表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

出ていけと言われたのでなけなしのリュック一つで出て行ったら光に包まれて王冠を奪いに行くことになったのは予想外のことでした。成り行きってすごいなぁ

作者: リーシャ

きっとどんな困難も乗り越えられる。


「お前みたいなやつが、この家にいる価値はない!出てけ!早く!」


叔父の怒鳴り声が、狭い玄関に響き渡った。

母が亡くなってからというもの、叔父家族の態度は冷たいばかり。


厄介者を見るような視線。

嫌味ったらしく減らされる食事。

今日、ついに「出て行け」と宣告されロコロモナは俯き、ぎゅっと拳を握りしめた。


反論する気力も湧かない。

この家での自分の立場は、とうの昔に理解していたから。


「ふふ。お荷物はこれだけ?」


叔母の突き刺すような言葉に、ロコロモナは小さく頷いた。

ボロボロのリュックサック一つ。

それが、今のロコロモナの全て。


帳が降り始めた街を、ロコロモナはあてもなく歩いたけれどどこへ行けばいいのか、これからどうすればいいのか何もかも分からない時だった。

足元の地面が急に光り出したのは。


「うわっ!」


驚いて後ずさる間もなく、ロコロモナの体は強い光に包まれ、意識が遠のいていった。

何秒、何分経過したことか。

次にロコロモナが目を開けた時、見慣れない景色が広がっていた。


足元には白い雲が広がり、見上げるとどこまでも青い空が続いている絵本の中のような世界。


「ここは……どこ?え?なんで景色が。夜だったのに」


戸惑うロコロモナの耳に、優しい声が聞こえた。


「おや、こんなところに子供がいるなんて珍しいね」


「え」


声のする方を見ると、背中に大きな白い翼を生やした、美しい女性が立っていた。

目を見開く。


「あなたは……?」


おずおずとたずねることしか、できない。


「私はセリア。この天空世界で暮らしているの。あなたは?」


「ロコロモナ……です」


セリアは優しく微笑むと、ロコロモナに事情を尋ねた。

身寄りのないこと、突然光に包まれてここへ来たことを話すと、セリアは同情したように頷く。


「可哀想に。もしよかったら、しばらく私の家に身を寄せるといいわ」


セリアの申し出に、ロコロモナは感謝の気持ちでいっぱいになった。

ありがたく、住まわせてもらうことに。

翼が生えていようと今までの生活と比べると、天国だと見知らぬ世界で一人ぼっちになることを思えば、この優しさは本当にありがたかった。


そこから大変お世話になる。

セリアの家でしばらく暮らすうちに、ロコロモナはこの世界のことを少しずつ知っていった。


ここは天空世界と呼ばれ、人々は空を自由に飛び魔法のような力を使うことができるのだという。

ロコロモナは自分の身に起こった不思議な出来事の原因を知ることになる。


セリアによると、時々、異なる世界から迷い込んでくる者がいるらしい。


(私みたいな)


光ったときのことを思い出すと、ロコロモナもその一人なのだろうと。

そんなある日頭の中に突然、鮮明な映像が流れ込んでくるのを感じた。


「うっ」


自分が全く知らないはずの風景、見たことのない建物。

楽しそうに笑う自分自身の姿。


(これは……一体?なんで、こんな)


映像はまるで走馬灯のように、次々とロコロモナの脳裏を駆け巡り。

学校の教室、友達とのおしゃべり、スマートフォンを操作する指。

それらは全て、ロコロモナが今の今まで知らなかった記憶。


「わ、私、遠いところまで来たんだなあ」


走馬灯は次から次へと進むと断片的な映像が繋がり始めた時、ロコロモナは自分が現代と呼ばれる世界で生きていた人間だったことを思い出した。

全て。


モヤモヤしたものが晴れていく。

名前も、友達も、好きだったものも、全て鮮やかに蘇ってきたのだ。


(そうだ、私は……高校生だったんだ!)


