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ヒロシ、平野に立つ!

 昨年度のスポーツ無双であるユーミンとの死闘の果てに、初代最強班長の座に君臨したヒロシ。

 そんなヒロシの戦いぶりにクラスメイト達からは惜しみ無い称賛の声が吹き荒れるが、まり子先生の一言により新たな試練が降りかかるのであった!


 「ヒロシ君、一体何が大きかったのカナ?」


 壮絶な戦いの末に班長の指名順も決定した所で、ようやく各班のメンバーが決定した。

 俺はバランスを重視する為、俺を含めて男子3人、女子3人の同志を選抜した。


 【男子】

 ヒロシ・トシマキ・ナトセ

 【女子】

 ヒメカ・ミント・フジコ

 の計6人の(パーティー)が結成された。かくして、Gコース第1班の誕生である。


 本格的に授業(クエスト)への準備が整った所で、まり子先生から説明が入る。

 「では、各班が整った所で午前中最後の作業です。皆さんがプロフィール作成時にお世話になったメイド型AIナビシステムに名前を付けてあげて下さい。各班で名前を1つずつ出し合い、最後に多数決で決めましょう。因みに、これが最初のクエストになりますのでまずは1単位です。採用された班は特別に2単位になりますので、頑張って下さいね」


 おいおい、お世話になったと言うよりは(もてあそ)ばれたの方が正しいだろう。あのアドリブ力はAIの為せる業では無いだろうに。

 しかしなるほど、最初の共同作業になるので班員を知るのにいい機会である。って言うかそんな簡単に2単位貰っていいのか。適当だな。


 とりあえずは話し合わない事には先に進まないので、俺は班員を集め、何かいい名前はありますか、と名前を出し合ってもらう。


 「メイドさんだからメイ子ちゃんなんてどう?」

 と最初に発言したのはミントだ。しかしありきたり過ぎるので一旦、保留とした。

 「じゃあ、シンプルイズベストで“冥土”で良いんじゃね?」

 との意見はナトセだ。

 たった一言ではあるが、このセンスの無さというか……単細胞な感じはどことなく金指に似た空気を感じたので、俺は人選に一抹の不安を覚えた。


 他にも候補を求め、話し合いは進む。


 ヒロシ:「採用を狙うなら凝った名前が良いな」

 ヒメカ:「じゃあ、ナビ子ちゃんは?」

 ヒロシ:「あんまりメイ子と変わらないかな」

 ナトセ:「ならナビとメイドを足してナメ子だな!」

 ヒロシ:「却下」

 ナトセ:「え……」

 フジコ:「○○子とかは避けた方がええんちゃう?ありきたりやし」

 ヒロシ:「そうだね、それ採用。今から○○子は禁止ね」

 トシマキ:「メイドと言えば“萌え”のイメージだから、モエはどう?」

 ヒロシ:「なるほど。良い線いってるかも。他なんかある?」

 ミント:「ウィンドウ越しに話すから、マドカちゃんなんか可愛いかも」

 ヒメ&フジ:「あー、それ可愛いー!」

 ヒロシ:「モエにマドカか。良い感じだね。こんな所かな?」

 ナトセ:「ウィンドウで踏み込むなら、ビル・ゲ○ツじゃね?」

 ヒロシ:「悪い、俺ミスったわ」

 ナトセ:「何が?」

 ヒロシ:「人選」

 ナトセ:「……」



 俺の目利き力の無さを反省しつつも、かくして俺達の班からは女性陣のセンスある思考力のおかげで「マドカ」と言う名前を導き出せた。

 流石と言うべきか、一歩踏み込んである事と可愛らしいと言う理由で俺達の「マドカ」がメイド型AIの名前に決定された。これで2単位なのだから、女性陣には感謝である。


 因みに各班から出された候補名も一応載せておく。


 第1班:マドカ

 第2班:メイ子

 第3班:メイ子

 第4班:アキバちゃん

 第5班:ナメ子


 案の定と言うべきか、流石と言うべきか……

 最早、何も言うまい。



ーーーーーーーーーー


 所変わって現実世界。VR世界からログアウトした俺は、昼食を取る為に食堂に向かう。

 1000人以上の生徒を抱える学校なだけあって食堂のサイズもそれ相応に広く、メニューも和・洋・中と充実している。この昼食の時間を利用して他学科の生徒と交流を深める事も少なくない。


 ここは食券式になっており、大好きな和食の日替わり定食の食券を自販機にて購入し、カウンターにて注文、誰もいないテーブルを見つけ即座に席を確保してから、出来上がった定食を取りに行く。

