第6話 レナの才能
ソルがレナを仲間に加えた日。彼女を帰した後で彼は内偵を出していた。
本物のリスそっくりの姿に変化出来る能力を持つリス型獣人「ラタトスク」
戦いには一切向いていないが情報収集能力に長けるため、ダンジョンマスターにとって心強い味方だ。
彼らを放ってレナに関する情報の洗い出しをさせていた。
翌朝……レナが「出勤」する前の時刻。3匹のラタトスクが情報を持ってソルのもとへとやってきた。彼は書類を受け取り、中身をチェックする。
「……それが我々が集めた彼女に関する情報です。もう少し時間があればさらに詳しいものが集まりますよ」
「一晩でこれだけつかめればかなりの上出来だよ。相変わらずいい仕事をしてくれるな、ご苦労だった」
調査開始から一晩しか経ってないが、早くも彼女に関する情報をつかんでいた。
報告書によれば、レナの父親は「1体倒せれば勇者になれる」と言われている魔王を3体も倒した英雄『双剣のディラス』
母親はそのディラスと共に戦い抜いた氷魔法の使い手『氷結のサリサ』
レナは父親の剣の腕と母親の魔力を受け継いだ、エリート中のエリートだった。
「本人には絶対に言えないけど、何かの交配実験で産ませられた子供みたいだな」
「交配実験ですか……酷い事言いますね。あ、別に悪意はありませんよ」
「分かってるさ、引き続き調査を頼む。特に『双剣のディラス』に関しては念入りにな」
「かしこまりました」
ラタトスク達はダンジョンを後にした。
「『双剣のディラス』か」
ソルはボソリ、とつぶやくようにその名を口にする。
確かレナは「お父さんの治療費」がどうのこうの、と言っていた。となると何年も前にケガで引退したらしい『双剣のディラス』が再び動き出すだろう。
魔王を倒せるほどの剣の腕、レナが言うには「一度も勝てなかった相手」だ。彼の動き方次第では自分の命が危ないと危機感を持っていた。
その後、レナが「出勤」してきて研修に入る。今度は部屋の作り方をレクチャーすることになっていた。
「よーし、ではダンジョンマスターの基本である部屋を作るぞ」
そう言ってソルはレナに青色のマナ結晶を渡す。大きさは緑色の物より一回り小さめだ。
「? これは、マナ結晶? 一体何をするんですか?」
「マナ結晶を壁と手で挟むように持つんだ。そして部屋のイメージを明確に思い浮かべると同時に、大地のマナを感じとりそれを部屋の形にするイメージを描くんだ。
そうすれば思った通りの部屋が作られる。やってみろ」
「『みようみまね』でやるしかないんですね」
「まぁな。俺もこれが出来るまで……」
ソルが言いかけたところでレナが触れた部屋の壁が「ガラガラ」と音を立てて崩れる。と同時に「ゴゴゴゴゴ」という轟音が辺りに響く。
「!? なっ!?」
「!? な、何!? 何が起こってるんですか!?」
突如の轟音に弟子は慌て、師匠は「出来ている事に」慌てる。
やがて轟音がおさまると彼女の前に通路が出来、その先には何もない空の部屋があった。
「あ、出来てる。結構簡単な物なんですね、先生」
「お、俺はこれができるのに2ヶ月はかかったんだぞ。それを『みようみまね』で一発で?」
相変わらず、レナの才能はぶっ飛んでいる。
ソルにとって一段一段地を這って上がっていく階段を、彼女は空を飛んで目的地まで飛んでいくような様を見せつけられた。しかも本人には一切の自覚無しに。