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鬼と偽りの花  作者: 香奈
3/6

残された影

引っ越しの為、間が空いてしまいました( ̄▽ ̄;スミマセヌ

多忙でまた少し間が空くと思われますゴメンナサイ_|‾‾|○¡|||

挿絵(By みてみん)


初陣から三ヶ月、あれから小さな仕事に同行しながら五月は空き時間に教習所に通っていた。

「お、天宮も今日の授業取ってんの?」

「おはよう浜岡さん

うん、今日は珍しく一日空いてるからフルで入れてるんだ」

同じように教習所に通う数人とも仲良くなって会う度にこうして話したり遊びに行くようにもなり、なかなか楽しく教習所通いを満喫している。

「じゃぁ、今日は夜間の路上も行くのか?」

「そのつもり‥だからこっちで晩御飯も食べて帰ろうかと思ってるんだ」

「それなら田中や市原も来るって言ってたから皆で飯食いに行かねぇか?」

「良いね!じゃぁ、その後、またカラオケでも行く?」

そんな会話をしながら二人で教習所に入って行くとそれぞれの教室へ別れていく。

それから夜間の路上が終わる頃、待ち合わせて何時も皆で行くファミレスへ食事に出かけた。皆でわいわい話しながら食事をしていると少し遅れて一番初めに声をかけてきた浜岡修吾はまおかしゅうごが現れる。

「浜岡さん遅いよ‥もしかして家に帰ってたの?」

仲間内の一人である市原いちはらまりあがフォーク片手にそう聞いた。

「ああ、うん‥ちょっとな‥」

「もしかして例のメンヘラ彼女っすか?」

少し口籠ると飛び入り参加の新谷浩平しんたにこうへいが茶化すように聞く。

「あいつとはもう別れたよ

って言うか好きな奴出来たってフラれた‥まぁ、こっちとしても何時、別れを切り出そうか悩んでたとこだったから助かったけどな

それより引っ越したんで今そっちの手続きのが大変でさ‥」

「え、もう引っ越したの?

浜岡さんまだ引っ越したばかりじゃなかったっけ?」

諦めたように浜岡が説明すると五月が突っ込んだ。

「実は前に住んでた所が別れた彼女の紹介してくれたとこだったから居辛くてまた引っ越したんだよ

どうせ家賃とかしんどかったし今度は格安の所に引っ越したんだ」

苦笑しながら返すと浜岡は適当にメニューを見ながら食べたい物をチョイスして注文する。

「それは大変だったねぇ」

「それよりこの後のカラオケどうする?

何時もの所、今日は週末だからいっぱいかもよ?」

田中拓哉たなかたくやがしみじみ言うと空気を読まない新谷がワクワクした様子で皆に聞いた。

「皆、バイクなんだったらちょっと離れてるけどオケヤ行こうよ

あそこならきっと入れるっしょ?」

「オケヤ行くなら美佳も誘って良い?

ついでに私、泊まらして貰えるし‥」

「僕は構わないよ」

「おう、呼べ呼べ」

そうやってワイワイしながら皆で食事を終えるとそれぞれバイクに乗って目的地へ向かう。現地へ着くと桃園美佳ももぞのみかが皆を待っていた。

「連絡貰って速攻、受け付け済ましてギリで部屋押さえたよ!」

「さっすが気が利くじゃん」

桃園が親指を立ててドヤ顔で言うと市原はよくやったと笑顔で返す。受付周辺にはあぶれた者達が部屋の空きを待っていて皆はそれを横目に見ながら部屋に入って行った。

「何で今日はこんなに込んでんの?

何時もは週末でも此処ってそんなに込んで無いよね?」

「だって夏休みだもん仕方ないじゃん?

私らだって夏休みに入ったからこうして昼間から通ってるんだし‥」

五月が聞くと桃園は答えた。

「そっか‥学生はもう夏休みだもんな‥」

年長の浜岡が遠い目をしながらそう返す。市原と桃園はまだ高校生でそれ以外、学生なのは大学生の田中だけ。後は一応、社会人である。でも同じ教習所へ通う仲間でもあるので堅苦しい敬語は抜きにこうして普通に話していた。皆でわいわい楽しく歌って満足するとバイク置き場で少し駄弁り始める。

「天宮君もうちに泊まってきなよ」

「そう言う訳にはいかないってば‥」

「じゃぁ、俺が代わりに泊まって行こうか?」

「普通にキモいんですけど‥天宮君なら私らと居ても違和感無いもんね」

女子高生二人は五月がお気に入りで何かにつけて誘うように揶揄うが何時も新谷がそれに首を突っ込んで煙たがられた。

「確かに初め天宮見た時は女の子だと思ったよな」

「俺も‥実習の時、組まされなかったら気付かなかったと思う」

浜岡と田中も苦笑する。

「それよりこの後さ、皆で心霊スポットでも行かない?

俺、とっておきの場所知ってるんだよね」

新谷がやはり空気を読まずにそう言った。

「なに言ってんだよ‥桃園達は未成年なんだしもう帰んないとヤバいだろ?」

「固い事言うなよ、夏休みなんだし良いじゃん?」

浜岡が呆れると新谷は食い下がる。

「面白そう!」

「ダメだってば‥僕もあんまり遅くまで出歩くなって先生達に言われてるし‥」

「私も遠慮しとくー‥美佳、あんた明日は朝からバイトじゃん?

それにあんたが行ったら私が泊まれないっしょ?」

桃園は乗り気だが五月と市原はたいして興味無さそうに返した。

「俺もそういうのは良いかな‥とりあえず課題が有るから帰るよ」

「って事で解散だな」

田中も返すと浜岡は困ったような顔で新谷を見る。

「何だよ、付き合い悪いな‥じゃぁ、もっと早い時間に今度行こうぜ」

面白く無さそうに新谷はそう言って拗ねたような顔をした。そして皆は別れを告げると大人しく解散する。五月はバイクに乗ると急いで帰路に着いた。家に戻ると征嗣に気付かれないよう忍び足で廊下を歩く。

「遅かったな‥」

「え?ああ‥うん、皆でご飯食べてカラオケに行ってたんだよ」

「別に遊ぶなとは言わんが遅くなるなら連絡くらい入れろ」

「ごめんなさい‥」

急に後ろから声をかけられて五月は驚きながら困ったように説明すると征嗣は呆れたように溜息を吐いた。

「とにかく風呂入って今日はもう寝ろ‥明日は夜に仕事が入ってるから教習所も午前中で帰って来て仮眠を取っておけよ」

「分かった‥おやすみなさい」

征嗣が言うと五月はダッシュで部屋に戻る。そして言われたように風呂の用意そして浴室へ向かうとざっと身体を流して湯船には浸からずに風呂を済ませた。そしてアイス片手に部屋に戻ると教習所の時間割を確かめる。

 〈明日の午前中に受けられるのは一コマだけか‥しかも中途半端な時間帯だな‥〉

そう考えながらスマホで予約を入れると外を眺めた。今日も綺麗に星空が見えて五月はそれを眺めながらアイスを齧る。

 〈もうすぐ卒業試験だし明日はちょっと早めに行って勉強しとこうかな‥〉

ぼんやり思いながらアイスを食べ終わると五月は眠りに就いた。


翌日、五月は授業の一時間前に教習所に入って中の喫茶店で試験の為の勉強をする。

「何だ、今日も来てたのか?」

「浜岡さんもこれから?」

「俺は今さっき終わってちょっと時間潰しにな‥そっちはこれから授業か?」

「うん、もうすぐ卒検だから勉強しとかないとと思って‥一発で受からないと先生達のプレッシャー凄いから‥」

話ながら浜岡が五月の前に腰を下ろすと店員が注文を取りに来てアイスコーヒーを頼んだ。

「そういや天宮って神主修行中なんだったよな?」

「うん、そうだよ

お爺ちゃんの神社継がなきゃいけないから住み込みで先生達に色々教わってるんだ」

浜岡が聞くと五月は鬼狩の事を伏せて返す。それを聞くと浜岡は少し考えながら宙を見上げた。

「少し相談なんだけどさ‥お祓いってどれくらいかかるか分かるか?」

戸惑いながら浜岡が切り出すと五月は少しキョトンとしたような顔をする。

「お祓いって‥何かあったの?」

少し興味深げに五月は聞いてみた。

「気のせいかもしれないんだけど家が気持ち悪くて‥変な音がしたり人の気配がしたりするんだ

少し古いアパートだし住み始めてまだ一週間程度だから始めは気のせいかと思ってたんだけどやっぱり可笑しいんだよな」

戸惑いながら言い難そうに浜岡は説明する。

「うーん‥お爺ちゃんに聞いた限りそういうのってピンキリらしいからなぁ‥

だいたいの神社はお気持ちでって感じみたいだけど‥地鎮祭とかそういうのは規模によってある程度、金額を提示してくれると思うけど個別のお祓いに関しては管轄の神社に直接聞いてみないと分かんないよ?」

五月は祖父から聞いていた話をそのまま伝えた。実際問題そう言った相談料の話を詳しく聞いた事が無かったのである。

「そうか‥」

「力になれるか分からないけど僕が見てみようか?」

肩を落とし俯きがちに浜岡が言うと五月は聞いてみた。

「頼めるか?」

それを聞くと浜岡は助かったとばかりに顔を上げて食い付く。

「えと‥見るだけしか出来ないけどそれでも良い?」

五月は不味かったかなと思いつつそう釘を刺すが浜岡はうんうんと何度も頷いた。

「俺んちって此処からバイクで20分くらいなんだけど今からじゃ次の授業に間に合わないかもしれないから終わってからでどうだ?」

「今日は夜にちょっと用事があるから少しだけなら良いよ」

「それでも良い!

俺、平日仕事で時間なかなか取れないからさ‥今日を逃すと一週間先になっちゃうんだよ」

浜岡が余りにも必死な感じなので五月は諦めて了承する。

午前の授業が終わり、二人は浜岡のアパートまでバイクで向かった。アパートの前にバイクを停めてヘルメットを取ると五月は此処だと言われたアパートを見上げる。

 〈うわ‥中に入んなくても何か居るの分かっちゃった‥〉

五月は引き攣った笑みを浮かべながら建物を見た。

「どうかしたのか?」

「え?いや‥古いアパートって言ってたからもっとボロいかと思ったけど結構、綺麗だなって思って‥」

浜岡が動かない五月に聞くと誤魔化すように微笑んで返す。

「ああ、元はどっかの会社の独身寮だったらしくてさ‥其処が潰れたか移転したかで手放した後、今のオーナーが賃貸向けにいろいろ改装したんだって‥

だから家賃の割に中とかもリフォーム済みで綺麗なんだよ

アパートって言うよりハイツとかそういうのに近い感じだし俺は結構、気に入ってるんだよな」

浜岡が説明しながら入って来るように促すと五月は浜岡に付いて行った。三階建てで作りもしっかりしている。二階へ上がってすぐの部屋が浜岡の部屋だった。

「どう?何か居そう?」

自宅のドアを開けて恐々聞くと浜岡は五月の表情を窺う。

「別にこれと言ってよく分かんないかな?」

五月は困ったように微笑んで返すが通路や部屋の奥から何かがこちらを見ていた。

「まぁ、とりあえず中入って見てくれよ」

浜岡はそう言いながら部屋に入るように促すと五月も続いて足を踏み入れる。

 〈これって浜岡さんの部屋って言うより建物全体って感じだな‥祓うのは簡単だけどそれやっちゃうと不思議ちゃん認定されそうでやだな‥〉

五月は悶々と考えながら案内されるまま奥まで入って行った。

「どうかな?何か居る?」

再度、浜岡は不安気に聞いてくる。

「大丈夫なんじゃ無いかな‥引っ越しで大変だったから過敏になってるだけだと思うよ?