 すると和食カウンターにはトシマキとナトセも並んでおり、その少し後ろには金指の姿もあった。

 こうして本日の昼食は男4人で食べる事になった。


 俺と金指は昨年から友人だったが、トシマキとナトセは初めましてに近かったので軽く自己紹介をしてもらう。

 

 トシマキは元は商業科で、将来はゲーム開発の企業に就職を目指しているらしく、丁度良いタイミングでGコースが設立されたので転科したらしい。真っ当な理由である。


 ナトセは金指とは中学からの同級生で、昨年も金指と同じクラスだったらしいが、同科であった俺には全く分からなかった。授業が被った事が無いからだ。

 さすがに3人も同科上がりがいると、そろそろ俺の過去にも言及せねばなるまい。

 

 俺達3人が所属していたのは工業科である。

 根っからのゲーマーである俺は、中学生の頃に初めてプレイした、とあるMMORPGに感動し、いつかは俺もこんな素晴らしいゲームを提供してみたいという思いが芽生えた。

 そしてそのゲームを制作したのがこの無双学園の卒業生だという事を知り、同じ門を叩いたという訳である。なので、トシマキと状況はほぼ一緒という事になる。


 しかしあくまでもそれは無双クラスの人間が世間で活躍している訳であって、いざ入学してみると中の上の成績を出すのがやっとという始末。

 このままではゲーム制作どころか無双クラスにさえなれないと半ば絶望していたが、そんな時にこの芸術科Gコースの話が舞い込んで来たという訳である。

 制作側で無双になれなくても、プレイする側で無双になれば将来もゲーム業界に携われるだろうと考えたのである。

 人には言えないが、自分ではかなりピュアなハートの持ち主だと自負している。


 そんな話をしていると、背後から「ヒロシ君、私達も空いてる席座っていい?」と声を掛けられた。

 そこに立っていたのはミント、ヒメカ、フジコ、そして何と魔王……じゃなくてユーミンの計4人であった。断る理由が無いのでOKは出したが、先程まで壮絶な死闘を繰り広げていたユーミンとは若干気まずいというのが本音である。


 合わせて8人となったテーブルでは、楽しい話が次々と飛び交うが、俺の願いも虚しく2人のKYによってその空気は一転する。

 まずはKY班長金指。

 「しかしユーミンの無双っぷりは半端無かったな」

 続いてKY班員ナトセ。

 「本当だぜ。まさかハカセも魔王と戦うなんて、ご愁傷様もいいとこだな」


 そんな会話に当のユーミンも笑ってはいるが、眉間にシワが寄っているのは明らかだ。

 KYの2人でも、さすがにユーミンの様子に気付いたらしく、慌ててフォローの言葉を入れたのは金指だった。


 「で、でも、最後のアレ可愛かったよな、あのはんッて声……あれ?」

 


 直後にユーミンの鉄拳制裁が入ったのは言うまでもない。

 KYもここまで来ると救いようが無い。いや、もう一種の才能と言うべきか。


 そんな訳で1人の負傷者を出しつつ、俺達は午後の授業に戻るのであった。



ーーーーーーーーーー



 「開け、ゴマ!」

 そう言ってログインを開始するのだが、やはりこの掛け声はどうにかならないだろうか。折角のログインする感動が薄れてしまう。


 なんて思っている内にVR世界に到着。

 さっきの平原とは違う広場にでたが、地名的にはここは「始まりの町」というらしい。

 さて、午後からは早速、各自の自由に授業(クエスト)を履修できる。今から半年間の長きに渡る冒険のスタートである。

 

 最初のクエストという事もあり、俺は班員であるトシマキとコンビを組む事にした。将来の目標も一緒なので、彼とは気が合いそうである。

 早速どんなクエストがあるか調べる為に、ウィンドウを開いてみる。

 ウィンドウの開き方は、まず左手を体の前に軽く伸ばし、そこから反時計回りに円を描く。丁度一周したら、撫でおろす様に手を下げれば表示される仕組みだ。

 ステータスやクエストの進行度などの項目があり、そこからクエスト一覧なる項目をタッチする。

 すると「初級クエスト一覧」と題された画面に切り替わり、合計で5個のクエストが並んでいる。まずはこの5個をクリアしないと先に進めないという訳だ。


 各クエストは以下の通りである。


 【初級クエスト一覧】

 ・モンスターを倒せ

 ・コンビプレーでモンスターを倒せ

 ・アイテムを使ってみよう

 ・魔法を使ってみよう

 ・ボスモンスターを倒せ


 モンスターや魔法といった文字を見てあまりの本格的なRPGさながらのクエストに、俺とトシマキは新鮮な感動をを覚えた。

 

