第9話 ボンボンのダンジョン配信者
「先生、ダンジョンマスターって国からも注目されているとお聞きしたのですが本当なんですか?」
「まぁな。俺も一応王族ともコネがあるからな」
「お、王族ともコネがある!? す、すごいですね先生」
「まぁダンジョンマスターなら王族と関わる事になるし……?」
そこまで言って、ソルはある事に気づく。感覚を共有していたダンジョンに、侵入者がやって来た。
「侵入者か? 待てよ、あいつは軍使だ! 召喚獣は彼には手を出すな! 俺が直々に行く!」
ソルは侵入者の格好を見て、即座に軍使だと気づいてレナを連れて交渉に向かった。
軍使……軍隊における伝令を伝える係であり、和平交渉をはじめとした交渉や降伏勧告などを行う際に重要な役目を持つので、敵国の者でも殺さないのがルールだ。
「ソル=デイブレイクさんですね。アルフレッド様からのご伝言です」
そう言って軍使は1枚の手紙とサイン入りの身分証を渡した。
「要件はこれだけか?」
「はいそうです」
「分かった、帰って良いぞ。きちんと手紙は受け取ったと伝えてくれ」
「分かりました。では」
軍使はそう言うとダンジョンから去っていった。
「先生、今の人は?」
「彼は軍使って言って伝令を運ぶ仕事をしている人さ。基本傷つけてはいけない人物なんだ。たまに入って来るけど攻撃はするなよ」
ソルは手紙を読みつつ弟子にそう説明する。説明されたレナは手紙そのものはもちろん、それを包む封筒も気品のある最上級品なのを見て、もしやと思いたずねる。
「ところで、そのお手紙は?」
「『アル』からの手紙さ。一緒に仕事をしていて、それに関する内容さ」
「『アル』……? まさか、アルフレッド様ですか!?」
「ああ、そのまさかだ。ちょっとダンジョンを離れるからまた留守番してくれるか?」
「は、はい! そ、それと……」
「何だ?」
「もしよろしければアルフレッド様のサインが欲しいんですけど、いいですか?」
「分かった。伝えとくよ」
ソルは身支度を整えて王城へと向かう。20分もあればたどり着けるため、それほど距離は無かった。
ダンジョンを出て城下町を抜け、王城の中に入ろうとすると……門の守兵が槍を向けた。その表情からは明らかな敵意があった。
「止まれ! お前、ソル=デイブレイクだな!? ダンジョンマスターが何の用だ!?」
「アルフレッド様に呼ばれてやって来たんだ。証拠もある」
ソルはアルフレッド直筆のサインが入った身分証を見せた。
「うーむ……この文字やサインは本物みたいだな。分かった、通ってくれ」
身分証の効果は絶大で、衛兵たちもすぐに通してくれた。
「アルの奴、また『ダンジョン配信』とやらをやるみたいだぜ」
「ったく、お偉い様って奴は暇なのかね? 配信なんか観ずに自力でダンジョン潜ればいいのによぉ」
アルフレッドに対しては随分と不満だったが。
「ソルさんですね? お話はお伺いしております。アルフレッド様の元へとご案内いたします」
城内に仕えるメイドに案内され、部屋の中に入ると体型に合わせて作った特注の服を着て、腹が大きく出た……要するに「太った」男がいた。
彼はソルを極めて友好的な態度で出迎える。
「おお! 来てくれたか! ソル!」
「俺を呼んだのはまたダンジョン配信をおするためか?」
「ああそうだ。前回の配信でついに隣の国からも観覧希望の声が出始めたんだ」
「へぇ、一大産業だな。もうお前の事はバカには出来ないな」
「ボクをバカにするな! これでもこの国の王族なんだぞ!?」
「分かった分かった。だから怒るなよアル」
「アル」正式名称アルフレッド。
一応は王族なのだが4男坊、しかも上にいる3人の兄は病気らしい病気をせずに育った健康そのものな体で、
さらには現国王である長男には息子が2人いるためほぼ100%王位は継げない、という身分にいる。
統治の腕はあるのだが3人の兄が優秀過ぎて相対的にダメに見えるためロクな爵位も領土ももらえない穀潰しだったのだが、
冒険者に憧れていたのもあって、現在ではソルにダンジョンを作らせて傭兵を雇い「安全を確保した上での」ダンジョン攻略の実況中継を行っている。
「そう言えばお前、この前本物の遺跡に潜って撮影やってたそうじゃないか。
一応お前はこの国の王族関係者なんだから自分の身を考えた方がいいぜ? もしも死んだら大事になるぞ?」
「どうだか。王族の血は引いてる、と言っても誰も悲しまないと思うぞ」
「俺は悲しむかもな」
「ソル、お前本当にいい奴だよなぁ。じゃあ早速打ち合わせをやろうか」
次回のダンジョン配信へ向けての話し合いが始まった。