第54話 説得
翌朝……ソルのダンジョンにある人物がやって来た。
「侵入者か!? いや……」
孤児院の院長が普段着のままやって来た。敵意は一切なく、ダンジョンマスター側は武装を解除した上で彼と話をすることにした。
「どのようなご用件で?」
「今日、兵たちがここにやってきます。説得したいのでここに居させてくれませんか?」
「説得、ですか。出来ればあなたのような人を危険な目に遭わせたくは無いのですが」
「男というのは命を賭してでもやらねばならぬ事があるという物です」
「……そこまで腹をくくっているのなら仕方ありませんね。危なくなったら割って入りますよ」
ソルはあっさりと彼の協力を了承した。
一般人を巻き込みたくはなかったが、相手は老体とはいえ覚悟を決めて腹をくくっている。
こうなると無理に止めようとしてもすき間をぬってでも割り込もうとするので、止めない方が事故が起きる可能性は低いのだ。
それから少しして、7名ほどの兵士が隊長のウルスに率いられてソルのダンジョンへとやって来た。
「ダンジョンマスター、ソル=デイブレイクだな! お前が……って、先生!?」
兵を率いる隊長、ウルスの前には恩師である先生がいた。一体なぜ?
「ウルス。このお方はダンジョンマスターだが悪い人ではない。君たちより先にこの町に来て孤児院に水を寄進してくださったんだよ」
「先生! そんなデタラメ言わないで下さい! 何でよりによってダンジョンマスターなんかに……」
「ウルス、先生が間違っていると言いたいのか?」
「!! さ、さすがにそれは……でもダンジョンマスターですよ? あの魔王の手下なんですよ? それが人助けだなんて……」
「昔からずっと言ってただろ?『偏見は目を曇らせる』とな。偏見は便利かもしれないが、それに頼ると真実を見失う。
実際彼らはウルスが来る前に孤児院に大量の水を寄進してくれた。たとえそれが売名行為だったとしても、子供たちが救われたのは確かだ」
院長先生はかつて育てた子供のウルスに諭すが、相手は受け入れてくれない。
「先生……でもやっぱり先生は騙されているんですよ! ダンジョンマスターが水を枯渇させて、その上で水を渡していい人ぶってるだけですって!」
「その証拠はどこにあるのかね? それに彼らは水不足が起きてからこの地にやって来た。もし彼らがこの地を干上がらせているのならもっと早くからここにいないとおかしい話になるぞ」
「証拠なんてどうでもいい! とにかくダンジョンマスターは悪なんだ! 悪を裁いて何が悪いんだ!」
「ウルス! やめなさい! そうやって人に向かって決めつけるのは一番やってはいけない事だと教えたはずだ!!」
「……」
兵を率いる隊長はダンジョンマスターに対し明らかな敵意を向けていた。それが当然だ、と言わんばかりに。
「じゃあ、どうしろって言うんですか? このままダンジョンマスターのすることを黙って見てろと言うんですか!?」
「そういう事になるな」
「ふざけないで下さい! そんなの絶対に認められませんって! 出来っこないですよ!」
「ウルス、ダンジョンマスターは全員魔王の手下である極悪人、だとでも言いたいのか?」
「ええそうですよ! 当然じゃないですか!」
話は全くの平行線で、交わる気配すらない。
「分かったよ、2週間待ってくれ。出て行くよ」
2人の間に割って入る形で黙っていたソルが口を開いた。これ以上話をしても無駄だろう、と悟ったからだ。
「!! ソルさん! あなたは何も悪い事などしていません! あなたが折れる必要など……」
「いいんです。人間って奴は『こうだ』と決めたら『現実の方をねじ曲げてでも』決めたことを信じぬく生き物なので、説得なんて不可能なんですよ。例え教え子だとしてもです」
「しかし……そんなの理不尽ではありませんか!」
「そもそも世の中って奴は理不尽で不正義なものなんですよ。慣れてますから」
ソルの提案に怒りさえ覚える孤児院の院長先生に、諦めにも似た態度で応える。応えてしまう。
「よーし、分かった。先生の面を立てて特別にお前の言う事を全面的に受け入れて2週間だけ待ってやる。2週間過ぎてもここに居座るつもりなら俺たちにも考えがあるからな」
「ああ。約束は守るさ」
手荒な事をしなくても出て行く。と約束したことに満足したのか、兵士たちは去っていった。
「先生……良いんですか? 私たちは何も悪い事はしてませんよ?」
「良いんだ。そもそもダンジョンマスターだなんてそういう仕事だからな。旅の準備を始めてくれ」
「でも……」
「俺だって理不尽で不条理なのは分かってる。でも魔王のやったことを知ってる人間からはそう思われても仕方は無いさ。お前の国にいた頃も一時期とはいえ賞金首だったからな」
「……報われないですね、この仕事」
「ああ。こういう仕事だからな。レナ、お前を巻きこみたくない。って言った理由が良く分かるだろ?」
ソルはこういう仕打ちには慣れているのか、あるいは感覚がマヒしてしまっているのか、それが辺り前だと言わんばかりの態度だった。
「ソルさん、と言いましたね。申し訳ありません! うちのウルスが無礼極まる振る舞いをしてしまって……」
「良いんです、あれが人間の限界ですから。ウルスと言いましたっけ? 彼が悪いわけではありません。決して責めないで下さい」
「私だけはあなたたちの事を尊敬します。あなた達こそ真の聖人、後世にまで称えられるべき人間です」
「そうですか。では誉め言葉として有難く受け取らせていただきますね。準備があるので失礼します」
結局ソル達はダンジョンを畳み、また流浪の日々を過ごす事となった。




