英雄の正義
聖剣~プロローグ~にて死亡したキャラクターの外伝です。
キャラ背景が見えるかも?
この国は正しい。いや、正しくなければならない。
ある英雄の追憶
ラズヴェル・ロッド
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げながら、大地が立ち上がる。
岩肌のように無骨な体、十メートルを越す全長、そして、怒りに燃える単眼。
怒りに燃えるサイクロプスは手にした棍棒を振り回し、森や山肌を薙ぎ払う。
『隊長……お願いします……』
雑音が混ざる通信器を耳に当て、俺は崖の上から暴れるサイクロプスを見下ろしていた。
『隊長?』
「あぁ、わかっている」
そう答えると腰の剣を抜き、地面に突き立てた。
「いくぞ」
小さく自分に気合を入れると、崖から飛んだ。
「アース」
呪文を口ずさむと、地面に突き立てた剣が鈍く輝く。突き刺さっていた地面は重力を失ったかのように舞い上がり、落下する俺の右腕に集まってくる。剣の魔力は周りの土をどんどん分解、巻き上げ、俺の腕に収束させる。
「悪いな」
サイクロプスのそばまで落ちてきた俺はそう言うと、収束して巨大な拳となった土の塊で、サイクロプスの頭を殴り飛ばした。
「いっちょ上がりだ」
サイクロプスの巨体は倒れ、魔法に使った大量の土と岩が土葬するようにサイクロプスの体を埋めていった。
「……悪いな」
俺は深い溜息と共にその言葉を吐き出した。
意味があるのか? こんなこと……。
俺が仕えるこの国『リーダ』は二つの種族が住むとても平和な国だ。
先代の王はとても素晴らしい人で戦争という手段を使わずに二種族を取り持ち、国を一つにした。偉大なる王。
その王も二年前にこの世を去り、今は二代目『リシド』王がこの国を収めている。
今はその御方の命で魔物狩りをしているのだが……意味があるのか?
このサイクロプスだってそうだ、何もしなければここから出ないような魔物を、わざわざ倒す必要があるのか?
っと、これは俺の悪い癖だな。
王が間違っている訳がない。
これは国の為、国に生きる者の為なのだ。
そう、正しいのだ。
「ラズヴェル隊長! お疲れ様です!」
思考をかき消すように、新兵のミラドが走ってきた。
「あぁ、お前らもご苦労だった」
「ありがとうございます! でも、隊長……」
「どうした?」
ミラドは言いづらそうに口篭る。
「ここはリーダからも遠い辺境。魔物狩りをする必要があったのでしょうか?」
新兵もそう感じたのか。俺は自分にも言い聞かせるように、強い口調で言った。
「王は間違った判断をしない。これは正しいおこないだ。辺境の動きを見た王の判断だ。間違っている、訳がない。いいな?」
「あ、はい!」
「信じろ、自分の国を。俺たちは、正しい」
「はい!」
「じゃあ、帰るか」
地面に刺さった剣を抜き取り、肩にかけると俺は部隊に撤収の合図をした。
そうだ、正しい。
間違っている、訳がない。