「失敗は成功のもと」と言うけど、他人の金で夢を見た人間が言っていい言葉じゃない
はじめまして、野志田千亜です。
初投稿です。拙い文章ですが、よろしければ覗いていってください。
私のお仕事はケーキ屋さん。
子供の頃からの夢だったケーキ屋さん。
可愛いコックコートを着て、可愛いケーキを作るの。
それをお父さんが叶えてくれた!
チョー嬉しい!!
それでも仕事って大変。毎日がてんてこ舞いだったから、アルバイトを雇ってみたの。
でも、そのバイト、全然役に立たなくて、ため息出ちゃう。
私が「これが必要」って頼んだ材料、全然違うのを買ってくるの。
そのせいで私のこだわりのケーキが作れなくなって、お店の評判まで落ちちゃった。
何もかも、あのバイトのせいなのに、何の責任も取らないで辞めちゃった。
チョームカつく。
お陰でお店は閉店………。
チョー最悪。
でも、失敗は成功のもと、前向きにいこう!!
*
「──っていうのが、SNSに投稿されたメッセージです」
ここはとある地方の中小企業の休憩所。そこのベンチに腰掛けて、一社員の咲川美里乃は、同僚にスマホの画面を見せた。画面には、キラキラした絵文字とは裏腹に、呪詛のような他責の言葉が並んでいる。
「え……、何これ……」
同僚は引きつった表情で、スマホと美里乃の顔を交互に見た。
「ホント、何これ、ですよ……」
美里乃は深く、重いため息を吐き出した。
「これ、課長の娘さん?」
「そうですね……。今年、専門学校を卒業してパティスリーに就職したって聞いてたんですけど。すぐに辞めちゃったみたいで」
「でも、自分の店をオープンさせたんじゃなかった?」
「はい。課長が定年退職した時の退職金を全部つぎ込んで、自宅を改装して店にしちゃったんです」
「それで、ここに書いてある『使えないバイト』っていうのが……」
恐る恐る同僚が美里乃を見る。
「私です……」
「ええ!? 何であなたが!?」
「課長に頼まれたんですよ。娘が車を運転できないから買い出しに行けない、人手も足りない、美里乃さんは気が利くから助けてやってくれって。副業になればと思って引き受けたんですけど……まさか、あんなだなんて」
美里乃は遠い目をして続けた。
「免許は持ってるけど、完全なペーパードライバー。自分で買い出しいけないんです。なのに、日本屈指のケーキ激戦区のこの街で、修行もそこそこに店を開いちゃって……。案の定、お客さんの舌は肥えてるから口コミはボロボロ。でも彼女、自分のレシピが悪いとは微塵も思わないんです」
「どういうこと?」
「ケーキが売れないのは私の掃除が足りないからだとか、私が買ってきた食材の質が悪いからだとか、全部私のせい。予算も満足に渡されないのに『工夫して良いものを仕入れるのがあなたの仕事でしょ』って。ガソリン代も私の自腹ですよ?」
「……それは、あまりにもひどいわね」
「おまけに雇用契約書をお願いしても『お父さんのコネなんだから水臭いこと言わないで』ってスルーされて、結局お給料も未払いのまま。頭にきたから辞めて、証拠を揃えて労基署に通報してやりました」
美里乃はもう一度、スマホの画面を指で叩いた。そこには『何もかもあのバイトのせい』『責任も取らずに辞めた』という、現実をねじ曲げた投稿が躍っている。
「それで、逆ギレしてこの投稿です。人生なめてるというか、なんというか……」
「『失敗は成功のもと』って……、他人の金で夢を見た人間が言っていい言葉じゃないですよ」
失敗は成功のもと、ではあるのだが、まずは「責任」っていう言葉の意味を辞書で引いて、それから社会の底辺でレジ打ちの修行でもやり直してくればいい、と美里乃は思った。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




