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大地のためのダンジョン運営  作者: あがつま ゆい
ダンジョンマスターと魔王
23/70

第23話 「デイブレイク」という苗字

「お母さん? お母さん、どこ?」


 まだ7歳のソルがお母さんを探して暗闇の中を歩いていた。

 もしかしたら、オオカミや絵本に出てきた怖いお化けが突然襲ってくるかもしれない。という子供だからこそ豊かな想像力のせいで、

 暗闇の中を歩く彼にとって、怖い怖い恐怖との戦いだった。


「お母さん! !? あれ?」


 彼はようやく見つけた母親に触れるが、その肌の感触こそ人間の身体そのものだが、不気味なほど冷たい……本能が拒絶する不気味さだ。


「お母さん? お母さん!? 何があったのお母さん!? ねぇお母さんってば! ねぇ!」


 ソルは母親をゆするが、返事は無い。


「お母さん!? お母さん!? 起きてってばお母さん!」




「ハッ!」


 ソルは目覚めた。場所はいつものダンジョン最深部にある自分の部屋……ぜんまい仕掛けの壁掛け時計は既に朝の時間が来たのを知らせていた。


「……夢、か」


 今でもたまに見る夢……実の母親が殺されたものだ。

 記憶がゴチャゴチャになって、切り貼りしたかのように断片化して再構成されたものなので現実とはだいぶ違うが、それでも母親が殺されたことは変わりない。

 しっかり寝たはずなのに、体がだるい……この夢を見るといつも疲れてしまう。まだ朝なのに夜のような疲労感が「ずっしり」と肩にのしかかる。


 とはいえ、朝が来たのだから目覚めて朝食を食わねばならない。ダンジョンマスターたるのも身体が資本なのだ。




「先生、先生ってば今日は何か調子が悪い感じがするんですが大丈夫でしょうか?」

「あー、何でもない。いつもの事だ」

「そうですか……私としては何か隠している気がするんですけど」


 レナは先生の調子が悪い事を即座に見抜き、さらに何かしらを隠していることにも気づく。

 元々女の直感は鋭いものだが、両親が勇者であるエリートな彼女の勘は際立って鋭い。


「……分かるのか?」

「なんとなく、ですけど。先生の元で働くようになって3ヵ月は経ってますし、それなりに分かります」

「そうか……よしわかった」


 隠し事をしても無駄だろう。どうせその内話すことになるんだし、その時が今来たのだ。と彼は解釈した。




「レナ、お前は『魔王デイブレイク』っていう魔王を知ってるか?」

「え? 聞いたことも……あれっ?「デイブレイク」って、確か先生の名字ですよね? 手配書にもそう書いてありましたけど」


 レナは酒場で先生の正体を知った時をよく覚えていた。もちろん「ソル=デイブレイク」というフルネームもだ。


「俺の苗字、デイブレイクってのはその「魔王デイブレイク」から来ているんだ」

「!! 何ですって!? じゃあ先生は魔王の子供だったりするんですか!?」

「血縁っていう意味では合ってるな。その「魔王デイブレイク」は、俺の……祖父だ」

「せ、先生のおじいさんが、魔王!?」


「先生は魔王の孫息子」弟子にとってはひたすらに衝撃的な事だった。




「魔王って子供が出来るものなんですか?」

「それは分からん。じいちゃんが魔王になったのは俺が7歳の頃だからな。魔王には子供が出来るかどうかはわからんが、俺の両親はマトモな人間だったよ。

 魔王デイブレイクのせいで、俺の両親は2人とも死んじまった。だから仇討ちのためにこの国でダンジョンを作っているのさ。

 魔王デイブレイクは必ずこの地のマナエネルギーに目を付ける。その時こそ、奴を殺すのさ」

「……」


 レナは黙ってしまう。身内同士での殺し合いなんて、あまりにも酷すぎる。しばらく沈黙した後、彼女が口を開けた。




「止められないんですか?」

「ああ。一度魔王になったら人間には戻れないし、何より相手は自分自身の欲望のために実の娘と義理の息子、つまりは俺の父親と母親を殺したんだ。

 俺にとってのアイツは祖父じゃない、魔王だ。両親の仇討ちのために殺さなくてはいけない敵『魔王デイブレイク』さ」

「……だからこのダンジョンで初めて会った時に私を拒絶したんですね?」

「そういう事だ。相手は既に人間を辞めたも同然だし俺も身内とは思ってないけど、やってる事は身内同士で殺した殺されたなんていう泥沼だから、引き込みたく無かったのさ」




 かつてレナがソルのダンジョンに初めて入って話をしたとき、彼はやたらと彼女を拒絶していたのはそういう理由があったのか。

 そんな理由を抱えているのなら仕方ない事だろう。そこまで話をした、次の瞬間。




「!! 侵入者か。おしゃべりは終わりだ。退治に向かうぞ。ついてこい」

「は、はい!」


 今日もダンジョンに侵入した冒険者を倒す日常が始まった。

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