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芽生え
わたくしは、もうどうでもよかったのです。
少年は怒っていた。
ただ、暴れることはなかった。
怒りはいつも心の奥底にしまわれて、外には決して見せなかった。
怒りはただ、少年の心の中にだけあった。
生まれた時から、少年の感情には三つしかなかった。
「喜」「哀」「楽」――その三つだけ。
だが、「怒」という感情だけは、なぜか存在しなかった。
お腹の中にいる頃から、そうだったのかもしれない。
普通の赤ん坊は泣く。少年ももちろん泣いた。
だが、その泣き声は、怒りに満ちていた。
本人はなぜ怒っているのか分からなかった。
ただ、何かが胸の中で燃えているのを感じていた。
周囲の大人たちは「元気な赤ちゃんだ」と微笑んだ。
誰もその心の闇に気づかなかった。
そして少年は成長するにつれて、その怒りを言葉にできずにいた。
怒りを持たない代わりに、彼の内面はどこか暗く、沈んでいった。
「喜」も、「哀」も、「楽」も、少年にとっては曖昧なものだった。
心の底からの愚かさを噛みしめながら。