プロローグ 鉄底海峡
この作品は拙作「貧者の水雷戦隊」と同一の世界観です。よろしければそちらもご覧ください。
1942年(昭和十七年)11月13日 1時00分
夜の闇に覆われたソロモンの海、そこを進む多数の艨艟。日本海軍挺身艦隊である。彼らの目的はジャングルに潜む米軍部隊への艦砲射撃、翌日に控えたガ島への陸軍第三十八師団及び各種物資の揚陸のお膳立てであった。
同年8月より始まったソロモン諸島ガダルカナル島をめぐる戦い、それに終止符をつけるべく、挺身艦隊は進む。
「……まもなく、ガ島です」
第二水雷戦隊司令部が緊張に包まれる。二水戦司令官田中頼三少将が口を開いた。
「攻撃は問題ないだろう。地上への艦砲射撃の効果はすでに証明されている」
ちょうど一カ月前の10月13日、戦艦「金剛」「榛名」(第三戦隊)がガ島ヘンダーソン飛行場への艦砲射撃を敢行、飛行場の完全破壊に成功している。二水戦も護衛兼警戒部隊として参加していた。
「しかし、陣形が乱れている。このままでは先頭の『比叡』が真っ先に狙われるだろう」
挺身艦隊は道中スコールに遭遇、砲撃困難と判断し一時反転するなど陣形に混乱が生じていた。そもそも挺身艦隊自体寄せ集めであり、統一した指揮は困難であったのだ。
二水戦司令部は電探によって艦隊陣形に乱れが生じていると知り、挺身艦隊司令部に陣形を修正するよう意見具申を行った。しかし、今更陣形の修正は困難であると判断された。夜間での陣形修正は衝突等のリスクが大きいからだ。
田中はせめて前衛艦が必要だとして、自ら艦隊の先頭に立とうとした。二水戦旗艦には電探が搭載されており、敵の早期発見が期待できたからだ。
1時22分
異変が起こる。電探が艦影を捉えたのだ。
「電測より艦橋、前方に複数の艦影あり! 距離270(27キロメートル)!」
艦影を捉えたのは二式二号電波探信儀(通称、21号電探)、今年五月に採用されたばかりの最新装備である。対空警戒レーダーではあるが、水上艦艇に対しても一定の効果が見込まれていた。カタログスペックでは70キロメートル先の航空機を探知可能であるが、今回は27キロでの探知である。この電探が対空用であるためか、それとも地形や運用上の問題か。しかし、今は関係ない。
「総員、合戦用意! 司令部にも連絡急げ!」
この日、ソロモンの海で何度目かになる海戦が勃発した。そしてこれは、二水戦旗艦「阿賀野」にとって初めての水上戦であった。
この時の日米双方の戦力(支援部隊等除く)は以下の通り。
日本海軍
挺身艦隊 指揮官:阿部弘毅中将(第十一戦隊司令官)
第十一戦隊【戦艦】「比叡」「霧島」
第二水雷戦隊【軽巡洋艦】「阿賀野」(旗艦)
第十五駆逐隊【駆逐艦】「黒潮」「親潮」「早潮」
第十六駆逐隊【駆逐艦】「雪風」「天津風」
第二十四駆逐隊【駆逐艦】「海風」「江風」「涼風」
第四水雷戦隊【軽巡洋艦】「由良」
第二駆逐隊【駆逐艦】「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」
第二十七駆逐隊【駆逐艦】「夕暮」「白露」「時雨」
アメリカ海軍
第67任務部隊第4群 司令官:ダニエル・キャラハン少将
【重巡洋艦】「サンフランシスコ」「ポートランド」
【軽巡洋艦】「アトランタ」「ジュノー」「ヘレナ」
【駆逐艦】8隻




