第43話 蜘蛛の構え
魔王デイブレイク討伐隊がダンジョンを歩む。途中障害らしい障害にも出会わず、最深部まで歩みを進めた。
元々はソルの部屋だったが、今では魔王デイブレイクの住まいとなっている部屋。そこへ討伐隊員がやって来る。
先頭はソル、レナ、ディラス、レイラ・イリーナ姉妹、ライネルという名高い勇士たち。
魔王デイブレイクは自分の事を倒しに来た一行を呆れた口調で出迎えた。
「随分とまぁ人数だけは揃えたな。群れなくては何もできない雑兵揃いなのかね? ならば掃討してやろう。魔王デイブレイクの肥やしになるのを有難く思うがいい」
そう言いながら魔王は手を組み、構えを発動させる。
『蜘蛛の構え』
魔王デイブレイクが念じると背中からマナエネルギーで出来て、先端が尖った8本の蜘蛛の脚に見える歩脚が突き出てきた。
その長さは1本およそ4メートルの巨大な物だ。レナはそれに一切ひるむことなく立ち向かう。
『虚無の構え』
レナの気配が消えるが、それに対しソルは大慌てで忠告する。
「!! レナ、待て! 『虚無の構え』は……!!」
ソルの忠告を無視してレナは駆け出すが……。
「!?」
レナが脚の射程範囲内に入ると、突如脚による突きが入る! それは正確にレナの身体を狙ったもの。一気に3本の脚の突きを食らってしまう!
「ぐうっ!?」
レナは蜘蛛の脚が襲い掛かって来るのを一瞬だけ早く探知できた。双剣で2脚さばけたが残りの3本目の突きを食らってしまう。
幸い鎧に当たって怪我こそしてないが、1歩間違えたら、それこそ脚が襲って来るのを見抜けなかったら、今頃串刺しになってたかもしれない。
彼女は距離をとり、先生と話すために『虚無の構え』を解除する。
「先生!『虚無の構え』が通じないみたいなんです!」
「だから待てと言っただろ! アイツには『虚無の構え』が通じないんだ!」
「だから先生はやられたんですか?」
「そういう事だ。俺も油断しちまったんだ」
あの先生がやられるなんて余程の事ではないと思っていたが、こういう事だったとは……。
「どうした? 来ないのか? ならこちらから行くぞ!」
魔王デイブレイクが兵士の集団へと深く切り込むように踏み込んだ! と同時に、8脚の蜘蛛の脚が休みなく兵士相手に攻撃を加える。
「俺に続け!」
もちろん一方的にやられるわけではない。ディラスは発破をかけて魔王デイブレイクに襲いかかる!
ガガガガガッ!
『蜘蛛の構え』で作られた蜘蛛の脚が彼に一斉に襲いかかるが、かき分けるように両手の剣で弾き、魔王に肉薄する!
(今だっ!)
ディラスは渾身の力を込めて剣を振り下ろし、魔王の右腕を斬り飛ばす。紅い血液がマナエネルギーと共にブシュウッ! と吹き出る。
直後、彼は魔王の右腕を蹴って部屋の入り口に飛ばす。腕を相手に渡すと元通りにくっつくのでそれを阻止するためだ。
勇者が再び魔王デイブレイクに視線を戻すと、相手の出血は止まっていた。止血能力の高さも人を超えた化け物というわけか。
「ほお、さすが勇者殿。その名に偽りなしだな。だが……これをかわせるかね?」
『ディラスの目』は『8本の蜘蛛の脚』が『自分に向いている』のを『直視』していた。そして……一斉に襲いかかって来る!!
死を覚悟した、その直後!!
「シールド!」
彼の目の前に魔力の壁が現れる。アルフレッドの支援だ。
時間にしてほんの1~2秒程度だが、猶予が出来る。戦場における1~2秒というのは文字通り「生死を分ける」とてつもなく貴重な時間だ。それを生かして彼は魔王デイブレイクから距離をとった。
「ディラス、大丈夫か!?」
「アルフレッド様、ありがとうございます」
案外戦力になるものだな。出発当初は半信半疑だった自分に対し反省をせざるを得なかった。




