Last Hope Forever
この作品はフィクションです。
とある夏の日、降り注ぐ太陽の光の中、僕はビルに囲まれたアスファルトの上に立っていた。
久しぶりの外は、照り付ける太陽の影響で熱く、そして眩しかった。
街を歩く人達は、皆生き生きとしており、そしてとても楽しそうだった。
その街を歩く楽しそうな人達の笑顔が、また眩しかった。
僕の人生は、そんな人達から常に取り残されている、そんな人生だった。
そんな僕が、何故今日ここに立っているかというと、人に会うためだ。
人生最後にやっと見つけた希望と。
そして…
僕は覚悟を決めていた。
私が、このサイトを見つけたのは偶然だった。
私自身、死のうと思っていたのは確かだけど、一人でひっそりと死ぬつもりだった。
だけど、死ぬ方法をネットで探していた時に、ふと見つけたサイトの宣伝文句。
『希望の無いまま死のうとしている貴方、人生最後に一度くらい希望を見つけませんか?』
僕が、その希望と出会ったのはとあるサイトだった。
そのサイトの目的は、人生に希望を無くして死にたい人が集まり、
仲間という希望を、見つけるためのサイトだった。
僕は、小中高と、そして大学生活において、一度も友達らしい友達ができたことが無かった。
中学時代に唯一仲が良いと僕が思っていた人でさえ、僕の陰口を叩いているのを、
僕は、偶然聞いてしまったことがある。
それ以来人が信じられなくなってしまい僕は、その後の中学時代を不登校で過ごし、
高校時代は通信制高校でほとんど人と関わらず過ごした。
一応大学には進学したが、こんな僕が人と馴染めるはずが無く、現在休学中である。
このままでは、親に申し訳が無いと思いバイトを始めてみた事もあるが、案の定長続きしなかった。
現在の僕は、ネット廃人になってしまい、ほとんど自室に引きこもり、ニートと変わらない生活をしている。
繰り返される親からの罵倒、そして孤独に耐えきれなくなってきた僕は死のうと思い、
このサイトに登録した。
このサイトなら死ぬ仲間を探すことができるので、最後くらいは孤独じゃなく死ぬことができる。
僕はそう思った。
だが、サイトに登録してみたもののネット上とはいえ、人見知りな僕は、人に自分から接触するのは抵抗があった。
僕は、住んでる地域と年齢を登録した後、プロフィールに好きなゲームと好きなバンド等を記入し
接触を待つことにした。
サイトに登録した私は、とりあえず誰かと接触してみることにした。
この手のサイトはとりあえず、人と接触しないと始まらない。
私はそう思った。
ただ、あんまり変な人とは絡みたくないし、死にたい人を装った出会い厨もいるだろう。
そこで、私は住んでる地域と年齢が近い人の中から検索を掛け、
一番良さそうな人にメッセージを送ってみることにした。
何故この人にしたか、それは好きなバンドが一緒だからだ。
病んでる人や、死にたい人、そして社会に疲れた人、そういう人達の気持ちを率直に表現できるこのバンドは、批判も多いが私はとても好きだった。
このバンドが好きな人だったら、信用できる。
私はなんとなくそう思ったのだ。
サイトに登録した数日後、僕のアカウントにメッセージが届いた。
「趣味が合いそうなので、お話ししませんか?」
待ちに待った接触だった。
僕はこの日から、この日向というハンドルネームの人とメッセージのやり取りをすることになった。
この日向という人とはとても話があった。
なにしろ、好きなバンドが一緒なのだ。
まさかこの世間的にはマイナーなバンドが、好きな人と出会えるとは思わなかった。
そして、お互い似たような経験をしていて、病んでる気持ちを共有できた。
僕は、日向さんと話しているうちに死にたくない、このままずっと日向さんと話していたい。
そう思うようになり、なかなか死ぬ勇気が出ないまま、時間ばかりが過ぎていった。
このままじゃ何も変わらない。
私はそう思った。
確かにこの、サンというハンドルネームの人と話すのは楽しい。
