来た道を戻ると、ゴリラは最初に発見した場所に座っていた。

 罠の仕掛けを終えたところで、トシマキが魔法による水玉を発動しながらゴリラに近づく。俺は茂みに隠れて、出番を待つ。

 

 「オペレーション・ビッグゴリラ」開始!


 まずはトシマキがゴリラに接近し、ゴリラもそれに気付いたようだ。

 トシマキが発動していた水玉をゴリラに飛ばし、顔面に命中する。ゴリラは驚いたのか「ウホッ!?」っと鳴き声を上げて、トシマキに向けて歩き出した。実にわざとらしい鳴き声である。


 トシマキはもう一発水玉をゴリラに当て、すぐさま罠のあるこちらにダッシュした。それを追って、ゴリラもトシマキを追い掛けて来る。実に台本通りの展開だ。


 トシマキが罠を通りすぎると、いよいよゴリラがすぐそこまで走ってきた。後はゴリラが引っ掛かってくれるのを祈るのみだ。


 直後に「ウホォー!?」とゴリラの鳴き声が響き渡る。見事に罠に引っ掛かっているではないか!

 真面目に立てた作戦ではあるが、実際に足を取られてプロ野球選手顔負けのヘッドスライディングをかますゴリラの絵面は相当にアホである。


 俺はすぐさまゴリラの背後から飛び出し、高くジャンプしてトドメを刺しに行く。


 「お命、頂戴致す!」

 

 ゴリラの背中に対して、剣を垂直に立てた状態で一気に突き刺す!


 ザシュ!


 っと刺さってくれてワンパンする予定だったが、400YENの安物剣はゴリラの鋼の様な肉体を貫く事ができず、むしろその刀身が真っ二つに折れる。


 「このゴリラ規格外だろ……」


 間もなく少し離れた位置からトシマキが水玉による援護射撃を開始。3発ほどヒットした所で、ゴリラのHPを見てみると

 「950/1000」

 となっており、水玉1発につき10のダメージしか与えていない。

 あまりの無意味さに、もう泣きたくなる。


 そんな感じで呆然としていた俺を、ゴリラは見逃さなかった。

 うつ伏せの状態から跳ね上がるように飛び起き、クルッと体を半回転させて、すぐ近くにいた俺を両腕で掴みあげた。


 「しまった!ぬわぁー!」

 「ウホッー!」

 

 多分、観念しろとか言ってるんだと思う。

 ギリギリと物凄い力で締め上げてくる。俺の体も現実世界なら全身骨折していてもおかしくないだろう。


 トシマキも援護射撃を続けているが、一向に効いている様子はない。

 俺も限界が近付いている。


 「ヤバい、このままじゃ。し、し……」

 「どうした、ヒロシ! しっかりしろ!」

 「し……始末書は嫌だ……」

 「一度死んでしまえ」


 まだトシマキと冗談を言い合えるだけの体力はあったが、そろそろ本当にヤバい。

 いくらゲームの中とは言え、ゴリラと熱い抱擁を交わしながら墜ちるなんて末代までの恥と言える。

 

 「どうせ抱かれて死ぬなら、同じ怪物でもユーミンに抱かれて逝きたかったぜ……」

 

 なんて遺言じみた事をポロっとこぼすと、神出鬼没な俺の娘が見事に拾い上げた。


 「はいパパ! これで逝ければ本望でしょ!?」

 「こっ、これはっ!?」


 中々に酷いセリフが聞こえてはいるが、本来マドカが映っているはずのウィンドウには別の映像が流れている。ウィンドウの右上には、「LIVE」と表示されている。リアルタイムの映像の様だ。


 これは良く見ると、うちの学校の女子がジャージから制服に着替えているではないか。そうか、もう時間的には放課後だから帰る為に着替えているのだろう。

 それはそうと中々立派なモノをお持ちだな……多分85は超えているだろう……


 「マドカ……これはまさかユー……う、うおーっ!?」


 ウィンドウの中の(ユーミンと思われる)女子は、ジャージとシャツを脱ぎ捨て、制服を着る為にあられもない姿になった。


 当然ながら、そんなモノを見れば興奮せざるを得まい。しかし、俺も体力の限界が訪れたのか意識が段々と薄くなって行く。いや、違う。これは体力の限界なんかじゃない。あの時と同じ、体が勝手に動くあの感覚だ!


