軋み
主人公出てきません。
崩れかけた小屋の中で人影が二つ、向かい合って座っている。
「兄サマ」
天井に空いた穴から光が差し込み、重く口を開いた白姫の輪郭を浮き彫りにしていく。
「モウ、やめてくだサイ。神は争いなど望んでおりまセン」
そう言う白姫を見下ろし、男はゆっくりと立ち上がる。光に照らされ、男の輪郭が露になる。
真っ白い髪、赤い目、黒い肌。体中に彫られた儀式用の刺青がアストア人であることを主張している。男は小さく息を吐くと白姫に問いかけた。
「国は平和カ?」
「平和です、デスカラ!」
「そうか、ナラ、もっとやらないトナ」
男はそう言うと聖剣を腰に差し、壁に掛けてあった仮面を手にした。
「兄サマ!」
白姫は立ち上がり、男の手をつかんだ。
「何故デス? 平和なんデス! 平和なんデスヨ?」
男は白姫を見ようともせず、仮面で顔を隠した。そして、静かに語り出した。
「平和、ダガそれはかりそめダ。だから俺は教えねばナラン。この土地が誰のものでアルカ」
そこまで言うと男は白姫の手を振り払った。
「兄サマ!」
男は何も答えず出入口に向かう。そして、振り返り静かに言った。
「オレの信仰はかわッタ。お前は、お前の神に聞いてミロ」
それだけ言うと、男は小屋から出ていき、白姫は一人自分の無力にうなだれるのだった。
◆
王の間へとつながる長い廊下をミラドは真っ直ぐ歩いていく。
ミラドの接近を確認した門番が、門を開け、中に入るように促した。
中に入ると、そこには巨大な石英の塊が一つ真ん中に置かれていた。
王はその前に立ち、ミラドを見つめていた。
ミラドは王の前に跪き、深々と頭を下げた。
その姿を冷徹に見下ろし、王は感情のない声で語りかける。
「ミラド、お前は、この国が好きか?」
その問いに、ミラドは即答する。
「ハイ」
「なら、この国のために、死ねるか?」
「当然です」
即答で答えるミラドに、王は薄く微笑んだ。
「立て」
ミラドを立たせると王は笑い、石英の前からずれる。
「お前は資格を得た。英雄になれ」
「私が……英雄に?」
「そうだ、このマナクリスタルに選ばれれば、お前は英雄になる。選ばれなければ、死ぬだけだ」
「英雄」
ミラドの心はざわめいていた。
力、力、力。
正義を執行するための力、守るための力、誰も傷つけないための!
その渇望は死の恐怖を凌駕し、ミラドの足をマナクリスタルの前まで進ませた。
「守るための……力」
躊躇うことなく、ミラドはマナクリスタルに手を触れた。
マナクリスタルは接触に反応し、輝きを増す。そして。
広がる光の中でミラドは剣を手にとった。
光とマナクリスタルが消え、そこには英雄と、王が立っていた。
英雄は王に跪き、王は英雄に声をかけた。
「この国の為に死ね」っと。