ほら、怖い怖いって思ってると揺れるカーテンだって幽霊に見えちゃうじゃん?

アレなんじゃない?

もし気になるなら塩でも盛って様子見れば良いと思う‥盛った塩に変化が無ければ何にも無いっていう事だからね」

五月は苦笑しつつ説明し、建物に居る雑多な霊をあちこち見て周る振りをしながらこっそり片付けた。

「そっか‥そうだよな‥確かにちょっと過敏になってたかも‥

ありがとう、何か天宮にそう言って貰えて安心したよ!」

浜岡自身に影響していた負の流れも無くなったお陰か明るくそう礼を言う。五月はその表情にどういたしましてと返しながら上手く誤魔化せたと微笑んだ。それから五月は浜岡に別れを告げるとまたバイクで自宅に帰って行った。


翌週末の土曜日、五月は朝一に受けた卒検を無事に合格してほくほく笑顔で書類を受け取りに窓口へ行く。すると通常授業を受けに来た市原にばったり出くわした。

「何か久しぶりだね」

「ちょっと今週は昼からとか夜に出歩く事が多かったんで午前中しか授業受けに来なかったし皆となかなか会えなかったもんね」

「卒検、受かったの?」

「うん、これでもう皆と頻繁に会えなくなるから寂しいけどまたカラオケとか行こうね」

「そっか‥じゃぁ、お祝いにお昼奢るから食べ行こうよ

私、これからちょっと時間開くから昼食べ行くのよ」

二人で話しながら食堂の方へ行く。よくあるセルフの食堂も教習所には完備されていて二人は其処でそれぞれ好きな物を注文した。そして二人で仲良く席に着くと食事を始める。

「そう言えばさぁ、この間の日曜日に美佳が浜岡さん達と遊びに行ってたみたいなんだけどそれから可笑しいんだよね

連絡しても返事無いから家に行ったんだけど向こうの親に具合悪いからって追い返されちゃった‥バイトも辞めたみたいだし此処にも来てないし‥

一緒だった浜岡さんも新谷さんも来てないから何あったか聞けないしさぁ‥」

溜息交じりに市原はそう言うとハンバーグを突く。何時ものように平然として見えるが何だかんだかなり心配しているようだ。

「そうなんだ‥それは心配だね」

「まぁ、美佳の気分屋は何時もの事だからそんなに心配はしてないんだけどね

でもバイトいきなり辞めるような奴じゃ無いから気になっちゃってさ‥今日の晩、もう一回、様子見に行こうかと思ってんだ」

五月も少し心配そうに返すと市原はそんな空気を換えるように即座に何時もの軽い雰囲気に戻る。それから市原は話題を変え、面白可笑しい話をして五月の笑いを取りながら二人で食事を終えた。

「また何かあったら電話頂戴、僕で良かったら力になるからね」

「ありがとう、でもきっと来週になったら皆とも会えるだろうしカラオケの誘いになるかも‥」

五月が言うと市原は強がるように笑顔で返し二人は別れた。


翌週早々に五月は無事に車の免許を取得して練習がてら唯天の運転手を任される。少し遠方だったが殆ど高速道路を使用しての往復だったので時間はそれほどかからなかったが初めての運転でかなり五月は緊張していた。仕事を終え、夜明けと同時に無事に帰宅すると大きな溜息を吐く。

「いきなり遠方だったから疲れたろう?

俺はこのままちょっと三日間ほど出張に行く

その間、車は置いて行くから近所で練習してれば良い」

「え?帰って来たばっかりなのにもう行くんですか?」

帰ってきてすぐにバイクに乗り換えると唯天がそう言ったので五月は驚きながら返した。

「ああ、急ぎらしいからな‥何かあったら連絡してくれ」

「分かりました、気を付けて‥」

唯天がエンジンをかけながら言うと五月は大変だなと苦笑して走り去る唯天を見送る。バイクの音が遠ざかって行くと五月は溜息交じりに征嗣と家に入った。

「朝ごはん食べたらお風呂入って仮眠取るから昼からちょっとドライブに付き合って貰って良い?」

「ああ、構わんよ」

五月は言われたようにしっかり練習しようと征嗣をドライブに誘う。それから朝食を取り五月はサッと身体を流してベッドに入った。


昼食後、五月は征嗣を伴いドライブに出る。何時もの教習所で走っていたコースではなく少し離れた街中へ入り、ショッピングセンターの駐車場に車を停めた。

「ちょっと休憩‥」

「まだ少し肩に力は入ってるようだがだいぶ慣れて来たな」

「うん、ちょっといろいろ感覚が掴めて来たかも‥基本的にはバイクとそんなに変わんない感じだね」

二人で話しながら車を降りると喫茶店に向かう。ようやく一息入れてお茶を飲んでいると五月の電話が鳴った。

『あ、天宮君?

ちょっと相談したい事があるんだけど‥時間少し作れないかな?』

電話の主は市原。

「良いよ、実は今、丁度ドライブがてら教習所の近くで練習してるんだよね

あ、先生も一緒なんだけど良いかな?」

『無理言ってるのはこっちだから良いけど‥って言うか迷惑じゃない?』

「それは大丈夫‥それより何処行けば良い?」

『じゃぁ、何時ものファミレスに来てくれないかな?』

「分かった‥今から行くから20分もかからないと思う」

『ごめんね』

「良いよ良いよ、じゃぁ、また後で‥」

そう話して電話を切る。

「用事なら俺は先に家に戻っていようか?」

「了解貰ってるから大丈夫だよ」

征嗣が聞くと五月は返しながら席を立った。それから二人はもう一度、車に乗り込んで行き付けのファミレスへ向かう。

 〈あれ?田中さんのバイクもある‥〉

駐車場に車を入れてファミレスに入りしな市原のバイクの隣に田中のバイクもあった。五月は征嗣と共にファミレスに入ると二人が居る席を見つけてそちらへ歩を進める。

「お待たせ」

「ああ、ごめんね急に‥」

五月が言うと市原は征嗣をチラッと見てから五月に返した。

「僕の先生の永藤先生‥こっちが何時も話してる市原さんと田中さんだよ」

五月はお互いを紹介して市原の隣に腰を下ろし、征嗣は田中の横に腰を下ろす。紹介されると市原達は征嗣に軽く会釈した。

「それで‥相談って何?」

五月が聞くと市原と田中は少し顔を見合わせて困惑する。

「俺の事は居ないモノとして話してくれれば良い」

征嗣は気を回してそう言った。

「そう言う事じゃ無くてその‥何から話したら良いのかなって思って‥」

「ちょっと突飛な話過ぎて私らも混乱してるって言うか‥」

田中がそれに返すと市原も被せる様に困惑気味に答える。

「一体どうしたの?」

「実は美佳達の事なんだけどさ‥」

五月がキョトンとしながら聞くと市原が話し始める。

「先週話した時に美佳の様子が可笑しいって言ってたじゃん?

あれから浜岡さんも新谷さんも教習所に来てないって話‥あれ、どうも皆で心霊スポットに行ってかららしいんだよね」

「実はその日、俺も誘われたんだけど興味無いって断ったんだよ

でも新谷さんに借りてた本があったから月曜日の朝に返しに行ったんだ‥仕事に出るの9時前くらいだって言ってたから間に合うように8時過ぎくらいに行ったんだけどさ

そしたら新谷さん、チェーン閉めたまますっごい怯えるようにドア開けて何も言わずに本受け取ってすぐに閉めちゃったんだよね

どうしたのってドア越しに聞いたら何でもないって追い返されてちょっと気分悪いなって思いながら帰ったんだ

けど、それから何時もの授業も来ないし気になって連絡したんだけど返事が無くて‥具合でも悪くしてるんじゃないかって思ってまた家に行ってみたんだけど反応なくてさ

郵便物も貯まってるみたいだったし可笑しいなって思ってたら桃園も可笑しいって言うから二人で話してたんだよ

そんで浜岡さんなら何か知ってるんじゃないかって思って浜岡さんに連絡してみたら浜岡さんも返事が無いし‥

俺も市原も家知らないから連絡の取りようが無くって浜岡さんと仲良かった安藤さんって人に聞いたら浜岡さん‥数日前に自殺したんだって‥

安藤さんって仕事でも浜岡さんと顔見知りだったからそういうのすぐに情報周って来て逆に何が有ったんだって聞き返されちゃったんだよな

それで付き合ってる彼女に新谷さんが言ってた心スポの話聞いてみたんだ

俺の彼女ってオカルト好きだから知ってるかもって思って‥そしたらやっぱり行ったら自殺やら可笑しくなる人が多いって言われてるスポットだったんだよ

そういうの凄くバカらしいって思ってたけど実際、身近であると何か全て迷信って思えなくて‥それで天宮って神主の勉強してるって言ってたしそういうの何か分からないかと思ってさ」

市原から始まり田中が説明していった。それを聞くと五月は征嗣と顔を見合わせる。

「うーん‥何て言うかさ‥お爺ちゃん曰く心霊スポットって神社とかと逆の作用があるらしいんだよね

勿論、全部が全部そういう場所じゃ無くって尾ひれがついてる場所もあるらしいけど‥だからそういう場所には行くなってお爺ちゃんや先生達からも言われてて僕もそういうのはよく分からないんだ」

至極、言い難そうに五月が返した。

「そっか‥ごめんね、下らない事聞いちゃって‥

でも美佳が心配でさ‥あれからずっと返事ないし家行っても会わせて貰えないから‥」

気落ちしながら市原が溜息を吐く。

「そのスポットの場所は分かるのか?」

「はい、俺は興味無いですけど有名な所らしくて彼女が知ってました」

征嗣が二人に聞くと田中が答えてスマホで詳しい場所を教えてくれた。

「何にも出来ないけどこれ桃園さんに渡したげて‥うちの神社のお守りなんだけど‥」

五月はそう言うとポケットから鍵を出し、其処に付けていたお守りのストラップを市原に渡す。

「ありがとう‥早速、美佳に持って行ってくる」

市原は大事そうに受け取ると少し微笑んで五月に礼を言った。それから五月達は二人と別れてファミレスを出る。

「どう思う先生?」

「鬼は関係して無さそうだが何かしら居る事は確かだろうな‥丁度、良い勉強にもなるだろうから行ってみるか?」

シートベルトをしながら五月が聞くと征嗣はナビを設定し答えた。それから二人でその心霊スポットに向かい、示された場所へ到着すると五月はボロボロの建物傍に車を付ける。

「駐車場はそんなに広く無さそうだけどお店っぽいね‥道の駅か何かかな?」

「元々、飲食店だったんだろうな‥あそこに看板が崩れた後がある」

辺りを見ながら五月が言うと征嗣は道路際の崩れた看板を指しながら返した。昔はそれなりの駐車場だったんだろうなと言う痕跡はあるが建物へ向かう獣道以外、そこそこ高い草が生えているので範囲は詳しく分からない。今、歩いている獣道も恐らく肝試しに来た輩が付けたものだろう。道をまっすぐ行くと建物傍に出て二人は辺りを窺った。

「浮遊霊とか地縛霊っぽいのはいるけど大した事無いね

自殺に追い込まれるような悪さ出来る奴は居ないよ」

五月はそう言うと其処に居る者達を一掃して場を清める。

「本命は此処じゃないのかもしれないな‥」

征嗣はそう言いながらもう少し範囲を広げて気配を探り始めた。

「あれ?何か道が出来てるっぽい?」

それを見ていた五月が少し難しい顔でそう呟く。

「道?」

「うん‥微かだけど此処と何処か‥こっちの方‥」

征嗣が聞くと五月は返して建物の横に続く微かな獣道を進んで行った。少し進むと獣道は消えてしまったが五月はどんどん草を掻き分け進んで行く。

「在った!コレだよ!」

五月は嬉しそうに小さな祠を見つけて言った。祠の扉などは壊れて朽ちかけている。

「酷い‥まだ此処までちゃんと道が在った時に誰か悪戯したんだね‥」

五月はそう言いながら傍に屈んでその祠を撫でた。

「じゃぁ、一連の怪異は此処に祭られてた神のせいか?」

「多分ね‥残留思念的なモノしか無いし、もう此処には居なくて元居た場所に帰っちゃったみたいだけど道が出来てるから当てられちゃったんだと思う

さっきの建物の持ち主一族が何処かから神様を連れて来て祀ってたんじゃないかな?

