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とあるひろしのぷろろ~ぐ

 物語は20XX年、日本の首都、東京を舞台に主人公・ひろしの伝説が始まる…のか?

 皆さん、ごきげんいかがあそばせ?

 俺の名前は大空広(おおぞらひろし)

 都内でもかなりの偏差値を誇る進学校の、中くらいの学年成績をうろうろしている、所謂(いわゆる)ちょっと頭のいい一般ピープルである。


 進学校とは言ったが、俺の通う高校は只の進学校とは二味違う。

 

 校名が「私立無双学園高校」と言うとんでもなく強そうな学校で、創設者(初代の校長先生)が「何事も無双できる強靭な心身を養い、この国の発展に大きく寄与する人材を輩出する」という何とも壮大な志を掲げて立ち上げた超教育機関である。


 特徴としては、一般の高校に有るような普通科と呼ばれる学科が無い。有るのは商業科・工業化・文学科・科学化・運動科。そして今年度から新規導入された芸術科の計6科である。

 それぞれが100名の人数を擁し、全校生徒が1000人を軽く超えるマンモス校だ。


 俺はそんな学校の2年生な訳だが、この度、1年生時の年度末に専攻している学科を変える転科試験というものを受けるべく猛勉強をし、その努力も実って芸術科への転科を果たした。


 なぜ猛勉強をする必要があったのかというと、理由は2つある。

 1つは「何事も無双」という校風なだけあって、芸術家たるものそれ相応の資質があると認められなければならなかったので、転科試験の内容もそれ相応に難易度が高かった為。

 もう1つが、芸術科に設置される専用コースの中に国内初の試みである「ゲーム無双コース」と呼ばれるユニークなコースが設置され、試験前の希望者が殺到した為に試験の倍率がかなり高くなるだろうと予想したからである。


 「芸術科ゲーム無双コース」


 なんとも興味が惹かれるコース名だが、案の定俺の予想通り、数多(あまた)の生徒の目を引き、転科試験の倍率がその注目度を示す。

 発表された試験倍率は、何と10倍という途轍もない数字だった。

 「10倍」という数字だけ見れば、実際の高校入試や雑誌の懸賞でも特に珍しいものでは無い。


 しかし、このコースの定員は1学年30人で、その10倍という事は300人が転科試験を受けたと言う事だ。

 300人と言うと、1学年が100人×全5科の500人なので、全体のおよそ6割が志望した事になる。これはさすがに普通では無い筈だ。


 かくして俺はそのモンスター倍率に打ち勝ち、晴れて「ゲーム無双コース」に合格した訳だが、今日がその授業初日という事もあり詳細のカリキュラム等は当然知らない。


 因みに、無双学園に普通科が無い理由は、創始者曰く


 「『普通』の人材を輩出しても意味無いじゃん?」


 って事らしいが、確かにそれは一理ある。「普通を無双する」人材って要するに『普通』の人だからな。


 なんて初代の校長に変な共感をしつつ、もうすぐ記念すべきゲーム無双コース最初の授業が始まる。


 朝のホームルームの予鈴5分前になり、ガラガラっと戸を開け教室に入ってきたのは、1年生当時にもクラスの担任だった小田(おだ)まり子先生である。


 教員暦2年目の半新米教師で、その優しい性格と穏やかな口調、そしてグラビアアイドル顔負けの美貌で生徒、同僚教師からも抜群の人気を誇る当学園きってのスターである。

 因みに俺の超高校級高精度スカウター(自称・黄金の右目)ではB85・W59・H83のハイスコアを記録している。


 しかし驚くべき事に、このまり子先生には恐るべき裏の顔も存在する。

 なんと身長150センチ程の小柄な体躯には収まりきれない程のジャ○ーズ愛を持ち合わせており、取り分け某国民的ユニット「SM○P」への忠誠心は並々ならぬモノがある。


 コンサートが開催されるとなれば、北海道であろうが沖縄であろうが、果ては台湾までも渡航暦がある位(ちゃんと有給使ったのか親族を勝手に(ほふ)ったのかは定かでは無い)の(つわもの)である。

 そんなまり子先生に敬意?を表し、人々(って言っても俺の元クラスメイト達だけ)は彼女をこう呼ぶ。「S○AP無双(マスター)」と。


 そんな話はさておき、キンコンカンコンと予鈴が鳴る。最初の授業はカリキュラム説明の為のオリエンテーションという事で、いよいよゲーム無双コースの始動開始である!


