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第一話 最新鋭軽巡

しばらく第三次ソロモン海戦より前の出来事が続きます。

 1942年(昭和十七年)4月30日

 この日、佐世保海軍工廠にて一隻の軍艦が竣工した。その名は「阿賀野」、阿賀野型軽巡洋艦のネームシップである。


 「阿賀野」は水雷戦隊旗艦を担う「乙巡」として設計・建造された。7,000トン弱の船体に15.2センチ連装砲を3基、61センチ四連装魚雷発射管を2基装備、速力は35ノットと駆逐艦並み、防御は15センチ砲弾相当、と水雷戦隊旗艦としては十分な性能を備えていた。


 しかし、水雷戦隊旗艦用軽巡の必要性を疑問視する声も多くあった。阿賀野型の建造が計画された第四次海軍軍備充実計画(④計画)では、水雷戦隊の中核を担う甲型駆逐艦の建造は3隻にとどまり、代わって艦隊防空を担う乙型駆逐艦が16隻計画されていたからだ。阿賀野型も建造中止ないし防空巡洋艦として建造すべきだとする意見もあった。


 しかしながら、阿賀野型の建造は実行されさらに建造スピードは早められた。これは、④計画で大きく割を食った水雷屋の声が反映された結果である。また、防空巡洋艦としての建造は長10センチ高角砲や九十四式高射装置など装備の不足により却下された。


 こうして建造された「阿賀野」は第一航空艦隊第十戦隊に編入され、ミッドウェー海戦に臨む……



 6月5日 10時00分

 青々としたミッドウェーの空、そこに残るいくつかの黒煙がここが戦場であることを示している。

「敵雷撃隊、撤退していきます」

 「阿賀野」艦橋に報告が入る。十分前、敵雷撃隊(TBDデバステーター14機)が襲来したが、直掩の零戦隊に捕捉され、攻撃もままならず撤退していった。

「しかし、我々は見るだけですか。張り合いがありませんね」

 艦橋に詰めている誰かが言った。「阿賀野」が旗艦を務める第十戦隊は空母の護衛部隊である。編成は以下の通り。


 第十戦隊 司令官:木村進少将

 【軽巡洋艦】「阿賀野」(旗艦)

  第四駆逐隊【駆逐艦】「嵐」「野分」「萩風」「舞風」

  第十七駆逐隊【駆逐艦】「磯風」「浦風」「浜風」「谷風」

  第六十一駆逐隊【駆逐艦】「秋月」「照月」「涼月」「初月」


 「阿賀野」の他、陽炎型8隻と秋月型4隻が所属している。「嵐」が米潜水艦を攻撃したが、今のところ「阿賀野」に出番は無かった。

「対空警戒を厳にせよ。敵さんはまだまだ来るぞ」

 十戦隊司令官木村進少将が厳かに言った。元々、この作戦の主眼はミッドウェー島の攻略にあり、敵艦隊の撃破は二の次だと考えられていた。アメリカの空母は出てこないという意見もあったぐらいだ。しかし敵空母は出現し、今や空母同士の戦いと化している。


 しかも、日本側は遅れをとっている。アメリカ側はすでに攻撃隊を放っている一方、こちらは今だ攻撃隊を発進するに至っていない。木村は(一航艦司令部は一体何を手間取っているのか)と攻撃隊の発進を今か今かと待っていた。


