第14話 魔王討伐戦 中編
「早くもダンジョンを任せられた、か。責任重大ね」
レナは先日、ソルから「明日は俺が魔王討伐から帰ってくるまでダンジョンの全権限を渡すから俺の代わりに運営してくれ」と言われて、
1日だけとはいえダンジョンの運営という大役を任せられていた。
「ハハハ、嬢ちゃんそんな固い顔すんなよ! オレ達がサポートしてやるから安心しなって」
召喚獣であるミノタウロスがそう言って緊張を解こうとする。
「は、はい。分かりました。では皆さんお願いします」
レナは遠慮気味にそう言ってダンジョンと自身の身体をリンクさせ、監視を始めた。
◇◇◇
「右の部屋からケンタウロスが1体来るぞ! こいつを倒せば魔物は全滅だ!」
ソルの言葉通り敵の援軍が来た。
ミノタウロスは斧を捨てて、副武器である「人間基準で言えば」大型の剣を片手で握り、ケンタウロスは軽快な足音を立てながら矢を放つ。
「「ファイアーボール!」」
ファイアーボールが魔術兵2人から放たれる。火の玉はケンタウロスの左腕と右前足に当たり、弓を握る力と機動力を落とす。
「サンダーボール!」
次いでソルがケンタウロスに追撃を入れる。雷球を放ってケンタウロスの足にダメージを与えていく。
「!!」
ケンタウロスの下半身は防具をまとっていなかったため、魔法による攻撃は耐えきれず、足の動きが乱れる。
「今だ! 斉射しろ!」
その隙を弓兵隊は逃さない。総勢6名の弓兵が一斉に矢を放つ。
ドスドスッ!
矢は全てケンタウロスの下半身に命中し、さらに動きが鈍る。
「今だ! 行け!」
槍兵7名が一斉にケンタウロスに襲い掛かる。囲まれた上に槍でグサグサと刺され、勝負は誰が見ても「ついた」と言えよう。人虎同様に光に包まれて姿が消えた。
残りはミノタウロスだ!
「ぐあっ! う、うぐ……」
ミノタウロスが副武器として持っていた「人間からしたら」大剣と言って良い大型の剣は大斧よりは威力は弱いとはいえ、
それでも斬られれば鎧ごしだったとしても重傷は免れない。片方の腕をやられたとはいえ戦意を失ってはいない。その剣で斬られた兵士は力なく床に倒れた。
「くっ!」
ライネルは今すぐケガをした部下の様子を見たかったが、瞬時に今はそれが出来ないのを悟って一瞬だけしか見ずにすぐに視点を敵に移す。
相手が振りかぶり、当たり所によっては直撃すなわち即死の一撃が来ると思った、その瞬間!
「!?」
ミノタウロスが突如ぐらりと姿勢を崩し、ひざを付く。ライネルにとっては大きなチャンスだ。一気に距離を詰め、斬り上げるようにしてミノタウロスの首を斬りつける。
相手の首からは洪水のような大量の血を吹き出した。
「アリ……ガト……」
そう言い残し光に包まれて消えた。
「!! ソル!」
ミノタウロスの姿が消えると同時に、相手がいた場所の後ろにソルがいた。彼の曲刀が相手の背後から太ももを深く斬りつけてスキを作ってくれたのだ。
「ソル、お前いつの間に後ろに……まぁいい、助かったぞ」
「お前は無事なようだな。貸しにしとくぞ、後で返せよな」
魔王を守る魔物を全滅させたところで、ライネルは隊の被害状況を確認する。
「けが人は2人か。治療はどうだ?」
けが人へ回復魔法による治療を行っている魔術兵2人に状況を聞く。
「命に関わる程ではありませんが、これだけ失血したのなら多分立つのもやっとで戦うどころじゃないでしょうね。止血はできましたがこの場での治療はこれが限界です。
これ以上は外科治療専門の医師に診てもらうしかありません」
「分かった。ケガをしたお前たちは護衛と一緒に帰ってくれ」
「……申し訳ありません、団長」
「いいんだ、お前たちは良く戦ったよ。名誉の負傷だ、俺が言うんだから間違いない。兵士たるものケガをしたら休むのも立派な仕事の内だ」
2人とそれを守る護衛3人は部屋を出て戦線を離脱した。
「で、どうする? 俺が見たところ魔物は全滅で残りは魔王のみってわけなんだが」
「当然討伐は続行する。一気に仕留める! ついてこい!」
残りの兵士は15名ほど。戦うには十分な数なので討伐を続行する。狙うは魔王の首だ。