 トシマキと相談し、早速一番上から攻略していこうと意見を合わせる。

 とは言っても、モンスターと戦うにも武器も何も無い上に、そもそもがどこにモンスターがいるのかも分からない。そんな時にはアイツの出番である。


 「マドカ、オープン!」


 と唱えると、目の前にはウィンドウが出現し、先ほど名前が付けられたばかりのメイド型AIナビシステムのマドカが登場する。


 「あっ、パパおはよう!」

 

 物凄く馴れ馴れしい言葉遣いでパパ呼ばわりとか、相変わらず小馬鹿にされた気分である。


 「お前なぁ、名付けた位で俺がパパなら、ママは一体誰になるんだよ」

 「誰でも良いよ?」


 無関心もいい所である。冗談も程々にしてほしい。


 「状況から判断すればパパの班の3人と、好みも含めればユーミンさんも有力候補だけれど、班員かつ好みも満たすとなればヒメカさんがママに相応しいと思うよ?」

 「待て待て、なぜお前が俺の好みを知っている!?」

 「そんなのヘッドパーツから情報ダダ漏れだよ」


 ドヤ顔でさらっと恐ろしい事を言ってのけるAIである。だが、確かに的外れな意見では無い。何故ならばヒメカは俺の班のドラフト1位指名なのである。恐るべし人工知能だ。


 「お前そんなの他の班員には言うんじゃないぞ?俺にも班長としての威厳があるからな、分かったな?」

 「Yes,boss!」


 こいつのキャラは一体どこに向かっているのか。

 とりあえず下らないやり取りはお仕舞いにして、攻略の為の情報を聞き出すとしよう。


 「おいマドカ、早速モンスターを倒しに行きたいんだが、装備とかって無いのか?」

 「装備は武器屋で買うか、モンスターが落っことすか、その辺に落ちてる奴を拾うかの3パターンだから最初は素手になっちゃうかなぁ」

 「マジか。でも待てよ、買うって言ってもこの世界のどこに金があるんだ?」

 「モンスターを倒すと手に入るけど、武器を買うなら一番いい方法は学費と一緒に支払いがオススメだよ!」

 「これ課金ゲーかよ!?」


 この学園の腹黒さを垣間見た瞬間である。

 とりあえず課金はしない方向だと最初は素手でやるしか無いが、マドカ曰く最初の方はモンスターも弱っちいから余裕じゃね?って事で、次はモンスター探しである。


 「マドカ、モンスターはどこに行けば会えるんだ?」

 「エ?ソンナノ、シラナイヨ」


 やれやれ、さっきのやり取りで気を良くしたのか、まだ遊び足りない様だ。付き合いきれん。


 「嘘をつけ。冗談抜きで、最速クリアを目指してるんだ。早く教えるんだ」

 「失礼、噛みま」

 プチっ……


 どこぞで聞いた事あるセリフを言いたかった様だが、調子に乗らせる前に止めないと面倒臭いからな。その手のネタはツッコむ方だって大変なんだ。


 「ちょっとちょっと、いきなりウィンドウ閉じるとかパパ酷くない?」

 「お前がふざけているからだ。しかも使い方違うし……」


 しかし、自らウィンドウ開けて出てこれるとは都合の良すぎるシステムだ。いよいよ本当に面倒臭い。


 「後で相手してやるから、さっさとモンスターの居場所を教えてくれ」

 「ここは町エリアだから、フィールドに出ないとモンスターはいないの。町には必ず門が設置されてるから、その門を出ればフィールドに行けるよ」


 なるほど、その辺はほとんどのゲームと同じ設定らしい。じゃあなと言ってウィンドウを閉じて、早速トシマキと町の隅っこにある門へと向かう。


 およそ高さ3メートル程のがっしりした立派な門を抜けると、そこには午前中に見たのと同じ大平原が広がっている。

 って言うか、モンスター出る恐れがあるのにフィールドを選んだまり子先生の神経にゾッとする。バカなのだろうか。


 とりあえず武器なしで倒せる様な弱っちそうなモンスターを探して歩いていると、早速いるではないか。

 数多のRPGにおける最弱モンスターの代名詞的存在「スライム」である。

 それも何と5体もいるので、単位と一攫千金のチャンスである。思ったより好戦的なのか周りを囲まれてしまったが、雑魚モンスター相手にそんなのは関係無い。


 「行くぞ、トシマキ!」


 そう言って突っ込もうとする俺を、トシマキは制止する様に一言。


 「あのさ……アイツらに殴る蹴るって効かなくね?」







 「……たしかに」



 つづく。

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