第3話 再会はダンジョンの中で
レナがソルの正体を知った翌日の朝……。
「ダンジョンへの侵入者、か」
自分が作ったダンジョンと意識を共有しており、誰がいつどこにいるのかが簡単に分かるダンジョンマスター、ソルは新たな冒険者がダンジョンに入ってくるのを感じていた。
「……待てよ。彼女は!?」
その侵入者は武器らしい武器も持たず、防具も身につけていない。おまけに服装も戦闘向けではない日常生活用の物。ダンジョンとは明らかに縁のない一般人だ。何かある。
「召喚獣は彼女には指一本触れるな! 俺が直々に行く!」
レナは入り口からまっすぐ続く通路を歩く。部屋につながる扉までやってくると、そこが開いた。向こう側には青いハチマキとリボンを付けた青年が立っていた。
「君は確かあの時の……」
「あ! ソルさん! 会いたかったです」
「その恰好からして、戦いに来たってわけじゃあなさそうだな。こんなところで立ち話するのもアレだから奥まで来てくれ。不味いけど茶くらいは出すよ」
そう言ってソルは彼女を、ダンジョンの最深部にある彼が日常生活を送る部屋の中まで招き入れる。
テーブルの上に市場で広く出回っている安物の紅茶を作法を知らない男が淹れた、要するに不味い紅茶を出して話を始める。
お互いに軽く自己紹介をした上で本題に入った。
「この間はお父さんの治療費を払ってくれて本当にありがとうございます。何とお礼を言って良いのやら……」
「そうか。なに、礼を言われるような事はやってないさ。で、なぜこんなところに来たんだ?」
「ソルさんが賞金首だなんていう悪い人なのがいまだに信じられないんです。話をしていても悪そうなところなんて無いですよ」
「そりゃあダンジョンマスターと言ったら無条件で悪党なのは常識だろ?
子供の頃親から寝かしつけるために『夜になって寝ないとダンジョンマスターにさらわれて仲間にされる』って脅されてただろ?」
「そりゃそうですけど……でもソルさんが悪人だとどうしても思えないんです。それに、そんな事言ってわざと私との距離をとってますよね?」
「!!」
ソルの顔がピクリ、と反応する。当たりだ。
「そこまで読めるなら俺みたいな人間には近づかない方が身のためだぜ。いつ態度を豹変させるか分かったもんじゃないからな。
で、俺に話があるってのは、それだけか?」
「その……ソルさんのお手伝いをしたいんです。お礼をさせてください」
「君みたいな子に手伝って欲しい事なんて何一つない。俺の仕事は時には冒険者たちを自らの手で殺すこともある汚れた物だ。
君みたいな将来のある子を巻き込む真似なんてとてもじゃないけど俺には出来やしない」
彼女の提案にソルは即答だ。俺に関わるな、とぴしゃりと断る。彼は話を続ける。
「それに、俺は復讐旅をしている。とある魔王を殺すための旅だ。そんな血なまぐさい事に君を巻き込むわけにはいかない。帰ってくれ。
もしも君が戦えるのなら考えても良いがな」
戦えるか? その一言にレナの顔がパッと明るくなる。
「あ、それならお父さんから護身術程度ですが剣を学んでますよ」
「へー、護身術ね。オーケー分かった、だったら俺を負かせることが出来たら考えてやってもいいぞ」
ソルは「こんな女の子の護身術程度なら負けるはずがない」とタカをくくっていた。
いくら彼女が本気を出そうがダンジョンマスターとして日夜冒険者や勇者との斬りあいに比べたらおままごとレベルだ。彼はそう安易な、そして「大間違いな」判断を下してしまった。
この直後、ソルは自分の軽はずみの失言を後悔することになるのだが、この時はまだ知らなかった。