 10時10分

 再び敵攻撃隊(TBD12機、F4Fワイルドキャット6機)が襲来した。しかし、これもまた零戦隊の手厚い歓迎を受け、その多くが撃墜されていく。

「またも見ているだけですか。これでは、我々は物見遊山に来たとからかわれてしまいます」

 再び誰かが愚痴を漏らした。今のところ「阿賀野」はほとんど活躍らしいことをしていない。木村も座して待つだけの現状に飽き足らず、口を開いた。

「電測、何か異常はないか」

 「阿賀野」には21号電探が配備されている。空母の護衛を行うということで、実戦での試験も兼ねて装備されたものだ。その性能は、すでに実用試験で証明されている。

「電測より艦橋、異常ありません」

 やはり敵の姿はない。このまま、戦闘は終わるのだろうか……


 10時18分

 恐れていたことが起きた。電測員が叫ぶ。

「電探に感あり! 高空に敵機!」

 「阿賀野」艦橋は騒然とする。ついに敵が来た。さらに、敵機は高空にいるという。それを聞いたとき、木村は真っ青となった。

(いかん! 直掩の零戦は低空にいる、空母が危ない!)

「一航艦司令部に通信!『敵機接近』とな! 発光信号も送れ!」

 通信員が大慌てで動き出す。さらに木村は続けた。

「総員、対空戦闘!」


 10時23分

 敵艦爆隊(SBDドーントレス47機)が攻撃を仕掛けてくる。直掩隊も奮戦するも、攻撃阻止には至らない。敵機が次々と急降下体勢に入る。

「敵降爆、『加賀』に急降下!」

「対空戦闘、射撃始め!」

 十戦隊の各艦が攻撃を開始する。秋月型の長10センチ高角砲、「阿賀野」の長8センチ高角砲、陽炎型の12.7センチ砲が火を噴いた。

 何機かが煙を出しながら真っ逆さまに落ちていく。しかし、残りが爆弾を投下する。回避行動を行う「加賀」、だが爆音とともに炎が上がった。

「『加賀』被弾!」

 見張り員が悲鳴を上げる。眼前では、開戦以来機動部隊を支えた空母が燃えていた。

 「加賀」に命中した爆弾(3発)は、攻撃機に搭載された爆弾や魚雷、燃料を燃やし、誘爆を引き起こした。瞬く間に「加賀」は炎に包まれる。


「『蒼龍』に敵機!」

 茫然としている暇はなかった。「蒼龍」に迫る敵SBDの編隊に高角砲が向けられる。

(弾幕が薄い、高角砲の数が足らんようだ……)

 上空を見ながら木村は思った。陽炎型の主砲は平射砲であり、強力な長10センチ高角砲を装備する秋月型は4隻しかいない。「阿賀野」にも長8センチ高角砲があるが、連装2基4門のみと非常に貧弱であった。しかし、それでも今は敵機を墜としてくれるよう祈るしかない。


 「蒼龍」の周囲に次々と水柱が立つ。攻撃を回避している証拠だ。しかし、最後のSBDが離脱した瞬間、艦上に閃光が走った。爆弾が命中したのだ。

 しかし、爆弾が命中したのは飛行甲板の先端であった。飛行甲板に大穴が空き、艦載機の発艦が不可能となるものの、「加賀」と同じ目にあうことは避けられた。


 今度は「赤城」にSBDの魔の手が伸びる。

 しかし、その数は3機のみ。2機が撃墜され、残る1機の攻撃も命中しなかった。


 敵機全機離脱、の報告が挙げられたとき、木村は大きく息を吐いた。一航艦は空母全滅という最悪の事態を回避することに成功したのだ。

軽巡洋艦「阿賀野」(ミッドウェー海戦時)

基準排水量:6,650トン

満載排水量:8,500トン

全長:174.5メートル

全幅:15.2メートル

速力:35.5ノット

兵装:15.2センチ連装砲3基

   長8センチ連装高角砲2基

   61センチ四連装魚雷発射管2基

   25ミリ三連装機銃2基

   13.2ミリ連装機銃2基

   爆雷18個

航空艤装:水上偵察機2機

     カタパルト

電探:21号電探1基

同型艦:「能代」他2隻(いずれも建造中)

 日本海軍の新鋭軽巡。水雷戦隊旗艦として十分な性能を持ち、今後の活躍が期待されている。一方、航空機が戦局を左右する重要な存在となりつつある昨今では、その存在に疑問を持つ者も多い、

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