第12話 撮影強行
「!? 坊ちゃま!?」
鼓膜が痺れる程の強烈な爆音に、そこから遅れて数秒後に
ドン!
という壁に人間の体が叩きつけられる音。異常な音の連続に経験豊富な傭兵ですら戸惑いを隠しきれない。
「う、ううう……痛ぇ……」
「幸い」と言って良いのだろうか? アルフレッドは意識は失っていなかったが明らかに動きが鈍い。
「ダ、ダメだなぁアルフレッド君。ダンジョン内で宝箱を見たら罠がかかってるかもしれないと思わなきゃ。お前たち、行け!」
(アルの奴大丈夫か? でも撮影してるからなぁ)
ダンジョンマスターSはアルフレッドの身を案じるがそれを表に出さず、人虎1体と新たに呼んだウサギ型獣人の魔術師1体を送り込む。
「お前ら! 坊ちゃまを守れ! 俺が治療するまで踏ん張ってくれ! サエヘ! お前ポーション持ってただろ!? それを使ってくれ!」
僧侶はそう叫ぶように指示を出しつつアルフレッドの治療を始める。
彼は回復魔法でアルを癒し、人足の傭兵はいざという時に持っていたポーションを飲ませるが、時間がかかりそうだ。
「サンダーボール!」
ウサギ型獣人とダンジョンマスターSは雷球を傭兵たちに投げつけて、前線の人虎を援護する。
雷魔法は「熱を発する炎魔法」と「冷気を作る氷魔法」を同時に行い手のひらの中で小さな雷雲を作り出す必要があるので魔法の中では難易度が高い。
その代わり金属製の鎧を貫通する利点があるので需要は高い魔法だ。
「ぐっ!」
傭兵たちは電撃を根性で耐える。
もちろん装備品でもある程度対策済みで、鎧は内側に革を縫い付けているし盾も表面は鉄製だが同じように内側には革を張ったものだ。
それでも電撃は完全に防ぎきれるものではなく、最後は気合いと根性だ。
(もらった!)
人虎が電撃魔法を食らって態勢を崩した傭兵めがけて拳を叩き込もうとする! が……。
「シールド!」
応急手当で何とか復帰したアルフレッドが魔法で傭兵たちをアシストする。防御魔法で人虎の一撃を防いだ。
「!!」
そのスキを逃さない。傭兵は持っていた剣で人虎のノドに深々とした刺し傷をつける。紅い液体が「ブシュウ!」と吹き出て身体が光に包まれ姿が消えた。
(今だ!)
傭兵剣士の片方がダンジョンマスターSに肉薄し、彼の身体を斬りつける!
利き腕である右腕を深く斬りつけられ、持っていた曲刀をポトリと落してしまう。
「ぐ……分かった、分かった。この部屋のエネルギーは全部お前にやるから見逃してくれないか?」
「いいだろう……それで手打ちだ。行きな」
ダンジョンマスターSとその配下たちは部屋から退散していった。アルフレッド達の勝利だ。
「というわけで今回の冒険は以上となります。最後まで見ていただき本当にありがとうございました。次回も見てね」
そう言うと同時に使い魔を握り潰し、撮影を終える。そこまでを「気力で立っている状態」でセリフを口にした後、ひざから崩れ落ちてばたりと倒れた。
「アル、大丈夫か?」
ソルは自分の傷を治した後、傭兵の僧侶と魔術師であるウサギ型獣人と一緒に回復魔法でアルフレッドの傷をいやしていた。
「ソル、お前限度があるだろ。そりゃ迫力のある映像が撮れたのは良かったよ? でも明らかにやりすぎだろこんなの」
「ああ、すまない。手違いで本来の物とは別の罠を持ってきてしまったみたいだ」
そう言えばレナが罠を作ったと言ってたから、それを間違えて持ち込んでしまったのだろう。罠作りにおいても彼女の才能は凄まじいものがあったようだ。
「どうだ? 痛むか? 立てるか?」
「まだ痛いけどだいぶ楽になったよ。効いてると思う」
治療が進み、立って歩いても特に問題ない位、身体の傷は癒えてきたようだ。
「良かった。すまなかったよ、俺の手違いでこんな目に遭わせて……」
「構わないさ、ボクとお前の仲だからな。それに先に言い出したのはボクで、ソルは巻き込まれた側だからな」
何とか回復魔法が効いてくれたのか、最悪の事態だけは避けることはできたようだ。
3日後……王城のアルフレッドの部屋。そこには軽く10を超える手紙が届いていた。
『アルフレッドさん、配信お疲れ様です。今回の冒険は罠がリアルで大丈夫かと思いながらも最後まで飽きさせないお話でした。応援してます!』
『今回の配信は凄く緊張感のあるお話で最後まで一気見しました! 撮影お疲れ様です! 次回の配信も楽しみにしています!』
王国に仕える貴族からのファンレターだ。最近は他国の貴族からもお便りが届くようになり、彼の知名度は日を追うごとに高まる一方だ。
特に今回は「罠の描写がリアルで良かった」という声が非常に多い。まぁ実際罠で大けがをしたのだが「名誉の負傷」だろう。
「いやー。これがあるから辞められないよなー」
アルフレッドは届いたファンレターを見て頬が緩みっぱなしだった。
兄たちと同じ食事をしているのに肥満体型になったのをバカにされ、家族からも見捨てられていて爵位らしい爵位も与えられず家に居座る自分が、
こうして人から着目されて活躍できるというのは純粋に「生きがい」であった。
届いたファンレターを見ている時だけは、ダンジョン配信を始めてよかった。と心の底から思える至福の時だった。




