とある消しゴムの生涯
こんにちは。消しゴムです。
僕は小学生のタケシ君に使われ、字や落書きを消し続けるという日常を過ごしています。
「この消しゴム、マジすんげ〜消しやすいし!」
リーズナブルなお値段で使い勝手がいい、そんな素敵な消しゴムさ。
ある日のことだ。
タケシ君は学校の授業で漢字の書き取りをしていた。
意外と真面目なタケシ君。必死に漢字を書いています。必死すぎて「フッフッ!」と言っちゃうほど鼻息が荒いです。頑張れタケシ君!
と、その時だった。
「あ、間違えた」
タケシはやってしまった。『職』という漢字を書こうとしたけど、つい無意識のうちに『識』を書いてしまったのだ。
ようやく僕の出番だ。
さあタケシ君、僕を存分に使ってくれ!
「シャーペンに付いてる消しゴムで消そうっと」
な……なにぃぃッ!
あろうことかタケシ君は僕を裏切り、シャーペンの尻にちょこんと申し訳なさそうに刺さっている消しゴムを起用したのだ。
『ふっ、お前の仕事は俺が頂いたぜ……!』
心なしかシャーペンの消しゴムの嫌みったらしい声が聞こえた気がした。
くそう、憎い、憎いぞシャーペンの消しゴム! 僕の仕事を奪うとは……許せん!
そして字を消し終えたシャーペンの消しゴムは横目で僕を見て、いやらしい笑みを浮かべた。
なんだあいつ。僕に喧嘩を売っているのか? 畜生、うざったい!
しばらくするとタケシ君はシャーペンの消しゴムをシャーペンから外し、机にコロコロと転がして遊び始めた。
野郎、また僕を見て不敵な笑みを浮かべやがった。『俺はタケシ君と遊ぶこともできるんだぜ』ってか? こんの馬鹿野郎めー!
――その時。
「あっ」
『あっ』
タケシ君は手を滑らせ、シャーペンの消しゴムを机から落っことしたのだった。
『ぎゃああぁぁ!』
絶叫しながら床に叩きつけられるシャーペンの消しゴム。僕から見たら、まるでグランドキャニオンの傾斜が激しい所から突き落とされたような感じに見えた。
僕の仕事を奪った罰だな。そう思った。
だが、奴はタケシ君の迅速な救出活動(拾うだけ)によって救われた。
ちぇっ、そのまま帰ってこなければよかったのに。
シャーペンの消しゴムで遊ぶのに飽きたタケシ君は落書きをし始めた。
次々と描かれる落書き達。犬なんだか猫なんだか、人なんだか宇宙人なんだか、ゴリラなんだかモアイなんだかよくわからないものばかりだった。
そしてタケシ君はおもむろに僕を手に取った。
ついに僕の出番ですか! 待ってました!
しかし……。
「あっ」
タケシ君はまた手を滑らせ、僕を机から落っことした。
半端なく高い所から真っ逆様に落ちる僕。気分はエアーズロックのてっぺんからの紐なしバンジージャンプ。
僕は勢いよく床に叩きつけられ、遠く離れたクラスのアイドルであるサトミちゃんの席までやって来た。
「あ、消しゴムが落ちてる」
僕はサトミちゃんの柔らかい手に拾われた。タケシ君の手と違って優しい雰囲気を感じる。うひょ〜、たまんねえなオイ。あ、僕っておじさんみたいだね。
「ラッキー! 貰っちゃおうっと」
ま……まさかのお持ち帰り発言ーッ! おじさん嬉しいよー!
さらばタケシ君。シャーペンの消しゴムと上手くやれよ……!
しかしこのあと、僕は「なんかこの消しゴム汚い」という理由により、教室のゴミ箱に捨てられることとなった……。