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ヒロシ、躍動する!

 和食をこよなく愛する生粋の日本人・ヒロシは、食べ物の好き嫌いが無い健全な成長を遂げている成長期の鑑の様な男であった。

 しかし、そんなヒロシでもこの世で唯一食べられないモノが存在するのであった!

 「初めて鳩サブレを食べた時、頭が無くなってて罪悪感がハンパなかったんだよね……」

 さて、この状況はどうしたものか。

 いくらスライムが弱いと言っても、打撃が通じないとなればもう打つ手など無く、初っ端から詰んでる状態である。


 ここは1度逃げてから作戦を立て直したい所なのだが、5体のスライムに囲まれているので無傷では済みそうも無い。

 それに、スライムがどんな攻撃をしてくるかも分からないので、下手に動かない方が良い可能性もあるのだが、それでは結局らちが空かない。


 そういえば、例えば戦闘で負けたらどうなってしまうのだろうか。その類の説明はまだ聞いていなかったので、急いで聞いてみるとしよう。


 「マドカ、オープン」

 「はぁいパパ、どうしたの?」

 「あのさ、もしモンスターとの戦闘で負けたらどうなんの?」

 「んとねー、まずはその場で強制ログアウトになって、24時間ログイン不可になるの。それから生徒会長宛に始末書を書いて、月末の職員会議で改善報告書を提出すれば完了だよ」

 「ただの企業戦士(サラリーマン)だな……」

 「うん。だってこないだ校長室に遊びに行ったらおじいちゃんが、無双たるものゲームの世界とはいえ死ぬとは何事か! って言ってたもん」

 「遊びに!? それに校長をおじいちゃん呼ばわりするな!」


 コイツには自分を作ってもらった恩義は無いのだろうか。

 とてもじゃ無いが始末書とか報告とかは嫌なので何とかしたいのだが、いかんせん身動きが取れない。そうこうしている内に、スライム達はゆっくりと距離を詰めてくる。


 そろそろ覚悟を決めて、もう危険を承知で逃げ出すしかない!

 トシマキと相談の結果、スライムの頭上をジャンプして行くことにした。

 目で合図を取り合い、3・2・1でジャンプ、着地次第、全力でダッシュだ。


 「行くぞトシマキ、3・2・1……うぉりゃあ!」

 「うわっ、しまった!」


 トシマキがジャンプの瞬間に足を滑らせ、スライムに頭から突っ込んでしまった。トシマキにより勢い良く地面と板挟みにされたスライムは、パン! という音を立て、やがてキラキラと眩い粒子を放ちながらその身を空気に溶かしていった。


 すると、トシマキの頭上にウィンドウが出現。


 Level up:2 Next Level 3

 Get 200YEN

 Quest Clear!!


 と書いてある。つまり、そういう事だろう。

 RPG風に作られた世界なのだから、レベルが上がってもおかしくは無い。


 というかそんな事ではなく、大事なのは今の攻撃(?)で死んだという事実だ。

 とりあえず俺も、一番近くにいたスライムを踏んでみる。えいっ!

 「パン!」


 Level up:2 Next Level 3

 Get 200YEN

 Quest Clear!!



 なるほど。


 ウィンドウの中のマドカも、最初に余裕って言ったやんけ、と言わんばかりのドヤ顔だ。そしてトシマキと目が合い、偶然にも俺達は同じセリフを発した。


 「もう、何も恐くない!」


 そしてなぜかマドカがくしゃみをした。





 先程の続き。

 隣の奴を、優しく押し潰すように踏んでみる。

 「グニュ……パン!」

 

 Get 200YEN&Combo Bonus50YEN

 

 更に思いっきり踏んでみる。そうりゃ!

 「ビュッ! ギャウ! パン!」


 Get 200YEN&Combo Bonus50YEN


 思いっきり踏むと痛がるらしい。

 最後の1体はトシマキと一緒に踏んでみる。せーの!

 「ギュウニュウ……パン!」


 Get 200YEN&Combo Bonus50YEN

 Quest Clear!!


 なるほど。これで俺とトシマキは既に4単位を取得した訳だ。


 色々と言いたい事は有るが、この世界の金である「YEN」も稼げたし、とりあえず町に戻って武器を買いにいこう。そして楽しもう。この物語始まって以来、初めてのアレを。(ニヤリ)




 ~それでは暫くの間、二人のやり取りだけでお楽しみ下さい~




 ヒロシ:「うおお!大空蒼天斬!」

 ザシュ! パン!


 トシマキ:「喰らえ!」

 ズギャア! パン!


 ヒロシ:「トシマキ、後ろだ!」

 トシマキ:「任せろ、フン!」

 シャキン! パン!


 トシマキ:「ヒロシ、そっちに大群が行ったぞ!軽く100体はいるぞ!」

 ヒロシ:「問題ない! 今こそ大空神拳の真髄を魅せてやろう。ハァァ……」

 トシマキ:「なっ、あの技はまさかっ!?」

 ヒロシ:「大空神拳奥義・大空百烈斬!」

 ホォアタタタタタタタタタ……ホォワチャア!!


 パパパパパパパパパパパパパパパパパパパン!