 「初めましての方も、お久しぶりの方も、時刻は8時30分になりました。4月5日月曜日、おはようございます。HRの時間です。担任の小田です。よろしくお願いします」


 某TV局の午前4時に聞いた事のあるフレーズだが、きっと一生懸命暗記したのだろう。肝心の自己紹介がおざなりになっている。

 そんなまり子先生の挨拶には当然の如く失笑の嵐が吹き荒れたが、そこはご愛嬌という事でみんなの苦笑いで一命を取り留めた様だ。

 いきなりの爆弾投下とは、元担任ながら恐れ入る。


 まり子先生の挨拶が終わってからはオリエンテーションが始まった訳だが、いきなりG(ゲーム無双)コースらしい楽しい展開がやってきた。まり子先生から説明が入る。


 「みなさんがこれから履修するカリキュラムは全てゲームの中で行っていきますので、早速ログインしてみましょう。まずは自己紹介から行いますが、その前に自己プロフィールを作成する必要がありますので、ログイン時に漏れが無い様に注意して作成して下さい」


 いきなりログインと言われても何の事やら、という所だが、これこそがGコース最大の特徴であり、300人もの同志(ゲーマー)を誘惑する事となった要因。その名も……


 Class System in the VRMMOヴィアールエムエムオーである。


 日本語に訳すと「仮想現実大規模多人数オンライン授業システム」、という事になる。


 このVRMMOについては今さら感がハンパないので説明はメンドくさいのだが、要するにネット上に仮想現実世界を作り、そこに大多数の人数で集まっていろいろしようぜ! みたいな試みである。


 只のネットゲームとの違いは、PCの画面内でキャラクターを操作するのではなく、自分の体そのもの(正確には意識)を仮想現実世界で動かして行動するので、それはもう丸ごと実体験なのである。

 自分の体がゲーム内に入っちゃったと思えばヨシ。


 つまりGコースの授業=ゲーム内仮想現実の授業ということになる。

 ゲームしながら授業ができるなんて夢のような環境である。これでは転科試験がモンスター倍率になってしまうのも無理は無いと納得できる。


 各生徒の机には「アラジン」と銘打たれた専用のPCと各種パーツ、そしてリクライニングシートが揃っている。

 PCの電源を立ち上げ、ディスプレイ上の「C.S.login」なるアイコンをダブルクリックし、専用のヘッドパーツを被って合図となる掛け声をヘッドパーツに備わった小型マイクに叫べばログイン開始である。

 ただね、その掛け声が恥ずかしいの何のって…


 俺が躊躇している内にみんなログインを済ませてしまった様なので、俺も急いで準備し、あとは掛け声を叫ぶ段階に入る。

 気が進まないが、勇気を振り絞って…


 「開け、ゴマ!!!」


 突如ヘッドパーツからキュイイイーンという駆動音が走り、目眩にも似た様な感覚が俺の視界に訪れる。同時に俺の座しているリクライニングシートにもブルブルブル、と震度1.5位の振動が起こる。

 これに関してはヘッドパーツの機能とは絶対に関係無いので、只の臨場感の演出なのがバレバレである。


 薄れ行く意識の中、自身初となる仮想現実への転移(トリップ)へのワクワクした期待感と、(よわい)16にしてまさか発言するなぞ予期していなかった掛け声への羞恥心、そしていつ止まるのか分からないシートの不快な振動、この3つの奏でる絶妙なハーモニーを感じながらの小旅行が今、幕を開けたのであったとさ。


 つづく。


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