でも此処を知ってる人が居なくなって放置されてしまったんだよ

だからまだ道とか流れが僅かに生きてて冷やかしだったり悪さしようって輩が来ると自動的に守る力が作用して当てられたんじゃないかな?

あ、自動って言うよりお遣い的な感じのモノが居るのかも‥」

五月は建物の方を眺めながら立ち上がって説明していく。

「正解、よく其処まで読み取れるようになったな」

ニッと微笑んで征嗣が返すと五月は照れ笑いした。最近、征嗣はこうして五月の力を試すような質問が多い。

「じゃぁ、そのお遣いを居るべき場所に返して道の処理と此処から出てる影響をシャットアウトするね」

五月は返して印を組むと処置をして溜息を吐く。

「これでもう影響無いと思うけど新谷さんはもう死んじゃってるだろうね」

「話を聞く限り生きては無いだろう‥まぁ、自業自得だがな‥

浜岡という奴が自殺したのも此処の影響だけじゃ無いんだろ?」

「うん、ダメな所に住んでたんだけどそれは僕が何とかしたんだ

でも元カノの生霊憑けてたからね

一応、その時に憑いてるのは祓ったんだけどそもそも浜岡さんってその人以外にもいっぱい憑けてたからキリが無かったと思う

此処が引き金にはなったんだろうけどいずれ自殺したんじゃないかな?

優しいだけの優柔不断な人ってそういう所あるからさ」

「祓う前に人間性を変えないとって奴だな」

「うん、でも人ってそんな簡単に変われないからね

僕だってずっと付き合ってく訳じゃ無いから面倒見切れないし‥それに何度かアドバイスしてるのに聞いてくれなかったんだもん

その点では一見チャラい市原さんとか桃園さんは真摯に聞いて実践してくれてたからね

だから桃園さんだって可笑しくなる程度で済んでるんだと思う」

二人で話しながら戻って来ると車に乗り込んだ。

「せっかくだからこのまま海の方を走って帰ろうよ先生」

「お前が疲れて無いならそれで構わんよ」

シートベルトをしながら五月が言うと征嗣は微笑んで返し、それを聞いて五月はやったと答えて嬉しそうにエンジンをかけた。

海沿いを走り、適当な場所に車を停めると二人は車を降りて浜辺を散歩する。暫く談笑しながら歩き、二人でジュース片手に沈む夕日を眺めながら防波堤に腰を下ろした。

「ねぇ、先生‥先生は初代・殺鬼の事が好きだったの?」

不意に会話が途切れると五月は聞いてみる。

「いきなり何だ?」

征嗣は驚いたように聞き返した。

「実はさ‥初陣で意識を失った時に先生の過去を見たような気がしたんだ

ただの夢だったのかもしれないんだけどずっと気になってて‥その後もちょいちょい似た様な夢を見るしさ」

視線を夕日に置いたまま五月が答えると征嗣は少し驚いたような顔をしながら五月を見てすぐに視線を夕日に戻す。

「そうだな‥大事な弟子だから好きだったよ」

少しはぐらかすように征嗣が答えると五月は夕日を眺める征嗣の横顔を見た。夕日ではなく何処か遠くを見ているその視線に五月は征嗣の本心を探る。

「弟子とかそう言うのでなくてその‥好意っていう意味でさ‥」

五月は膝を抱えて小さく呟いた。その言葉は波の音に搔き消されたのか聞こえない振りをしているのか征嗣は何も答えない。二人は沈黙したまま沈む夕日を眺めていた。

「お前が瀕死の状態だった時に俺の力を使って傷を塞いだから俺の記憶の一部がお前に見えてしまったのかもしれんが忘れておけ‥もう過ぎてしまった過去だからな‥

さぁ、帰るぞ!」

日が沈み切って辺りが薄暗くなると征嗣はそう言って立ち上がる。五月は戸惑いながらもそれに微笑み返して頷くと自分も立ち上がった。


自宅へ戻ると何時ものように二人揃って夕食を取り、テレビを見ながらそれぞれのタイミングで風呂に入る。

「あれ?先生はもう部屋に戻っちゃったの?」

「はい、明日は早朝から出かけるから今日はもう休むと仰られていました」

五月が聞きながらアイスを出すと葵は後片付けをしながら答えた。

「そう‥あ、僕も今日は遅くまで起きてるから明日の朝ご飯はいらないや‥多分、昼近くまで寝るから」

「承知しました」

五月は溜息交じりに葵に言うと自分も部屋へ戻る。

 〈先生‥大丈夫かな‥〉

五月は自室に入りしなそう思いながらチラッと征嗣の部屋の方を見た。征嗣が一人で部屋に居る時は相変わらず物音一つしない。五月は余計な話をして嫌な事を思い出させたのではないだろうかと気にしつつ自室へ入る。溜息交じりに机に向かうと数日前に祖父から送って貰った藤森家に伝わる記録を読み進めていった。かなり膨大な量なので一部を送って貰ったのみだがそれでも読破まで軽く一ヶ月はかかりそうな量である。五月はそれらを読みながら征嗣の心に想いを馳せた。


その翌日、また五月は市原達に呼び出され何時ものファミレスに足を運ぶ。現着すると中ではなく入口の所で市原と桃園が待っていた。

「天宮君、ありがとー!」

そう言って元気になった桃園に思いきり抱き付かれながら礼を言われ五月は驚く。

「僕は何もしてないって‥」

「そんな事無いよ

天宮君から貰ったお守り渡してから美佳は元気になったんだもん」

苦笑しながら五月が身を引こうとするが市原も嬉しそうに続けた。

「絶対コレのお陰だって!

私これ貰ってからめっちゃ正気に戻ったもん!

それまで自分で言うのもなんだけど別人みたいだったんだからさ」

「まぁ、とにかく元気になって良かったよ」

桃園は嬉しそうに貰ったお守りを見せて言いながら身を引くと五月は安心したように微笑んだ。それから三人は店に入って談笑しつつ事の経緯を桃園から説明された。

「なんかさー‥新谷さんがあんまりしつこいから私と浜岡さんともう一人、新谷さんの友人だって言う相田さんって車出してくれた人と心スポ行ったのよ

めっちゃ虫は居るし汚いし最悪でさー‥

私は早く帰りたかったんだけど新谷さんとその相田さんがなかなか帰ろうとしなくてぇ、浜岡さんがあんまり遅くなるといけないからって注意して何とか帰って来たんだよね

そんで帰って寝て起きたら何か全部が面倒に思えるし死にたくなるしで親に当たりまくっちゃってさー

部屋から出たくないし息するのも面倒で全っ全、動けなくなっちゃったのよ

その勢いでバイトも辞めるって言っちゃったんだー‥んで、まりあが家に乗り込んで来てとにかくそれ持ってなってお守り置いて帰って行ってから少しづつ正気に戻った感じ?

あんまり凄い勢いで来たからうちの親もびっくりしてたよ

それから親にも謝ってさっき店長にもしこたま謝って許して貰ってー‥明日からまたバイト行く事になったー」

「そうなんだ

でもそういう事なら僕より市原さんの勢いで悪いモノ祓っちゃったんじゃない?

お礼なら僕より市原さんに言うべきだと思うよ」

「ったく、だいたい男ばっかりの中に一人で付いてくなよー」

「だってちょっと面白そうだったし新谷さんしつこいしさー‥浜岡さんも居るし大丈夫だと思ったんだよー」

三人でわいわい話していると田中がふらりと入って来た。

「あ、田中さーん!」

それに気付いて桃園が手を振ると田中も気付いて此方へやって来る。

「桃園、もう大丈夫なの?」

「うん、田中さんにも心配かけてごめんね

もうへーきだよー」

田中が聞くと桃園はピースサインで返し、五月は席を詰めて隣に座るよう促した。

「田中さんもこれから教習所行くの?」

「いや、俺は今日、卒検だったんで朝から行ってたんだよ」

「受かった?」

「とりあえずね」

市原が聞くと田中は座りながら返し、五月も微笑んで聞く。皆でそんな田中に祝いの言葉を浴びせるとそれから四人で談笑しつつ昼食を取った。

「まりあ、そろそろ時間だよ?」

「じゃぁ、私等はこれから教習所頑張って来るわ」

時計を見ながら桃園が立ち上がると市原も返しながら立ち上がり二人は五月達に別れを告げて出て行く。

「桃園、元気そうで安心したよ」

「そうだね」

「それより此処だけの話なんだけどさ‥」

去って行く二人を見ながら田中が言うと五月も返したが声を潜めて田中が何やら神妙な顔つきになった。

「やっぱり新谷さん‥死んでたみたいだよ

新谷さんの住んでる近くに彼女のサークル仲間が住んでるんだけどさ

一昨日の夜に新谷さんの住んでるマンションに警察とかいっぱい来てたんだって‥それでよくよく聞いてみたらどうも新谷さんの部屋なんだよね」

「そうなんだ」

「詳しい死因とかは分からなかったらしいけど死後、数日経ってたって‥もしかしたら俺が訪ねた後、死んだのかもしれないと思って警察が何か聞きに来るんじゃないかとちょっとドキドキしてたんだけど何も聞きに来ない所を見たら病死か何かだったんだと思う」

「浜岡さんと言い新谷さんと言い何か身近な人が死ぬと寂しいね」

「確かに此処だけの付き合いかもだけど知ってる人が死ぬのはちょっとショックだよな」

二人はコソコソそんな話をしながら視線を落とす。

「それとさ‥ちょっと聞きたい事が有るんだけど良いかな?」

「何?」

そして顔を上げて表情を戻すと田中が話題を変えた。

「彼女がさ‥オカルト関係で神隠し伝説の在る廃神社の事をサークル仲間と調べてるんだけど其処の元宮司に話を聞きに行ったら一家揃って行方不明になってたらしいんだよ

宮司とかって神社を潰したら祟られたり呪われちゃったりするのかな?」

「それは無いんじゃないかな?

だいたいは神社を移動したり廃業する時は本社に神様を返す筈だから‥返す処が無くても上位の神様の所へ預けたりするしね

急に管理者が居なくなるとか正式な神職じゃないとかで処置を知らないと障りがある可能性も否定は出来ないけど元宮司っていう事ならちゃんとしてると思うけどな」

よく分からない世界だという感じで戸惑いながら田中が聞くと五月は答えた。

「彼女も似たような事言って考え込んでたんだけど俺には分かんない世界だしそういうのって正直恐いんだよ

だから関わるの止めて欲しいんだけど活動してる時の彼女って生き生きしててなんか止めらん無くってさ‥

もし危ないなら止めてくれってハッキリ言えるんだけど俺、マジでオカルトに免疫無くて‥それに恐がりの俺が言っても聞いてくれないから天宮の話を聞いてこうだから止めとけって言う決定打が欲しかったんだけどな」

そう説明すると田中は視線を外しながら乾いた笑みでアイスコーヒーを飲んだ。

「田中さんも大変だね」

「まぁな‥でもオカルトさえ抜きなら最高の彼女なんだよなぁ‥」

五月が苦笑しながら言うと田中は溜息交じりに惚気る。

「仲良いんだね‥ご馳走様

でも田中さん同様にそういう事に関わるのは僕自信もお勧め出来ないのは確かだよ

きちんと対処する方法も知らないで関わるのは命綱無しに綱渡りしてるようなものだから‥今回、上手く行ったからって次回も落ちないとは限らないんだ」

「だよなぁ‥はぁ、頭痛いよ」

「まぁ、直感でヤバいかもって思えるものは絶対に近付かない方が良いんだけどだいたいの人は好奇心に勝てなかったりするからねぇ‥そういう事に興味を持ってる人は特に‥」

「そうなんだよ!

