表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命グラフ  作者: 八澤
儚いグラフ
7/12

儚い ② 音

儚いグラフ

 

 俺は、自分がよくわからない。

 ここ数日も、学校をサボっては闇雲に街を歩いていた。

 ほとんど無意識で、気がつけば真夜中の森を歩いていることも、多々あった。

 何かを探しているのか、それとも逃げているのか、そのどちらでも無いようで、有るような気もした。

 その日も、俺は一人でもくもくと街を歩いている。

 あの日から、音が緻密に聞こえるようになってしまったので、外の音を遮断するように、デカいヘッドホンをつけながら。

 ひとしきり歩いたところで、ぶわっと視界が開けて、小さい公園に出た。なんどもここに来たことがあるような気がしたけど、よく思い出せない。

 ベンチが一つだけ寂しげに置いてある。

 俺はそこに座ると、ため息をついた。

 たった一人、自分の彼女を他人に寝取られたくらいでウダウダするなよ、と思う奴もいるかもしれないけど、そう一番思っているのは俺だ。

 ここまで、自分が崩れるとは思いもしなかった。

 だから、彼女のことを全て忘れたいのに、記憶だけは決して消えなかった。日々の出来事が嫌でも彼女との生活とリンクし、そのたびに脳裏に映像が流れ出す。

 そんな自分が情けなかった。

 死のうかと思ったけど、そういう行為をする勇気も無い。

 自分という人間がわからなくて、ただ俺は一本の棒のように立っているだけだった。誰かに軽く押されさえすれば、簡単にその方向へと、傾いてしまうほど。

 ――だから、俺はあの女の声に耳をすませてしまったのかもしれない。


「復讐とか、興味ありますよねぇ?」


 真横から声がして、いつの間にか、俺の隣に誰かが座っていた。女だ。

「え?」

 と声を出してしまう。

 突然話しかけられ、横に座る女の言葉が意味不明だからではない。

 何故なら、この女は、白いコートを着ていたからだ。顔は、楓とは全く違い、背だって髪型だって、何もかも違うはずなのに、その姿は、楓と瓜二つに見えてしまった。

「そんなに驚かないでくださいよー」

 女は俺の反応を見て、楽しそうに言った。

「いや、あの、すいません。いきなり話しかけられたから……」

 どもりながら言うと、女は顔を近づけてきた。「エボシ、とかに復讐してみたいですよね?」

 エボシ? ……烏帽子!?

あのアパートの表札が、脳裏に浮かび上がる。

 ――瞬間、心臓が胸を強打する。

「え? え?」

「本当は彼女にも、何かしてやりたいんですよね。でも出来ないー。昔の思い出がちらつくんでしたっけ? 楓が他の男にあんあん声を上げながら抱かれていたとしても、幸せならそれでいい。って、うわ、なんか凄いですね」

〝凄いですね〟

 という声には、嘲笑が込められている。だけど、笑ってはいない。真剣なまなざしで、俺のことを睨みつけながら、更に口を動かす。

「なんで?」

「……俺のことを知っているかって? いやだって、これから見汐さんが話してくれるからじゃないですかぁ?」

 意味がわからない。

 咄嗟に逃げようとしたけど、体がそれを無意識のうちに拒んだ。

 この女は何一つ嘘をついていない。

それを、俺の耳が認めている。だからか、俺は無意識のうちに、この女を信じていた。

 動けない俺を見て、この女は安心したのか、ゆっくりと口を開く。

「自分のことは、ケイって言ってください」

 声は笑っているのに、ケイは一ミリとして表情を動かすことはなかった。

 艶のある、黒髪が風に靡く。

 その眼には、黒い渦のようなモノが、不気味に渦巻いているように、見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