自分が全く別の世界で生きていた記憶を取り戻したことで、ロコロモナは今の自分の境遇を改めて見つめ直した。

冷遇して追い出した叔父家族、突然連れてこられたこの天空世界。


全てが、まるで夢のよう。

夢ではない、今、確かにこの天空世界にいる。


前世の記憶を取り戻した今、ただ怯えて暮らすのはもう嫌。


「セリアさん、私、強くなりたいんです」


決めたらやるとロコロモナは真剣な眼差しでセリアに言った。


「強くなって、いつか……私の故郷に帰りたい」


セリアは少し驚いた表情を見せたが強い決意を感じ取ると、優しく頷いた。


「ロコロモナならきっとできるわ。私ができることがあれば、何でも言ってちょうだい」


セリアの協力もあり、天空世界で生きるための術を学び始めた。

最初は、空を飛ぶことすらままならなかったが、持ち前の負けん気。


前世で培ったであろう適応力で、みるみるうちに上達していった。

そんな中、一人の少年と出会う彼の名はビンス。

少しぶっきらぼうな話し方をするけれど、困っている人を見過ごせない優しい少年だった。


ビンスはロコロモナに、この世界の戦い方や魔法のイロハを教えてくれた中で少しだけおれ様気質だったけれど、ロコロモナの努力を認め熱心に指導してくれた。


ロコロモナもまた、ビンスの隠れた優しさに気づき、次第に芽生えていくもの、共に訓練を重ねるうちにロコロモナは驚くべき才能を開花させていった。


前世の記憶が、この世界の知識や技術と結びつき、誰も思いつかないような、新しい戦術や魔法を生み出すことができたのだ。


頭角を現し始めその多彩な才能は、周囲の注目を集めるようになる。

最初は、ただの異世界からの迷い子として見られていたロコロモナが、今や一目置かれる存在となっていた。

ロコロモナとビンスは、天空世界の中でも特に強大な力を持つ者たちの目に留まることになる。


この世界を支配する王族。

王族はロコロモナの不思議な力に興味を持ち、彼女を自分達の側に置こうとするがロコロモナは拒否した。


世界で力を得ることではなく、いつか故郷に帰り、自分を追い出した叔父家族を見返すことだったからロコロモナの一途な決意を知ったビンスは、迷わず彼女のガワつく。


「おれも一緒に行く」と、力強い眼差しで言う。


二人は、王族の支配から逃れることが、可能な勢力を築き上げることを決めた。

ロコロモナの知恵とビンスの武力、二人のカリスマ性に惹かれた人々が、次第に彼らの下に集まってきたときから数年の月日が流れ。


ロコロモナはすっかり昔のおどおどした少女ではなくなっていた瞳には強い光が宿り堂々とした立ち振る舞いは、周囲をたくさん惹きつける。

ビンスもまた、頼れる相棒として成長し、ロコロモナの隣に立つ。


ついに、ロコロモナとビンスが率いる勢力は、天空世界の王族と対峙する時が来た。


「お前たちが、この秩序を乱すというのか!我らの統治の中で!」


王族の声音は、室内に響くような萎縮させようという声で、二人を威嚇。

ロコロモナは静かに前に進み出た。


「あなたたちが掲げる秩序は、弱い者たちが虐げられるもの。そんなものは、本当の秩序とは言えない」


ロコロモナの言葉は、集まった人々の心に深く突き刺さった。

彼らの中にも、今の王族の支配に不満を抱いていた者が少なくなかったのだ。


戦いが始まった。

ロコロモナは前世の知識とこの世界で得た力を駆使し、唯一無二な戦術で敵を翻弄、ビンスは強靭な力で相手を次々と打ち倒していった。


二人の激進下、反乱軍は確実に勢力を拡大していくと王族軍は、ロコロモナとビンスの圧倒的な強さに止めることができず、追い詰められていった。

ついに、王都が陥落。


長きにわたる戦いが終わりを告げた瞬間。

ロコロモナとビンスは遂に天空世界の支配者となる彼らが目指したのは、一部の人間だけが力を持つ世界ではなかった。

誰もが平等に、幸せに暮らせる世界。

それを実現するために、二人は力を合わせた。


新しいルールが制定され、独裁者の不正が正されていく。

ロコロモナの政策と、ビンスの力強い能力で天空世界は淡々と平和を取り戻していったそんなある日、ロコロモナは一人、上を見上げていた。


故郷の思い出は、遠い星のようにしか見えない。

それでも、心には、いつか必ず帰って、自分を追い出した叔父家族を見返してやろうという強い思いがあった。


「何を考えているんだ?」


背後から、優しい声が聞こえ振り返るとビンスが穏やかな表情を浮かべて立っていた。


「故郷のことを……少し」


「そうか。いつか、必ず帰ろう。お前の望むなら、この世界の全てを犠牲にしてでも」


ビンスの言葉に、ロコロモナはそんなものなのか、というものを感じた。


「ありがとう、ビンス」


二人は手を取り合い、空を見上げた。

⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