 ……。


 という訳でこのVR世界初のスライム無双の味を噛み締めながら、始まりの町に戻るのであった。



ーーーーーーーーーー



 さてさて、残るは初級クエストはアイテム使用と魔法使用、それとボス討伐である。アイテムは先程の稼ぎを使い、回復薬のポーションを購入。難なくクリアで5単位目である。


 ボスは明日やるとして、問題は魔法だ。アイテムの様に買えるものでは無い為、どうすればいいか分からない。


 今日はもう疲れたから、できるだけ絡みたく無いのだが……とか思ってると


 「パパ、次は魔法だね!」

 

 てな感じで勝手に出てくる始末である。


 「こら、勝手に俺の思考を読むんじゃない」

 「違うよパパ、漏れてくるんだよ。それともパパは1歳の赤ちゃんがお漏らししても、漏らすなって怒るの?」

 「それは意外に分かりやすい例えだな……じゃなくて、俺の思考を生理現象(お漏らし)に例えるんじゃない!」


 なぜ俺がこんなに恥ずかしい気持ちに……



 閑話休題



 「そういう訳だから、魔法の使い方を教えてくれ」

 「はーいパパ。さっきスライムを無双したときに、何個か青い石を落としたでしょ?あれ魔法石って言って魔力を秘めているんだけど、使い方は魔法石を手に持ってイメージするの。それをコントロールするだけだよ。この色は水系の魔法石だね」

 「それが魔法か。コントロールって事は、攻撃だけじゃ無くて守備にも使えるのか?」

 「さすが私がパパにしただけあるね、もしかしてパパって天才?」

 「大袈裟だなぁ天才だなんて。俺はいつも可能性を追求しているだけで……って、お前が勝手に娘になっただけだ!断じてパパとして産み出された覚えは無い!」


 何でこんなに悲しいノリツッコミしなければならないのだ……

 

 何はともあれ、まずは魔法石を左手に持ち、右手に水の玉を作り出すイメージをする。

 しかし意外と難しく、なかなか水が出てこない。

 トシマキは俺よりちょっと進んでいて、一滴の雫位なら常に作り出せる様になった。


 10分後。


 トシマキにコツを教わり、2人とも直径50センチ程の水玉を作り出せる様になった。

 次は、その水玉を前方に飛ばす訓練だ。思いっきり投げ飛ばす様に腕をスイングすると、水玉はその場で崩れ落ちた。

 トシマキはまた俺よりちょっと進んでいて、10メートル程の距離を飛ばせる様になった。


 再び10分後。


 トシマキにコツを教わり、2人とも20メートル程の距離を飛ばせる様になった。

 次は、体を水玉で包みバリアを張る訓練だ。頭のてっぺんから足の爪先までを覆うようにイメージすると、頭上から雨が降ってきた。

 何故かトシマキだけが俺よりちょっと進んでいて、水で傘の様なバリアを作れる様になった。


 やっぱり10分後。


 トシマキにコツを教わり、2人とも完全に直径2メートルの円形のバリアを張れる様になった。

 ただし水壁の厚さはトシマキが3㎝程、俺が1㎝足らずである。


 ここまで出来るようになると、是非ともモンスター相手に使ってみたい気持ちが出てくる。

 都合の良い事に、このクエストはモンスターに使って倒して初めてクリア扱いらしい。


 そうと分かれば、早速フィールドに出て雑魚を無双しまくるのだ。

 スライム相手では物足りないので、今度は少し大きめのモンスターを探す。火なんか吐いてくれると最高だが、そんなモンスターが平野にいる訳無いので、ひたすら探す。


 すると見かねたのか、


 「パパ、初級の平野にはスライムしかいないから、町の裏側の山で違うモンスターを探せば?他に行くところ無いし」


 とマドカがアドバイスをくれたので、早速行ってみる事にした。


 さてさて、裏山に来たまでは良かったが、肝心の雑魚が全くいないのだ。マドカにもう一度確認してもらう。


 「マドカ、本当にこんなとこにモンスターいんのか?木しかないけど」

 「そんな事は無いはずだよパパ。私のレーダーでもちゃんと反応あるから絶対いるはずだよ」

 「トシマキはどう思う?」


 トシマキはちょっと考え込んでから、静かに言った。

 「そのレーダーは、モンスターの生息数も分かるの?」

 「うん。分かるよー!」


 と、マドカが返事をした瞬間、真後ろからとてつもない地鳴りがした。振り替えってみると、そこには体長3メートルはあろうかという巨大ゴリラがこちらをガン見している。


 「マドカ、一応確認までに聞いておくが、この山にいるモンスターは何体だったんだ?」

 「1体だよ、パパ」

 「ならついでにもう1つ聞いておくけど、初級クエストのフィールドは平野とこの裏山だけなんだよな?」

 「そうだよパパ、何で?」


 何でもくそも無い。ここまで揃えば後は馬鹿でも分かる方程式である。



 ~ヒロシパパの馬鹿でも分かる方程式~


 「平野と裏山しかモンスターは出ない」

       +

 「1体しかいない、スライム以外のモンスター」

       ∥

 トシマキ君、答えをどうぞ!










 「あいつ……ボスじゃね?」



 つづく。

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