ヤバいかもって思う時ほど笑っちゃうって彼女も言ってた!

はー‥やっぱ止めるの無理かなぁ‥」

二人でそんな話をしながら食後のお茶をのんびり飲んでいると3人の男子グループが店に入って来て五月達の隣の席に座った。

「あれ?田中じゃん?」

その内の一人がそう言って田中を見た後、五月をチラッと見る。

「何だ北村、お前等、今日は福井の方まで取材に行ってたんじゃなかったのか?」

田中はそう言いながら驚いた顔をした。

「その予定だったんだけど先方の都合で明日になった

だから今日は向こうで泊って明日、取材させて貰おうってさ‥皆、此処で待ち合わせてるんだよ」

「え?じゃぁ、此処に麻衣も来んの?」

「おう、今、松下と一緒に他のグループと打ち合わせに行ってるよ

もうすぐ来るんじゃないかな?」

田中と話をしながらも北村は五月をチラチラ見ながら気にしていた。

「ああ、紹介するよ

教習所で一緒だった天宮って言うんだ

こいつは北村って言って彼女と同じサークルで俺の連れなんだ」

余りに北村が気にしているので田中は五月を紹介し、五月にも北村を紹介する。平静を装ってはいるが北村は美人とお近付きになれて内心、かなり舞い上がっている。

「どうも、北村徹です」

少し照れたように自己紹介すると北村は嬉しそうに微笑んだ。

「天宮五月です‥初めまして‥

知り合いなら僕、先に帰るね田中さん」

五月も微笑んで自己紹介してから席を立とうとした。

「あ、いや、ちょっと待って!

麻衣が来るならそれと無くさっきの事、言ってやって欲しいんだけどさ!」

田中はそう言いながら慌てて五月を引き留める。

「多分、僕の言う事なんか聞かないと思うけど?」

「ダメ元でも頼む!」

五月が困ったように微笑んで言うと田中は頼み込んだ。仕方なく五月は溜息交じりに座り直す。

「何の話?」

「だから何時も俺が言ってんじゃん?

本当言うと麻衣にはサークル辞めて欲しいんだ

でもそれは無理だろうからせめて危ない所には行かないで欲しいんだよ」

「はは、そりゃ無理だろ?

分からない事ほど熱心に首突っ込んでいくタイプだからな‥偶に俺でも引くわ

それで天宮さんに説得でもして貰うつもりなのか?」

そんな二人の会話に北村が割って入って来た。そう返しながら北村は田中よりも五月に視線の重心を置いていてどうも五月ともっと話がしたいらしい。

「別に良いだろ?

それよりこっちの話に首突っ込んで無いでそいつらの相手してろよ

後輩の面倒見んのがリーダーの役目だろ?」

「堅い事言うなよ

お前ばっかりこんな美人と話してんのズルいじゃん?」

田中が鬱陶しそうに言うと北村は少し面白く無さそうに返す。その反応に北村も五月を女だと思っているのだと悟り、田中は溜息を吐いて弁明しようとした。

「お待たせ!」

しかしそれより先にまた三人グループが入って来て北村の方へ声をかけながら歩み寄って来た。女性二人に男性一人のグループだ。

「あれ?拓哉も居たの?」

その中の一人の女性がそう言いながら田中を見る。何処にでも居そうな普通の女性だ。

「ああ、偶々、天宮達と飯食ってたら北村達が来たんだよ」

「ふーん‥」

田中が返すと麻衣は五月をチラッと見て田中に少し寄るよう促し、隣に腰を下ろした。

「初めまして、噂は拓哉から聞いてます」

麻衣はにこやかに微笑んで五月に自己紹介するが隣の席に居る麻衣のサークル仲間達はもしかして修羅場になるのではと少し緊張する。

「こちらこそ初めまして‥何時も田中さんから惚気られてますよ」

五月は苦笑しながらそれに返した。

「それにしても本当に女の子みたい‥事前に聞いて無かったら修羅場になってたかもね」

麻衣はそう言いながら拓哉に苦笑する。

「へ?」

それを聞いて北村や他の面々は五月を見ながら驚き固まった。

「だから天宮は男だって‥俺も始め女だと思ってたから美人って言いたくなるのも分かるけどな‥」

「「「ええっ!!」」」

田中が呆れながら言うと皆が一斉に驚きの声を上げ、五月は苦笑いを浮かべる。

「それで?卒検は受かったの?」

「ああ、うん‥天宮と市原達が先に居て俺が此処に入って来たもんだからお祝いしてくれてたんだよ

市原達は授業が有るから先に出てって天宮と話してたら北村達が来たんだ」

麻衣が聞くと田中は説明し、北村達はまだ五月を見ながら固まっていた。

「それでお前も来るって聞いたから天宮にあんまり危ない所へ行かないよう言って貰おうかと思って相談してたんだ」

「田中さんも心配してるし余り危ない所へ行かない方が良いですよ」

田中がチラッと五月に視線を向けて言うと五月は仕方なく苦笑しながら麻衣に続ける。

「心配してくれるのは嬉しいし申し訳ないとは思うけどこれが私のライフワークなの

何度も言うけど充分に注意はするし危ない事はしないって約束するから大目に見てくれないかな?」

麻衣は戸惑いつつも田中にそう言った。それを聞くとやはり田中は俯いて答えに詰まる。

「でもオカルトな事って関わると危険かどうか分かる人、殆ど居ませんよね?

田中さんはそれを心配してるんだと思います

知らない内に禁忌に足を踏み入れると普通の人は対処出来ないから‥まだ修行中なんで僕だって感覚としては分からないですけど超えてはいけない一線がある事くらい知ってます

貴方はその見えない一線を目前に超えないと断言出来ますか?」

五月は表情を戻すと真面目な顔で麻衣に問うた。その迫力に麻衣は言葉を失ったまま五月を見る。他の面々も黙してそれをただ眺める事しか出来ない。田中も何時もと違い、まるで説き伏せるよう静かに言った五月に戸惑いを見せた。

「それは‥確かに断言出来ない‥

でも、私にとってオカルトを探求する事はこの上ない喜びなの

分からない事を解明して少しでも理解したいと思うのは当たり前の事でしょう?」

少し視線を下げて麻衣は尚も食い下がる。すると五月は俯き、小さく溜息を吐いてから顔を上げ田中を見る。

「説得するの諦めた方が良いね田中さん

彼女は本物のマニアだよ」

先程の表情とは一変して五月は苦笑しながら言った。その緩んだ表情でようやく皆も呼吸が出来るようになって溜息を吐く。

「そうだな‥でも本当に危ないと思ったら突っ走る前に立ち止まってくれよ?」

「うん、分かった」

諦めたように田中が言うと麻衣も返しながら二人は見つめ合う。

「ご馳走様‥じゃぁ、僕は帰るね」

五月は苦笑したままそう言うと席を立った。

「あ、そうだ

じゃぁ、これをあげるから紐が切れたらその先には進まないで‥きっと危ないって事だから‥」

五月は思い出したようにしていた水晶のブレスレットを外し麻衣に差し出す。

「え?そんなの悪いわよ」

「大丈夫、そんなに高価な物じゃ無いから‥それに一応、お祓い済みだからセンサー代わりになると思うよ」

麻衣が戸惑いながら言うと五月は受け取るように促した。麻衣はどうしようか田中の方を見ると田中も五月を見る。すると五月はにっこり笑って更に受け取るように促すと田中は麻衣に受け取るよう頷いて見せた。

「ありがとう、恩に着るよ」

「まぁ、田中さんの合格祝い代わりにね‥じゃぁ、また‥」

五月はそう言って去って行く。その後、田中が北村達に質問攻めにあったのは言うまでもない。


五月が帰宅すると何故か唯天が家に戻っていた。

「あれ?明日か明後日、帰ってくる予定じゃなかったですっけ?」

「ああ、ちょっと事情が変わってな‥朱雀王子家の方に振ったんだ」

五月が聞くと唯天は頭を拭きながら缶ビール片手に椅子に腰を下ろす。どうやらさっき風呂から上がったばかりのようだ。

「何かトラブルでも?」

「トラブルと言うより鬼じゃ無かったんだよ

普通の奴が見たら鬼に見えるんだろうが完全にあれは怨霊の類だ‥俺達の出番は無いよ」

五月が更に聞きながら同じく腰を下ろすと唯天は缶ビールを開けた。

「僕、まだイマイチ鬼と怨霊の区別がつかないんですけど‥」

「そういやお前は怨霊と対峙した事、無いんだっけな‥

怨霊や悪霊ってのは核が有って攻撃対象が明確で取り込みはしても魂は食わない、それに反して鬼は核が無くて攻撃対象は無差別な上に魂を喰うから似て非なるモノだ

ただ、見た目に差が無く、上位の術者じゃないと見分けがつかない事が多いからこうして偶にこっちに話が回って来るんだよ」

「そう言うのは学校で習ったんで知ってるんですけど実物を見た事が無いからちゃんと判別出来るのか心配で‥悪霊なら授業で扱ったんですけど‥」

「なら見学にでも行くか?

福井県だから今から行けば見学出来るかもしれないぞ?」

「え?見学させて貰えるんですか?」

「ああ、多分、あいつも来るだろうから少し見学するくらいなら問題無いだろう」

そんな会話で話が決まると唯天は身支度を整えに部屋に戻り、五月も離れに向かい征嗣に出かける旨を伝えた。そして簡単に身支度を整えると三人で車に乗り込んで福井県に向けて出発する。勿論、運転手は五月だ。

「今回の案件ってどんな案件だったんです?」

運転しながら話せる余裕も出て来たのか五月が話を振った。

「本家が管理していた土地を分家同士で取り合ってるんだが一つの分家の当主が老衰で亡くなってな‥それからその家を中心に怪異が頻発したり死人が出ると言うので調査依頼が来たんだ

その老衰で亡くなった当主が鬼に転じたのではないかって言う話だったんだが蓋を開けてみればただの怨霊でしたって所かな‥同家の人間まで殺してたんで鬼じゃないかと疑われてたんだが当主自身、実の家族さえかなり恨んでたようだ」

「自分の家族まで呪い殺すなんてよっぽど嫌いだったんだ‥」

唯天が説明すると五月は思わず苦笑する。

「ああいう家では骨肉の争いってのは有りがちなんだよ

でも本家って言うのがそれに反して穏やかな感じで当主はそんな分家に心を痛めながらも長年、静観していたらしい

その本家当主が三年前に一家揃って行方不明になったそうだ

何処かの家が土地欲しさに本家を一家皆殺しにしたんじゃないかって噂しているがとにかくどの分家の人間も徹底して本家に関わる事を避けてたらしい」

「何で本家に寄り付かなかったんです?

