第27話 完全復活 双剣のディラス
その日の朝、レナとディラスが朝食を終え、彼女が後片付けを終えた後の事。
父親は緑色の鎧下にミスリル製の鎧を着こんで同じ材質で出来た手甲とスネ当てをつけて、左右の両腰に鎧と同じ素材でできた剣を1振りずつさげた姿で鏡の前に立っていた。
「お父さん、その恰好……」
「ああ。腕は完全に治ったよ『双剣のディラス』復活だ。早速仕事に出かけて来るよ」
「あ、待って! お父さん……あ、行っちゃった」
ディラスは安普請の自宅を発った。元とはいえ勇者の自宅としてはかなりみすぼらしいものだ。
「お、おい見ろあの男。もしかしてあの『双剣のディラス』じゃないか?」
「ほ、本当だ。あの勇者ディラスだ!」
「引退したとは聞いていたけど、あの格好だとまたダンジョンに潜るのかな?」
「この町に住んでるって噂だったけど本当に居たとはなぁ」
観衆たちが完全武装したディラスの姿を見てああでもない、こうでもない。という噂話を語る。そんな中……。
「あ、あの!」
1人の中年男がディラスの前に現れた。
「あの、あなたは『双剣のディラス』様だと存じております。その……ぶしつけな願いで申し訳ないのですが、サインをいただければと思いまして。お願いできますか?」
そう言って彼はペンとサイン用の色紙をディラスに差し出した。
「そ、そうか。分かった」
特に断る理由も無いので、ディラスは気安く彼のリクエスト通りサインをプレゼントした。
「ありがとうございます! 家宝として大切にします!」
男はサインを受けとるとはしゃぐように去っていった。どうやら本当にサインが欲しかっただけなのだろう。
「いらっしゃいませ。ようこ……あ! もしかして、あなたは『双剣のディラス』様でしょうか!?」
「ああそうだ。復員したいんだがいいか? それと、ダンジョンに潜るパーティが他にいないかも調べてくれないか?」
「はい! かしこまりました!」
ディラスは冒険者ギルドの受付嬢に書類を渡した上でパーティを探させる。彼女は「魔王を3体も倒した」大物の登場に少々声が裏返る程落ち着かない動きだ。
しばらくして……。
「お待たせいたしました。復員届の記述内容は特に問題はありません。
それと、3人組のパーティが昼頃に潜るとの事なのでメンバーを募っているそうですがいかがいたしますか?」
「分かった。そのパーティと話をつけてくれないか?」
「かしこまりました。少々お待ちいただけますか?」
受付嬢は再び仕事に就く。やがて連絡が済みパーティメンバーとディラスが酒場で出会うと……。
「す、すげぇ。本物の『双剣のディラス』だよな?」
「偽物がどれだけいるかは分からないけど本物であるのは確かだぞ」
「これなら今回は大収穫になるのは間違いないな。ツイてるぜ俺達!」
メンバーを募集中のパーティにとっては到底釣り合わない程のとんでもない大物の登場だ。
今回の仕事は上手く行ったも同然だ、と大盛り上がりだ。
「あ、あの。ダンジョンに挑む前に1回手合わせさせていただければと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わんぞ」
勇者の実力はいかほどの物か。言われるがまま試合が行われることになった。
酒場の外、路上で2人は相対する。お互い剣を抜いて構える、次の瞬間!
「!!」
ディラスが一気に踏み込んで来る! 相手は盾で攻撃を弾き、カウンターを繰り出そうとするが……。
「!?」
ディラスと剣を交えた相手は凄まじい違和感を覚えていた……自分が攻撃を繰り出そうとした『まさにその瞬間』に相手から攻撃が飛んで来る。
しかも急所を的確に狙った殺意のあるモノが、だ。
こうされるとガードに回らざるを得なくなり、手を出せない。そうなると防戦一方になってますます追い込まれる。
双剣で単純に手数が多いだけではない「強さ」を感じ取っていた。
「!! ス、ストップ! ストップだ!」
試合を申し込んだ側がギブアップと言ってもいい声を上げる。その顔は断食でもしてげっそりと痩せ細っているように見えた。
これが……これが『双剣のディラス』か。そりゃ魔王を倒せるほど強いわけだ。
「……強いな」
相対した戦士は、たったその一言を言うのが精いっぱいだった。




