第44話 解析、開かれる血路
「……」
ドラやゴンたちは手が出せなかった。魔王デイブレイクに一斉に襲いかかったら、
あの『蜘蛛の構え』で一斉に全滅して敗北した事が恐怖として刻まれ、二の足を踏んでいた。
ソルはそれに加えて、強烈な違和感を抱いていた。魔王デイブレイクは……一切殺気を発していない。実にリラックスした状態で戦っていた。これも変だ。
殺気を全く発せずに戦うなど、ソルの常識から言ったら不可能なはずだ。
そう考えを巡らせている間にも兵士や義勇兵たちは蜘蛛の脚に身体を突き刺され、倒れていく。
回復魔法が使える者は治療をしてはいるが、明らかに人手は足りない。
このままでは全滅する。まだ兵の数が保てているうちに倒さないと!
ソルは自分自身に発破をかけて魔王に立ち向かう。
「レイラ! 俺が後ろから行く、お前は前から行け! 同時攻撃だ!」
「分かった、行くぞ!」
タイミングを合わせて、2人が同時に踏み込む。無論、蜘蛛の脚が襲い掛かって来るがそれは織り込み済み。
ソルもレイラも弾きあるいは防御して魔王デイブレイク相手に踏み込む!
ソルが持っていた刀を渾身の力を込めて振り下ろすと、魔王の左腕と蜘蛛の脚2本を根元から斬り裂いた!
だが他の脚が一斉にソルを向き、突きが繰り出される。彼は1本2本程度なら何とか耐えるが、3本、4本と続くうちにガードが甘くなっていく。
そして……
バキィン!!
「!!」
ソルの曲刀によるガードを蜘蛛の脚がこじ開ける!
まずい、ダメだ、やられる。ソルは自分の最期を覚悟したが、蜘蛛の脚は方向を180度変えて魔王デイブレイクに対し正面から殴りかかるレイラめがけて突きを入れた。
(……近くにいる敵を優先するのか?)
ソルは距離をとり、発見したことを皆に伝える。
「みんな、聞いてくれ! どうやらあの脚は人体のマナエネルギーを感知して近くにいる敵を狙って『自動で』攻撃を仕掛けるらしい!
俺を殺せたはずなのにそうしなかったのは魔王デイブレイクの意思に関係なく『自動操縦』しているからだと思う!」
ソルが戦場に向かって大きな声で叫ぶように伝える。自動操縦。それがソルの考え出した『蜘蛛の構え』の秘密だ。
それに、自動で攻撃するのだからそれに任せきりで殺気を出さずに戦えるのも納得がいく。放っておいても敵は勝手に蜘蛛の脚に突かれて死ぬからだ。
「ほお、見破れるとはな。4分の1とはいえ、オレの血を引いているだけある。褒めてやるよ。だが、分かった所で何になるというのだ?」
魔王は大地からマナエネルギーを吸い上げ、ソルに斬り飛ばされた2本の蜘蛛の脚を再生させる。
これがある限りオレは無敵だと言わんばかりに、両腕を切り飛ばされてもなお、平然としていられる。
実際孫の発見に水を差す余裕すらあったし、秘密を見破った、だから何なんだ? と口にも出した。だがソルには作戦があった。
「レナ、アイスボールだ。特大のサイズをぶつけてやれ!」
「は、はい! 分かりました!」
次いでソルは最後尾にいた砲兵に作戦を伝える。
「あの子がとんでもなくデカいサイズのアイスボールを撃つから、それに合わせて砲を叩き込んでくれ! 行けるか!?」
「あ、ああ。エネルギーはフルチャージされてるからいつでも撃てるぞ」
「じゃあ、頼んだ」
レナはマナを練って氷の塊を作り出す。それは自分が出せる限界の大きさで直径1メートルに達する巨大な氷の球だ。
「アイスボール!」
レナは渾身のアイスボールを敵に叩きつける。が、相手は8本の蜘蛛の脚でがっしりとキャッチし、サバ折り、あるいはベアハッグのように締め上げるように砕いた。
ソルの思った通り、魔法に込められたマナエネルギーと人体に流れるマナエネルギーの違いを区別していないようだ。
アイスボールの処理をしている間は、魔王の防御はがら空きだ。
「今だ! 撃て!」
砲が火を吹いた。放たれたマナエネルギーの塊は魔王の腹、正確には右の脇腹を直撃し、そこが大きくえぐれた。
「な……ん……だ……と……?」
それは魔王デイブレイクにとっては予想外だった一撃……腕程度ではひるまなかった彼でさえ、自身の生命の灯が消えそうになる「疑惑」を持たせるものだ。
傷口から紅い液体が怒涛のように、ドバッ! とあふれ出る。
傷口を止血させるためにマナエネルギーを傷口に回した魔王デイブレイクだが、その隙は戦場にとって文字通りの致命傷となる。
意識が傷口に向かった、まさにその瞬間!! そこにディラスが踏み込んで魔王の両胸に双剣を突きたてる。
「疑惑」は。そう「自分は『もしかしたら死ぬかも』しれない」という「疑惑」は『確信』へと変わった。
「死ぬ『かも』しれない」ではなく「ココでオレは確実に死ぬ」という確信を持てた。
その通り、ダメ押しのトドメと言わんばかりに、ソルの曲刀が魔王デイブレイクの首をはね飛ばした。