土地が欲しいなら媚を売りそうなものだけど‥」

「どうも過去に土地問題で本家に絡んでった分家が酷い目に遭ったそうだ

それ以降、分家は本家の人間には関わらなくなり、それ処か直接的な交流まで絶ってほぼ絶縁状態だったそうだ」

「ふーん‥じゃぁ、その目の上の瘤だった本家一家が居なくなった事で簡単に土地が手に入る状態だったから余計にって感じなんですね」

「ああ、分家同士の嫌がらせもかなり酷かったようでどの家を訪ねても悪口しか出て来なかったよ

しかも各分家内部でも蹴落とし合いが酷かったみたいだからな‥死んだ分家当主もさぞ恨みが深かったろうよ

そうは言っても鬼になるほどでも無かったんだろう‥まぁ、あのくらいなら鬼になった所ですぐに他の鬼の餌にでもなってただろうけどな‥」

「人が鬼になるのってそんなに難しいんですか?」

「そうだな‥世の中、全部と言うか生きてる者全て恨むくらいの気合がいるんじゃないか?

俺も鬼になった事が無いから分からんが‥

ただ周りの人間や世間を恨むくらいじゃ悪霊や怨霊が良い所だろう‥経験上、自我が其処まで崩壊する人間は早々見た事が無い

人としての理が崩壊するほどの負の感情の塊が鬼‥だが欲求や本能があるから他者を喰らい続けて力と共に知性を付ける

だから年を経た鬼ほど厄介なんだよ

まぁ、そんな鬼はだいたい何処かに封じられてるか使い魔になってるケースが殆どで俺等がこうして出向いて倒す鬼はたかが知れてるけどな」

そんな話を二人でしながら先へ進んで行くが征嗣は口を出さずに静かに目を閉じ、過去を想っていた。


もうすぐ夕時と言うくらいに現地に着くと朱雀王子家の面々が怨霊鎮めの儀式の準備をしていて人が右往左往している。

「分家って言ってもかなり大きいお屋敷なんですね」

「ああ、この辺り一帯の地主だからな‥他の分家も似たような感じだ」

五月がこそっと聞くと唯天は答えた。二人は行き交う眷属の一人を捕まえて明希の居場所を聞き、其処へ行く。屋敷に設けられた立派な神棚のある部屋へ案内されると儀式装束の忠助と明希が何かを話していた。

「お、思ったより早かったな」

すぐに二人に気付き明希がそう声をかけてくる。

「あれからすぐに出たからこんなもんだろう‥それよりたかが一般の怨霊相手にたいそうな準備なんだな‥」

バタバタと用意をしている皆を見ながら唯天は返した。

「亡くなった前当主の祖母がうちの眷属出身なもので念の為にですよ

でなければ地元の陰陽師に回す案件ですからね」

忠助が答えて苦笑する。

「それで民間の案件に朱雀王子家が絡んでたんだな‥通りで内々の依頼の筈だ」

唯天は溜息交じりに頭を掻いた。

「そう言う事だからこの件は口外無用で頼むぜ‥」

明希が言うと唯天は納得するように頷く。そして準備が整うと忠助が儀式に入った。五月は始終、興味深そうに眺めながら怨霊の存在を確認する。儀式はほんの1時間程で終わってしまった。

「流石にこれくらいの怨霊なら儀式もあっと言う間なんだな‥」

「まぁ、本来なら一般の陰陽師で始末出来る程度の案件だからな‥朱雀王子家の縁者が絡んで無きゃ俺達の出る幕はねぇ

あくまでも「もしも」に備えた対処だったって事だ」

唯天が客間でお茶を頂きながら言うと明希も同じく寛ぎながら返し、五月は会話する二人の傍で儀式を反芻するように考え込んでいる。

「なかなか勉強熱心だな‥鬼狩の仕事はだいぶ慣れたか?」

「え?ああ‥はい、唯天さんが丁寧に教えて下さるので‥」

不意に明希が話を振ると五月はハッとしながら返して微笑んだ。

「まぁ、見たい儀式が有ればまた来いよ

俺達の噛んでる案件ならだいたいの儀式は見学させてやれると思うからな」

「ありがとうございます!

また勉強させて頂けると嬉しいです!」

明希が微笑んで言うと五月は感無量と言った感じで答える。

「処で行方不明の本家の件はどうするんだ?

お前まで居るって事は怨霊の処置だけで此処まで来た訳じゃ無いんだろ?」

「ああ、それも明日、現場を見に行って来るよ

一家揃って忽然と居なくなるなんてただの失踪じゃねぇだろうし‥事件の類なら問題は無いんだが廃神社が関係しているならうちの案件になる可能性が高いからな

しっかり確認して来いって智裕の奴にも釘を刺されてる

面倒だが忠助と朝一で行方不明になった自宅の調査をして帰るよ」

唯天が聞くと明希が返すのを聞いて五月はピンときた。田中達が話していた件と酷似していたからだ。

「あの‥もしかしてそれって‥」

五月は麻衣が所属するサークルが廃神社について調べている事を話して聞かせる。

「大学生のサークルか‥滅多な事は無いと思うがそいつらは何時こっちに来るって言ってた?」

「今日はこっちに泊まって明日、その関係者に取材をするそうです」

明希が溜息交じりに聞くと五月は困惑しながら答えた。

「恐らくその関係者ってのは元宮司の娘だろう‥嫁いで離れていたお陰か娘だけは無事なようだからな

確か少し離れた所で小さな店をやっていた筈だが‥余計な話を聞いていろいろ嗅ぎまわられると面倒だな‥」

明希が溜息交じりに宙を見上げる。

「そいつらの顔を知ってるならお前も同行すれば話が早いんじゃないか?

誰かすぐに分かるんだろう?」

「もしお邪魔でなければそうさせて貰えると何か力になれるかもしれません」

唯天が言うと五月は少し窺うように明希に言ってみた。

「じゃぁ、頼む」

明希が微笑むと五月は少し嬉しそうに頷く。それから忠助が着替えて戻って来ると皆で近くのホテルへ向かった。

「なるほど‥そういう事なら同行して貰えるのは嬉しいですね

出来れば上手く気を逸らせるよう誘導して貰えるとこちらとしても助かります」

ホテルに着き、皆で食事をしながら事情を聴いて忠助も安堵の表情を浮かべる。

「悪いが俺は別件で付き合えないが後の事は宜しく頼んだぞ」

「任せて下さい、上手くやります!」

唯天が少し大丈夫かなと言う雰囲気を醸し出しながら言うと五月は自信満面に返した。

「俺も付いてるし心配は無い」

唯天はまだ少し不安そうではあったが征嗣がそう続けたので安心する。それから皆であれこれ話しながら食事を終えると唯天はそのままタクシーでホテルを去って行った。


翌日、五月は明希達を乗せ、件の娘が嫁いだ店舗付近にやって来る。それから見通しの良い場所へ車を停め、麻衣達の車がやって来るのを待つ事にした。

「コンビニみたいな感じなんですかね?」

「そうなんだろうな‥この辺りにそう言った店も無さそうだし‥

村の連中だけでなく近くにキャンプ出来そうな施設も有るから成り立ってるんだろうな」

五月がぼんやり店を眺めながら言うと明希はスマホを弄りながら返す。敷地には二十台ほど停められそうな駐車場に建て売り二つ分くらいの店と奥にもう一軒の家が在った。店自体はもう開いていて代わる代わる車が停まっては人が買い物をしていく。征嗣と忠助は辺りを窺うように視線を走らせていた。何時も口数の少ない征嗣だが今日はより喋らないので五月は少し気になっていたがそれより今は明希達の手伝いに集中しようと気持ちを切り替える。しかし何となく征嗣が不機嫌な気がしてそれだけが気がかりだった。

「あ、あの人達です!」

昼少し前になると二台のワゴンが駐車場に入って来て麻衣達が降りて来るのが見える。

「んじゃ、手筈通りと行こうか‥」

明希がそう言うと五月はエンジンをかけて店の駐車場へ入り、皆で店舗へと入った。

「あれ?天宮君?」

店に入ると麻衣達が丁度、店主達と話していてすぐに気付いて声をかけて来る。店舗内には所狭しといろんな物が置かれていてサークルの面々で一部の通路が塞がっていた。

「あれ?どうしたんですこんな所で‥」

「それはこっちが聞きたいくらいだわ‥旅行か何か?

私達はこちらの方に話を聞きに来たのよ」

白々しく五月が聞くと麻衣は驚いたように返すが昨日の事も有り、サークルの面々は五月を見て固まる。

「あら、お知り合い?」

「ええ、ちょっと‥それよりも邪魔にならないよう少し出てますね」

「表のテーブルの所に居て頂戴‥其処で話しましょう」

「分かりました」

店主の夫人が微笑んで聞くと北村は返して他の面々を連れて店を出る。北村は出ているからなと麻衣に目で合図してから横を擦り抜けて行った。麻衣もそれに同じく視線で答える。

「知り合いの所まで来たついでに練習兼ねてドライブしてたんです」

「まぁ、そうなの?

でもこんな所で会うなんて偶然って怖いわね」

「あ、そうだ‥僕もその話、聞いて良いですか?」

「別に構わないわよ‥でも連れの方が退屈じゃないかしら?」

「我々は買い物してるんでお気遣いなく」

上手く潜り込んで話を聞けるように立ち回ると五月は麻衣と共にサークルの面々に続き外に出て明希もシレっとそれに付いて行く。忠助と征嗣は何かを買う振りをしながら店内を見て周った。暫くすると夫人がテーブルの所へやって来て取材が始まる。

「お忙しい所すみません‥では神社やあの辺りに伝わるお話を伺いたいのですが‥」

サークルの一人がそう言いながら録音機をテーブルに置いて話し始めると別の一人がカメラを回し始める。

「私もそれほど詳しい話は知らないのよ

でも、小さい時から言われている事は幾つかあったわねぇ‥山に入ってはいけない時期が有ったり山の神様の機嫌を損ねると罰が当たったり、逆に気に入られると隠されてしまうってね

実際、神隠しにあった人も居たようだけど本当に神隠しだったのかは分からないわ‥そういった伝承を利用した夜逃げや人攫いだったんじゃないかしらね

昔は一括りに神隠しって事にして今みたいに調べる事も無かったもの

神社がある山には神様が住んでらっしゃって何時も皆を見守って下さってるんだよって‥そして死んだら皆、山の神様の所へ帰るんだよって村の人達は小さい時から言われてたから尚更そう信じ込んでいたんじゃないかしら?

私達兄妹もうちのご先祖様はそんな山の神様をお祀りする為に神社を作ったんだよって言われて育ったわ

でも過疎化が進んで行事も滞るようになってしまったから父の引退を機に神社を畳む事にしたの

兄達もサラリーマンだったし私も此処へ嫁いで来てしまったから何も出来なかったし‥何より父が自分で最後だって譲る気が無かったようだから必然的にそうなって行ったんだけど‥」

「ではご両親やお兄様方を含める全員が突然に失踪されたのは神隠しにあったとお考えではないのですか?」

「それは分からないけれどその頃、分家がうちの土地を巡っていろいろ争っていたようだから警察では何か事件に巻き込まれたのかもって捜査はしていたようだけどね

結局、何の手掛かりも無いままもう三年も経ってしまったわ

確かにあれこれ言い伝えのある所だからいろいろ言う人は居るけれど今時、神隠しも無いでしょうし何かしら事情があって引っ越したのだと思うわ」

「でも身内である貴方に何も言わずに失踪するなんて有り得るんですか?」

「そうね‥有り得ないって私も当時は腹が立ったものよ?