だけどいくら楽しいからといっても、ただ現実から逃げているだけの私達に未来は無い。
サン君は大学休学中の実質ニートだし、私も高校中退のフリーターだ。
人生最後に良い思いは出来たし、そろそろ覚悟を決める時だ。
私はそう思ってメッセージを送った。
「このまま現実逃避をしていても未来は無いと思っているので、来週の土曜日にそろそろ私達会いませんか?」
ついにこの時が来たか、と僕は思った。
こんなことをしていても、僕たちの人生が良くなる訳じゃないのは、僕も良く分かっている。
ただの現実逃避にすぎないのだ。
僕は覚悟を決める事にし、土曜日に会おうとメッセージを送った。
私は、待ち合わせ場所に向かっていた。
サン君待っててね。
私が、最後に見つけた希望だからこそ、この手で…
ビルが立ち並ぶこの人が多い都会の街に、疲れてきたなと思い始めたころ。
「サン君だよね?」
ついに声を掛けられた。
「そうだよ。えっと、日向さん?」
「そうだよー。よろしく!」
「えっと…今日はどうする?」
「とりあえず、遊ぼう!折角会えたんだし!ゲーセンとかファミレスとかカラオケとか、そういう所に親以外の人と行ったことが無いんだ!人生最初で最後のデートなんだしさ。楽しまなきゃ損損!後の事はそれからだよ。」
日向さんは、とても元気だったが無理をしているように見えた。
日向さんの雰囲気を一言でいうなら、壊れている。
そんな印象の女の子だった。
明るくふるまっているが負のオーラが凄いし、その笑顔には儚さと切なさを感じさせた。
ただ、見た目は中の上のくらいの可愛い子だったし、人生最初で最後のデートとはいえ、
こんな子とデートできるなんて夢にも思わなかった僕は、とても舞い上がっていた。
純粋な子だ。
それが、私がサン君に覚えた第一印象だ。
彼は、とても純粋で良い子だ。
だからこそ、この汚い人間社会で上手くいかなかったんだと思う。
自殺する人の多くは、社会に殺されている。
私はそう思う。
だからこそ、だからこそ…
日向さんとのデートは楽しかった。
一緒にファミレスで食事をし、その後ゲーセンで一緒にレースゲームや格闘ゲーム、リズムゲーム等を楽しんだ。
私たちの関係を知らない人から見ると、仲の良さそうな初々しいカップルにしか見えなかっただろう。
そして、ゲーセンでは最後にプリクラも取った。
日向さんは、「この2ショットのプリクラが遺影変わりだねー!」と言いながらピースサインをしていた。
本気で遺影に使うつもりならピースは不味いんじゃとかと思っていたが、僕も釣られてピースをした。
そして、最後にカラオケボックスにやってきた。
カラオケの手続きをする時に、日向さんが名前を書いた時、僕はそういえばお互い本名を知らないまま遊んでいたな、と気付き。歌う前にお互いの本名を教え合った。
そして、カラオケで僕と日向さん、お互いが好きなバンドの曲を何曲か一緒に歌った。
そして、こんな楽しい時間がずっと続けば良いのになと思った頃、
日向さんがリュックから包丁を2つ取り出したのを見て、僕は現実に引き戻された。
サン君…楽しい時間も終わりだよ。さてそろそろ終わらせようか。
「さて、そろそろ私達の最初の目的を達成しようか。なんで私が包丁を2本も出したと思う?
それはお互いがお互いを刺し殺すためだよ。私、考えたんだ。このまま自殺しても私たちは社会に殺されるだけだって。でも、そんなの嫌だ。私、最後ぐらいは愛する人に殺されたいし愛する人を殺したい。だから同時に包丁を刺そう?」
「実は…僕も同じ考えだったんだ。だから僕も包丁を2本持ってる。だから君は僕の包丁で刺させて。だから包丁一本閉まっていいよ。」
まさか…サン君も私と同じ考えだったなんて…流石、私が最初で最後に愛した人だ。面白いじゃん。
お互いが包丁を構えた。
「「また地獄で会おうね…最後の希望よ永遠に…」」
私の包丁が、サン君の胸に突き刺さった時、私の意識が飛んでいった…
異変に気付いたカラオケ店員がこの部屋に入った時、2人とも笑顔でプリクラを握りしめて倒れていたという…