水辺の中の愛
不穏な姉弟の話
川の中に花が浮かんでいた。
時折あるのだ。
こうして、花が川に流れていくことが。
それを俺はよく見ていた。
上流にある湖に沈んだ乙女がいて、流れてくる花は乙女と共に沈んだものだという話を思い出して頭をふる事がよくあり、姉の呼ぶ声でそこから離れる事が多かった。
俺には姉がいる。
姉さんは優秀だった。
優秀な分両親に期待された。
毎日毎日と勉強に厳しい訓練を両親から課せられていたのだ。
俺の家は特殊な家だから、長子であり能力がある姉さんに期待がかけられていて、次子であり家に必要な能力を持たないというか才能で姉さんに劣る俺は基本的に放任されていた。
一般的な教育は受けていたけれど、あんまり両親から褒められた事はない。
それを寂しいとは思わない俺は可愛げのない子供だったのだろう。
いつか、家を出てやると思いつつも、つらそうにしている姉さんをほっとけなかった。
いつも辛そうで何かに怯えている姉さん。
優秀な姉さん。
俺を見下す事もなく、ただ接してくれた姉さん。
そんな姉さんには俺も情が湧いていたのだろう。
時折台所で菓子を作ってやったり、家から連れ出したりもした。
その時だけ姉さんは笑ってくれた。
両親から色々と言われたが、まあ無視していた。
(つうか、姉さんの顔色が悪いのに気づけよ)
むしろ両親に対して内心で悪態をつく事が多かった。
姉さんに期待しておきながら、姉さんの気持ちを考えていなかったのだ。
「姉さん。ここにお茶と菓子を置いておくよ」
「ありがとう」
嬉しそうに笑う姉さんを見て俺も嬉しい。
その気持ちは本当だった。
そして、成長し家を出ていく計画を実行する日が近づく。
両親の目をかいくぐって作った人脈により、生活に必要な場所や資金は手に入っている。
俺は知らない土地で新しい生活をするんだ。
「どこに行くの?」
「……姉さん」
「家を出ていくの?」
困った様な表情をする弟。
家の中に味方はいなかった。
目の前の“この子”以外は。
そんな言葉が口から出てくる。
「酷い」
両親から期待されていた。
けど、それは苦かった。
両親は私じゃなくて私の才能を見ていただけだった。
それによって私は自分の気持ちを見出す術を忘れかけていた。
でも、弟だけは自分を見ていてくれた。
この苦しい場所から連れ出してくれていた。
なのに、弟は自分を見捨ててこの家から出ようとしている。
「あなたはなんて酷い子なの」
「姉さん。俺は」
「お願い。傍に居て」
姉さんが俺を抱きつく。
「……」
姉さんは俺に依存してしまったと本能的に分かった。
姉さんだけは俺が傍に居て。
今更家を出ていくなんて許さない。
絶りつく姉さんを俺は振りほどけなかった。
まるで、水の中にいるかのような感覚に襲われ、いつも見ていた川の光景を思い出す。
流れてくる花。
花と共に沈んだ乙女。
俺はその乙女と同じ姉に引きずられたのだろう。
水の中のような愛情によって。