でも、今になってみると何となく全てが煩わしくなったのかもしれないと思うようになったの

分家のいざこざを見てるのも辛かったろうし母もその頃、病気で寝たきりになってしまっていたから失踪する条件は幾らでもあったなって‥私も気にはなってはいてもこんな個人商店だから手伝いに行くどころか様子を見に行く事も出来なかったしね

実際、失踪してから半年くらい経って私達も気付いたものだから既に荒らされた後でどうしようもない状態だったわ

だから多分、父達が失踪したのは神隠しや祟りなんかじゃないと思うわよ」

最後に夫人は寂しそうに笑いながらそう締め括る。

「では最後に‥あの廃神社が今は心霊スポットとして扱われている事はどう思いますか?」

「そりゃぁ、気分はよく無いわよ

私達の大切な思い出が詰まった場所だもの‥でも、今更、私が管理出来る訳でも無いからちゃんと管理して下さるなら分家の何方かにあの辺りの土地を譲っても良いとさえ思ってるわ

勿論、神社の復活や存続なんかは無くて良いの‥ただ土地が荒れてしまうのは悲しくてしょうがないからどんな形であれきちんと守って行って欲しいのよ」

続けて聞かれると夫人は苦笑交じりに返しその後、普通の当り障り無い世間話を始めた。

「では今回のお話は記事に纏めさせて頂いた上で噂はデマという事で注意喚起させて貰いますので‥幾分か冷やかしの肝試しも減るかと思います」

「そうだと嬉しいわ

本当は神社や実家の建物を処分したいんだけどその資金がうちには無いもんだから荒れて行くのをただ見ているしか出来なくて‥一人でも荒らす人が居なくなれば私も安心よ」

話を締めくくると取材は終了し、一行の興味を引くような話題が出ずに五月と明希はホッと胸を撫で下ろす。

「あの‥一つ構いませんか?」

夫人の去り際に麻衣が切り出した。何ですかという感じで首を傾げながら夫人が先を促す。

「ご一家の失踪の現場を見せて頂いても構いませんか?」

「構わないわよ‥窓なんかも壊されてしまっているし勝手に入って見てくれて良いわ」

「ありがとうございます

では帰りに寄らせて頂きますね」

麻衣が続けると夫人は快く了承し店内へ戻っていった。五月と明希はそれを聞くと少し渋い顔をする。取材が終わると皆はそそくさと機材を撤収し始めた。

「このまま自宅を見に行くか?」

「いや、麻生の班に例の伝承の件の撮影も頼まれてるから先にそっちへ行くよ

此処からならそっちのが近いし‥昼間と夜景の撮影が有るから自宅は明日帰りに行こう」

仲間内でそんな話をしているのを聞くと五月は明希に目配せする。

「一緒にお話聞かせて頂いてありがとうございました」

「あんまり面白い話でも無かったでしょ?

でもこういう地味な取材が意外と答えに繋がったりするのよ」

五月が言うと麻衣が苦笑しながら答えた。

「いえ、面白かったですよ

関係者のこういう話って僕達は直に聞けないもんですからね

じゃぁ、僕達は行きますね」

「ええ、また機会があれば皆でお茶しましょ」

五月は満足気にそれに返すと麻衣達と別れて再度店内へ戻り、二人に声をかけて車へ乗り込んだ。

「何を買ったの?」

「飲み物と適当にお勧めを買った」

五月が手にした袋を覗き込み聞くと征嗣は飲み物を出して皆に渡しながら答える。

「喉も乾いてたけどそろそろお腹減ったよね

何処か食べ行こう」

五月はそれに口を付けてすぐに車を走らせた。神社方面へは此処から1時間はかかるので途中で飲食店を探し、適当な店を見つけて其処へ入る。

「あいつらが行くのは明日なら今日中に行けば問題無いだろう」

「そうですね‥自宅の場所が神社の傍なら民家なども有りませんし明るい間なら肝試しの者とカチ合う事も無いでしょう」

皆でそんな話をしながら少し遅めの昼食を取り、神社と元宮司達が住んでいたという場所へ向かった。過疎が進んでいるというだけあってちらほら居る住民らしき者は皆、高齢で空き家も多く廃村寸前のような様相だ。家々が点在する村を通り過ぎた外れに神社と少し古めの大きな平屋が在る。参拝者用であったと思われる駐車場に車を停めると一行は平屋の方へ向かう。

「酷ぇな‥ある程度の予想はしていたが此処まで荒されているとは思わなかったぜ」

明希が無残に荒された家を眺めながら呟いた。

「とりあえず領域で囲います」

調査中に邪魔が入らぬように忠助が即座に指定領域で囲うと一行は荒らされた家に入る。玄関の引き戸は半分取り払われて中も靴跡やらくがきが酷く、壁やなんかも所々壊されていた。田舎独特の襖や障子で仕切られた部屋が幾つもある感じの広い家だ。

「荒されている事以外を除けばいきなり人が居なくなった感じですね」

五月はちゃぶ台にある干からびた食卓を見ながら立ち尽くす。あちこち荒されてはいるがかろうじて食事中だった様子が伺えるくらいには食卓の用意が残されていた。

「確かに‥奇妙な残穢が有りますね

人だけが別次元に移ってしまったような‥まるで指定領域に急に入ってしまったような状態に近い感覚です」

忠助も少し屈んで食卓を見ながら返すと辺りを見回す。皆で辺りを見回していると五月が視界の端に何か動くものを感じてそちらへ行ってみた。

「どうした?」

「こっちの方で何か動いた気がするんです」

明希が聞くと五月は破れた障子を開けて隣の部屋へ入って行く。明希がそれに続くと忠助と征嗣は別の部屋の襖を開けて他の部屋も見て周った。

「可笑しいな‥何か動いたような気がしたんだけど‥」

五月が入った部屋は居間か客間のようで大きな座卓と少しの家具や床の間などが在り、奥には庭に面して縁側が広がっている。荒されているのでいろんな物が散乱してはいるが元は落ち着いた雰囲気の良い部屋であった面影があった。

「これだけオープンになってるんだから動物の一匹や二匹、住み着いてても可笑しくないだろう‥何か動物でも居たんじゃないか?」

明希はそう言いながら少し離れた所に転がる動物のフンを見る。勿論、縁側に面する窓も開け放たれたままだ。

「動物とはちょっと違う感じがしたんですけど‥」

五月は戸惑いながら明希の視線の先にあるそれを眺めて答えた。二人で辺りを見ていると明希が縁側から覗く人影に気付きそれを追いかける。

「どうしたんです?」

「どうやらお前が見たのは気のせいじゃなかったらしい‥確かにこっちに人影が走って行った」

五月が後を追いながら聞くと明希は答えて縁側伝いに隣の部屋へ行き辺りを見回すがやはり何も居ない。隣へ続くであろう襖には散乱した物が寄りかかっていて誰かが出入りした形跡はなく、さっきの人影はこの袋小路に居ないと可笑しい筈なのに誰も居なかった。

「誰も居そうに無いですね‥」

五月はガタガタと物を退かせて押し入れや廊下に続く襖を開けてみたが何の気配も無い。

「奇妙な気配だったから普通の人間じゃねぇだろうがそれにしても妙だな‥痕跡が全く消えてやがる」

明希はそう言いながらその部屋を丹念に見回しながら気配を探る。

「浮遊霊か何かでしょうか?」

「いや、人のそれじゃ無かった‥とりあえず忠助達の所へ戻ろう」

五月が明希に歩み寄りながら聞くと明希は小さく溜息を吐いてからもう一度、縁側に出た。するとあれだけ荒ていた縁側が綺麗になっていて二人は驚いて立ち尽くす。

「さっきまで踏み荒されてたのに‥」

五月が言うと明希は無言でさっきの部屋の方へ戻ってまた驚いた。綺麗に整えられた和室が其処に在り、荒らされた跡も散乱した物も何も無かったのである。五月は明希の様子に部屋を見渡せる位置まで来て同じように固まった。

「これは一体‥」

「おい、忠助!」

五月が呟くと明希はそう怒鳴りながらずんずん元居た部屋へ歩いて行き、障子を開けたが誰も返事をしない。それどころかどの部屋も綺麗になっていて明希はあちこち襖や障子を開けて名を呼びながら二人を探したが返事は無く、五月もオロオロしながら征嗣を探したが見つからなかった。

「一体、此処は何処なんでしょう‥指定領域とは違うみたいですし‥」

「そんなの俺が聞きてぇよ」

二人は縁側に腰掛け、途方に暮れながら五月が言うと明希は諦めたように煙草を蒸しながら宙を見上げる。

「とにかくあいつらが気付いて助けに来るのを待つしかねぇな‥俺は術の類が一切使えんし空間の別もよく分からん」

明希はそう言って煙草を揉み消すと立ち上がった。

「そうですね‥僕も最低限度しか陰陽師の術は使えませんしこういう空間に来るのも初めてです

それにしても以前のこの家の心象風景でしょうか‥凄く穏やかで良い所ですね」

「そうだな‥季節的には春のようだが‥」

五月が返しながら辺りを見回すと明希も穏やかな日差しを感じつつ咲き誇る庭の花々を眺める。きちんと手入れされた庭木には花が咲き遠くに桜もちらほら見えた。かなり切羽詰まった状況であるにもかかわらずまるで御伽噺のような景色に自然と心が和む。

「神社の方にも行ってみるか‥」

明希がそう言って歩き出すと五月もそれに続いた。家の脇にある石段を少し上って行くと古いが綺麗に整備された小さい社がある。

「きちんと手入れされた良い神社ですね‥凄く空気が澄んでる」

「そうだな‥まるで祭礼を終えた直後の神社みたいな雰囲気だ」

五月がそう言いながら社に手を合わせると明希もぼんやり辺りを見回し少し笑みを浮かべた。とても清々しい雰囲気で神の息吹を感じる事が出来る空間だ。暫く社の周りを二人で散策していると家の方から賑やかな声が聞こえて来て二人は目で合図をして慌ててそちらへ駆けて行く。其処には元宮司一家と見られる人々が玄関先に居て山菜取りから帰って来たばかりのようだった。

「あの、すみません!」

五月がその面々に声をかけたが軽く無視される。

「おい、ちょっと聞きたいんだが‥」

明希は少し強引に中年男性に声をかけながら肩を掴もうとしたが擦り抜けてしまった。二人はそれに驚きながら固まって和気藹々と話す人々を眺める。

「お前達の姿はこの者等には見えていない」

そう声をかけられて二人は振り返って声の主を見た。少年の姿をしているが人では無いと纏う空気ですぐに理解出来る。

「貴方は?」

何の警戒心も無く五月は丁寧に聞くが明希は気配を探るように少年を見据えた。

「お前は知らぬだろうが私はお前を知っているんだよ

私の眷属が世話になったからね」

少年はそう言って五月に微笑んで見せる。すると一匹のオコジョのような動物が五月の足に擦り寄っていて五月は少し驚いたがその気配にあの廃墟に在った祠の主を思い出した。

「もしかしてあそこに居た神様のお遣いなの?」

五月はその愛らしさに屈んでオコジョを撫でまわしながら表情を崩す。

「あの場所に置き去りにされたその者がどうしても礼を言いたいと言うのでこちらまで来て貰った

驚かせてすまぬな‥」

「じゃぁ、此処は幽世ではなく神域って事か?」

少年が言うと明希がすぐに質問をした。

「神域とも少し違うかもしれぬ

此処はあの者等が望んだ一番幸せであった心象風景なのだ

余りに現で生き辛そうであったのでこちらへ引き込んでしまった

私ももう余り現へ力を及ぼす事も出来ないので最後の悪あがきと言った所だったのだが余計な事をしてしまったのかもしれぬ

それでもああして幸せに日々過ごしておるのを見ると癒されるのだ

人の理を歪めてすまぬが見逃しては貰えぬだろうか‥」

少し寂しげにそう言って少年は人々を眺める。寝たきりになったという元宮司の妻らしき老婆も元気に歩き回り、皆とても幸せそうに見えた。

「皆が幸せで納得してんなら良いんじゃねぇか?

