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喫茶眠兎には、今日も昼下がりの穏やかな日差しが差し込んでいる。まどろは定位置で突っ伏し、いずみはそれを眺めながらノートを整理していた。
「結局、あのタコ姫騒動以来、剛田さんのたこ焼き屋は大盛況らしいですよ。『金のタコ焼き』なんて新メニューまで作ったとか」
いずみが報告しても、まどろの返事は寝息だけだ。相変わらずどんな夢を見ているのやら。
「まあ、平和なのが一番ですけどね」
マスターが穏やかに微笑む。この店に集まる事件は、どれもこれも砂糖ひとさじ分の甘さと苦笑いでできている。命の危険もなければ、世界の危機とも無縁だ。そこには名探偵といわれる存在も必要はない。ただの寝言が愉快な探偵がいるだけだ。けれど、この町の人々にとっては、それが一大事であり、日常のかけがえのないスパイスなのだ。
「……ふわぁ」
まどろが大きくあくびをして、ゆっくりと上体を起こした。ようやくの起床である。
「おはようございます、夢野さん。もう夕方ですよ」
「……ああ、よく寝た。……チーズケーキ、まだある?」
いずみとマスターは顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「ありますよ、夢野さん。今日は花井さんが差し入れてくれた新作です」
マスターが冷蔵庫からケーキを取り出す。まどろの目が、ほんの少しだけ輝いた気がした。
この町には、眠りを愛する探偵がいる。彼は事件を解決するために眠るのではない。平和な世界で安心して眠るために、ほんの少しだけ謎を解くのだ。
「……いただきます」
フォークを手にしたまどろの横顔は、やはりどこか眠たげで。そんな彼を見守りながら、いずみはノートを閉じた。表紙にはマジックでこう書かれている。
『居眠り探偵の事件簿 ~解決済み(ただし二度寝を含む)~』
今日もまた、喫茶眠兎の壁掛け時計が、のんびりとした時を刻んでいく。コーヒーの香りと、小さな謎と、そして穏やかな寝息に包まれて。