 うぅ…………。


 そして俺は、また「覚醒」したらしい。



 「おい、ゴリラよ」

 「ウホッ?(何だ)

 「今日と言う1日の中で、最もKYなのは金指でもナトセでも無いんだよ。知りたいか?」

 「ウホッ(こいつ)ウホウホッホウーホ(何でまだ倒れない)!?」


 俺は肘から下しか動かない左腕を巧みに動かし、ステータスウィンドウを開き瞬時に魔法石を取り出す。


 「ならば教えてやろう。それはなァ……」


 そしてバリアを張るイメージで、俺とゴリラの頭上に直径5メートル程の水玉を作り出す。

 そして静かに話を続ける。


 「2つの神聖なる山を覆い隠さんとする……」

 「ウホホー(なんじゃこりゃ)!?」


 「パステルピンクの可愛い布切(ぬのき)れじゃアアー!!!」


 そう叫びながら、作った巨大水玉を俺とゴリラに一気に……落とす!


 「ウホホ(ギャア)ーーーーーーーーーー!?」


 その衝撃でゴリラは俺の体をみすみす解放し、俺はその巨大水玉を弾けない様にコントロールし、ゴリラを水中に閉じ込める。


 「ヴボボ……ゴボガボ……」


 ゴリラも必死にもがいているが、もはやゴリラに為す術は無い。

 しばらくすると、ゴリラも遂に呼吸ができなくなり、ガクッっとうなだれながら息を引き取った。

 ゴリラのHPが一瞬で0になり、完全勝利である。


 そして「覚醒」している俺は、最後にお決まりの捨て台詞を吐いて役目を終えた。



 「フッ。アイツ(ユーミン)もなかなか可愛い所が有るじゃないか……ご馳走さん」




ーーーーーーーーーー



 10分後。


 「しかし、物凄い水玉だったな。あんなのいつの間に作れる様になってたんだよ?」

 「いや、火事場の何とかって奴だよきっと」


 巨大ボスゴリラとの死闘を終え、意識も元に戻った俺とトシマキは、始まりの町に戻る為に帰路に着いていた。

 激しい性的興奮を感じると「覚醒状態」に入るらしい俺の特殊な能力の事は、トシマキもまだ知らない。つーか恥ずかしくて言えない。


 「何はともあれ、これで初級クエストは全クリだから、明日からのクエストが楽しみだな」

 「そうだな。所でヒロシさ、ピンクの布切れって何のことだ?離れていたから良く聴こえなかったんだけど」


 するとまた勝手にマドカがしゃしゃり出る。


 「それはね、パパがユーミ……」

 「あれっ故障かなー?」 プチッ。


 ウィンドウ閉鎖完了。


 「パパがユ? ユって何だ?ヒロシ何か隠してる?」


 これ以上怪しまれても面倒なので、適当な事を言っておこう。


 「隠し事なんてまさか、ハハハ。パパがユ……夢の中でピンクの布切れに襲われてたって言いたかったんだよきっと。ホラ、俺意識が飛びかけてたじゃん?ハハハ……」

 「ふーん。訳がわからないけど、まぁいいや」


 

 こうして俺とトシマキは、授業初日にして初級クエストの7単位を全て獲得するという伝説を打ち立てたのであった。



 つづく。

次回から中級クエスト編に突入です。


その前にもしかしたら番外編挟むかもです。

ここまではひろしの一人称で書かせて頂きましたが、第1班メンバーや他のプレイヤーの素性をもっともっと掘り下げて、ひろしのツッコミ無双以外にも、読んで下さる方々が面白いと感じて頂ける作品作りにチャレンジしていきます。

どうぞご期待下さい。


ほそたに。

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