それに見逃すも何も誰かの幸せを叶えた神様のやる事に否はねぇよ」

明希は警戒を解くと少し表情を緩め、人々を見ながら返す。

「ありがとう‥もうこの山は閉じて私もこの者等と静かにこの場所で暮らす故、二度と迷惑はかけぬ

遠き日より此処に祭を捧げに来ていた四神の者達には礼を言っておいて欲しい

私は此処に住まう者達やその者達に癒されて来たのでな」

「必ず伝えよう」

少年が言うと明希は微笑んで答えた。五月にじゃれていたオコジョも少年が去って行こうとするとそれに気付き、後を追うように少年の方へと駆けて行く。そして二人が溶けるように景色の中に掻き消えると明希はしまったという顔をした。

「しくった‥帰り道を聞くの忘れた」

明希がぼやくと五月も「あ」と言う顔をする。

「帰り道は私がご案内しますよ」

後ろから声をかけられて二人が振り返ると元宮司らしき老人がにこやかに声をかけてきた。二人は自分達が見えているのかと少し疑うように顔を見合わせる。

「ご心配には及びません‥他の者には見えておりませんから‥」

老人がそう微笑むと明希達はそうなのかと納得しつつも何故、老人にだけ自分達が見えるのかと疑問が浮かぶ。

「お爺ちゃん、誰と話してるの?」

其処へ小学生くらいの少女が駆け寄ってきてそう聞いてきた。

「ああ、山の神様とお話してたんだよ

儂はちょっと神様のお遣いをしてくるからお前達は取ってきた山菜を掃除しておいておくれ」

「兄ちゃんがこれからおじちゃんと釣りに行くんだって‥私も一緒に行っても良い?」

「じゃぁ、大物を頼むよ

今夜はバーベキューにしよう」

「やったー!」

そんな会話の後、少女はまた人々の元へと戻って行く。

「さぁ、こちらへ‥」

老人はそう言って神社の方へ歩き出し、二人はそれに続いた。

「あんたは此処が現実じゃないと解っているのか?」

「ええ、うっすら夢のような気はしてましたが余りにも現実味が無いんで神様にお尋ねしたんですよ

でも儂はこの世界も此処の神様も好きなんでこれで幸せです

こうしてずっと神様にお仕え出来るんなら言う事は無い

例え閉ざされた空間だとしても他の皆も同じ気持ちだと思いますよ」

明希が聞くと老人は答えて微笑む。

「永遠の楽園か‥刺激が無いと満足出来ない俺等にゃぁ地獄だな」

「はは、普通の人にはそうかもしれませんな

ですが儂等にはこういう場所は文字通り楽園なんです

それを叶えて下すった神様には感謝しておりますよ」

溜息交じりに明希が言うと老人は苦笑しながら返した。三人は社まで来ると歩みを止める。

「日が落ちたらこのお社に入ってひたすら先へお進みなさい‥そうすれば現世に出る事が出来ますよ」

老人はそう言い残して微笑むとまた家の方へと戻って行った。

「日が落ちたらって‥まだ少し時間がかかりそうですね‥」

「だな、まぁ帰れるんならそれで良いや‥」

「まさか何年も経ってたってオチじゃないと良いですけど‥」

「怖い事言うなよ」

二人は社の階段に腰を下ろしてそんな話をしながら日が落ちるのを待つ。喋っては沈黙を繰り返しながらようやく日が傾きかけて来ると二人は少しホッとした。

「そう言えば三上様は何時から琴吹様とお付き合いしてるんですか?」

話題に困って来た五月は何となく聞きたいが聞けなかった質問をしてみる。

「別に付き合ってる訳じゃねぇんだがな‥あいつとは腐れ縁っつーか‥

まぁ、身体の相性が良いからダラダラ関係続けてるってだけの話だな

初めにあいつに会ったのは今から一年半くらい前になるか‥」

「智裕様はお二人の関係を怒ったりなさらないんですか?」

「良い気はしてねぇだろうが諦めてるんじゃねぇか?

そもそも琴吹の奴に十字架を背負わせちまったのは俺だからな‥その責任取って面倒見てる分には口ではあれこれ言っても妨害はしてこねぇから許容範囲なんだと思うぜ

まぁ、俺の性癖も加味しての事なんだろうがあいつにゃ何時も頭が下がるよ」

「性癖って‥」

咋に明希が言うと五月は真っ赤になって返事に詰まる。

「別に隠すつもりもねぇから言っちまうが性処理に関しちゃ相手は男でも女でもどっちでも良いんだよ

ただ女だと出来た時に面倒だから頻度として男が多いってだけの話だ

まぁ、智裕と結婚してからは特に女は避けてるのが現実だがな‥お前も女とヤる時は気を付けろよ」

明希が遠い目でそう言うと五月は真っ赤なまま視線を泳がせた。

「僕はまだそういう事には余り関心が無いというか‥よく分からなくて‥」

「何だ‥まだ童貞か?」

五月が困りながら返すと明希がバッサリ言う。

「あ‥はい‥」

「通りであいつらが過保護な訳だな‥そういやお前等は陰陽師と違って成人式で筆下ろしとか無いんだっけ?」

「はい‥無いです

って言うか四神四家の眷属でも上位の家しかそういうのは無いって学生の時に同級生が言ってましたけど?」

「そんなもんなのか‥どうも忠助達と話してるとそれがデフォなんだと思っちまってたぜ

まぁ、普通はそういうもんだよな‥」

五月が照れ捲りながら明希の質問に返すと明希は自分の感覚が通常とかなりずれているのだと実感した。

「因みに好きな奴とかは居ねぇのか?」

明希に聞かれると五月は少しドキッとする。咄嗟に征嗣の顔が浮かんでしまったからだ。

「えと‥これと言って‥

まだまだ修行中ですし覚える事だらけ過ぎてそういう事を考えた事も無いので‥」

まだ真っ赤なまま誤魔化すように少し俯き加減で五月は返す。

「お前くらいの年なら一番興味ありそうなのに‥何なら俺が相手してやろうか?」

明希が揶揄うように言うと五月は更に真っ赤になって口をパクパクさせた。

「はは、冗談だよ

お前に手ぇ出したらあいつらに殺されちまうぜ

さて、だいぶ日も落ちて来たな‥そろそろ行くとしようか‥」

明希は空を見ながら言うと立ち上がる。五月は今更辺りが薄暗くなっている事に気付いて慌てて立ち上がった。そして二人は社の扉を開けて真っ直ぐに暗闇の中を進んで行く。すると微かに明かりが見えてどんどん進んで行くとまた社の扉の所まで辿り着いた。まだ日は高く、社の扉から日の光が差し込んでいて其処を開けるとボロボロの扉がギィっと鳴って開く。入った時と違い社はボロボロで辺りも荒ていた。どうやら元の空間に戻って来られたらしい。

「元宮司が現世への戻り方を知ってるって事は何時でもあいつらが現世に戻れるようにはしてあるんだろうな‥」

「そうですね‥ちゃんと選択する自由が在るなら僕達が言う事は無いですよね」

二人は話しながら辺りの眩しさに目を細めてから家の方へと行ってみる。

「五月!」

縁側の方から顔を出した征嗣が言って二人に駆け寄ると忠助も後から駆けてきた。

「急に二人の気配が消えたと思ったらまさか外に居たとは‥いったい何処へ行ってたんです?」

忠助が少し安心したように溜息交じりに聞くと明希と五月は交互にあった事を征嗣達に説明する。

「なるほど‥こちらに居られた神はもう山を閉じられたのですね

来年、祭礼の予定を立てていましたがそういう事ならもうリストから外した方が良いでしょう

それから分家の方に手配してこの辺りの山をきちんと管理させます

本家がそうやってお仕えするなら分家にはその土地を守って頂かなくてはいけませんからね

幾ら山を閉じても神の住まう土地ですから相応の管理はさせなくてはなりません

丁度、腹違いの妹が適齢期なので嫁がせて分家の長を立てさせましょう」

忠助はそう言うと何処かに電話をしながら少し席を外す。

「まぁ、何とか収拾出来たって事で一段落だな‥此処まで引っ張り回して悪かったな‥」

「そんな‥お役に立てたか微妙な所ですけど何とか無事に終わって僕も安心しました」

「いや、お前があの神使を助けたから直接事態を知る事が出来たんだ‥大功績だよ」

明希に褒められると五月は嬉しそうにはにかんだ。

「申し訳ありませんがもう一度、桐山家まで戻って頂けますか?

今から分家の当主達に集まって頂いて話を通す事にしますので‥」

忠助が戻って来てそう言った。桐山家と言うのは怨霊鎮めをした家である。忠助は指定領域を解いて簡単な目晦ましをかけ、とりあえず肝試し等の輩が神社やこの家屋に辿り着けないように処置をした。

「あ‥」

その処置を眺めていると五月はある事に気付く。家の縁側から庭にかけて先ほど見てきたような仲の良い一家が睦まじく笑い合いながら集まっているような影が焼き付けられていた。その場に居ると荒された跡や散乱した物で気付かなかったのだがこうして外から眺めているとそれはハッキリと確認出来る。

「見えなくてもちゃんと此処に居るんだな‥」

「はい」

明希もそれに気付いて呟くと五月は嬉しそうに返す。

「さぁ、行きましょうか‥」

処置を終えた忠助が言うと五月はまた皆を車に乗せて桐山家へと走り出した。


「俺は用事ねぇからこのまま帰るぜ」

「はい、後は私が話を付けてきます」

桐山家に着くとそう言って忠助だけが車を降りる。

「そう言う事なんで悪ぃがお前んちまで乗っけてってくれ」

「はい、それは構わないんですけど朱雀王子家まで送らなくて良いんですか?」

「ちょっと野暮用で今日は帰らねぇんだよ」

忠助を見送りながら明希が言うと五月は車を出しながら聞くがそう返事が返って来た。

「何処かに寄るなら其処まで行きますよ?」

五月がルームミラー越しに明希を見ながら聞く。

「ん~‥じゃぁ、奢ってやるから付き合え」

少し考えると明希は少し頭を掻きながらそう言ってチラッと征嗣を見た後、適当に車を停めるように指示をした。

「俺が運転するからお前は後ろ乗れ」

明希が運転の交代を言い出したので五月は戸惑いつつも言われたように席を代わる。

「ついでにお前の腹も面倒見てやるから邪魔すんなよ」

「・・・・・」

明希がボソッと言うと征嗣は少し不機嫌そうにそっぽを向く。それから二人は何かを話していたがぼそぼそ話しているので五月は二人の会話がよく聞こえなかった。

行きの時間とは雲泥の差で地元に戻って来た五月達は明希が車を停めた場所を察して言葉を失くす。思いっきりそういう雰囲気の漂う一角だ。

「付いて来い」

車を降りると明希が先導して二人に目配せする。高そうな旅館なのか料亭なのか分からない感じの店に明希は入った。

「まぁまぁ、三上様いらっしゃいまし‥」

そう言って女将らしき中年女性が出迎える。

「悪いが今日は連れが居るんで離れの方で頼むよ」

「承知しました‥こちらへどうぞ‥」

明希がそう言いながら靴を脱いで上がると女将は慣れたように招き入れ五月達も明希の後に続いて入って行く。広く長い廊下の途中には幾つも部屋が在るようで扉が並んでいて中から微かに賑やかしい声が聞こえた。暫く長い廊下を行くと他とは違う雰囲気の建物へ移りその一室へと入って行く。

