先輩と私 再会(練習作)
時間的余裕ができたので書いてみました。
連載作品にするには対象年齢がやや高めなんでしょうか。
あの日、私は先輩と再会した。
勤め先の風俗店で顔を合わせ、話をして気がついたのに…。
先輩は私だって気がつかなかったみたいで、私はついムキになってキスをした。
私は仕事でキスはしない、まあ小さなこだわりだけどさ。
それでも気がつかない先輩はドヤ顔で私にチップをくれた、ああ、やっぱり変わらないなぁ。
先輩から渡された封筒の中身はなんとっひゃくまんえんっ。
やっぱ、先輩ってバカなんじゃないだろうか。
もう会わない気だったし、嫌われればいいとよくあるウソの話までしたのに、あの人って……。
潮時というヤツだろうかバカやってつくった借金も返済したし、貯金にもらった百万があればやりたかったこともできる。
そうして私は「ももたろう」を辞めて、ファミレスでバイトを始めた。
先輩にもう一度会ったときに、今度こそ私だって告げられるように。
その昔、夢というわけでもないが、母校の中学のそばで安く出されている貸し店舗を借りてギャラリー喫茶をやれたらなぁっと漠然と思っていた。
先輩と見たヨーロピアンという退屈な映画の中のソレがずっと頭の中にあったような気がする。
といっても、まぁ先輩の顔を見ちゃったからそういう風に思い出したのを美化してるだけな気もしますがね。
私が高校受験に合格したとき初めてのお泊りをした。
付き合って二年近くだったけど、まだ子供だった私にはとても刺激的すぎてギクシャクしたまま先輩が高校卒業。
県外に就職した先輩とは気がつけば疎遠になり、そのことを友人に相談したら尾ひれがついて泳ぎだし、私は不良娘と呼ばれることになった。
アレからいろいろあったが、まあ今はそんなことどうでもいい。
また出会ってしまった、そして思い出してしまった、あのころの桜色の日々を。
それなのに先輩は私に気づかないばかりか、見知らぬフリで大金を渡してきた。
女としてこんな屈辱に耐えられようか、いや耐えれません。
過去は変えられない、でも精一杯の誠意を持って先輩に笑顔で特攻してやるからね。
母校のそばでオバちゃんに声かけられている先輩を何度も見かけた、でもいざその時となると勇気がなくなる。
不良と呼ばれ悪いこともしたし、何人かの男性とも付き合った。
それに風俗で働いていたんだから、先輩は私をどういう目で見るんだろうか……。
不良娘の決意は乙女の思い出に引っ張られ勇気を欠けたまま、時間が流れ季節が変わっていった。
銀杏通りの落ち葉がなくなるころ、ビール片手に歩く先輩が目に入った。
だらしなく歩く姿、そしてニヤケた顔、ツンとしたオイルの臭い。
カッコよさなんて欠片もない、でもそこにはあの頃の先輩と同じ何かを感じてしまった。
ああ、駄目だなぁホントに…八年たっても私はこの人が好きだったのかもしれない。
いや、自分を偽るのはダメだね、きっとずっと大好きだったんだろう。
さあ、勇気を出そう。
八年分の不満と百万円の怒りを持って、喧嘩を売ろう。
「先輩…ですよね」
急に声を掛けられた先輩はびっくりしている。
何も思い当たらないフリして私を困らせる。
「誰?」
「先日はすいません。言えなかったんだけど中学のとき美術部の後輩だった・・・」
驚いた表情で缶を落とす先輩、すごいショックを受けてるみたい。
「な…んで」
先輩の声がかすれ裏返る。
「先輩は変わってないですね、あれから探しまわったんですよ。あそこも辞めて」
ドキドキと動悸が止まらない、頭がクラクラして眩暈がする、まるで中学時代のように。
先輩に私は追い討ちを掛けた。
「お金助かりました、必ずお返ししますから今度は逃げないでくださいね」
私が先輩と再会したのは神様のくれた初恋の続きなんだと思う。
こうやって私は先輩の生活を引っ掻き回すことにした。
中学時代の復讐、今度は先輩が私に恋する番ですからね。
不良娘と呼ばれ人生を踏み外しかけてた私は、だらしない先輩を追いかけることにした。
あの日みた空の絵、下手だ下手だという先輩の描いた蒼と茜の1つになった空。
あの絵を見たときに落ちた初恋の第二ラウンドの鐘は、今、私が鳴らしたのだ。
もう待たないし、置いてかれませんからね、今度は必ずノックアウトしてあげますから。
ね、先輩。
私としては昭和風恋愛コメディ系のお話と思ってるんですが、もしかしてノクターン向けなんでしょうか。