「飯は適当に頼むよ‥好き嫌いはあるか?」

女将に言った後、明希は五月達に聞くが五月は緊張したように首を振った。それを見て女将はにこやかに去って行く。

「まぁ、適当に座れよ」

明希がそう言いながら豪華な座卓の傍に腰を下ろすと五月達も適当に腰を下ろす。

「此処って料亭なんですか?」

高そうな調度品があちこちに飾られていて五月は緊張した面持ちで聞いた。

「料亭って言うか‥昔で言うところの遊郭みてぇなもんだ

ちっとばかし高ぇが此処なら心置きなく女が抱けるから一石二鳥なんだよ」

明希はそう言うと懐から煙草を出して火を点ける。五月はそれを聞くとまた真っ赤になり征嗣は不機嫌そうな表情で黙っていた。

「失礼します」

襖の向こうから声がしてすぐに綺麗な着物姿の美女が数人入って来る。

「何時もご贔屓にありがとうございます」

リーダーらしき女性がそう言って明希に微笑んでお辞儀をした。

「ああ、また宜しく頼むよ」

「お初にお目にかかります小梅でございます」

明希も微笑んで返すと今度は五月達の方へ女性が挨拶をした。

「は‥初めまして、宜しくお願いします!」

五月は緊張しながらそれに答えるが征嗣は会釈だけで返す。

「三上様は何時もので宜しゅうございますか?」

「ああ」

「そちらの方々はお飲み物は何をお持ちしましょう?」

「僕はウーロン茶で‥」

「俺は日本酒を冷で頼む」

それぞれそう言うと小梅は後ろの一人に目配せした。するとその一人は下がって行き、他の者は五月と征嗣の隣に着く。小梅は明希の隣に座った。五月達の傍に座った女性達はそれぞれ小梅に紹介されながら自己紹介をし始め自己紹介が終わると直ぐに飲み物と料理が運ばれてくる。

「まぁ、こんなに可愛らしいのに男の子なのね」

談笑する中で五月が男と判ると女性達は色めき立った様に五月にちやほやした。

「まだ筆下ろしもしてねぇガキだからお手柔らかに頼むぜ」

明希が冷やかすように言うと五月はまた真っ赤になる。それを征嗣は不機嫌そうに見ながら黙って酒を呑んだ。琴や三味線の生演奏を聴きながら食事が終わると女性達は五月にゲームに参加するよう促し、五月は困りながらも上手く乗せられそれを楽しむ。ふと気付くと小梅と明希の姿が無い。

「あれ?三上様は?」

少し休憩と征嗣の横に腰を下ろすと五月が聞く。

「気にするな‥それより俺はそろそろ休ませて貰う」

征嗣はそう言って立ち上がると隣の部屋へ行った。五月もそろそろ休もうかと考えたがすぐに女性達にまたゲームの輪に戻されてしまう。その内に明希がふらりと一人で戻って来た。

「あいつは?」

「もう休むって隣に行きました‥此処って泊る部屋も隣に有るんですか?」

明希が部屋を見渡して聞くと五月が手を止めて答える。

「まぁな‥で、お前は誰と寝たい?」

「へ?」

明希がニヤニヤ聞くと五月は間抜けな返事をした。

「私が優しく教えてあげますよ」

「何言ってるの私よ~」

女性達が口々にそう言って五月に身体を寄せると五月はまた真っ赤になり硬直する。するとタンっと勢い良く部屋の襖が開いた。

「明希ちゃん!俺に黙って来るとか酷い!」

皆が声の方に注目すると其処には琴吹が居て少し膨れた顔で明希を睨み付けている。

「って言うかお前‥勝手に屋敷抜け出してきちゃダメだろうが‥」

思いっきり呆れながら琴吹に明希は言った。

「女に無駄打ちすんなら俺としようって何時も言ってんじゃん!」

「だからお前とする時は屋敷まで行くから勝手に出てくんなっつってんだよ

俺があいつらに怒られるだろうが‥」

明希と琴吹が痴話喧嘩を始めると五月を始め女性達はぽかんとなる。

「ほら見ろ、お前が勝手するから皆が固まってんだろうが‥」

「別に良いじゃん、あ、五月君久しぶり!」

明希が言うとようやく琴吹は五月に気付いてそう言った。呆然としたまま五月は会釈するがまだ状況を飲み込めないでいる。

「悪いけど明希ちゃん借りるね

あ、俺達の事は気にしないで好きにセックスしてくれて良いから‥」

琴吹はそう言うと隣の部屋へ明希を引っ張って行く。五月は呆然とそれを見送るしか出来ない。

「じゃぁ、私達も行きましょうか?」

妖艶な笑みを浮かべて女性の一人がそう言うと五月はドキッとしながら少し身を引いた。

「えと‥僕、そういうの経験無くって‥その‥」

「大丈夫‥私達が優しく教えてあげるから‥」

しどろもどろで五月が逃れようとするがほぼ強制的に隣の部屋に女性達に連れて行かれる。隣の部屋は照明が消えていてかろうじて枕元に薄明かりが灯されているばかり、敷かれた三組の布団は屏風一枚で仕切られていた。屏風で仕切られた隣の布団で明希達が既に縺れ合っているのがチラッと見えて五月は硬直する。その向こうの布団でも何かが蠢く気配がしていて固まっている五月を女性達は囲んで空いている布団に引きずり込み、あっと言う間に裸にし、そして何もかもよく分からないまま五月は初体験を終えてしまったのだった。


翌日、最悪な気分で目覚めると五月はぼんやり辺りを見回す。屏風の向こうから穏やかな寝息が聞こえていて五月はそっと布団を抜け出すと綺麗に畳まれた服を手に座敷の方へ行き身なりを整える。そして障子を開けて表を確認するとまだ薄暗く夜が明けきっていないようだった。

 〈お風呂‥入りたいな‥〉

窓辺に腰を下ろしてぼんやり考える。どうやら最後にイった後、気を失ってしまったようで何も記憶は無いが身体はきちんと拭いて貰えたのか気持ちの悪い所は無い。だがやはりちゃんと洗って流したいと思った。

 〈どうしよう‥めちゃくちゃ気持ち良かった‥〉

少し頬を赤らめながら所々、途切れてはいるが覚えている記憶を辿って行く。思い出していく内に正しく身体は反応して自身が男である事を実感しつつ少し身を屈めた。

「早ぇな‥もう起きてんのか?」

欠伸交じりに明希が起きて来て五月はびくっとしてそちらに視線を向けた。

「お、おはようございます!」

他の者を起こさないように小さく五月は挨拶する。

「おう‥初体験はどうだった?」

明希は座卓の方へ腰を下ろすと開けた浴衣を直さず煙草に火を点けた。

「あの‥あんまり覚えて無くて‥でも‥気持ち‥良かったです‥」

真っ赤になって視線を泳がせつつしどろもどろで感想を言うと明希は少し微笑んだ。

「まぁ、気持ち良かったんなら連れて来た甲斐があるよ

あいつみたいに男としか寝れねぇんじゃこの先、困るからな」

明希はぼんやりした表情でそう言うと紫煙を吐き、五月は明希のその言葉に此処を訪れた本当の目的を悟った気がした。ずっと女として育てられた五月の恋愛対象が男にならないように明希は先手を打ったのである。

「まぁ、お前くらい美形なら相手にゃ困らんだろうが早めに伴侶は設けろよ

何ならうちかあいつの所から眷属を嫁がせても良いぜ」

「考えておきます」

明希が釘を刺すと五月は夢から覚めた様な気分で少し俯き加減に答えた。改めて家を背負うという重圧を実感したのである。

「明希ちゃんもう起きてたの?」

琴吹も欠伸交じりに起きてきて明希の隣へ腰を下ろす。

「おはようございます」

「おはよう‥五月君も早いねー‥」

五月が挨拶するとまだしっかり目も開いていない琴吹は返しながら明希の股間を弄り始めた。

「おい‥」

「俺、丁度朝立ちしてるからもっかいしようよ‥」

明希がげんなりしたように言うと琴吹は明希に擦り寄りながら口付けて返す。五月はその様子に真っ赤になりながら邪魔にならないようにコソコソ布団の部屋に戻ろうとした。しかし五月が襖に手をかけようとした刹那、先に襖が開く。

「五月が居る所では控えて頂きたいと言った筈ですが?」

正に鬼の形相で静かに征嗣が言い放つ。二人は驚いて征嗣を見た。

「悪ぃ‥」

「ごめん‥」

明希と一気に覚醒した琴吹は苦笑いを浮かべて謝るとそっと身を離す。

「俺達は先に失礼しますから後はお二人でごゆっくり‥五月、帰るぞ」

征嗣はそう言うと五月の手を取って部屋を後にした。

「先生、痛いよ‥」

余りに強引に引っ張られるので五月が言うと征嗣は無言で手を放して先にずんずん進んだ。五月はそれを追いかけながら征嗣の背中を眺める。

 〈何だか何時に無く怒ってる気がする〉

怒りのオーラがその背中から伝わり何となく話しかけ難い雰囲気だ。車まで来ると五月は鍵を探すが見つからない。

「あ、三上様が持ってるんだった‥」

「俺が取って来るから此処で待ってろ」

五月が思い出して言うと征嗣は五月を置いて取りに戻った。そして戻って来ると自分が運転席に乗り込み五月に助手席に乗るよう無言で促す。五月は何も返さず大人しくそれに従って助手席に乗り込んだ。

「あのさ‥僕、何かいけない事した?」

「いや‥」

「じゃぁ、何でそんなに怒ってるの?」

「別に怒ってはいない」

「怒ってるじゃない‥昨日の朝からあんまり喋らないし何だか凄くピリピリしてるし‥」

お互い視線を合わせず少し言い合いになりかけたが沈黙がそれを収める。

「別にお前に怒ってる訳じゃ無い‥自分の至らなさに腹が立っているだけだ」

長い溜息の後、征嗣が呟いた。

「至らないって‥先生は充分、凄いじゃない?

何でも出来るし僕のサポートだって完璧にしてくれるし‥寧ろ僕の方が全然力不足だよ」

五月は庇うように身を乗り出し言ったが征嗣は前を見たまま少し険しい表情を浮かべる。

「そうで無くて‥ホテルでお前と別れた後、三上様にお前を子供扱いし過ぎだと叱られた

確かに俺はまだ子供だと性的な要素からお前を遠ざけていた

本来なら女性に興味を示す筈の時期にちゃんとそういう話をしてこなかったのは俺の至らなさだったと思っている」

そう答える征嗣は少し苦しそうにも見えて五月は言葉を失った。

「それは別に先生のせいじゃ無いよ‥僕がそういうのや恋愛に興味が無かったからだし‥」

五月は何だかバツが悪そうに視線を外しながら小さく答える。正直言うと少し征嗣に気持ちが傾いていたのが本音だ。切欠はあの重傷を負って見た征嗣の過去にあった。いや、出会ったあの頃から憧れる気持ちはあったのかもしれない。五月も征嗣もそれ以上、何も言葉に出来ずに沈黙が流れる。何も話せないまま自宅に着くと征嗣はすぐに自室に籠り、五月は風呂に入ろうと浴室へ向かった。身体を洗っていて其処に触れる度にあの感覚を思い出してしまい何となく一人でしてしまう。

 〈初めて一人でしてしまった‥〉

分かり易く快楽を得られて思いの外すっきりした。皆は普通にしている事だと知ってはいたがいざ自分がとなるとどうも照れが先攻して今まで実戦をしてこなかったのである。風呂から上がると少し逆上せた頭を冷やしにリビングへ行く。

 〈そう言えば男同士ってどうやってするんだろう‥〉

冷蔵庫からジュースを出しながら五月は明希と琴吹がどうやってそういう行為をしているのか少し考えてしまう。一度、タガが外れてしまうと俄然、セックスという行為に興味が出て来てしまい五月はジュースを飲み干すと部屋に戻ってスマホであれこれ検索を始めた。そして同性のセックス動画を見て呆然となる。

 〈もうまともに三上様達の顔見れないかも‥〉

天宮五月・十九歳、強烈な初体験を経て遅すぎる思春期をようやく迎えたのだった。






                 おわり



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